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海に飛び込んだ私の目の前に広がったのは、
三角形の、白・黒・黄色が乱舞する
「花吹雪」だった。

熱帯魚の一つに、「ハタタテ」というのがいる。
(画像は、以下)

http://fishing-forum.org/zukan/mashtml/M000147_1.htm

正式名称は、「ムレハタタテダイ」と言う。

三角形の体は、白と黒の縦縞(たてじま)で飾られ、
背びれと尾びれだけが、黄色い。

背中の中央に、白い触角のようなものがあるのだが、
これが、宇宙人の帽子のような格好(?)で、キュートである。


これが、数百匹、いや数千匹の群れをなして
私の目の前を行き交う様は、壮観であった。


・・・

母島は、日本の中で、そこに行くまでの時間が
もっとも長くかかる場所(島)の一つだ。

東京・竹芝桟橋から出ている定期便「おがさわら丸」に乗って、
まず、「父島」へ。
ここまで、片道約25時間30分。

そこから「ははじま丸」に乗り換えて、
「母島」へ向かう。
さらに、2時間10分。


航空路はないため、上記の方法が、唯一無二。
もし、定期便などが台風などで欠航になった場合、
完全に、本土との交通は遮断される。


このため、訪れる観光客は少ないため、
人間に荒らされていない、無垢(むく)な自然が
数多く残されている、野生動物の楽園だ。

その証拠となる事実の一つが、
「動物たちが、逃げないこと」、である。

人間がいくら寄っても、逃げない。
おどかさない限り、逃げない。


もちろん、海の中の魚たちも、である。


・・・

1998年、春の母島。

母島の海が、一般のダイバーたちに解禁されることになり、
観光客向けのダイビング・スポットを
インストラクターたちが検討することになった。

そのインストラクターの一人が、
私に教えてくれたのが、
母島の、さらに南東にある小島、
「姪島」(めいじま)である。

海水の透明度がよく、
海に飛び込む前から、
船上から魚影が確認できる。

そして、それを見てそこに飛び込んでいっても、
魚たちは、「逃げない」。


前述の、
花吹雪のような三角形の「ハタタテ」の群れの中を、
アジや、カンパチが、しゅるしゅると泳ぎ、
アオウミガメが、ゆうゆうと浮かんでいる。


必死になってその様子を撮影していると、
ストロボのチャージ音に混じって、
似たような音が響いてきた。

「キュイィーーン」

振り向くと、イルカが2匹いた。
それも、目の前に。

唖然として、ぼーっとしていると、
突然、イルカは動き出し、
俊足を飛ばして、海中を駆っていった。


驚きから醒めて、周囲を見回すと、
周囲から、華やかさが消えていた。

魚影が、見えない。


どうしたのかと思うと、
左から、なにかが近づいてくる。

かすかに見える姿は、大きい!

私のところまで、15メートルほどの距離にせまった時、
グレーがかった体色に、うっすら斑点のような模様・・、

いや、豹柄(ひょうがら)が確認できた。


「タイガーシャーク」だ!!

もっとも危険なサメの一つである。


http://www.divexprt.com/photogal/gws/gws.html


全長4メートル、サメは一気に距離をつめ、
私のすぐ横を通過した。

そしてサメは、私の前で、旋回を始めた。

旋回しながら、近づいては離れてを繰り返し、
かつ、徐々にスピードをあげている。


くーる ぐるり くーる ぐるり


これはサメの「攻撃開始」を示す有名な「行動パターン」である。


私は恐怖し、浮上を開始した。
しかし、浮上中の無防備な状態が、一番危険である。

水面が見える。
しかし、サメのせまってくる速度が一気に上昇する!


ゴーーッ、ガガガガ、ゴゴーーーッ


突然、すさまじいエンジン音が聞こえた。

私は、びっくりしたが、
もっとびっくりしたのは、サメだった。

ビクンとして、向きを変え、離れていった。
どうやら、船の上の船長さんからも、サメが見えて、
エンジンをスタートさせてくれたらしい。


とにかく、助かった・・。


船上に引き上げられるまで、私は震えが止まらなかった。

船長がいった。


「あぶなかったなぁ。ここは、やばい。他にいこう。」



・・・


母島の春は、

ザトウクジラ、イルカ、アオウミガメ、マグロなどの、
魅力的な動物たちが活躍するシーズンだが、

もう一つ、忘れてはならないこともある。


春は、タイガーシャークの季節でもあることだ。




















・・・

補足:
「サメの通る道 小笠原より」
は、
2009年に出版されたエッセイ集。

著者: 川波 静香(かわなみ しずか)
文芸社
定価1300円、プラス税

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4286081818


私の従姉妹(いとこ)が出版したので、
宣伝をするため、内容の一部を抜粋して、
再構成した。

よって、
上記の文章の中で、「私」とあるのは、
私の従姉妹のことである。


内容は、小笠原での魚たちとの触れ合いが3分の2、
残り3分の1が、太平洋戦争時の戦跡(せんせき)の話。

表題になっている、「サメ」との遭遇は、
なんどもあり、
どのエピソードも、それぞれ印象深いので、
ご一読あれ。



参考リンク:

小笠原「母島」観光協会
http://www.hahajima.com/