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日本の医療の崩壊が、論じられることがある。

とりあえず、
その論点をを列挙しておこう。

1.産婦人科医が減っている。
2.小児科医が減っている。
3.救急室が減っている。
4.地方と都会の医療レベルの格差

上記が生じている理由は、
以前、すでに書いたが、
簡単に再記述しておく。

・・・

最近日本でも、アメリカのように
訴訟が増えており、
患者が医師を訴えるケースも
多くなってきた。

しかし、
内科では、80歳前後の
高齢者が亡くなるケースが多いため、
(亡くなるのに平均的な年齢であれば)
あまり訴訟にならない。

が、
20歳の若く美しい妻や、
0歳の生まれたばかりの赤ちゃんが
亡くなってしまった場合、
医者は、訴えられるケースが多い。

このため、医療訴訟の
6割は、産婦人科、
3割が、小児科、
である。

このため、これらの科で働こうという医師は
どんどん減っている。

・・・

小児科の場合、その給料の安さも影響している。

基本的に病院の利益は、
処方した薬の量によって、決まる。

例えば、
60kgの大人に、ある抗生物質を60mg処方した場合、
製薬会社に、6000円がいき、
病院に、その1割である、600円が、支払われる。

(このシステムを、薬価差益、という。)

同様に、
10kgの子どもに、ある抗生物質を10mg処方した場合、
製薬会社に、1000円がいき、
病院に、その1割である、100円が、支払われる。

一人の患者を診た場合、
どちらが儲(もう)かるかは、明確である。

(大人を診るほうが、子どもを診るよりも、数倍儲(もう)かる。)


このため、病院は、あまり儲からない小児科に
力を入れようとはしない。

(小児科病棟は、現在、各地でどんどん減っている。)

小児科医の給料も、内科医の半額程度、
外科医の数分の1程度に抑えられているケースも多い。

・・・

夜の当直の時間帯の忙しさも、
かなり不公平である。

内科で当直すると、ほぼ朝まで寝ていられる。

小児科で当直していると、
ちょっと熱を出した子の母親が、頻繁に来る。

気管支喘息の発作の子も、しょっちゅう来る。
夜、10回以上起こされるのは、普通だ。

産婦人科で当直すると、
陣痛が始まってから出産になるまでの
8時間から16時間の間、
ずっとおきていなければならない。


で、
一般の人は、知らないと思うが、
医師に、翌日の休みは、ない。

夜の当直を朝までしても、
翌日は普通に、朝8時から夜10時ごろまで
仕事をしなければならない。

ナースの場合は、
8時間ごと、あるいは12時間ごとの交代なので、
深夜の勤務を行ったら、少なくとも次の8時間は、
休みである。

医師の場合は、そんなものはないので、
(仮に徹夜でも)ぶっ続けで仕事をする。


ちなみに前日の日勤もやっているので、
40時間、連続勤務である。

1週間あたりの勤務時間は、
14時間X7日プラス夜勤で、108時間。

普通の会社員は、
1週間あたりの勤務時間が
原則40時間前後になっているはずだが、
医師は、その約3倍である。

(これで、医療ミスをするな、
 というほうが、おかしい。)

・・・

以上、まとめると、
産婦人科医と小児科医が減っている理由は、
訴訟が多い、給料が安い、当直がきつい、
という三つの理由である。

・・・

救急医療も、崩壊の危機にある。

最初、医者になりたてのころは、
(私もそうだったが、)
夢と希望に燃えており、
どんな病気でも見られる、
スーパードクターを目指す。

(それには、いろんな患者、あらゆる疾患が来る、
 救急室は、かっこいい場所に思える。)

が、
(医師は、最速24歳で医師免許をとれるが)
30歳を超えたころから
だんだん体がきつくなっていき、
夜通し働き続ける救急医療の仕事は
そうそう何年も続けられない。

また、
実は救急医療は、つまらない仕事ともいえ、
なんでかというと、
全ての病気を見られるドクターはいないので、
結局、
救急医の仕事というのは、(極論すれば)
患者がきたら、どの科にまわすかを判断する、
「振り分け」作業をするだけのものだ、とも言える。

このため、数か月もやれば、飽きてくるので
一生、この分野でやっていこうという医師は
少ないと思う。

(近年、救急医療の専門医制度などができたので、
 多少は、ましになったが、本質的に変わっていない。)

・・・

地方と都会で、医療格差が生じるのは、
まあ、しょうがない。

理由は、
ラーメン屋をたてるなら、
既にラーメン屋が何件も建っているところに
建てたほうが、つぶれる確率は低い、
と言われている。

医者も、開業をするなら、
既に何件もクリニック(診療所)があるところに、
自分もクリニックを建てたほうが、
つぶれる確率が低いことが、わかっている。

(これは、これまでの膨大な統計データから、
 間違いないことが確認されている。)

よって、既にクリニックの多い都市部に
医師は集中していき、
田舎には、開業してもつぶれるので、
だれもやろうと思わない。


(その他、仮に(地方での)高額の給与が提示されても、
 周囲に娯楽施設等がなければ働く気になれない。
 また、
 子どもがいる場合、将来の進学のことを考えると、
 優秀な私立の学校にいれ、優秀な進学塾に
 入れておく必要がある。
 そうでないと、将来、自分の子どもを医学部に入れられない。
 が、地方にはそれらがない。
 こうした、医師の家族全員を含んだ社会的側面もある。)

・・・

あとは、医者の給与の話を
しないといけない。

医者の給与は、千差万別である。

まず、下から上までいこう。


医師免許をとっても、大学に残り、研究者となり、
いわゆる基礎医学(解剖学、生理学、生化学、ウィルス学など)
の教室に入って、研究ばっかりする医師もいる。

(こうした人は、患者さんをみたことが全くない。)

この人たちは、(大学の教員などと同じなので)
初任給は、月給で17万円程度、やがて、25万ぐらい。
最終的に、運よく教授になれても35万円程度である。
(ふつうは、25万前後で、一生を終わる。)
要するに、サラリーマンよりも安く、
日本人の平均年収である、550万円よりも低い。

病院の勤務医になると、
小児科医で、年収500万円から1000万円の間。
内科医で、年収1000万円から2000万円の間。
外科医で、年収1000万円から数千万円の間。
あとは、
どのくらいバイトをしたかどうか、というところ。

(普通、大学病院の医師は、
 週に1、2回、バイト日、というのがあり、
 大学の関連病院にいって、バイトをするのである。
 毎日、こればっかりやって、金を稼ぎまくる医師もいる。
 すると、自分が大学で担当している入院患者は、
 おろそかになるが・・)

開業医になれば、
顧客(常に来る患者)の確保に成功した場合、
年収数千万円から、数億円。
失敗すれば、
借金が数億円、となる。

(開業医としての成功のためには、
 医学的な優秀さは、ほとんど関係がなく、
 接客のうまさ、宣伝活動、経費節減などが影響する。)


以上、まとめると、(かなり単純化した場合)
研究者になると、年収400万円。
勤務医で、年収1000万円前後。
開業医で、年収数千万円以上。


もし、あなたが医師になれるとした場合、
あなたは、どれを目指すか?

(金のことだけを考えるのならば)
バカでなければ、当然、開業医だろう。

しかも、訴訟のリスクのない、
眼科、皮膚科、内科などが、人気である。

逆に、
訴訟があっても、優秀な弁護士を雇って、
訴訟を撃退できるほど儲かる
美容整形は、もっと大人気である。


今の医学生は、こうした
儲けるために、医学部に入ってくる人が多いため、
ますます、この現象に拍車がかかっている。

・・・

あとは、まわりの状況、も関係している。

人間は、まわりにいる人間で、その人の人間性の半分は決まる、
と私は思っている。

私が、
ほとんど金にならないNPO法人の仕事を続けていけてる理由は、
まわりにいる、金儲けをしている友達との縁を
切っていったからである。

自分の友達や、知人が、
自分より、はるかに短い時間の勤務で
自分の10倍以上の収入を得ているのを知った場合、
(それを、毎日きかされた場合)
人間、どうしても、自分も金儲けをしたくなる。

で、
そうした情報を頻繁に見る状況の中にいると、
やがて自分も、金儲けを最優先する人間に
なっていってしまうのだ。

もちろん、私もそうした、「弱い」人間である。

私は、自分の弱さを知っているので、
自分のまわりに、金儲けをしている人を、置かないことにした。

(極力あわないようにしている。)

(変人だと陰口を言われることもあるし、
 孤高の人だと褒められる(?)こともある。)


ともかく、
だから私は、今でも、金にならない仕事を行う医師として
働けているのである。


が、普通の医師は、違う。
大学の医局や、医師会、その他の場所で、
もうかっている医師たちとも、つきあわねばならない。

そして、金、金、金、という情報を聞いていると、やがて、
自分も、自分も、と思うようになっていってしまう。


この現象が繰り返されていけば、当然、
小児科医などは絶滅するし、
地方の医療が、悪化していくことも、当然である。


つまり、医師たちの全体的なモラル(倫理感)の低下、
あるいは、
医学部に入ってこようという若者のモラルの低下、
そして、
金儲けをしている医者が、まわりの医者もそう変えていく現象。

これらが、
現代日本の、医療崩壊のもとを作っていると
私は考えている。

・・・

さて、話を本論に戻す。

こうした数々の問題を解決する方法の一つが、
医療の国営化、公営化である。

要するに、病院や診療所を、
すべて国立か公立(地方自治体の運営)とし、
同時に、
医師や看護師のすべてを、
国家公務員または地方公務員とすることである。

そうすれば、国や都道府県などが、
医師が何科にいくか、
どの病院で働くか(都市部か地方か)
などを指定できる。

また、給与も、
国家公務員や地方公務員に準ずるので、医師間の給与の格差は減り、
上記の問題は、すべて解決する。


が、
いきなり結論からいうと、
私は、それは、
ちょっと無理なんじゃないかと思っているのだが、

今日は、それでも、
それをやらなきゃいけない、と言っている人を紹介する。

京都大学の名誉教授、泉孝英という人だ。

最初に、データを示す。

・・・

まず、現在の病院と診療所の
国営、公営(地方自治体の運営)、民間
の割合を示す。


病院(ベッド数、20床以上の医療機関)

総数    8862(100.0%)
国立     291  (3.3%)
公立    1325 (15.0%)
社会保険関係 123  (1.4%)
民間病院  7123 (80.4%)

上記のように、我が国の病院は、
民間病院が多い。
民間病院は、採算性の良い地域に開業するので
適正な地域配置を期待することは、できない。


診療所(ベッド数、20床未満の医療機関)

総数     99532(100.0%)
国立       631  (0.6%)
公立      3827  (3.8%)
社会保険関係   700  (0.7%)
民間     94374 (94.8%)

診療所の状況は、さらに悪く、
国営化・公営化など、まず無理な状況である。
開業医は、基本的に金儲け主義であるからだ。


では、
これらの病院や診療所を、
徐々に20年ぐらいの計画で国営化・公営化していくことが、
可能かどうか?

基本的に、現在、国の予算も、地方の予算も、赤字だらけであり、
医療費は、むしろ削減する方向にある。
新しく増えた病院や診療所の面倒をみる金など、
どこにもないはずだ。

よって、これに関しては、やっぱり無理なんじゃないかと
私は思う。

・・・

次は、医師の国家公務員化もしくは地方公務員化だ。

これを行う場合、
その給与が問題になる。

どのくらいにすれば、妥当か?、ということだ。

(公務員化した医師の給与は、国や都道府県が
 支払うことになるので、
 税制を考えると、低いほうがいいのだが、
 それだと医師側から不満がでる。)


普通の日本人の給与が、
年収550万円なのだから、それくらいでいい、
という考え方。

大学病院の勤務医で、バイトをしていない真面目な人が、
現在、1000万円ぐらいなので、その辺にするのか?

医学部は6年生の大学のため、それを卒業した場合、
事実上、大学院修士と同じ学歴を持つ。
また、厚生労働省の事務次官(一番上)が、
年収2千万円ぐらいである。
これよりは下だろうから、
1500万円ぐらいか?

開業医は、数千万円以上もらっている人もいるが、
そんな金を医師全員に、(国などが)払えるわけがない。


で、私のように、年収数百万円で、納得する医師は、
ふつう、いないはずである。

(医学部は、一応、受験戦争を勝ち抜き、
 偏差値のトップにある学生たちが入ってくる場所であり、
 それに応じた高収入が見込めなければ、
 納得できない、と考える人もいる。)

ほとんどの医師が反対するということは、
医師会が反対する、ということで、
医師会から金をもらっている政治家(族議員(ぞくぎいん))が、
反対するわけだ。

・・だったのだが、自民党が負けて、民主党政権になり、
チャンスが巡ってきた。
民主党の族議員は、まだ少ない。
(今、医師会が、必死に、民主党へのロビー工作をしているが。)

だから、やるなら、(ロビー工作が整う前の)今かもしれない。

全ての医師を、全員一律で、年収1千万円前後にして、
その勤務する科も、その勤務する病院の場所も、
国や地方自治体が決める制度にするのがいいかも。

が、現実的に考えると、
すでに、都内に一戸建ての家を持ち、ベンツを2台もっていて、
子どもを私立の学校に通わせている医師たちは、
死んでもこれに反対するだろう。

人間、一回いい暮らしをしてしまうと、
昔の、質素な暮らしには、戻せないのである。

(地球温暖化の問題も、
 これがあるので解決しないんだけど・・)

と、いうわけで、こちらも難しいのだが、
病院・診療所の公営化よりは、
こちらのほうが、
「徐々に」行っていけば、可能であると私は思う。

・・・

次に、日本で行われている医療は、
「過剰医療」であることを、述べる。

・・・

日本の医師数の少なさの問題を書く。

人口1000人に対する、医師の数は、

日本     2.0
アメリカ   2.4
イギリス   2.4
スウェーデン 3.4

(ちなみに、日本、イギリス、スウェーデンは、
 国民皆保険。
 アメリカのみ、自由診療。)

で、
ともかく、日本は医師の数(絶対数)は、
他の先進国と比較した場合、ちょっと少ない。

もうちょっと、医師の数を増やしてもいいかも。

小児科医や産婦人科医の割合を増やすのは、
絶対数を増やすことと、同時に行わないとダメ。

・・・

次、
国民一人あたりの、医療機関の年間受信回数は、

日本     13.8
アメリカ    3.8
イギリス    5.1
スウェーデン  2.8

これでわかるように、
我が国の特徴は、
一人の患者さんが、頻繁に医療機関を訪れ、
そのために、
医師の負担が増え、医療費も増える、
という現象が起こっていることだ。

もちろん、開業医さんなどは、
来れば来るほど、診察料金をとれるので、
儲かることに直結するが、
勤務医の場合、
外来患者を診察した数が増えても、
自分の給料は変わらないので、
その分、疲れる、ということになる。

(だから、楽な勤務場所に移動したがる。)

ただ、
私が内科外来などをやっている経験だと、
特に、高齢者の方は、
ほぼ毎週(?)、
病院にいって、お医者さんの話をきき、
「精神的な安心」を得ることを
習慣としている人が、多いと思う。

(要するに、病院に通うことが、
 「日課」のようになっている人が、 
 日本の高齢者には多いのである。)

が、
上記をやめさせることは、
その人の(広い意味での)「幸せ」を
損ねる可能性があるので、
「あんまり病院に来るな」
とは、いいずらい。

・・・

上記を、逆に、医師側の立場からみてみる。

医師一人あたりの、年間診察回数

日本      6795
アメリカ    1593
イギリス    2124
スウェーデン   834

上記のように、我が国での医師の負担は、圧倒的に多い。
が、
これまで示した統計を考えれば、当然であろう。

・・・

一般病床数(ベッドの数)の、人口1000人あたりの比較は、

日本     8.2
アメリカ   2.7
イギリス   3.1
スウェーデン 2.2


平均入院日数は、

日本     19.8日
アメリカ    5.6日
イギリス    6.1日
スウェーデン  4.6日


と、いうように、
要するに日本は、入院のさせすぎ。
これが、医療費を圧迫している。

(国家予算なども圧迫している。)

これを削ることで、財源を産み、
そこから、
国立や公立の立場で働く医師を育成し、獲得するのはどうか。

・・・

画像診断に関してのデータは以下。


CT(コンピューター断層撮影)の
人口10万対の施行回数

日本    92.6
アメリカ  32.2
イギリス   7.5
デンマーク 13.8


MRI(核磁気共鳴画像)の
人口10万対の施行回数

日本     40.1
アメリカ   26.6
イギリス    5.4
デンマーク  10.2


この画像診断についても、日本はやりすぎ。
財政を圧迫しており、
また、他のことに使うほうがいいかも。

・・・

以上のデータから、
京都大学の泉孝英は、三つのことを主張している。

(1)病院・診療所の国営化・公営化
(2)医師の国家公務員化・地方公務員化
(3)過剰医療を抑制し、そこから財源を転用

で、
私が思うに、
この中で、最も難しいのは、(1)だと思う。
(2)は、ある程度、できるかも。
(国家公務員の医官は、すでにけっこういるし。)
(3)は、やろうと思えば、けっこうできると思う。
(基本的に医療費の抑制なので、現行の方針にあっている。)

いずれにしても、
20年以上の計画をもって、
日本の医療を改革していく必要性は、
あるのではないかと思う。

そうでないと、
みんな、金になるほう、金になるほうに流されて、
ダメな医者ばかりの世の中になりそうだ。




補足:
過剰医療を削減し、そこで生まれた予算で
次のことを行うのが有力。

自治医大や、防衛医大のように、
卒業後、10年ぐらいは、
国家公務員(または地方公務員)となることを
義務付けられる
「医師公務員養成大学」(仮名)
というものを、創設してはどうか。

この大学は、授業料も安く(もしくは無料で)
また入学の際にも
偏差値による試験で行うのではなく、

中学時代・高校時代に、
以下にボランティア活動や、社会貢献活動を行ったか、
学生時代の総合的な成績による学校および教員からの推薦、
などで、入試にかわる選別を行う。

試験は、面接と、小論文。

このシステムで将来公務員となることを
確約された医学生を獲得する。

で、
医学部卒業後、
その時点で社会に少ないと考えられる
人気のない科や、地域に配置し、
働いてもらう、というわけだ。





小児科医と産婦人科医が減る理由は? 2,295字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51160990.html

京都大学名誉教授・泉孝英の論文などがあるサイト
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/issue/kouhou/documents/633.pdf