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今日、12月1日は、「国連エイズデー」である。

これに合わせて、
UNAIDS(国連合同エイズ計画)が
2009年11月24日にプレスリリースを発行した。

その内容のまとめと、その解説をし、
最後に、今後のHIV問題の展望を記載する。


(なお、今回は、
 HIV感染者、という表現を使わせて頂く。
 本当は、
 「HIVとともに生きる人」というのが正しい。

 (political correctness : 当事者に配慮された表現)

 HIV感染者という表現は、
 (ラベリング(人に色を付けること)と呼ばれる種類の)
 差別用語にあたる可能性があるため、
 使わないほうが良い表現なのだが、
 今回は、文字数が増えすぎてしまう関係で、
 使用させて頂く。)


・・・

2008年、HIV陽性者数は、
(アフリカ、アジアなどの)全ての地域で増加を続け、
推計3340万人に達した。

2001年は、2900万人だったので、
15%増加した、ことになる。


・・・

ただし、
各関係団体が行っている対策により、二つの効果が得られている。

1.新規のHIV感染者数は減少している。
2.HIV感染者の死亡数が減少している。

具体的には、


1.新規感染者の数のピークは、
1996年の350万人で、以後、減少している。
(これは、各団体が行っている予防対策などによる。)

2008年は270万人が新規感染した。
(減ったとは言っても、まだこれだけ増えている。)


2.死亡者数のピークは、
2004年の220万人がピークで、以後減少している。
(これは、抗HIV薬の普及による。後述。)

2008年は200万人が死亡した。
(こちらも、まだこれだけ死亡している。)


(ここで、ちょっとした、医療統計の用語を説明する。
 それらは、罹患率と、有病率である。

 罹患率 ( incidence ) とは、
 ある年(とし)の1年間で、
 ある病気に、新たに感染した患者の数、である。

 有病率 ( prevalence ) とは、
 今、この時点、この瞬間において、
 ある病気に、(持続的に)かかっている人の数、である。
 (ずうっと、病気を持っている人の数、である。)

 つまり、
 HIVの感染に関しては、
 罹患率は、減ってきているが、
 有病率は、増えている、ことになる。


 この理由は、三つある。
 (1)もともとHIVは、エイズを発症して
 死亡するまで、5〜10年かかること。
 (2)抗HIV薬の普及により、
 HIV感染者は、あまり死亡しなくなったこと。
 (3)このため、
 ちょっとでも、新規感染者がいる限り、
 HIV感染者は、増加し続けること。

 要するに、皮肉なことに、
 死亡率が減ったために、有病率も減らない、
 ことになってしまっているのだ。

 もちろん、
 死亡率が減ったのは(個人にとって)良いことなのだが、
 有病率が増えるのは(世界にとって)問題となる。)


・・・

なお、
全世界のHIV陽性者の、67%が、
サブサハラ(サハラ砂漠より南のアフリカ)におり、

特に、
南アフリカ共和国周辺に集中している。

成人の感染率の最高は、
スワジランドの29%、ボツワナの25%。
いずれも、南アフリカ共和国の周辺国。

しかし、これらの国々は、高止まりで、横ばいの状態。


・・・

世界において、
HIV陽性率(有病率)の増大が、
特に顕著に認められるのは、
東ヨーロッパと、中央アジア、オセアニアである。

東ヨーロッパと中央アジアでは、
注射薬物使用者間での流行から、
性行為感染による、女性への広がりみせている。

先進国においては、
MSM( men who have sex with men : 男性と性交する男性)
において、再び増加がみられる。


(ちょっと、解説すると、
 HIVの流行には、「波」があり、
 歴史的には、最初は、
 「ゲイ(MSM)と薬物使用者」による流行だったのが、
 「セックス・ワーカー(売春婦)」に広がり、
 「女性(妻)」に広がり、
 「子ども」に広がっていった。
 こうした、広がりのそれぞれの段階を、「波」というのである。)


・・・

HIVの新規感染者のピークが、1996年で、
死亡のピークが、2004年である理由は、
HIVは、エイズを発症し、死亡するまで、
5〜10年かかるため、
その「タイムラグ」によるものと考えられる。

・・・

新規感染者数と、死亡数が、減少に転じたことは、
2007年のデータを集計したレポートで
初めて確認されたが、
今回の、
2008年のデータを集計したレポートでも
それが確認できた。

あとは、
世界全体の、HIV陽性者数(有病率)を
減少に転じることができれば、
HIVをコントロールできた(?)
と言ってよい状況になるかもしれない。

(実は、UNAIDSやWHOの担当官の中には、
 HIVを既に大筋でコントロールできた、
 と言っている人もいるのだが、
 後述する、様々な問題が起きる可能性がある。)


・・・

15歳以下の新規感染、43万人の
ほとんどが母子感染である。

しかしこれも、
2001年より18%減少した。

これは、予防対策のカバー率が、
2004年の10%から、
2008年の45%に拡大したことによる。

母子感染は
なんの予防対策も行わなかった場合、
30〜35%の確率で発生する
(母から子にうつる)
ことがわかっている。

これを妊娠中の抗HIV薬の投与などによって、
1〜2%まで、下げることができる。

・・・

治療のアクセスができるようになった人の数は、
2003年の7%から、
2008年には42%まで増えた。

これは、2002年に
「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」、
通称、The Global Fund が誕生したことにより、

世界中のエイズの人々に
ほぼ無料で抗HIV薬が配布されることになり、

かつ、
2003年に、
「UNAIDS/WHOキャンペーン」が行われ、
上記のことを、多くの人々が知ることになったため、
である。

このことが、
死亡者数の減少を生み出した、最大の要因と
考えられる。

(が、この結果、逆に生じた問題もある。後述。)

(なお、HIVに対する効果的な治療法が生まれたのは、
 1996年、である。
 それ以来、それによって、約290万人の命が
 救われた、とされている。)


・・・

一方で、
これまで行われてきた「予防対策」が
的外れ(まとはずれ)であった可能性が
強く指摘されており、

今後、
「個別施策層」と呼ばれる、
セックスワーカー、薬物使用者、MSM(ゲイ)、
移住労働者、青少年などに対する
感染防止の啓発を、
より積極的に行っていく必要性が指摘されている。


・・・

エイズ・コミュニティーのために、
地球規模の、
ソーシャル・ネットワーク・サイトを
UNAIDSが、作った。

AIDSspace.org
http://www.aidsspace.org/home.php

HIV感染者と、
HIV対策を行う人の両方が、参加できる。


・・・

以上のまとめとして、

UNAIDSのシデベ事務局長は、
次のように言った。

「母子保健と、
 HIVプログラムと、
 結核プログラムなどが、
 共通の目標に向けて機能するように
 統合された保健アプローチをとることが必要だ。」

(注:
 エイズを発症した場合、エイズで死亡するのではなく、
 二次的な感染症である、結核か肺炎などで死亡する。
 だから、結核プログラムとの連携が必要。)


WHOのマーガレットチャン事務局長は、
以下のように述べた。

「この勢いを衰えさせてはならない。
 いまこそ対策の規模を倍増させ、
 より多くの人を救うべき時だ。」



・・・
・・・

HIV/エイズに関係する、
NGO、NPOなどの市民団体たちは、
以下のような声明を出している。


1.「ミレニアム開発目標」(MDGs)によれば、
 (1)2015年までにHIVの拡大をとめ反転させる。
 (2)2010年までに治療等への普遍的アクセスの実現。

(ミレニアム開発目標とは、
 国連や世界銀行などの国際機関たちが一体となって、
 2015年までに達成するべきとした様々な目標。
 文末にリンクあり。)

(1)については、まだHIV感染率(有病率)は増えている。
(2)については、まだ治療へのアクセス可能な人が42%。


2.「個別施策層」への予防対策が十分でない。

 社会的に脆弱(ぜいじゃく)な立場にいる
 セックスワーカー、ゲイ、薬物死亡者、青少年、
 などに対する予防措置が不十分。


3.世界のHIV対策の強化のために、
 各国のODA(政府開発援助)を、
 国民総所得(GNI)比で0.7%まで増やすことが必要。

(注: 日本のODAはGNIの0.2%)


・・・
・・・

以下、私の意見。


1.
2002年の「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」
(グローバル・ファンド)の創設により、
大量の資金が得られた。

この同じ、2002年、
WHOが、11個の抗HIV薬(10個はジェネリック薬)を
「必須医薬品」( Essential Drugs )に入れた。


(ジェネリック薬とは、
 大手の先進国の製薬会社が、
 巨額の費用をかけて開発した「新薬」を
 「ブランド医薬品」と呼ぶのだが、
 それを、途上国などにある小さい製薬会社が、
 薬品の化学式を真似して、合成して製造したものをいう。
 これは、大手製薬会社の特許権の侵害をする行為なのだが、
 一方で、HIV感染者の「命を救う」ために、安く大量に作っているのだ、
 という大義名分があったため、大きな論争になった。)


これらにより、
先進国の製薬会社が開発・製造した抗HIV薬を、
インドやブラジルなどの(途上国などの)会社が、
「まね」して作ってもいい、ということを
国際機関であるWHOが、公式に認めた、
ことになる。

以上の二つの「出来事」により、
途上国に、
安い薬が大量に出回ることとなったので、
HIV感染者は、死亡することが少なくなった。


2.
しかし、この二つの出来事は、
いくつかの問題を起こす結果となった。

一つは、
先進国の製薬会社の「知的所有権」
(特許権)の問題である。


要するに、
十億円以上もかけて製造した、
抗HIV薬を、かってに他国の他の会社に
真似されて作られたのでは、
その「開発費」を回収できない。

このような特許権が侵害された状況では、
後述する、「現在の抗HIV薬に対する耐性株」
が生じた場合、
それに対する新薬を開発しようという
モーティベーション(やる気)が下げる。

作っても、その開発費を回収できるほど、
もうからなくなってしまうからだ。

よって、この状況を改善するために、
国際機関や財団法人などが、
先進国の製薬会社の不利益の分を
補填するために、経済的援助をしたりしている、
のだが、
その金額について、交渉の場で、時々もめている。

この金額をいくらにするかで、「もめる」ことは、
(耐性株が増えて)
新薬を作ろうとするたびに、
今後も繰り返されるであろう。


3.
グローバルファンドと、
ジェネリック医薬品が出回った結果、
多くのアフリカの国々に、
無料で抗HIV薬が出回るようになった結果、

人々が、薬を「安易」に飲むようになった。

抗HIV薬は、
医師(または看護師)に指示されたとおりに飲まないと、
やがて、効力がなくなり、「飲んでいる薬に対して耐性化」してゆく。

ところが、
ただで(無料で)入手できるため、
ありがたみがなく、
いい加減に飲む人が多い。

この結果、現在、どんどん耐性株が増えている。

それを持つ人が性行為などをすると、
周りの人々に耐性株が広がってゆく。

これが、問題の一つ。


4.
もっと、酷い(ひどい)ケースでは、
(無料でもらえる)抗HIV薬を飲んでいれば、
もう、エイズは、死なない病気なのだから、
どうってことはない、
と考える人が増えており、

感染していても、気にせず、
感染させることも、気にしない、
人が増えてきたことだ。

このことは、HIV有病率の増加をまねき、
この増加した人々に、
大量の薬を提供しなければならないため、

将来的な「経済的破綻(はたん)」をまねく。

というか、もうすぐ、起きる可能性が高い。
理由は、次の事件。


5.
2007年ごろから始めった、
アメリカの「サブ・プライム・ローン」
(低所得者向けの住宅ローン)
から始まった、
アメリカの「住宅バブル」の崩壊、
そしてそれにつづく、「世界同時大不況」により、

絶大な資金力を誇っていた
「グローバル・ファンド」に翳り(かげり)が見られる。

また、
地球温暖化「狂想曲」は、
2007年、
気候変動における政府間パネル(IPCC)の
第四次評価報告書の発行をもって、最大のトピックとなり、
今後、
各国の資金は、そちらに流れてゆく可能性が高い。

すなわち、
上記の、様々な「流れ」によって、

HIV感染者の「有病率」は、
今後も、増加をしめす可能性があり、
よって、
それらの人々をささえるための薬の量も、
それを買うために必要な金額も、
増加してゆく可能性があるのに、

グローバル・ファンドなどの
HIV感染者のための財源は、
今後、縮小していく可能性が高い。

つまり、
どこかの段階で、お金が足りなくなり、
いままでのような
無料での抗HIV薬の、ばらまきが、
できなくなるのではないか、という危惧(きぐ)がある。


背景になっていることは、
抗HIV薬を飲んでいれば、
HIV感染者は、数十年間生き続け、
減らない、からである。

(やや冷たい言い方かもしれないが、
 経済的に、このように考えることも必要。)


6.
経済的な側面を追加しておけば、
ジェネリック医薬品が採用されたことにより、
現在、
一人のHIV感染者のために
1年間に必要な分の薬を購入する費用は、
約8千円、である。

しかし、
子ども用の薬は、シロップなどであるため、
(錠剤よりも、賞味期限が短いことなどもあり)
10万円ぐらいかかる。

(このため、母子感染を防ぐことは、経済的にも重要。)

また、
耐性株が生じた場合、
その大人には、第二選択の薬を投与するが、
その薬は、高額であり、
10万円以上かかる。

で、また、その薬に対する、そのまた耐性株が生じた場合、
第三選択となる、もっと高額の薬が必要になるのだが、
その値段は、先進国とほぼ同じであり、
病状などにもよるが、
数十万円以上かかることもある。

さらに、そのまた耐性株が生じた場合、
もうそれに代わる薬は(ほぼ)ないので、
どうしようもなく、新薬の開発を待つしかない。

しかし、上記の製薬会社の知的所有権の保護の問題などがあり、
新薬開発(およびそのジェネリック化)の状況はいろいろ複雑である。


7.
あと、本質的な問題として、
治療などへのアクセスができる人が、
42%まで増えた、とあるが、
今後、どこまで増えるかは、微妙である。

理由は、
病院で抗HIV薬をもらうと、
その人が、「エイズ患者」であることが
まわりの人に、ばれてしまうため、
人々は、それによる差別を恐れ、
(仮に、薬が無料でもらえるとしても)
病院に行けない場合があるのである。

(途上国では、病院の中に、HIV感染者のために、
 「包括的治療センター」(通称:CCC)と呼ばれる建物があり、
 そこで診察を受け、薬をほぼ無料でもらう。
 しかし、この、CCCに行く、ということは、
 その人が、HIV感染者である、と周りの人に示すことになるので、
 それを恐れる人は、行けないのである。
 地域にもよるが、
 偏見による差別は、死よりも恐ろしい結果を
 HIV感染者本人にもたらすことがあるから、である。
 参考リンク参照)


HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア 2323字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65327489.html



あとは、
病院が近くにない人、
病院までいく方法がない(道もバスもない)場合、行けない人、
病院にいくためのお金がないほど、貧乏な人、
女性は家から全く出ない、だから病院にも行かない風習のある地域の人、
もともと西洋医学(西洋文明)が嫌いな人、
など、
いろいろな理由で、
アクセスできない(または、アクセスしない)
人がいるわけで、
そういう人が、どこまで病院に来るようになるかは、
なんとも言えない。


・・・

ま、ともかく、
基本的には、
2002年の
グローバルファンドの創設と、
ジェネリック医薬品のWHOの承認によって、
一気に、状況は好転した、のだが、

その一方で、
大量のお金と、大量の薬のばらまきによって、
様々な上述の問題が生じてきた。

で、そこに浮上してきたのが、
サブプライムローンの焦げ付きによる
世界同時不況で、
HIV対策のお金の量が減る可能性、であり、

本当に、財源が減ってしまった場合、
どのような「崩壊」が起こるか、わからない。


例えば、
(無料で)薬を飲んでいた多くの人に、
もう薬がとどかなくなることは、
「耐性株」の大量の発生をうながすことになり、

世界で、「大きな災害」が起こる可能性もある。




















・・・

関連ブログ:

エイズ第一章、HIV/AIDSの医学的側面 6,753字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51420328.html

エイズ第二章、HIV/AIDSの社会的側面 6,132字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51445550.html

エイズ第三章、HIV/AIDSの包括的対策 10,476字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51463531.html

それでも生きる子供たちへ
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65015071.html

HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア 2323字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65327489.html



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参考リンク:

UNAIDS
http://www.unaids.org/

UNAIDS, Japan
http://www.unaids.org/en/CountryResponses/Countries/japan.asp

2009 AIDS epidemic update
http://data.unaids.org/pub/Report/2009/2009_epidemic_update_en.pdf

The Global Fund
http://www.theglobalfund.org/en/

世界エイズ・結核・マラリア対策基金
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/gaiko/kansen/kikin/kikin.html

AIDSspace - Connect. Share. Access
http://www.aidsspace.org/home.php

Millennium Development Goals:MDGs
http://www.un.org/millenniumgoals/

ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html

アフリカ日本協議会
http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/index.html

エイズ・アンド・ソサエティ研究会議
http://www.asajp.jp/

JaNP+[日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス]
http://www.janpplus.jp/

2009年世界エイズデー
http://api-net.jfap.or.jp/spPage_2009/index.html


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書籍: 

HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア (2009/11/28、発売!)
小学館
山本敏晴
(NPO法人・宇宙船地球号・代表 元・国境なき医師団・理事)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/409726401X

紀伊国屋書店・全国全店舗に、発売後一ヶ月間のみ、配本中。
http://www.kinokuniya.co.jp/04f/index.htm

その他、ジュンク堂、三省堂などの大型チェーン店の大型書店などに
ちらっと、あります。