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そう、あれは私が20代後半の頃のことであります。

お見合いをやったのです。


相手の女性は「あさ子」さんという人でした。

場所は、帝国ホテル。


こちらは、博士課程の大学院にいる青年医師(一応)、

相手は、(当時)航空業界・最大手のJ社の、スチュワーデス。


これだけ書くとなんか「ハイソ」(上流階級)な雰囲気(笑)。


ともかく私は、着慣れないスーツを着て、

車を洗車して、

帝国ホテルのロビーへ向かいました。


(注:私がスーツなど着るのは、年に一回あるかどうか・・)

(注2:というか、あれ以来、数十年、ないかも(汗))


聞けば、相手のお嬢様の経歴はそうそうたるもの。


なんでもどこやらの大病院の一人娘で

早稲田大学を優秀な成績で卒業し

数カ国語がペラペラで

現在J社の国際線のスチュワーデス。


容姿端麗、頭脳明晰、家柄最高、

という、究極の三拍子がそろった、


ほとんど人間とは思えないような人、でした。


ついでに、ご本人の月収も数十万円。

20歳代の前半でありながら、

年収は軽く、「大台」を突破するとのこと。


ほいで、

(東京の)世田谷の一等地にある、ご自宅から、

(ちょっと遅刻しそうな時は、)

(千葉のはずれの)成田空港まで、

「タクシー」でご通勤されているとか。


(当時、J社の国際線スッチーはこのような待遇でした。)



ちなみに、あの頃の私は、ようやく2年間の研修が終わり、

医者として一人立ちしようか(?)というところでした。

月収は僅かに20万円ぐらいで、一人で暮らしていくのが

やっとという感じでした。


(注:東京の新橋付近の家賃は高く、

 ワンルームマンションで、月額10万円ぐらいしました。)

(注2:母校・慈恵医大の大学病院がそこにあったので、やむなし。)


こんなわけで、私としてはあまりに不釣り合いなので

お断りしようと思っておりましたが、

強引な義理の兄の性格に押し切られ、

また


「あさ子さんは凄い美人だから、会うだけでもあってみな」


という言葉の誘惑に負け、結局、今回の運びとなりました。


(この辺の愚かな性格は、死ぬまで変わらない予定でしゅ・・)


さて帝国ホテルのロビーには、かねてより評判の高い

そのお嬢様と、彼女の親戚の叔母様、私の義理の兄が

そろっておりまして、


とっとことっと駆けつけた、私は、

汗を拭き拭き、

なんとか明るい好青年を演じようと努力しました。


普段の私はちょっと暗い、

眼鏡をかけた、

服装に気を使わない、

猫背の、ダサイ男なのですが、


この日は無謀にも、

デザイナーズブランドのスーツを着て、

コンタクトレンズを入れ、

軽い話題をテンポよく話す男を演じようとしました。


(注:本人がそう思っていただけかも。)

(注:そもそもこれが間違いでした。)


結局30分ぐらいの紹介をロビーでしたあと、

「若い二人だけにしよう」

ということで、叔母様と兄は退散し、

我々は帝国ホテル二階に(当時)あった

恐ろしく高級なフランス料理屋で食事をしました。



そうそう。

肝腎なことを書くのを忘れておりました。


あさ子さんはやはりとんでもない美人だったのです。


およそ私が生まれてから地球上で目にした全ての物体

および生物の中で最も美しく、最も誇り高い人でした。


スタイルもばっちりで、8等身の上、

背筋はまっすぐ、股下のほうがはるかに長く、

火星人(失礼)のような人でした。




このあまりの綺麗(きれい)さに、

一回だけ(ながめるだけ)のつもりが

何度かデートを重ねてしまい、

もうそろそろ「三ヶ月」が過ぎようかとしておりました。


そうです。


お見合いをしたら、普通、三ヶ月以内に結婚するかどうかの

返事をするのが常識なんだそうですね。


気の弱い、私は、どうしてよいかわからず、

おろおろとして日々を過ごしておりました。


もともと結婚する気はあまりなかったのですが

こんなに綺麗な人とデートができるのは一生のうちで

今だけだろうなあ・・と思っておりましたので


この状態がだらだら続けばいいなあ・・とか

都合のいいことを考えておりました。


またこんなに綺麗な人と付き合ったことなどなかったため

キスはおろか手をつなぐことさえありませんでした。


まさに「指一本触れず」の状態。


そんな時、悲劇は起こりました。




その頃の私は、

デートでなんとか彼女を楽しませなければならないと思い、


友人から、トレンディー・スポット(流行の場所)を聞いたり、

ガイドブックを買いまくったりして、

楽しそうなデートができそうな候補地を、

毎日チェックしておりました。


その中の一つに、六本木にある「ヒットパレード」という

ショーパブがありました。


(注:当時、実在。今でも、あるかも。)

(注:ちょっと遊び人だけど、なぜか仲が良かったT医師から紹介された店)


ここはどんなところかといいますと、T医師によりますと

2時間毎に今一売れていないお笑い芸人による

「物まねショー」が行われる50人ぐらい入れるパブ

のようなもの、とのことでした。


で、そろそろ遊園地や水族館という定番を使い果たしていた私は

彼女をこの一見「危険な香り」がするけれども、

なんとなく面白そうなこの「ショーパブ」に連れていくことにしました。


入ってみると館内は薄暗く、もうすぐショーが始まる時間だと

いわれました。


ドリンクと、おつまみを頼んで待つこと数分、

館内はさらに暗くなり、


と思うとなにやら

セクシーな音楽が流れ出しました。


「ちゃららーーーん」


という音楽に、なにか嫌な予感がした私は

続いて始まった光景に目を疑いました。





なんと、女性のストリップが始まったのです。



しかも、完全に全裸。

あそこも丸出し。

ちょっとぐらい隠せばいいのに・・・

と思うくらい、生まれたまま。




「ちゃららーーーん」




滝のように流れる冷や汗と、

ねっとりと滲んでくる脂汗(あぶらあせ)に、

私は、意識喪失、寸前。


恐る恐る目を上げて、彼女のほうを見ると、

あさ子さんは生まれて初めて見る光景に


目が点になり、

顔面蒼白、

両手を握りしめ、

唇はプルプル、


それでも、背筋は真っ直ぐ、というご様子でした。




「ちゃららーーーん」

「ちゃららららら、ららららーーーー」


「うっふーーん」



「わあぉ」




この惨劇は30分間続き、私の頭の中は

このショーパブを紹介したT医師の「してやったり」のニタニタ笑いと

終わった後のあさ子さんへの言い訳とで、錯乱状態。


隣のあさ子さんの横顔は

赤くなったり、青くなったり。




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こうして、私は、

人生、ただ一回のお見合いを「終え」、

今も、その思い出とともに生きています。


あさ子さんも、

あのお見合いのこと、そして「わたくしめ」のことを、

時々、(笑い話としてでも)思い出してくれるといいなぁ・・

などと、勝手なことを思っています。




さあ、そして、

海外での活動と講演が多い私は、

今日も、明日も、飛行機に乗ります。


飛行機の中で、

背筋の真っ直ぐのびたスッチーさまをお見かけするたびに、

私は、その姿に、

あさ子さまの、容姿端麗な幻影を重ね、



あの、

あの「めくるめく夜」の音楽を、思い出すのです。




「ちゃららーーーん」

「ちゃららららら、ららららーーーー」


「うっふーーん」




「わあぉ」