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「子どもの頃、ママが言った。
 『おまえは、うちの青空。』

 でも、その言葉は、ウソだった。

 私は、姉のケイトを助けるために、
 作られた。
 試験管の中で。

 白血病で、しかも腎不全になった姉に、
 骨髄移植や腎移植をするために、
 生みだされたのが、私。


 私はアナ。今、11歳。
 
 これまでに8回入院し、
 骨髄や、白血球や、血小板や、
 その他、いろいろなものを採取されたわ。

 太い針を刺されて・・。

 今度は、腎臓を一個、
 姉に提供することになっている。


 でも、もう、イヤ。

 もう、イヤなの。」


・・・

アメリカ、ニューヨーク、弁護士事務所


「私は、アナ・フィッツジェラルド。11歳です。

 私を、助けて下さい。
 私は、両親に対し、『訴訟』を起こします。

 ここに、700ドルあります。
 これが、私の全財産です。


 私は、これまで、何度も針を刺され、
 姉に『臓器を提供するためのパーツ(部品)』
 として生きてきました。

 でも、もう、嫌です。


 腎臓を片方とったら、
 激しい運動はもうできない、と聞きました。

 私は将来、サッカーや、チアリーダーをしたいです。
 夏になったら、ビーチ(海岸)に行って、
 水着を着たいです。

 腎臓を片方とるための手術をしたら、
 体に大きな傷跡がついて、
 もう、水着は着られないと聞きました。

 そうしたら、ボーイフレンドもできないかもしれません。
 結婚もできないかもしれません。

 寿命も短くなるって、聞きました。

 私は、私は、もう、嫌なんです!」


・・・

12年前、姉・ケイトの入院する病院、医師の弁


「お母さん。
 残念ながら、ケイトちゃんは、やはり白血病でした。

 しかも、
 その中でも、非常に稀(まれ)な、性質(たち)の悪いものです。

 また、ご両親の血液型などを調べましたが、
 ケイトちゃんのものとは、一致しませんでした。

 特に、移植を行う時に、もっとも重要な
 『HLA』という、白血球の血液型が、
 一致しなかったのです。

 ( HLA : Human Leukocyte Antigen 人白血球抗原 )

 このため、ケイトちゃんを救うのは、極めて難しい状況です。」


「先生、何か、方法はないのですか?」


「医者として勧めることは、
 倫理的にできないのですが、
 以下のような方法があります。

 いいですが、これは、単に
 科学的な事実を言っているだけです。
 それを勧めているわけではありません。」


「・・その『科学的な事実』、とは何ですか?」


「奥様が、もし、次のお子さまを産んだ場合、
 そのお子さんのHLAが、
 ケイトちゃんのものと、一致する可能性があります。

 そうすれば、
 骨髄移植も、腎移植も、たやすく行えます。」


「でも、一致する保障は、ありませんよね?」


「それが、あるんです。
 まず、旦那さまの精子と、奥様の卵子を、複数回、採取し、
 それを試験管内で、受精させます。

 できあがった受精卵が、ある程度分裂したところで、
 その遺伝子を調べることによって、
 ケイトちゃんのHLAと合致する遺伝子をもっているか、
 調べることができます。

 あとは、
 遺伝子が確認された受精卵を、
 奥様の子宮の中に定着させるだけ、です。

 この方法で、確実に(ケイトちゃんと)HLAの合う、
 次のお子さんを、あなたは産むことができるのです。」


「ええっ!?」


「また、
 出産する時に、子どもが生み出された後に、
 後産(あとざん)といって、胎盤も奥様は出産されます。

 その時点では、まだ、新生児と胎盤は、
 臍の緒(へそのお)でつながっています。

 その臍の緒(へそのお)の中に、
 臍帯血(さいたいけつ)という血が入っているのですが、
 この中には、たくさんの
 幹細胞(かんさいぼう)が入っていることが
 わかっているのです。

 幹細胞というのは、やがて、
 骨の中にある、骨髄(こつずい)という所に定着し、
 赤血球・白血球・血小板の全てを生み出す、万能細胞のことです。

 つまり、次のお子さんから、この
 臍帯血(さいたいけつ)内の、幹細胞(かんさいぼう)を取り出し、
 それをケイトちゃんに、移植する方法が、
 非常に有力な治療法となる可能性が高いです。

 以上は、科学的には、可能です。

 ただし、私は、科学的な事実を、言っているだけです。


 決して、勧めているわけでは、ありません。





 ・・ あなたは、それを、試してみますか?」


























映画「私の中のあなた」予告編
http://www.youtube.com/watch?v=Wj9qUx1D9zQ






補足1:
「私の中のあなた」
は、アメリカの映画。

英語の題名は、
my sister's keeper
 
原作の小説があるが、
結末が大きく異なる。


監督: ニック・カサヴェテス

出演: キャメロン・ディアス(母親)
    アビゲイル・ブレスリン(アナ)
    ソフィア・ヴァジリーヴァ(ケイト)


補足2:

実は、
アナには、隠していることがあり、
映画の結末には、どんでん返しがまっている。
これは、
ご覧になってのお楽しみ。


補足3:

今回の問題は、
既に、日本で、ES細胞(胎生幹細胞)を使った
さまざまな実験が行われている現在、
まったく洒落(しゃれ)にならない。

基本的に、
(ヒトの)ES細胞は、『人間の子ども』そのものであり、
それを使った実験をすること自体が、
「人権蹂躙」(じんけんじゅうりん)であると言える。

いろいろ言い訳をすることはできるだろうが、
人権蹂躙なのは間違いがない。

しかも、その目的は、
ES細胞の細胞分裂を、
特定の組織を作成する方向へ誘導し、
例えば、
腎臓を作る、肝臓を作る、造血幹細胞を作る、
なども、
将来的には、十分できるようになるだろう。

このように、
命を使って、他の命(あなたや私の命)を
生きながらせようという試みを
やっていいのかどうか、というのは、
非常に難しい問題だ。

(私自身は、反対なのだが、
 一概に、そうとも言えない。)


なぜかというと、

自分自身が、移植などが必要な病気になった場合、
人は、なんとしても生き延びようとする本能があり、

また、

自分の子どもがそうした病気になった場合、
親は、さらにいっそう、激しい感情をもって、
生き残らせたい、と思うようになるからだ。


ともかく、科学の進歩(実験や研究)に対し、
第三者で作成された倫理委員会のようなものが
『検閲』を行っていくことは、
今後、絶対に必要になると思う。


ES細胞だけでなく、全ての、科学の進歩に対して。



補足4:

関連ブログ

スカイ・クロラ The Sky Crawlers 2758字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65306995.html