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イギリス、ロンドンの郊外。
とある年金暮らしの、老夫婦の話。


ジム  ただいま

ヒルダ おかえりなさい。
    町は、いかがでした?

ジム  まあまあだな。
    この年になりゃ、毎日がまあまあだよ。

ヒルダ 退職した後は、そんなもんですよ。

ジム  今日は、図書館にいって、
    新聞を読んでたんだがね。

ヒルダ はい。

ジム  予防戦争、ってのが、始まるかもしれないって。

ヒルダ 予防戦争?

ジム  向こうから攻撃されそうなとき、
    こっちから先にしかける、ってことさ。

ヒルダ はあ。


・・・ラジオが鳴り響く・・・

アナウンサー 本日、首相が、緊急で声明を発表。
       全国民は、三日以内に、死の灰を防ぐシェルターを
       作成するように。
       

・・・・・・・・・・・・・・


ジム  ええっ、ついに来るべきものが来たぞ。

ヒルダ そんなに心配しなくったって、
    そのうち、なーんだってことになりますよ。

ジム  3日しかないって、ちくしょう!

    ・・でも、図書館から、
    政府広報のサバイバルガイドを
    もらってきてよかったよ。

ヒルダ また穴を掘るんですか、
    この前の戦争の防空壕みたいに?

ジム  いや、あれは時代遅れさ。
    もっと科学的にいく。

ヒルダ あらそう。まかせるわね。

ジム  ガイドブックによれば、
    白い服を着ていたほうがいいらしい。
    放射線は、白ではじかれるからね。

    あと、窓も全部白く塗れって、書いてある。

ヒルダ あら。それは困るわ。
    あたしの家を、壊すんじゃないでしょうね!

ジム  いや、ま、後で、元に戻すよ。

    ・・あと、水を14日間分、用意しろって。

ヒルダ じゃ、それはあたしが、瓶に入れておくわね。

ジム  通帳、保険証などは、まとめて箱に入れておけって。

ヒルダ ここに、ちょうどいい箱があるわよ。

ジム  どこか、安全な場所に、置かなくちゃ。


    ・・安全な場所ってどこかな?


・・・ラジオが鳴り響く・・・

アナウンサー 臨時ニュースをお伝えします!

       政府の公式発表によれば、
       敵のミサイルが、我が国に向けて発射されました。
       あと3分少々で、我が国に着弾するとのことです。

       みなさん、至急、シェルターに入って下さい!
       

・・・・・・・・・・・・・・




ビル  ひええっ、3分しかないだと!

ヒルダ あら大変、洗濯ものをとりこまないと。

ジム  ばか、とっとと部屋の隅にうずくまるんだ!

ヒルダ ばかですって、妻に対してそんな言い方ないでしょ。

ジム  うるさいっ! 早く伏せるんだ!








        ぼんっ

















ジム  なんてこったい。

ヒルダ ・・部屋がめちゃくちゃだわ。
    早く、かたづけなくっちゃ。









・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・


風が吹くとき

作者: レイモンド・ブリッグズ
翻訳: さくまゆみこ

あすなろ書房

1998年

英語の原作は、1982年の出版
When the Wind Blows


参考
予防戦争:preventive war


・・・

補足:
この作品が、おそろしいのは、
二人とも、とんちんかんな会話をしていることだ。

まったく、的外れな核攻撃に対する対策をしており、
あいた口が、ふさがらない。

もしかすると、
実際に原爆をくらったことがある、
日本人でなければ、「放射能」の恐ろしさを
知らないのかもしれない、と不安になる。

いや、それどころか、
日本人でも、戦後60年がすぎ、
戦時中に生きていた人がどんどん死亡してゆく中、
日本人の若い世代も、
その恐ろしさを忘れてしまっているのではないだろうか。

(勉強する機会がないのではないだろうか?)

その危惧をいだいたため、今一度、
放射線障害について、記載しておく。


・・・

まず、原爆の爆心地にいた人々は、
一瞬で光の中に溶け、消滅する。

この人たちは、痛みを感じないだけ、
幸せである。


問題なのは、ある程度、離れて、
一瞬で死ななかった人々である。

そうした人々は、被爆者となり、
次のようなさまざまな「放射線障害」に
終生、いや、世代を越えて苦しむことになる。



・・・

放射線障害には、
「確率的影響」と「確定的影響」がある。

・・・

確率的影響とは、
放射線による遺伝子(DNA)の障害をいう。

傷ついた遺伝子を持つ細胞は、
癌や白血病を発生したり、死亡したりする。

一部は、修復される。

精子や卵子に、その遺伝子異常が生じた場合、
子どもや孫にまで、その異常が伝わる可能性がある。


こうした放射線による遺伝子の障害は、
個人差が大きく、
一人の個人にとっては、起きるかどうかわからない。
集団で、観察してゆくしかない。

つまり、被爆した人の集団1万人は、
被爆していない人の集団1万人に比べて、
癌と白血病が発生する「確率」(割合)が上がり、
数倍高くなる、という言い方になる。

だから、確率的影響という。


・・・

確定的影響とは、
上記の確率的影響と異なり、
一人の個人にとって、確実に(100%)発生する。

主に放射線に弱い細胞から、
どんどん死んでゆく。

弱い細胞は、
毎日どんどん分裂を繰り返している
新陳代謝の激しい細胞である。

具体的に言えば、以下。

1.血液細胞
2.消化管の粘膜の細胞

血液細胞は、骨の中の骨髄で作られる。

酸素を運ぶ「赤血球」、
ばい菌を殺す「白血球」、
出血したときに止める「血小板」。

いずれも、
生きてゆくために必須の細胞たちだ。
三つのうちのどれがなくなっても
人間は確実に死亡する。

それぞれに寿命があり、
赤血球は、500日ぐらい、
白血球は、8時間ぐらい、
血小板は、10日ぐらい、
である。

だから、骨髄で血球たちが作れなくなれば、

数時間後から、ばい菌を殺せなくなり、
(肺炎・胃腸炎などで死ぬ可能性が生じ、)

数日後から、出血が止まらなくなり、
(月経の出血、鼻出血、消化管出血、など)

数百日後には、重度の貧血になり、
(酸素を運ぶ赤血球がなくなり、)

いずれにしても、死亡する。


(上記には、各細胞の「放射線感受性」も大きく影響するが、
 難しくなるので書かない。
 結果は変わらないからだ。)



消化管粘膜も、血液についで、
活発に細胞分裂が行われている場所だ。

理由は、

唾液腺からの唾液、
胃からの胃酸、
小腸からの消火液、

によって、
消化管細胞(消化管の内壁にある細胞)というのは、
ものすごいスピードで消化され(溶かされ)、死んでいっており、
それと同じスピードで生まれているのである。

だから、それが放射線をあびて分裂(誕生)できなくなると、
胃酸などで死んだ後、復旧できないので、
ぼろぼろになる。

簡単に言えば、ものすごいひどい胃潰瘍や腸の潰瘍になり、
出血がとまらなくなり、下血と吐血をし、
さらに、
胃に穴があき、胃穿孔となり、
(消化液(酵素)の腹腔内への散布による、化学的)腹膜炎をおこし、
死亡する。

もちろん、被害は胃だけではすまず、
唾液によりダメージを受ける口腔内もボロボロになり、
舌などにも明らかな異常を呈し、味覚も変になる。

小腸や大腸も大きなダメージを受けるため、
内腔(ないくう)は、出血が続き、それが止まらず、
血の混じった下痢が続く。


で、この二つ、すなわち、
1.血液細胞の減少

2.消化管細胞の死滅
によって、
出血が続き、赤血球はどんどん減少し、
重篤な貧血などが起こり、人間は死亡することになる。


また、消化管の異常は、
嘔吐、吐血、下痢、下血、腹痛など、
さまざまな「症状」を生じるため、

患者は、かなりの「苦しみの中」で死んでゆくことになる。


・・・

上記以外で有名なものは、
皮膚と眼である。

皮膚では、熱傷、紅斑(こうはん)、脱毛、壊死(えし)など。

眼では、水晶体がにごる、白内障など。


・・・
・・・

ともかく、
以上のように、あらゆる戦争の中で、
もっとも恐ろしいのが、核戦争である。

その被爆による「放射線障害」は、
かくもおそろしい結果と苦しみを、
私たちに残す。


もちろん、あなたにも、

あなたの子どもや孫にも、残すのだ。







・・・

補足2:

今日、長崎の大学生たちに
「あなたの大切なもの」を絵に描いてもらう。

さて、どんな絵をみせてくれるのだろうか?


日本の子どもたちが、これからどこに向かうのか、知りたい・・

と思った。



















・・・

広島の空 さだまさし
http://www.youtube.com/watch?v=X_D9TNsxShA

祈り / さだまさし
http://www.youtube.com/watch?v=3uU1mGPtgaQ&feature=related