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「正解はないんだ。

 その場その場で自分で考えていくしかない。」


医学生時代から医者になって数年経った頃まで、
私は、写真の勉強も同時におこなっていた。

結構、本格的に学んだつもりだった。

基本的になんでも「極め」ないと気が済まない私は、
プロの写真家の先生に直接教えてもらう方法を選んだ。

ポートレート(人物の肖像写真)の先生、風景写真の先生など
いろいろな人に教わったが、
最も印象に残ったことを教えてくれたのは、
商品撮影の先生だった。

商品撮影とは、通称「ブツ撮り」とも言われ、
宣伝するための商品を、いかに魅力的に撮影するかを
追及する撮影方法である。

例えば、あるメーカーの「時計」という商品を撮影する場合、
その商品にどのように光をあて、どのような角度から撮影すると、
商品の魅力が最も引き出されるか、ということを
考えながら、撮影をしてゆく。

こうかくと、簡単そうに思うかもしれないが、
実は、とんでもない技術と経験が必要で、
10年やったプロでも、12時間ぐらいはかかる。

(商品撮影の中でも、時計と宝石は、特に難しい。)

なんでかというと、
写真家の仕事というのは、撮影をするのが仕事ではなく、
その「商品(被写体)」に、
どのような光をあてて、
それをどちら側から見せるか(撮影するか)が、
すべてであるからだ。

つまり、
その時計のまわりにある「この世の、すべての光」を
写真家が、コントロールしてゆく(作ってゆく)のである。


例えば、
直射日光のような強い光をあてると、
はっきり明るい部分ができ、
その裏側に、すごく暗くて見えない、影の部分ができる。

(このような状態を、コントラストが強い、という。)
(この光源を、「点光源」、といい、その光を、硬い光、と呼ぶ。)

一方、
曇りの日のような光をあてると、
表側も裏側も、なんとなく明るく、
全体が、まんべんなく見える状態になる。

(このような状態を、コントラストが弱い、という。)
(この光源を、「面光源」、といい、その光を、柔らかい光、という。)


また、
光には色がある。
例えば、

曇りの日の光を受けると商品は青っぽく、
寂しげに見える。

夕方の光を浴びると、商品は赤黄色っぽく、
温かな雰囲気を醸(かも)し出す。


つまり、光のコントロールとは、
上記の、硬い光、柔らかい光、光の様々な色、などを
いろいろ混ぜ合わせて、しかも、いろいろな方向から照射し、
自分好みの「光の世界」を作っていくことにある。


で、
プロ用の写真機材ショップにいくと、
上記のそれぞれの光を照射する機材が売っており、
実は、プロの仕事の基本は、
これらの機材を購入(またはレンタル)
することから始まるのである。

つまり、写真家にとって、重要なのは、
カメラ本体(による撮影)ではなく、
商品のまわりにある光を、
自分の意のままにコントロールできることこそが、
その全て(90%以上)、なのである。

で、
あらゆるライティング(照明)機材を持ち、
「七色の光」をあやつることができる、
その道、数十年の我が師匠が、こういうのだ。


「(商品撮影のライティングには)

 正解はないんだ。

 その場その場で自分で考えていくしかない。」



もちろん、経験があればあるほど、
かつて(ある商品を)自分が撮影した時のことを思い出して、
それを真似して撮影してしまう、ことはできる。

しかしそれを行うと、
「自分の進歩が止まってしまう」と我が師匠はいう。

(彼は、60歳を超えている男である。)


命ある限り、彼は、「新しい光」を求め、

自分の納得する「世界」を作ろうとし、

もがき、あがき、苦しんでいた。


その「彼の姿」こそが、私の敬愛するものであり、
今、私を突き動かしている精神の、原点となっている。























・・・

補足:
某新聞社から、敬愛する師、という題名で、エッセイを書いてくれ、
と言われた。
しかし、学校の先生で、尊敬していた人はいないため、
撮影の先生のことを思い出して書いた。
これで勘弁してもらおうと思う。


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