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赤と黄色の混じった光が、
私のテーブルの上にある「ジン・トニック」を照らしている。

頭の上で煌々(こうこう)と光るスポットライトが、
暖色系のムードに、私のいる一角を包んでくれる。


左の壁には、白いネオンで「バドワイザー」の文字が書かれ、
それを
赤いネオンの星型のマークがチカチカ飾(かざ)り立てる。

右の壁には、青いネオンで、JAZZ と書かれており、
その下に、赤いネオンの、"SOMEDAY" (いつの日か)
が、大きく輝く。


そう、この店の名前は、"SOMEDAY"。
新宿1丁目の、ビルの地下にあるジャズ・レストランだ。


私は今、この店の中で、ステージから最も遠い場所に座り、
ひそやかに昔を懐かしんでいる。

学生時代、時給七百円で皿洗いのバイトに明け暮れ、
デートをするための金を必死に稼いでいた、
この新宿1丁目のことを。


おやっ

スポットライトたちの光が、
一つ一つ増えていったかと思うと、
暖色の光たちは、ステージに視線を導き、
その中に、4人の男性たちを浮かび上がらせた。


そして、演奏が始まる。
曲の題名は、

「サテン・ドール」

その内容は、
酒場で男性が魅力的な女性を見つけ、
彼女を、くどこうとするのだが、
結局、振られてしまう、ちょっと悲しいストーリー。


ピアノ、オーボエ、ベース、ドラムの
四つの楽器で演奏されていたが、
なかなか、4者4様で、面白い。

オーボエの奏者は、
白いYシャツを着て、眼鏡をかけ、
顔を真赤にして吹き鳴らし、
さらに、
頭を前後に、かくかく揺すりながらリズムをとっている。

ベースは、
茶色のV字型のシャツを着ており、
オーボエ奏者を無視するかのように、
あっちのほうを向いて、淡々と指で弦を弾く。

ドラムは、
ぎゅっと目をつぶり、
必死に目の前のドラムを激しく叩き、
飛び散る汗が、
紺色のTシャツを、いっそう深い藍(あい)に変えてゆく。

そんな中、
彼らをまとめるように、導く旋律があった。


ピアノである。


この4人の中では、
ピアノの奏者の技量が、飛びぬけて高く、
曲のリズムと色、そして「豊かさ」の全てを作っていた。

グレーのスーツを着た、白髪の紳士が、
鍵盤の上に、指を躍らせ、
同時に、
体を揺すらせることで、4人の指揮をとる。


おお、フォルテッシモ!

それに続く、「あやうい」変調!


ジャズならではの「自由な」変調を試みる彼らをみて、
私は、一人、ほくそ笑む。


しかしながら、今日の演奏は、
実は、
いつものものと、ちょっと違う形で行われていた。


それは、演奏者が、
教授と生徒たちだったことだ。


ピアノ奏者は、
私の母校、J医大の神経生理学のK教授。
他の3人は、医学部6年の生徒たちだった。


K教授は、医学部を卒業する時に,
JAZZで生計を立てていくか、
医者になるかを迷ったくらいの腕前で
その演奏は、折り紙つき、である。

他の3人の医学生たちは、
教授に怒られないように、必至でついていく、
といったところか。


「サテン・ドール」の演奏が終わった時、
K教授は、こう言った。


「うちの大学のジャズ研は、
 今の6年生が中心にがんばってきた。

 だから、6年生が卒業してしまったら、
 もう、ジャズ研は、無くなってしまうんじゃないか、
 と心配していたんだが、
 それは、杞憂(きゆう)だったとわかった。

 今年、たくさんの1年生たちが、
 入って来てくれたからね。

 看護学生も、いっぱい入ったようだし。」


見れば、
今や、ジャズ研には、
20人以上のメンバーがいるようで、
その半分は女性。

おそらく、看護学生が多いのだろう。

客席のほうには、100人ほどの若い人たちが
「たむろ」しており、
あっちこっちで、
男性と女性とが向かい合い、

「サテン・ドール」のような振られる話が、
いやいや、
彼らなりのストーリーが始まろうとしていた。


医学部の男子学生が、看護学部の女子学生を
ナンパすることも多いだろうが、

最近は、もしかすると、

看護学部の男子学生が、医学部の女子学生(将来、女医!)を
ナンパするケースも、考えられる。

うーーん。

あっちで口説いている二人は、
どういう関係なんだろう??


学生たちの演奏をバックミュージックにしながら、
私は、妄想をめぐらし、
再び、一人、悦に入っていた。



が、その時、
一人の女学生から、声をかけられた。


「や、山本先生じゃないですか?」


あれれ。

今日は、こっそり、
後輩たちの演奏を聴きにきただけなのに、
どうやら、
「国際協力をやっている私」を知っている学生も
いるみたいだ。

とりあえず返事をする。


「あ、はい。そうです。」


女学生は、目を見開き、
大きく開いた口を、手でおさえた。


彼女は、次に、何て言うのだろう?

いや、それは、もう、何でもいい。


彼女は、
店の隅で、ひっそりと寂しく座っていた私に、

ちょっと暖かい


スポットライトをあててくれたのだから。























'Satin Doll' jazz piano (Joe Van De Graaff)
http://www.youtube.com/watch?v=8CnOqUJ3ZeU

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佐野元春−SOMEDAY
http://www.youtube.com/watch?v=mZxFAFn-wOw