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2010年2月4日(木)

長崎にて、原爆に被爆した方々に
「あなたの大切なもの」の絵を描いて頂き、
その方々にインタビューをしていた。

「あなたの大切なものは、なんですか?
 また、
 どうして、それを大切だと思うのでしょうか?」

その方々のポートレート(肖像写真)の撮影をし、
終わって一段落した頃、
「それ」がやってきた。


午後4時。Eメールにて、出版社から連絡が入った。


「毎日新聞出版局から連絡があり、
 山本敏晴さんの写真集である、
 『HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア』が、
 「土門拳賞」の候補作品に上がったそうです。」


まず、ちょっと、驚いた。

次に、本当かな?、と思った。

いろいろ確認したところ、
どうも本当らしいので、
ようやく、少し、嬉しくなった。


で、自慢しようと思って、
ちょうど長崎にいた、うちの団体(宇宙船地球号)のスタッフの
杏子(きょうこ)さんに電話した。


山本 「あ、あのさ・・」

杏子 「はい?」

山本 「さっき、連絡が入って・・」

杏子 「はぁ」

山本 「ど、土門拳賞に、ノミネートされたって!」

杏子 「・・・? 

    なんですか、それ?」


がーーーーん・・・


山本 「し、知らないの?
    写真界じゃ、一番、上の賞なんだけど。」

杏子 「え、あ、そうなんですか。
    すみません。知らなくて。(笑)

    後で、(携帯で)検索して調べておきますね。
    どんな漢字ですか? 「どもんけん」って?」

山本 「…つち(土)、かど(門)、こぶし(拳)・・・」

杏子 「あ、わかりました。それでは。(ガチャッ)

    (ツーツーツー)」


山本 「・・・・・(硬直)」



これにショックを受けた私は、
以後、この件で、自慢するのを止めようと思った。


・・・


30分後、パソコンに、Eメールが入ってきた。
杏子さんからだった。


「土門拳賞はよく、写真界の直木賞と呼ばれることが
 多いそうで、大変すごい賞みたいですね。(汗)
 ノミネート、おめでとうございます☆ 杏子」


写真界の直木賞?
ちょっと違うな、と私は思ったので、
杏子さんが、どのサイトをみてそう思ったのかを調べた。


すると、インターネット上の百科事典である、
ウィキペディア(日本語版)に、次のような記述があった。


「土門拳賞(どもんけんしょう)は
 日本を代表する写真家である土門拳を敬して
 1981年に毎日新聞社が設立した写真賞である。

 社会・人物・自然などを対象とする。
 同じくリアリズム写真で有名な木村伊兵衛を記念して作られた
 木村伊兵衛写真賞と共に、
 写真界の中堅・もしくは新人に与えられる賞である。

 木村伊兵衛写真賞が写真界の芥川賞と呼ばれるのに対し、
 土門拳賞はよく、写真界の直木賞と呼ばれることが多い。」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E9%96%80%E6%8B%B3%E8%B3%9E


しかし、この記述を読んだ私の感想は、
「なんか違うなぁ」、だった。


木村伊兵衛賞と土門拳賞が、
写真界の2つの最高の賞なのは、間違いないと思う。


しかし、まず、
木村伊兵衛賞は、最近は、
奇をてらった、ちょっと面白いアイデアで撮れらた
(いわゆる、一回だけの、ネタ的な)
写真が、受賞することが多い。
このため、
アイデア勝負の、若手の女性などが受賞する。


一方で、
土門拳賞は、ドキュメンタリー系の写真家が
受賞することが多く、

(ぱっと出の、ネタ(アイデア)で勝負する写真家ではなく)
いわゆる、古き良き、古典的な、正統派の、地道な写真家が
受賞することが多い。
このため、中堅から熟年の写真家たちが受賞している。


よって、(しいていうならば)
土門拳賞のほうが、芥川賞であり、
木村伊兵衛賞ほうが、直木賞である。


次に、
土門拳賞を受賞している人たちは、
(実際に受賞した人たちの生年月日を見ればわかるが)

(上述したように)
40歳代から60歳代の人たちが多く、
決して、
若手から中堅が受賞している賞ではなく、
中堅から熟年が受賞している賞なのである。


要するに、ウィキペディアの記述は間違いであり、

「土門拳賞は、
 写真界の芥川賞に相当し、
 中堅から熟年が受賞する賞だ」

というのが、正確な表現だと、私は思う。


・・・

で、上記のような、細かいことはともかく、
写真界における最高の賞の一つに、
私ごときがノミネートされた、ということ自体に、
驚いた。

私は、徹底的な悲観主義者なので、
自分が受賞できるなどということはありえず、

「まあ、きっと、
 最終選考まで残った人が、
 最低でも数人、多いと十数人は、いるだろうから、
 客観的にいって、
 私が受賞する確率は、10分の1ぐらいだろう。

 だから、
 受賞することなどは、一切考えず、
 ノミネートされたこと「だけ」を
 喜ぶことにしよう。」

と、思った。


・・・

で、次に出版社にEメールを書き、

「私は、きっと受賞はしないだろうから、
 ノミネートされているうちに、
 「土門拳賞」にノミネートされたことを
 宣伝文句にして、
 この間に(落ちてしまう前に)
 本を売りましょうよ!

 宇宙船地球号のホームページと、
 私のブログで、この件を宣伝しても
 いいでしょうか?」

と、問い合わせた。


(注: 最近は、不況であり、インターネット時代であるため、
    本は、あまり売れていない。

    私の本に限らず、出版業界全体が、低迷している。

    その中でも、写真集関係は、ほとんど売れず、
    こんなイベント(?)でもない限り、
    一般の人が、写真集関係を買って下さることは、
    そんなにない。

    ちなみに私の場合、本を一冊出版するごとに、
    海外での取材費などを考えると、毎回、
    200万円以上の赤字になっている。

    だから、売りたい、というよりは、
    (多少、売れたところで)
    赤字を回収できることは、ありえないので、
    せめて、多くの方々に読んで頂きたい、というのが、
    本当の本音(ホンネ)である。)


そうしたら、ダメだ、と言われた。

「毎日新聞社より、
 2月22日(月)の土門拳賞の最終審査までは、
 オフレコ(ないしょ)にして下さい、
 とのことです。」

とのことで、
上記のこと(宣伝活動)は、行えないことになったのである。


(ちなみに、最終審査の、2月22日(月)とは、昨日であった。)


・・・

で、わたしは、悶々(もんもん)とした。


ホームページやブログでは書けないし。

自慢しても、普通の人は、土門拳賞をしらないし。

それに、きっと、結局落選するだろうから・・


と、いう風に、ぐだぐだ考えているうちに、

万が一、受賞した時の「コメント」を
考えてみることにした。


理由は、
今回は、落ちる可能性の方が、はるかに高いと思っているので、
受賞した場合のコメントを、冷静に書くことができる。
(だから、いいコメントを考えられるはずだ。)

逆に、もし、
自分が受賞できるなどと思っていたり、
実際に受賞してしまって興奮した状態になっていたら、
冷静な、良いコメントなど、考えられないであろう。


と、いうわけで、今後、将来、
いつかなんらかの賞を受賞した時の練習として、
以下のことを、試しに書いてみることにした。


(以下、ただの、妄想の世界である。しかし、冷静な妄想である。)



・・・
・・・

「えー、
 今回、私のようなものが、受賞できたことに
 非常に驚いております。

 写真家としては、私はどう考えても大したことはなく、
 私程度の写真の技術をもっている方は、
 全国に少なくとも数万人はいらっしゃると思います。

 今回、受賞できましたのは、きっと、
 HIVエイズとともに生きている、ケニアの子どもたちの、
 その「気持ち」のおかげかな、と思っております。

 HIVに感染していることが、
 周りの人々に、ばれますと、大変な差別を受けます。

 そうした危険性があるにも関わらず、
 子どもたちも、その保護者のお母様たちなども、

 アフリカにおけるHIVエイズ問題の啓発のために
 この写真絵本を作るためのプロジェクトに
 協力して頂けることになりました。

 具体的には、
 HIVとともに生きる子どもたちに
 「あなたの大切なもの」の絵を描いてもらい、
 さらに、どうしてその子がそれを大切だと思うようになったのか、
 という社会背景を撮影し、本を作る、ということに、
 最終的に承諾をして頂けました。

 これが実現したのは、私の力だけではなく、
 現地に2年間滞在し、このプロジェクトに協力してくれた
 青年海外協力隊のTさんとFさんのお陰です。

 彼女たちの協力がなければ、このプロジェクトは実現できず、
 この写真絵本は、世に出版されなかったと思います。

 本当に、ありがとうございました。


 また、
 写真自体が、良い写真だったかどうか、という部分につきましても、
 この会場にいらっしゃる皆様ならご存知のように、
 写真というものは、撮影で決まるのは、3割ぐらいで、
 7割は、プリント、または印刷で決まります。

 最終的に、紙媒体で写真を見せることが多いので、
 最後のプリントで、写真の良さが決まる、決められる、と思っております。

 つまり、
 撮影は私がしましたが、その後、

 小学館のH編集者が、編集をし、
 印刷する紙と、印刷する会社などを選び、

 デザイナーのSさんが、ページデザインをし、
 読者が読みやすくなるような配慮をして頂き、

 プリンティング・ディレクターのTさんが、
 印刷するCMYKの4色のインクの濃度の割合などを
 細かく指定して下さいました。
 
 その上で、最終的に、
 東京印書館の印刷所において、
 今回の写真絵本は、作成された、ということでございます。

 つまり、
 (写真を紙媒体に表現する、という作業の全過程において)

 撮影、編集、デザイン、プリンティングディレクション、印刷、
 という、少なくとも5段階の作業のうち、
 私は、撮影しかしていない、ということでございます。

 もちろん、実際の印刷に立ち会いをし、
 色の濃さの指定などに、多少口を出しましたが、
 私の力など、微々たるものだと思っております。

 以上より、写真が良かったかどうか、という部分に関しましても、
 私の力など、限られた部分にすぎない、ということでございます。


 さらに、また、
 写真絵本内に記載した、文章のほうに関しましても、

 今回、HIVエイズという、「差別」や「人権問題」に触れる内容のため、
 WHO(世界保健機関)のHIVエイズ担当官の方、
 JICA(国際協力機構)専門家の方、
 国立国際医療センターの方にも、ご協力を頂いております。

 さらに、英語への翻訳に関しても、3つの会社に修正して頂き、
 英文に関しても、
 万が一にも、人権上の問題が生じないように配慮をしております。


 大変、長くなりまして、恐縮ですが、
 今回、受賞できましたのは、上記のように、

 まず、

 ケニアの、HIVエイズとともに生きている方々、
 青年海外協力隊の方々、
 写真絵本の出版の時に、お世話になった方々、
 日本語および英語のテキストを作成する時にお世話になった方々、

 など、
 本当に膨大な数の方々にご協力して頂いていおります。

 少なくとも、数百人に及ぶ、人数になるはずです。


 つきましては、
 今回の賞の受賞は、
 私が頂くものではなく、
 上記の数百名の方々、すべてが受賞するものと考え、
 わたくしがとりあえず、代わりに、受けさせて頂き、
 後日、ご協力者の方々にお伝えさせて頂く、
 という風に、認識させて頂ければと思います。


 また、賞というものは、
 本人が受賞したいと思って受賞できるものではなく、

 古くから、私の行っている活動に、目をかけて下さっていた、
 幾人かの、推薦者の方や、審査員の方のお陰と
 思っております。

 本当に、ありがとうございました。



・・・
・・・

と、いうようなことを、
「しゃべろうかなぁ・・」
などと、考えていたわけである。

で、まあ、実際は、
(最終審査のあった昨日、受賞の連絡が来なかったので)
落選したと思われ、上記の妄想は、

「夢(ゆめ)、幻(まぼろし)」で終わったわけだが、

自分の仕事を考える上で、
いい「きっかけ」になったかな、と思っている。


「あなたの大切なもの」に関する写真絵本を作るためには、
1冊作るために、
毎回、数百名の人々が、協力してくれている。


それを思い出しただけでも、
「土門拳賞」にノミネートされたことは、
良かった、と思っている。

(このためか、落選したけれども、精神状態に、特に変化はない。)



あ、そうそう。
もうひとつ、良いことがあった。

(かつて、私の、まわりにいた人に。)


20歳代の頃、
私は女性モデルさんたちを撮影して
「ちょっと寂しげな女性ポートレート」
のシリーズを製作していたのだが、
(ちなみに、今も、たまに続けているが)

その頃撮影した、(今は、??歳になった)モデルさんたちに、
土門拳賞ノミネートのことをメールしたら、
次のような、祝福のメールが来た。


「土門拳賞は、写真界の直木賞にあたる、すごい賞らしいですね。

 山本さんから撮影してもらった写真、
 これでますます、「宝物」になります。

 ・・・いえ、もともと私の「大切なもの」でしたけどね。」



私は、世界中の人たちに「大切なものはなんですか?」
という質問を続けてきたが、
他人に「大切なものをプレゼントした」ことはなかった。

でも、今回は、そんなことができたのかもしれない。


そう思うと、少し、嬉しかった。

















・・・

ちなみに、
写真家・山本敏晴が、なんらかの賞の最終選考まで残り、落選した記録:


2003年、写真絵本「シエラレオネ 5歳まで生きられない子どもたち」(アートン)
小学館児童出版文化賞、ノミネート作品。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4901006533/

2005年、写真絵本「あなたのたいせつなものはなんですか?」(小学館)
小学館出版文化賞、ノミネート作品。
日本絵本賞読者賞、ノミネート作品。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4097278916/

2008年、ペンタックス・フォーラム「沈みゆく島の大切なもの」
相模原フォトギャラリー賞(?)、ノミネート作品。

同年、写真絵本「地球温暖化、しずみゆく楽園ツバル」(小学館)
小学館児童出版文化賞、ノミネート作品。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4097262955

2009年、写真絵本「HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア」(小学館)
土門拳賞、ノミネート作品。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/409726401X



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関連ブログ:

HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア 2323字 (国際協力、開発学)
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65327489.html

ルーマニアの大切なもの 6306字 (国際情勢、政治)
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65318746.html

花たちの持つ色 1403字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65224548.html

モンゴルの見る夢 1,079字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/51506213.html

この絵が何か、わかりますか? 1,178字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/52256477.html


敬愛する師、光が全て 1496字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65330817.html

光と色の三原色と、奥儀、ダブルトーン 4162字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65324302.html

写真家の定義って何?、しかもプロ写真家? 2564字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65349873.html

コンパクト・デジタル・カメラの憂鬱
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65093481.html


ある日のポートレート「ゆう」2009春 2913字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65306392.html

ある日のポートレート、「さき」2009冬 1075字
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65231525.html




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関連リンク:

土門拳賞の歴史と全受賞写真家 - ふぉとなび
http://photonavi.fc2web.com/domon_ken_syou.html
 
土門拳記念館ホームページ
http://www.domonken-kinenkan.jp/



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参考リンク:

PENTAX FORUM
山本 敏晴 「ルーマニアの記憶 ・・大切なものは何?・・ 」
http://www.pentax.jp/forum/gallery/20100414/

PENTAX FORUM
オンライン写真展「ルーマニアの記憶 ・・大切なものは何?・・」
http://www.pentax.jp/forum/gallery/20100414/online/index.html

PENTAX FORUM
ペンタックス・フォーラム・アクセス
http://www.pentax.jp/forum/access.html