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2009年12月31日の毎日新聞の1面に
今井紀明君の現在の様子が書かれていた。

それで思い出したので、
「あの一件」に関する私のコメントを書いておく。


・・・

まず、知らない方のために、
「あの一件」について説明する。


・・・

2003年3月19日、
アメリカやイギリスなどの軍隊が
イラクに侵攻した。

(同年12月26日、日本の航空自衛隊も出発)


イラク侵攻の理由は、
アメリカがイラクに要求していた、
(化学兵器などの)大量破壊兵器の武装解除に
イラク政府がしたがわなかったこと、などが
主な理由であったが、

戦後、イラク国内から、その化学兵器などは、
全く見つからなかったことから、
アメリカに戦争をしかけた正当性はなく、
その後、国際世論の批判を浴びることになった。

また、
サダム・フセインによる
強力な軍事政権を失ったことにより、
(一応、民主化された、とも言えるが)
イラク国内の状況は混迷を極め、
いまだに(現在でも)、
テロや内乱が頻発する事態になっている。


さらに、
この戦争中、アメリカ軍は、
大量の劣化ウラン弾を使用している。
(イラク南部のサマーワなどで、
 その不発弾等が発見され確認されている。)
この劣化ウラン弾は、
放射能を周囲に放出するため、
癌の発生や、先天異常を持つ新生児の出産の頻度を
高くする可能性が疑われた。


(注: 劣化ウラン弾の放射能による影響は、
 関係がはっきりせず、マスコミが騒ぐほど、
 大きな人体への悪影響は、なかった可能性が高い。
 証拠としては、
 統計学的に調べたところ、
 劣化ウラン弾に暴露された地域とそうでない地域
 の間に、統計学的に「有意差」(意味のある差)
 が出るほど、癌などの発生率の差は、ないのだ。
 これらは、
 WHO(世界保健機関)と、
 UNEP(国連環境計画)によって確認されてる。)


以上が、イラク戦争と、劣化ウラン弾について、
まず、知っておくべき背景である。


・・・

イラク戦争後、
アメリカなどが作った暫定政権は、うまく機能せず、
イラク国内の治安は、
サダム・フセインがいた当時よりも、
はるかに悪い状態になっていった。

このため、
イラク国内に多くの武装勢力が誕生し、
(お互いに、抗争を続けるだけでなく、)
その多くが、
アメリカを始めとする外国を敵視し、
「外国人嫌い」の風潮が蔓延する。


2004年、戦後も、混迷の続くイラク国内において、
外国籍を持つ人々が、多数、誘拐された。

軍隊、民間企業、国際協力団体(NGO等)に
所属する人や、
一般の旅行者、ボランティアの人、なども誘拐された。

外国人が誘拐された理由は、
その外国人が国籍を持つ軍隊を、
イラクから引き揚げさせること、と、
身代金等、であった。

(日本人が誘拐された場合、
 当時、派遣されていた自衛隊の引き上げと、
 金が目的、ということ。)


2004年4月7日、
イラクで日本人3名が
ファルージャにおいて、武装勢力に誘拐される。


今井紀明
個人で、劣化ウラン弾の悲惨さを伝える
絵本を作りに行っていた。

郡山総一郎
個人で、フリーカメラマン(戦争カメラマン)をし、
イラクの現状を撮影しようとしていた。

高遠菜穂子
個人で、イラクの子どもたちに物資の提供をし、
一応、ボランティア的活動をしていた。


以上のポイントの一つは、
3人とも、イラクという、最も治安の悪い地域で
「個人で」活動していた、ということである。


通常、
国際協力団体が、イラクなどに入る場合、
当然、その国の軍隊・警察・アメリカ軍・私兵などに
厳重に守ってもらう形で行動する。

(少なくとも、現地人のドライバーといっしょに
 行動し、そのドライバーが危険だと判断する地域には
 決して行かないのだ。)

また、
そもそも情報収集を入念に行い、
各団体の安全管理担当者が、
その国の中でも、特に危険な地域を指定し、
そこで国際協力活動が行われることは、
基本的に、ない。

(上記の3人がつかまった、ファルージャは
 当時、最も危険な地域の一つだった。)

国連や、日本政府のJICAなどの団体は、
それを厳密に行っている。

また、それらの団体よりも、
より危険な紛争地帯で活動する、
赤十字国際委員会(ICRC)や、
国境なき医師団(MSF)などの団体たちは、
現地に派遣される前に、
自分と仲間の身を守るための「研修」を受ける。

この内容を知りたい人は、拙著
「世界で一番いのちの短い国 
 シエラレオネの国境なき医師団」
を読んで頂くしかない。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4560049629/


また、団体によっては、
安全管理に関する知識を持ってもらうために、
外部の団体に、その研修を委託する場合がある。
委託先は、以下である。

1.Eセンター(UNHCRが主催)
http://www.unhcr.or.jp/protect/e_center/index.html

2.Red.R(北米のNGOが主催)
http://www.redr.org/

このように、紛争地帯で、国際協力を行う場合、
まっさきにやらなければならないことが、
安全管理(自分とスタッフの身を守ること)の知識を
持つことなのである。


・・・

では、
「個人で」、ボランティア活動を行う場合、
どうすればいいのかというと、
まず、
外務省のホームページの中にある
次のURLへ行って頂きたい。
各国ごとの、「危険情報」が書いてあるからだ。


外務省 海外安全ホームページ
http://www.anzen.mofa.go.jp/

例えば、
イラクに関するページは以下。
http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info4.asp?id=045#header


上記を見ればわかるが、イラクは、
当時から、そして、今でも、
「退避の勧告」と「渡航の延期」が記載されている。

こういう国には、
「個人では、絶対にいってはいけない」
のである。
これが、基本である。

個人で、ボランティアをやりたいのであれば、
東南アジアなどの、比較的治安がいい国に
いくのがよい。

例えばカンボジアの場合、
タイ国境などの地域において、
治安が悪いことが明記されており、
その他、いくつかの、
「個人では、行ってはいけない地域」
が記載されている。
それらを参考に行動するのがよい。

http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info4.asp?id=004#header


上記のような情報を参考にしながら行動するのが、
個人として、ボランティア等を行う場合の、
「最低の心構え」、である。


また、より安全に行きたいなら、是非、上述の
Eセンターや、Red.Rの講習を受けてから
途上国に行くことをお勧めする。


・・・

個人が、上記のような「最低の心構え」を
守らなかった場合、
まわりの人や、団体や、国に、多大な迷惑をかける。
それを紹介しておこう。

例えば、
日本人が、中東の武装勢力に誘拐された場合、
日本政府は、その身代金として、
数千万円以上を、支払っている。

新聞などには、数百万円と記載されることが多いが、
事実は、その10倍が、支払われている。

これは、もちろん、国民の税金から支払われている。


もう一つの、決定的な迷惑は、
以下である。

例えば、日本人が、ある外国で誘拐されたり、
または殺害された場合、
その国において、日本人が活動することは
危険だということになり、
各国際協力団体の安全管理担当官が、
その国での活動を自粛しよう、と思うようになる。

国連のユニセフや、日本政府のJICA,
NGOの赤十字などの大手の国際協力団体たちが
その活動を控えるようになった場合、

その活動が続けられていれば、
現地にいる数十万人の貧困層の人々の命が救われるのに、

(ある個人が、勝手な活動をしたために、)
そうした大手の団体の活動が、
数か月の間、自粛(停止)されてしまうのである。


一人の個人の、勝手な(軽率な)行動のために。


上記の詳細は、以前、以下に詳述した。

国際協力と安全管理 4,867字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51544522.html


・・・

以上を踏まえて頂いた上で、
今井君の、行動を振り返る。


今井紀明(いまい のりあき)

1985年、北海道生まれ

中学時代、途上国支援のNGOのイベント参加。

高校時代、上記のNGOなどで、ベトナムへ。
     アメリカ軍が使った枯れ葉剤の被害に興味を持つ。
     その後、いろいろなNGOと知り合い、
     アメリカ軍が使った劣化ウラン弾による被害(?)
     に興味を持つ。

高校卒業、イラクへ。
     劣化ウラン弾の被害に関する絵本を作ろうとする。

2004年4月7日、
     イラクで武装勢力に3人の日本人が誘拐される。
     今井君も、この一人。
     武装勢力は、自衛隊の撤退などを要求。
     
     日本政府(外務省)は、当時イラクへの
     渡航自粛勧告と退避勧告を行なっていた。
     今井君は、それを無視して渡航した。
     よって、「自己責任」という言葉で批判され、
     マスコミもこれについて、賛否両論で騒いだ。

     また、ボランティアとは何か、および、
     ジャーナリズムとは何か、も議論された。

     また、両親などが、
     自衛隊の撤退を要求したことなどにより、
     真偽はともかく、「自作自演」説も起こり、
     問題を複雑にした。

2004年4月15日、
     上記の日本人3人は、解放された。

     帰国後、3人への様々な反応があった。
     バッシング(批判)、同情、ヒーロー視、など。

     自宅の住所などをマスコミが報道し、
     それがインターネット上で公開されたため、
     郵便物、FAX、メール等により、
     無数のいやがらせが行われた。

2004年末、オーストラリア(?)へ、語学留学
     日本での喧噪(けんそう)から逃れる。

     留学中、イギリスBBCに取材され、
     自分の行動の正当性を主張する。

2006年、立命館アジア太平洋大学へ、入学。
      大分県別府市へ。

2009年秋、ザンビアにて、小学校建設のNGOに参加。

2010年、東南アジアと取引する商社に就職(予定)。


・・・

で、まあ、彼の行動を批判するのは、
たやすいが、私の立場は、そう簡単ではない。

私は、
「国際協力師の育成」において、
三つの段階的啓発を行っているからだ。

三つとは、以下である。


きっかけ: まず世界に興味を持ってもらう

最初の一歩: 自分のいる場所ですぐできることは?

本当の考え方: 本当に意味のある国際協力の難しさ


・・・

今井君が、「ど初心者」であるとした場合、
世界の問題になんの関心も持とうとしない人よりは
よほど素晴らしい人だ、ということになる可能性がある。

つまり、彼の近くにいたNGOなどが与えた
「きっかけ」によって、動かされた彼は、
まわりにいる、他の、心を動かされなかった人よりは、
よほど「まし」なのかもしれない。

(少なくとも、自分さえよければいい、
 というスタンスで、一生を送る人よりは、多少、ましではないか、
 と考えられる。)


で、次に「最初の一歩」として、
(国際協力の初心者向けの場所である)
「東南アジア」のベトナムにいったまでは良かった。
ここまでの
彼の行動の選択は、「正解」である。


しかし、次に、
「本当に意味のある考え方」の中で、
まず、まっさきに勉強しなければならない、
「安全管理の重要性」を
彼に教えてあげる人が、
まわりにいなかったことが、不幸というか、残念でならない。

これは、
(勉強しなかった)彼自身が悪い、
とも言えるし、
逆に、そうしたことを、彼に教える体制が、
(そうした情報を、彼に伝えるシステムが)
まわりに(社会に)なかったことが、
問題だった、とも言える。


一応、
「そうした情報を、
 国際協力をやりたい人に伝えることを、
 私は自分の仕事にしている」、
と、自認しているわけだから、
ある意味、
私(および他の国際協力を啓発している人や団体)
の責任でもあるかもしれない。


・・・

が、一方で、
客観的に考えれば、
基本的に、今井君がやったことは
そうとう、問題が多い。


1.外務省の退避勧告等を無視した。

2.国際協力的な活動をするには、
  安全管理の知識を得ることはまず必要なのに、
  そうした最低限の勉強をしていない。

3.日本人(外国人)がイラクで誘拐されたことにより、
  多くの(大手の)国際協力団体の活動が、
  (危険だという理由で)制限(一次中止)された。
  これにより、多くのイラク人への援助が途切れた。

4.武装勢力から、人質として解放される際に、
  日本政府は、数千万円のお金(税金)を
  支払った可能性がある。

  (真実は、マスコミには報道されない。
   便乗する二次的な犯罪(模倣犯)の予防のため。)

5.そもそも、劣化ウラン弾に関する知識が
  偏っている。

  (国際協力は、常に、科学的明証性のもとに
   行われなければならない。
   NGOの活動の悪いところは、
   根拠の薄い、本人の思い込みが多いこと。)


・・・

ともかく、最終的な結論としては、
悪いことの一つは、彼だけではなく、
周囲の体制にもある、ということ。

まず、
マスコミの報道の仕方が、大きな問題だったとは思うが、

それと同時に、
日本において、正しい国際協力を
(今井君のような、世界に関心が向いた人に)
教えるシステムが、十分ではない、
ことが、最大の問題である。


一応、

小中学校において、
「警察官や、消防士、弁護士、看護師のように、
 国際協力師という職業があるんだよ」
という内容の「総合学習」を、
うちの団体は、2004年から開始したが、
それだけでは、もちろん、情報として足りない。

「きっかけ」にしかなっていない。


その後、
高校生あたりを対象に
「東南アジアの学校・病院・孤児院等にいき、
 そこでの国際協力団体の活動を見る、
 途上国へのスタディーツアー」
あたりを計画し、
(また、同時に、海外での安全管理の初歩も教えて)

「最初の一歩」としなければならない。


そして、最終的に
大学または大学院で、
私の講演を聞いてもらったり、書籍を読破してもらい、
「国際協力師になるため」の
いろいろな勉強をしてもらい、
国連やらJICAやら、開発コンサルタントやら、
社会企業家やら、CSR(企業の社会的責任)やらを、
人生の選択肢として、
「包括的に」意識する学生たちを作り上げないといけない。

「本当の考え方」というやつである。




と、いうわけで、
自分の力不足を反省しつつ、
今後も、いっそうの努力を続けていこうと思っている。

「本当に意味のある国際協力」をするための
参考になる情報を、それが必要な人のもとに、
ちょっとでも、届きやすくなるように。

(もちろん、それが届いたところで、
 それを無視したり、否定する権利が
 その人たちにあることを、忘れないようにしながら・・)





















(注: 上記の議論で、ぬけおちているのが、
    ジャーナリズムの必要性。
    危険をおかしてまで、紛争地帯にいく、
    記者や写真家は必要か、という問題。
    この件は、また別のブログで触れます。)


・・・

参考文献

世界で一番いのちの短い国―シエラレオネの国境なき医師団
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4560049629/

アフガニスタンに住む彼女からあなたへ―望まれる国際協力の形
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4560049688/

世界と恋するおしごと―国際協力のトビラ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093876401/

国際協力師になるために
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4560031630


・・・

参考リンク:

国際協力と安全管理 4,867字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51544522.html

今井紀明 ブログ
http://blog.livedoor.jp/noriaki_20045/

ぼくがイラクへ行った理由 今井紀明
http://www.commonsonline.co.jp/iraq.HTM

今井紀明さんのドイツでの紹介の翻訳
http://www.nodu-hiroshima.org/fm/web/siryou108.htm

国民的規模のいじめと、今井紀明さんの反論 てるてる日記-ウェブリブログ
http://terutell.at.webry.info/200405/article_8.html

高遠菜穂子 独占ロングインタビュー 本当のことを知ってほしい[週刊現代]
http://www.asyura.com/0403/bd35/msg/814.html

郡山総一郎が語るイラク(1)カメラを握るまで
http://www.news.janjan.jp/special/0407/0406296220/1.php

郡山総一郎が語るイラク(2)「絶対伝える」
http://www.news.janjan.jp/special/0407/0406296236/1.php

郡山総一郎が語るイラク(3)拘束
http://www.news.janjan.jp/special/0407/0406306276/1.php

郡山総一郎が語るイラク(4)解放と取調べ
http://www.news.janjan.jp/special/0407/0406306278/1.php

郡山総一郎が語るイラク(5)謝罪と「自己責任」
http://www.news.janjan.jp/special/0407/0406306280/1.php