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古代エジプトのミイラ。紀元前600年

武田信玄。1521-1573年

ショパン。1810-1849年


ナポレオン2世。1811-1832年

高杉晋作。1839-1867年 (NHK「龍馬伝」、坂本龍馬にピストルを贈る)

沖田総司。1842-1868年


正岡子規。1867-1902年 (NHK「坂の上の雲」、明治に俳句を復興させる)

樋口一葉。1872-1896年

石川啄木。1886-1912年




以上、すべて、結核で亡くなった人々である。

他にも、結核で死亡した「歴史上の偉人」は無数におり、
昔、咳をしながら血を吐いて死んだ人のほとんどが、
結核によるものだったと考えられている。


抗生物質の発見などにより、
この感染症を、人類は(一時)克服した。

しかし、その後、
以前より強力になって「復活」されてしまう(?)までの経緯を紹介する。


・・・

結核は、結核菌によって起こる、細菌の感染症である。

細菌の名前を、
マイコバクテリウム・ツベルクローシス
(Mycobacterium tuberculosis
という。

名前の後半部分を略して、医療関係者は、
TB(テーベー)」という。


(昔、今の癌のように、結核が治らない病気だった頃、
 結核は病院内で、TB(テーベー)と呼ばれていた。)

(患者さんに自分が結核であることを、
 すなわち、「不治の病(ふじのやまい)」であることを、
 知らせないためであった。)

(また、結核が、
 HIV(エイズ)やライ病(ハンセン病)のように
 偏見を持たれていた時代もあったので、
 ますます結核は、TB(テーベー)という隠語(いんご)で
 呼ばれるようになった。)


この結核は、日本では、明治時代まで、
「労咳」(ろうがい)と呼ばれていた。

また、
結核性胸膜炎のことを
「肋膜」(ろくまく)、

脊椎結核(背骨の結核)のことを
「脊椎カリエス」と呼んだ。


(正岡子規が、脊椎カリエスで苦しんだことは
 非常に有名である。
 NHKの大河ドラマ「坂の上の雲」に登場する)


・・・

結核は、全人類3分の1以上が感染していると言われ、
日本では一時、国民の8割が感染していた、
とも言われていた日本の「国民病」であった。

咳などにより、「空気感染」するので、
誰でも簡単に感染してしまうからだ。


結核菌は、
人間に感染すると、肺に住み、
宿主の人間が、若くて健康で元気な間は、
そこでじっとしており、「休眠」する。


(この状態を、「潜在性結核感染症」という。)
"Latent tuberculosis infection"


ところが、
栄養状態が悪くなったり、
年をとって、老衰したり、
HIVエイズなどで免疫力がなくなったりすると、
「休眠」状態から目覚め、活動を開始し、
肺結核などを生じる。

(肺だけでなく、全身のあらゆる臓器に感染できる。)

慢性の咳が続いた後、
「血痰」(けったん)を生じることは、
あまりにも有名である。

多くの歴史的な偉人が、
結核で血を吐き、死んでいった。

(大量の肺出血による、窒息死であり、
 見るからに悲惨な死に方をすることもある。)


・・・

1882年、
ロベルト・コッホ(1843-1910年)によって、
結核菌が発見される。

その後、彼は、
1890年、結核の診断に使えるツベルクリンを精製。
1905年、ノーベル賞を受賞した。


・・・

1943年、アメリカにおいて、
セルマン・ワクスマン(1888-1973年)と、
その弟子の大学院生である
アルバート・シャッツ(1922-2005年) によって

結核に効果のある初めての抗生物質
「ストレプトマイシン」(SM)が発見される。

この二人は、師弟の間でありながら、
結核に効く抗生物質の発見の「業績」をめぐって
醜い争いをし、訴訟まで起こす。

(発見したのは、弟子のほうだったが、
 弟子の使った施設・技術・研究費は、
 師匠のものだった。)

裁判で、結局、師匠が勝ったため、
1952年、この師匠は、ノーベル賞を受賞した。


(人間のくだらなさに、ちょっとあきれるが・・)


ともかく、
この、ストレプトマイシン(SM)は、
結核に効く初めての治療薬であり、
多くの人々の命を救うことになったが、

一方で、
難聴や腎障害などの副作用があった。

また、
結核の治療には、長期的な治療が必要であったため、
結核菌は、ストレプトマイシン(SM)に対し、
その後、徐々に「耐性」を獲得していった。

(耐性化を獲得する理由は、文末に掲載)


・・・


このため、
結核に効果のある、抗生物質が、どんどん探される。

1951年、イソニアジド(INH)、
1968年、リファンピシン(RFP)、
その後、ピラジナミド(PZA)、

という、現代でも結核の治療に使われる
代表的な薬が、次々と発見される。


ストレプトマイシン(SM)だけでは、
結核菌は、すぐに「耐性化」してゆくので、

現在、
3〜4剤を同時に内服することで
その「耐性化」を防ぐのが、主流になっている。


(HIVと同様に、長期的な治療が必要な感染症の場合、
 微生物に耐性化させないためには、
 多剤併用をおこなうことが、基本の一つなのである。)


例えば、現在の結核治療法(初回化学療法)の主流は、
上記の4つの抗結核薬すべてを二ヶ月間内服し、
その後、2剤に減らして、
(INHとRFPを用いて)
四ヶ月間内服する、というものである。
(合計、半年、になる。)


(注: 実際は、最初の二か月は、
 副作用の多い、(古典的な)ストレプトマイシン(SM)の代わりに、
 エタンブトール(EB)を加えて4剤とすることが多い。)


・・・

この4剤併用の治療法が確立したことにより、
人類は、「結核を克服した」と言われた。



・・・

しかし、
20世紀後半から、
徐々にまた、結核はその数を世界的に増やしてゆく。

理由は、
人類の爆発的な人口増加にともなって、
(特に、中国やインドなどで、)
結核の罹患数も、ひきずられるように増えたことと、

なによりも、 
HIV/エイズ」の流行のため、である。


HIVにより免疫不全の状態になると、
もともと体の中に眠っている、あらゆる病原菌が動きだす。

帯状疱疹(ヘルペス、水痘、水疱瘡)などとともに、
(休眠していた)結核が動きだすのである。


エイズ患者の死亡原因の第一位は、
ほぼ常に「結核」であり、
エイズ患者の全死亡理由の、3分の1を占める。


・・・

しかし、

1996年、
HIV/エイズに対する有効な治療法が生まれ、

2002年には、
「エイズ・結核・マラリア基金」(グローバル・ファンド)という
巨大な予算がついたことにより、

HIV感染者の罹患数(新規感染者数)と死亡数は、減少に向かう。

これに伴い、
結核患者の数(有病者数)も、2004年にピークを迎えた後、
再び、減少に向かった。


・・・

ここで、世界と日本の結核の(統計学的な)現状を概説する。
(以下、WHOの2009年の結核報告書より)


2007年(の1年間)、世界では、


罹患数(Incident case, 新規患者数)は、927万人であり、
やや増加傾向である。

罹患率(Incidence)は(10万人あたり)139であり、
やや減少傾向である。


有病者数(Prevalent case, 今も発症している患者数)は、1372万人であり、
減少傾向である。

有病率(Prevalence)は(10万人あたり)206であり、
減少傾向である。


死亡数は、177万人(HIV陰性者と陽性者の合計)であり、
減少傾向である。

死亡率(mortality rate)は(10万人あたり)20であり、
減少傾向である。


ほとんどすべて減少傾向であり、
一見、鎮静化に向かうようにみえる。


(注: 罹患数のみ増加しているのは、総人口の増加のため。)

(注: 患者の95%以上は途上国に住んでいる。)

(注: 15-45歳の生産年齢層が患者の75%を占めるため、
    結核がもたらす社会への影響は、大きい。)

(注: 罹患数(新規患者数)の15%がHIVとの重複感染。)

(注: 前述の4剤(INH,RFP,PZA,EB)を、一次抗結核薬といい、
    途上国でも6ヶ月の治療で、15USドルで可能である。)


・・・

日本の現状は、


罹患数(新規患者数)は、24,760人であり、
減少傾向である。

罹患率(Incidence)も(10万人あたり)19.4であり、
減少傾向である。


有病者数(今も発症している患者数)は、20、021人であり、
減少傾向である。

有病率(Prevalence)は(10万人あたり)15.7であり、
減少傾向である。


死亡数は、2220人であり、
減少傾向である。

死亡率(mortality rate)は(10万人あたり)1.85であり、
減少傾向である。


こちらも、すべて減少傾向であり、
鎮静化に向かうようにみえる。


(注: ただし国内では、小児結核(14歳以下)は、ここ2年、微増した。)

(注: 日本の20歳代の新規感染者は、ハイリスク者が多い。
    外国人、無職臨時日雇等、医療関係者など。)

(注: 罹患率は、大阪市(50.6)、名古屋市(31.5)などで異様に高い。)


・・・

一見、減少傾向を示し、鎮静化に向かうように見える結核であるが、
最近、WHOなどにより、新たな驚異が指摘されている。


それが、
「多剤耐性結核」(MDR-TB)
multiple drug-resistance tuberculosis

「超多剤耐性結核」(XDR-TB)
Extensively drug-resistance tuberculosis
である。


2008年のWHOの結核報告書によると、

世界では、
2007年の1年間で、
50万人の、「多剤耐性結核」(MDR-TB)が確認された。

多い国は、以下の五か国である。

1.インド 131,000人
2.中国 112,000人
3.ロシア 43,000人
4.南アフリカ 16,000人
5.バングラデシュ 15,000人


(要するに、インドと中国でひどい。
 特にインドは、人口増加がものすごいため、
 罹患率(新規感染率)が多少減っても、
 人口増加の程度が、非常に激しいため、
 実数としては、結核患者は増えている。
 で、
 それに加えて、「多剤耐性結核」(MDR-TB)も
 増えているのである。)


また、
2009年末までに、
57か国において、
「超多剤耐性結核」(XDR-TB)が見つかっている。

(XDR-TBの定義は、ややこしいので、文末に記載。
 要するに、ほぼ全ての抗生物質が効かないのである。)

「多剤耐性結核」(MDR-TB)の、約10%が、
「超多剤耐性結核」(XDR-TB)であると推計されている。

(つまり、約5万人はいる、と考えられている。)


ちなみに、日本でも、既に
「多剤耐性結核」(MDR-TB)は多数の報告があり、
(国内では)その約30%が、「超多剤耐性結核」(XDR-TB)
だという報告がある。


・・・

「超多剤耐性結核」(XDR-TB)が最初に言及されたのは、
2006年、

アメリカ国立疾病予防センター(CDC)が定期的に発行する。
MMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)
(疾病率と死亡率の週刊報告書)の中である。


Wright A et al, MMWR. 2006;55:301-305


この時の内容は、
全世界に25施設ある(日本にもある)結核研究施設で、

(それまで知られていた、INHとRFPだけに耐性のある)
「多剤耐性結核」(MDR-TB)よりも、

はるかに広範囲の耐性をもつ
結核の「株」(かぶ)があることが報告された。

具体的には、
2000年から2004年までに、
世界で調べられた、17,690株の結核菌のうち、

3,520株(20%)が、「多剤耐性結核」(MDR-TB)であり、
347株(2%)が、「超多剤耐性結核」(XDR-TB)であることが
判明した。


(医療系で世界最高の研究機関である)アメリカCDC
この発表をしたことにより、世界は衝撃を受ける。


理由は、、
結核菌に、ほとんどの抗生物質が効かない、ということは、
治療がない、ということであり、

昔のように、
患者は、喀血(かっけつ)して、
大量の肺出血による窒素のため、死んでゆく。


つまり、
「超多剤耐性結核」(XDR-TB)の出現により、
医学の歴史は、時間を逆行し、

ストレプトマイシン(SM)の発見された、
1943年以前まで、戻ってしまったことになる。

ちなみに、「超多剤耐性結核」(XDR-TB)の死亡率は、90%である。



不治の病(ふじのやまい)、結核」、復活の兆候か!?




(次回に続く)

・・・

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http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65339094.html














・・・

補足1:

結核菌が、薬への耐性を獲得していくのは、
菌が、「学習」していくわけではなく、
突然変異により「偶然」発生することが
わかっている。

たとえば、現在、治療の最大の主力となっている
イソニアジド(INH)の耐性菌は、
自然界の結核菌が、
1億回分裂すると、1.84個生じる
ことがわかっている。

人間の肺の結核の巣である
「結核空洞」には、
数十億個もの結核菌がいるため、

イソニアジド(INH)の耐性菌は
普通に、数千個、生まれてくる。

もし、その状態で、
イソニアジド(INH)単剤で治療した場合、
その耐性菌のほうが、増殖を続けていってしまう。

他の薬剤を用いても、同様の現象が起こるため、
多剤併用療法は、必須となっている。




補足2:

MDR-TBと、XDR-TBの定義に必要になる「抗結核薬」の種類


First-line drugs (a): 抗菌力が強いもの

イソニアジド(INH)
リファンピシン(RFP)
ピラジナミド(PZA)


First-line drugs (b): 静菌的で(a)と併用するもの

ストレプトマイシン(SM)
エタンブトール(EB)


Second-line drugs : 多剤併用で効果が期待できるもの(6種類)
(First-line より高価で、副作用が強く、効果も低い)

アミノグリコシド系
 カナマイシン(KM)、アミカシン(AMY)など
ポリペプチド系
 カプレオマイシン(CPM)、
フルオロキノロン系
 レボフロキサシン(LVFX)、オフロキサシン(OFLX)
チオアミド系
 エチオナミド(ETH)、プロチオナミド(1321TH)
サイクロセリン(CS)
パラアミノサリチル酸(PAS)



「多剤耐性結核」(MDR-TB)の定義:

少なくともINHおよびRFPの両薬剤に対して耐性を示す結核菌。


「超多剤耐性結核」(XDR-TB)の定義:

これまでに、何度か定義が変わっている。(現在は以下)
WHOは、2006年に、
(上記の)多剤耐性であること(INHとRFPに耐性であること)に加えて、
フルオロキノロン系いずれかと、
注射二次薬(カナマイシン、アミカシン、カプレオマイシン)
の少なくともひとつに耐性をもつ結核菌をXDR-TBと定義。


・・・











・・・

参考リンク:

WHO Tuberculosis
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs104/en/index.html

WHO Global tuberculosis control - epidemiology, strategy, financing
http://www.who.int/tb/publications/global_report/2009/en/index.html

WHO: health system strengthening (HSS)
http://www.who.int/globalfund/healthsystems/en/

WHO Documentation
http://apps.who.int/gb/

WHO EB 126/14 (Executive Board 126/14) 18-23 January 2010
http://apps.who.int/gb/ebwha/pdf_files/EB126/B126_14-en.pdf

The Green Light Committee (GLC) Initiative
http://www.who.int/tb/challenges/mdr/greenlightcommittee/en/

結核予防会
http://www.jatahq.org/

(財)結核予防会結核研究所ホームページ
http://www.jata.or.jp/

新結核用語辞典
http://www.jata.or.jp/terminology/new_tb_terminology.htm

財団法人結核予防会結核研究所 疫学情報センター
http://jata.or.jp/rit/ekigaku/

第58回結核予防全国大会より、「超多剤耐性結核」(XDR-TB)
http://www.jatahq.org/siryoukan/kikanshi/pdf/315.pdf

結核の質問と回答、DOTS(Directly Observed Treatment, Short course)
(直視監視下短期化学療法)
http://homepage3.nifty.com/mickeym/No.201_300/279tb.html

CDC: Centers for Disease Control and Prevention
アメリカ国立疾病予防センター
http://www.cdc.gov/

Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR)
http://www.cdc.gov/mmwr/

ストップ結核パートナーシップホームページ
http://www.stoptb.org/stop_tb_initiative

外務省 「ストップ結核ジャパンアクションプラン」の発表について
http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/press/release/h20/7/1182056_912.html

世界抗結核薬基金(GDF)
http://www.results.jp/japanese/pdf/financial%20demand%20gdf.pdf

The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria
http://www.theglobalfund.org/en/

世界エイズ・結核・マラリア対策基金 外務省の訳
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/gaiko/kansen/kikin/index.html

UNITAID(ユニットエイド):IDPF(国際医薬品購入ファシリティー)
http://altermonde.jp/pdf/20070530a.pdf

United Nations Millennium Development Goals ( UN MDGs )
http://www.un.org/millenniumgoals/

ミレニアム開発目標(MDGs) 外務省
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html

古代エジプトの有名ミイラ、死因は「結核」 英大学調査
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2647902/4692775

New York Times -Albert Schatz-
http://kusuri-jouhou.com/iyaku-news/schatz.html

世界における新しい抗結核薬開発の現状
http://www.jata.or.jp/rit/rj/project7-2.pdf

薬が効かない超多剤耐性結核(XDR-TB)
http://medical-today.seesaa.net/article/30239313.html