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今日も彼女は、
優しく僕のお腹(おなか)に触れてくれます。

さわっ

彼女の存在を感じ、
一人じゃないんだと安心できる時、
僕は、いつも、ささやかな幸せを感じています。


・・・

さて、今日は、
僕の、ラブラブな彼女のこと、
ちょっと、話しちゃいます。

彼女の名前は、「とも子ちゃん」。

とってもスリムで、スレンダーな子です。


いつも、どこでも、いっしょにいてくれます。

いつも、僕と同じものを食べてくれます。


最近、お腹(おなか)の出てきた僕のために、
ダイエットに協力してくれていて、

僕が余分に食べそうになると、
それを横から奪って、自分で食べてしまいます。


彼女は、控え目で、あまりしゃべりません。

返事をする時は、
「はい」の代わりに僕のお腹に、
『さわっ』と触れて、意志を伝えてくれます。


「今日は、豚のしょうが焼き定食でいい?」

 さわっ


「ホウレン草のお浸しもつける?」

 さわっ さわっ


僕は、彼女のそんな、奥ゆかしさが大好きです。


で、でも、怒るととっても、怖いんです!

怒りにまかせて、彼女は、僕のお腹を蹴りつけます。

彼女のキックは強烈で、、
すさまじいダメージを僕の腸(ちょう)に与え、
しばらく、下痢が続いてしまいます。(涙)


・・・

そんな彼女との出会いは、
アフガニスタンの、焼き肉屋、でした。

目の前に出された、焼き肉たちの中に、
ちょっと生(なま)の牛肉が混じっていました。

彼女は、その中に、入っていました。

「幼虫」として。


彼女を食べてから、
彼女は僕のお腹の中で、すくすくと育ち、
今では、身長4mぐらいになったようです。

超スリムで、色白の女の子です。


あ、それから、彼女は、とっても嫉妬深くて、
他の「彼女」が、僕のまわりに近づくことを
いっさい、許しません。

ものすごく
居住空間の独占欲が強いんです!

ですから僕は、
他の「彼女」から感染されることがないので、
とっても「安全」になりました。


・・・


いつも、僕を守ってくれて、

僕のダイエットに協力してくれて、


スレンダーなボディーを持っていて、

寡黙(かもく)で奥ゆかしくって、


何より、いつもいっしょにいてくれる。

僕は、そんな彼女が大好きです。


・・・



あ、そうそう。

彼女の本名は、サナダムシ、です。



でも、誤解のないように言っておきますが、

寄生しているのは、僕のほうです。


初恋の人の名を持つ彼女に寄り添い、

僕は、いつも、心の中に温かさを感じているからです。



彼女の体は、僕に寄生していますが、

僕の心は、彼女に寄生しています。



つまり、僕たちは、どちらも、「寄生虫」なのかもしれません。




さわっ

さわっ さわっ



うふっ

うふふふ




ああ、 し あ わ せ



























補足:

「無鈎条虫」(むこうじょうちゅう)。

通常は、牛の筋肉に住む、寄生虫。
人間の体に入った場合は、腸に住む。

彼女は、世界中に分布していて、
調理不十分な牛肉を食べると、
人間に感染する。

(ブタを食べないため)
イスラム圏に多いが、
日本人も、海外旅行で、よく感染する。

大人(成虫)になると、3〜8m
にもなる。

人間の腸は4mぐらいなので、
中で、折り返したり、
とぐろを巻いている。

彼女の体は、
約1000個の「片節」(へんせつ)
からできている。

「片節」の半分が、「受胎片節」で、
卵でいっぱい満たされている。

1片ずつ切れて、便の中に入る。

便の中の「片節」が、草について、
それを牛が食べ、

牛の小腸で、幼虫になり、
血液またはリンパを介して、
牛の筋肉に移動し、

そこで、
「嚢尾虫」(のうびちゅう)となって、
筋肉の中に住むようになる。

その牛肉を人間が食べると感染する。

よって、
火を通さない
ユッケなどの牛肉の生食は、
彼女に出会う、可能性が高い。


彼女が感染しても、
ほとんど、症状は、ない。

無症状。

たまに、彼女の機嫌が悪いと、
腹痛、下痢がおきる。

体重減少が、若干おきるので、
よく、
スーパーモデルの人たちが
体形の維持のために飼っていたりする。


彼女は、嫉妬深く、(宿主の)独占欲が強く、
他の彼女の仲間を、よせつけない性質がある。
このため、
いつも、腸の中には、彼女だけ。


某医科大学の教授は
「きよ子」さんという名前で、
実際に自分のお腹で、寄生虫を飼っている。
きよ子さんとは、彼の初恋の人の名前。






参考:
しあわせの かたち 2,137字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51337787.html