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あたし、夜、時々、咳が止まらなくなるの。

夜中の2時かしら、
それとも、明け方の4時かしら、

もう、もう、本当にひどくって
苦しくて目が覚めるの。


そんな時、飲むの。

冷蔵庫に入れてある、冷たい水を。


すると、不思議なことに、咳が止まるの。


お医者さまが、
「自律神経が切り替わるから」
って、言ってたわ。
ほんとかどうか、知らないけど。


夜、咳が出そうな日は、
寝る前に、なんとなく、わかるの。

だから、そんなときは、準備をしておくのよ。

コップに水を入れて、
それをそのまま冷蔵庫に入れておくの。


・・それに、ほんとのこと言うと、
実はあたし、「キッチン」で寝ているの。

咳が止まらなくなった時、
すぐに、飲めるように。

手を伸ばせば届くところに、冷蔵庫があるように。
水があるように。


変でしょ?



あ、あと、

実はね、ほんとは、もう一つ、準備をしておくの。

それは・・咳を止める「魔法のジュース」の準備。

ちょっとした「おまじない」なんだけど・・



咳が出そうだと思った夜は、コンビニに行って、
バナナと豆乳と、
もう一つ、ミックスフルーツのパックを買って、
冷蔵庫で冷やしておくの。

それとね。
ミキサーを、綺麗に洗って・・


それから、ベッドに入るの。

そうすれば、もし眠ってから咳がでても、
まず、水を飲んで・・

それでも駄目な時、
「魔法のジュース」を作るのよ。


ミキサーに
バナナと豆乳とミックスフルーツのパックを入れて、
スイッチを押すだけ。

ぽんって!


冷蔵庫から漏れてくる、
かすかな、黄緑色の光の中で、
この「儀式」を行うの。

眼を閉じて、想像してみてくれる?


夜中の2時ごろに、キッチンで、
冷蔵庫の前に、お布団をひいて、寝ている私。

咳が止まらず、
暗闇の中、手を伸ばすの。
冷蔵庫に向かって。

冷蔵庫を開けると、
さぁっと黄緑色の光が漏れて、

その光の中から、私は、
魔法のジュースのセットをだす。

黄緑色の光の中、
ミキサーに3つの生贄(いけにえ)を入れて
私は、魔法の儀式を始める。

うふふ


スイッチを押すと、

バナナだったものが、
メロンだったものが、
パインだったものが、

一瞬で、変わるの。


黄緑色をした、白濁した「血液」に。


その血液を飲むとき、
私の咳は、必ず止まるわ。

絶対に、止まるの。

だって、何年も、この魔法を続けてきたんだもの。




・・これが私の日々の生活。

「キッチン」で行われていることよ。


















・・・
・・・

補足1:

「キッチン」は、
1989年に公開された日本の映画。

監督:森田芳光

主演:川原亜矢子

原作:吉本ばなな


・・・

補足2:

映画は難解で、
何を言いたいのか、
さっぱりわからなかった。

とりあえず、
私の心に残った断片をつないで、
映画とは全く関係ないストーリーを作ったのが、
上記に掲載した「一節」である。



それはともかく、
映像自体は、けっこう綺麗だった。
いわゆる「映画っぽい、叙情性」のある「絵」が続く。

しかし、
登場人物たちの会話は、
まるで中学生の「学芸会」のような
不自然で、素人(しろうと)くさい会話が続く。

(脚本のせいか、演技力のせいかは、わからなかかった。)

最初の30分、あまりの違和感についていけなかったほどだ。

が、我慢して見ていたら、その学芸会の雰囲気に慣れて、
(あまり気にならなくなり)
映画の後半では、この作品の世界に入りこめた。

よって、人によって、評価が大きく分かれる作品だと思う。
少なくとも映画版は。


・・・

補足3:

先日、原作者の吉本ばななさんと、
ちょっと交流があったので、
今度、彼女の作品を、小説で読んでみようと思った。

しかし、
とりあえずその前に、
映画化されている作品「キッチン」を見てみたのだが、
「言いたいこと」がよくわからなかったので、

やっぱり、
小説版をきっちり読みなおそうと思った。


なお、吉本ばななさんは、
私の本「世界で一番いのちの短い国」を
読んで下さったとのこと。感謝。




キッチン
吉本ばなな
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041800080

世界で一番いのちの短い国―シエラレオネの国境なき医師団
山本敏晴
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4560049629/