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9月11日に、私の母校の慈恵医大で、
新型インフルエンザに関するフォーラムが
行われた。

パネリストとして、
会社のリスク管理の人など、
いろいろな立場の人が呼ばれていた。

ある意味、おもしろかったので、
その内容を、以下にまとめておく。


(が、今回は、細切れの情報が、23個で、読みにくい。)

(でも、企業のリスク管理に興味がある人は、読んだほうがいいかも。)


・・・

1.
まず、いきなり余談だが、

明日(9月29日)、午後10時からの
NHK総合の番組
「プロフェッショナル・仕事の流儀」に
私の医学部時代の同級生である。
進藤奈邦子医師が、登場する。

http://www.nhk.or.jp/professional/

WHOで、新型インフルエンザの対策を担当しているので、
今、マスコミの注目のまとだ。

興味のある方は、ご覧になるといいだろう。


(私は、明日、ツバルに行ってしまうので、見られない。
 くすん・・)


・・・

2.
新型インフルエンザは、弱毒、と言われているが、
それは間違い。

「普通」あるいは「中等度」と言うのが正しい。
死亡率は、季節性インフルエンザとほぼ同じ
0.1〜0.01%程度なので、
「普通」の殺傷能力がある。

このため、WHOなどは、
弱毒性という言い方を、
改める方針を出している。

と、いうわけで、これを読んだ皆さんも、
「中等度」というようにしましょう。


・・・

3.
アメリカのデータだが、

H1N1の免疫をもっている年代は、

1880年代生まれから、
1920年代(今、90歳代)がピーク。
55%ぐらい。

1950年代で、20%まで低下。

1990年代で、3%ぐらいしかない。


要するに、高齢者は、
スペイン風邪の名残りの、H1N1に対する抗体を
持っている人もいる。

こうした人は、感染しても重症化しない
可能性がある。

この、昔のインフルエンザに対する抗体を持っていると、
今の(ある程度ウィルス表面の形が似ている)インフルエンザに対しても、
免疫を持つことを、
「クロス・リアクション(交差耐性)」
という。


・・・

4.
当たり前だが、知らない人のために、念のため、

季節性のインフルエンザに対するワクチンでは、
今回の新型インフルエンザに対する耐性は
上昇しない。


・・・

5.
新型インフルエンザに対するワクチンをうつべきなのは、

(1)基礎疾患を持つ人。
   具体的には、
   心臓病、喘息など呼吸器疾患、糖尿病、など。

(2)妊娠中の人。

高齢者に対する接種を優先するかどうかについては
意見が分かれる。

上記の、昔の抗体を持っていれば、軽くすむのだが、
もっていない人は、重症化するかもしれないからだ。

日本でも、地方自治体によって、
考え方が異なるようだ。

あなたの住んでいる地域はどっちなのか、
確認したほうがよい。

(数日前、厚生労働省でガイドラインができたのだが、
 それをそのまま実行するかどうかは、自治体による。)


・・・

6.
新型インフルエンザは、
季節性インフルエンザと同じくらいの
0.1%弱程度の、死亡率がある。

しかし、
感染力は、約3倍と言われている。

これまでのインフルエンザと型が違うので、
抗体を持っている人が少ないため、
最終的に、季節性インフルエンザよりも
多くの人が罹患する可能性が高い。

・・・

7.
大手スーパーの、ある企業の
リスク・マネージメント担当者は、
(現在、沖縄で、患者が大発生しているのだが)
PCR検査で、
はっきり陽性、とでた場合だけ、
その職員を、強制的に休ませる方針だ、

このフォーラムでいっていた。

(この人は、パネリストとして呼ばれていた。)


発熱して、インフルエンザが疑われた場合、
普通、病院で医師は、
迅速診断キット、という
鼻の粘膜をこするやつで、
A型インフルエンザかどうかの検査をする。

(10分から15分で、すぐ結果がでる。)

これが、陽性であれば、
季節性インフルエンザ、または新型インフルエンザである。

で、
もし、新型インフルエンザかどうかを
知りたい場合、
その地域にある。指定研究機関(衛生研究所等)で、
PCR法、という検査をやってもらう必要があるのだが・・・。


注:
PCR : polymerase chain reaction
簡単にいうと、
ウィルスの遺伝子が少量でも、まず、それを酵素を使って増殖させて増やし、
見つけ出せるようにする検査方法。
(増殖させないと、ふつう、ウィルスの遺伝子は、見つけられないのだ。)


これに関しては、
やはりパネリストとなっていた医師たちから、
次の批判がでた。

現在、PCRの検査キットは、
数が足りず、
(また、国家予算の中の医療費が高額になってしまうため)
新型インフルエンザの疑い例であても、
全員には、PCR検査を行わないことに
全国でなっている。

(PCR検査を行っているのは、
 全国に約5000以上ある医療機関のうち、
 500か所(約1割弱)程度のみで、行っている。
 これは、サンプリング(標本の抽出)をして、
 統計学的に、流行の状況を把握するため。)

(あと、重症化して、病院に入院した場合などは、
 その医師の判断で、PCR検査が行われる。
 が、ここまでいくケースは少ない。)


つまり、
沖縄の、上記のスーパーで、
職員が、新型インフルエンザの疑いでも、
医師も、病院も、PCR検査までは勧めないので、
その職員は、
疑いのままで、それ以上の検査はされない、
ということである。

理由は、上記の二つ
(PCRキットが足りない、医療費が高額になる)
だけではなく、

仮に、新型インフルエンザであろうが、
季節性インフルエンザであろうが、

現場の医者としては、
患者に、タミフルを処方して、
家で寝てて下さいね、
あと、重症化したら、病院にきて点滴をうけてね、
という風に言うだけなので、

要するに、「治療方針は、かわらない」のである。

このため
PCR検査は、ほとんどの病院で行われず、
しかして、
新型インフルエンザの本当の流行状況は、
わからない、ということになる。

(統計的に、推測はしているが・・)

で、だから、
上記の大手スーパーで、
PCR陽性の場合だけ、その職員を強制的に休ませる、
というのは、考え方として、本質的に問題がある
かもしれない、という話になった。


(要するに、新型インフルエンザの疑い、になっても、
 その段階で、PCR検査をしてくれる医療機関は、
 全国の1割よりも少ないのである。
 だから、
 PCRで確定されるケースなど、ほとんどないわけだから、
 むしろ、「疑い例」の人を、
 どのように扱うかを、徹底的に議論するべきだ、
 ということ。)



・・・

8.
上記の大手スーパーの話は、さらに続いた。

で、
ある職員が、PCR陽性だ、つまり、
新型インフルエンザだと確定されたとする。

すると、この会社の場合、
その状態で、さらに
咳、発熱、下痢、などの症状の
どれか一つでもあれば、強制的に、休ませる方針だ、
という。

で、次に、その職員を
いつ、職場復帰させるか、ということだが、
次のような方針だといっていた。


職場復帰は、次の三つの場合のうち、
一番長いものをとる、という。

(1)医者がこうなったら職場にいっていい、といった状態。
(2)発熱してから、一週間めまで
(3)解熱後三日めまで(学校保健法)

上記の、(1)〜(3)のうちの、
一番長いものをとり、その期間、休ませるという。

ええと、
最も一般的なのは、
解熱後三日目まで、なのだが、
(これは、学校保健法という法律に書いてあるから有名なのだが)

実は、
タミフルなどを使って、無理矢理はやく解熱させた場合、
それ以後も、ウィルスが排出されている場合があることが
報告されている。

このため、解熱後三日ではなく、
発熱後1週間にしたほうがいい、という意見もある。

あとは、現場の医師の、その患者に応じた個別の判断もあるだろう。

よって、
上記の三つのケースをすべて考慮にいれ、
このうちで、最も長いものを採用して、
その後、職場復帰するようにしているとのこと。

これは、私は、妥当だと思った。

・・・

9.
なお、上記の会社の
リスク管理担当者は、

現在、沖縄のような多発地帯でも、
全職員の0.5%が感染している程度なので、
まだ大丈夫といっていた。

(業務に影響ないといっていた。)

また、
上記の、「職場復帰」をするまでの期間を考えると、
最長でも、1週間の休みで、もどってくるので、
企業活動が、そこなわれることはない、
といっていた。

最長でも、一週間で戻ってくる、ということを
強調していた。

・・・

10.
日本で、初めて新型インフルエンザが見つかり、
一時、パニックとなった、
神戸市の、保健担当者もきていたので、
興味深かった。

ポイントは、
「学校を休校にしても、感染の拡大を封じ込めるか?」
ということだったそうだ。

例えば、
その学校の生徒一人だけに初発例がでて、
まだ、その家族と同級生数人ぐらいまでにしか
広がっていない場合、
学級閉鎖(学校閉鎖)等は、有効だが、

既に、交通機関(バス、電車など)で
地域へのかなりの感染が進んでいる場合、
学級閉鎖や学校閉鎖をしたところで、
大勢に影響があるのか、という判断が
むずかしかったという。

実際に、
アメリカのCDC(国立感染症予防センター)には、
学級閉鎖や学校閉鎖は、ほぼ無駄である、
と明記してある、とのこと。

すくなくとも、
蔓延期になった場合は、
学校閉鎖の意味は、ほぼないと判断したので、
学級閉鎖のレベルにとどめた、と言っていた。

なお、
10%から15%の生徒が休むと
学級閉鎖を行う。

学級閉鎖は、4〜5日で解除するのが通例とのこと。


また、
アメリカのCDCが
1000の症例にもとづいて
学級閉鎖は意味がない。
生徒本人のみに対して、一週間の自宅療養をすすめる、
という主旨のことを、
5月上旬に既に記述していた。

その後、
5月15日、神戸で最初の患者が発生した。
マスコミが騒いだが、
彼は、もうその時には、
上記の、CDCのデータは、知っていたとのこと。

・・・

11.
神戸の担当者は、次のようにいっていた。

大騒ぎになってしまったのは、
次の三つの理由による。

これらにより、
リスク(危険の可能性)でなく、クライシス(大きな騒ぎ)になった。


(1)
マスコミが騒いだ
このため、市民の40%が、かなり不安に思っていた。

(2)
海外渡航歴がない人が、
いきなり感染し発症したので、
市民が、当惑した。

(海外渡航歴のある人だけが、
 新型インフルエンザに最初にかかる、と市民は思っていた。
 それなのに、そうじゃなかったので、
 一気に不安が、広がった。)

(3)
かつ集団発生

(一気に、数十人の人が感染していたことが
 わかったので、市民は、パニックになった。)


・・・

12.
再び、大手スーパーの人

新型インフルエンザが広まった場合、
お客さんからの訴訟が、おきないように、
以下の二つをやっている。

(1)
予見措置
従業員に知識を伝えること。

(2)
回避措置
スーパーの入口に、手の消毒液を置いたり、
従業員に、マスクを配ること。

この二つをやるべきか?

しかし、
大手スーパーのこの会社が、マスクをつけると
社会的に、不安を「あおる」影響がある。

・・・

13.
このスーパーには、
買い物をするお客さんのほうも、
新型インフルエンザを警戒して、
混雑する夕方ではなく、
早朝や、深夜に買いに来るひとが増えた。

よって、スーパー側も、
早朝や深夜も営業したほうがいいのではないか、と。

・・・

14.
新型インフルエンザのワクチンは、
日本国内のものは、皮下注射、
外国からの輸入は、筋肉注射、
が勧められる。

(これは本当か? 確認を要す。)

・・・

15.
WHOから、最近、
タミフル等の使い方に対する
ガイドラインがでた。

基礎疾患のある人と、妊婦には
積極的に使いなさい。
健康な人には、つかわなくていい。

しかし
WHOのアナウンスは、
おもに、中から低開発国に向けている。
よって、
日本もまねするかどうかは、別。

よって、
(同じ先進国である)
アメリカのCDCは、
WHOとよく意見が矛盾している。

日本は、通常のインフルエンザで
さんざん、タミフルつかってるのに
新型インフルエンザで
ぜんぜん使わない、というのは
おかしい。
よって、日本は日本で考えるのだ妥当ではないか、
という意見が、
パネリストの医師の一人がいっていた。

・・・

16.
新型インフルエンザに限らず、
たいていのワクチンを接種しても、
80%ぐらいの人にしか効果はなく、
20%ぐらいの人は、感染してしまう。

が、
この20%の感染してしまう人でも、
重症化を防ぐ効果はあるので、
やはり、ワクチンの接種をすすめる、
と、パネリストの一人が言っていた。

(これも、要確認。)

・・・

17.
タミフル耐性の新型インフルエンザが
世界各地で、見つかってきている。

それが、人から人に感染した例が、
先日、アメリカで見つかった。

しかし、
季節性インフルエンザのソ連型で、
タミフル耐性になったものが、
日本まで入ってくるのに
およそ、1〜2年かかった。

よって、
この新型インフルエンザについても
同様の経緯をとるのではないか?

・・・

18.
新しい抗インフルエンザ薬が
いろいろできてきており、
治験も終了している。

・・・

19.
ワクチンの優先順位

医療従事者は優先するようだが、
病院を運営するには、
社会基盤(インフラ)である
電気・ガス・水道も必要だが、
その職員はどうするのか?

これに対しては、

実際に患者さんに直面する人を
医療従事者と考える、とのこと。

・・・

20.
今回の新型インフルエンザの
不顕性感染(ふけんせいかんせん)の割合は、
南米ペルーのデータでは、7割、とのこと。

注:
不顕性感染とは、
ウィルスに感染しても、
症状がでない状態のことを言う。
この場合、
発症しないだけで、ウィルスは感染しており、
まわりへのウィルスの排出はしている。


つまり、
症状がでていなくても、
感染してしまっていて、
かつ、
誰かにうつしている人が、それだけいる、とのこと。


世界全体の不顕性感染のデータは、
もうすぐ算出されるとのこと。

(この質問をしたのは、私)

・・・

21.
強毒性の定義は??

全身感染症をおこすかどうか。
臨床症状が中心とのこと。

ウィルス学的な裏付けはあとからするとのこと。
これは、WHOの担当官のコメント。

(この質問をしたのは、私)

・・・

22.
もし、強毒性の新型インフルエンザが今後きた場合、

企業として、

独立空調設備や、
陰圧・陽圧による管理はいるか?


陽圧は、いらないと思う。

部屋ごとの独立空調は、した方がいい、とのこと。

・・・

23.
バレンタインデーの頃に
新型インフルエンザが流行っていたら、どうするか?

(上記のようになる可能性は高いが)

区画を分けた、催事場でやる?
スペースを広くあける?


その、大手スーパーは、イベントをやらない、
と言っていた。

・・・

24.
会社に勤めている人の、家族が、
新型インフルエンザにかかった場合、
その会社員はどうするか?

これは、会社によって、
大きく方針が異なり、統一見解がないようだ。

比較的多くの会社が、
家族がかかったら、その会社員も
休む、としているようだが、

問題は、いつまで休むか、である。


純粋に医学的に考えると、
家族が発熱して、かつ、PCRで
新型インフルエンザだと確定した場合、

まず、
その家族が、
発熱後7日間
または
解熱後3日間

長いほうまで、ウィルスを排出している
可能性がある。

で、
それにより、その会社員に感染すると、
潜伏期が、3日から10日間の間なので、

合計で、最大、
7日、プラス、10日、なので、
合計、17日間まち、
それで、発熱などしなかったら、
会社にいってよい、ということになる。

つまり、
家族のだれかが、感染しただけで、
その会社員は、17日間も、
会社にいけないのである。

が、
もちろん、ここまで徹底して方針を出している
会社は少ない。


そもそも、
国の方針で、PCRはやらない方向なので、
家族に「疑い例」が現れるケースが多くなると考えられるが、
この場合は、企業は、その会社員に対して、
強制的な休みは、とらせないらしい。


また、もっとややこしいことに
上記の不顕性感染の問題もある。

17日間まって、発症しなくても
不顕性感染になっている可能性もあるので、
会社にいっていいとも、限らない。

が、これをいったら、
もう、国民全員にPCRをやるしかないので、
そんなことはできない・・

と、いうわけで、
実は、この問題に対する明確な答えは、ないのだ。







参考サイト:

厚生労働省、新型インフルエンザ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html

国立感染症研究所
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html

世界保健機構、WHO,Pandemic H1N1 2009
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/en/index.html

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)
Centers for Disease Control and Prevention
http://www.cdc.gov/h1n1flu/index.htm