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1945年初夏


ゲン お父ちゃん、もうすぐ、この麦、喰えるのう!

父  ・・ゲン、麦はのう、

   麦は、寒い厳しい冬に芽を出して、
   何回も踏まれ、それでも大地にがっしりと根を張り、

   霜(しも)や、風雪がおそいかかってきても、
   負けんで真っすぐ伸び、立派な穂を実らせる。

ゲン ・・おもえたちも麦のようにたくましてくなれ、
   じゃろ?
   もう、聞きあきたよ。

父  こいつめっ

ゲン へへへ


・・・

新兵 鈴木一郎、ただいまより、出征いたします。
   お見送りありがとうございます。

兵隊 鈴木一郎君、ばんざーい!、ばんざーい!

近所 ばんざーい!、ばんざーい!

   勝ってー くーるぞと いさまーしくー



父  ・・この戦争は、まちがっちょる。
   今の政府は、おかしい。

ゲン お父ちゃん、そんなこと言うから、
   みんなから、非国民や、言われるんやで。

父  人と人とが殺しあうのが、正しいことのはずがない。

   他人の命を守り、自分の命を守るのが、
   本当の勇気のはずじゃ。

   だからわしは、非国民と呼ばれることを
   誇りに思っとるんじゃ。

ゲン ・・お父ちゃん・・



・・・

ゲン お父ちゃん、あそこで、(政府が)雑炊(ぞうすい)配っとるで。
   俺も、喰いたいのお。

父  我慢せい。
   配給の食券は、もう使ってしもうて、ないんじゃ。



ゲン お母ちゃん、腹減ったよお

母  しょうがないねぇ・・

   (タンスの奥から、サツマイモを取り出す)

   はい、これ。

ゲン やったー、食い物だー

母  ・・


姉  バカっ! ゲン、その芋を渡しなさい。
   その芋はね、お母ちゃんが食べんとあかんのや!

ゲン なんでや!

姉  お母ちゃんのお腹の中には、赤ん坊が入っておるのや。

ゲン えっ・・



・・・

父  空襲警報だ! ゲン、起きろ!

ゲン ううーーん。眠いよぉ・・
   どうせまた、偵察機が来ただけだよ。

父  バカ、それでも防空壕に入るんだ。
   死んだらどうする!

ゲン うー、しょうがないなぁ・・


父  ・・・しかし、確かに、おかしい。

   東京、川崎、横浜、名古屋、大阪、
   そして、神戸、尼崎。

   軍事工場のある、主な町は、どこも、
   すでに空爆で焼け野原になっておるのに、

   なぜ、広島は、焼け野原にされていないのじゃ。

   なぜじゃ・・ なにか、理由でもあるのか??



・・・

1945年8月6日(月)、その日、


午前2時45分

マリアナ諸島にある、アメリカのテニヤン基地から、
3機のB29が飛び立った。

B29の、Bは、ボーイング社が作った爆撃機という意味で、
爆撃機でありながら、
(当時としては異例の)
8000kmの飛行が可能な新型爆撃機であった。

「超空の要塞」"Superfortress" と呼ばれていた。



午前7時40分

偵察機 アメリカ軍の気象観測機「イーザ・リイ」から
    爆撃機「エノラ・ゲイ」へ。
    広島市は、晴天。
    原爆投下可能。

爆撃機 こちら「エノラ・ゲイ」、了解。
    これより、攻撃体制に入る。



午前8時15分

「エノラ・ゲイ」が、広島市上空に到達。

なぜか、空襲警報は、鳴らなかった・・

学校への登校時間であったため、
ゲンは、外にいて、道を歩いていた。



爆撃機 こちら「エノラ・ゲイ」。
    現在、高度31,600フィート。

    攻撃照準位置に到達。
    原爆投下。

    『リトルボーイ』 発射!


・・・
















ピカッ







・・・

リトルボーイとは、
広島に投下された、ウラン型原爆のコードネーム。

(ちなみに、長崎に投下されたものは、
 プルトニウム型原爆で、ファットマン、と名づけられていた。)


リトルボーイは、「エノラゲイ」から投下された後、
高度約600mで核爆発。

爆風と、熱線と、放射線の、三つを生み出した。

(エネルギーの量としては、それぞれ)
50%、35%、15%の割合。

(つまり、爆風が、原爆の最大の効果。放射能ではない。)


最初に、
熱線により、
爆心地付近の地表は3000〜6000度に達し、
一瞬で全てが消滅した(人間などは溶けた)。

次に、
爆風により、
半径1km圏の、ほとんどの建物が全壊。
一般家屋は、すべて倒壊。

最後に、
放射線が放出され、
その後、数十年の間、人々を苦しめ続けることになる。



・・・

被爆の後、生き残った人々は見たものは、
「暗い地獄」


空は暗く、いや、黒く、

大地は赤く、倒壊した家々で火事が起こり、

その間を、

全身に火傷をおい、全裸となった人々が歩きまわる。

亡者の群れのように・・



・・・

そして、ついに、降ってきた。

「黒い雨」が。


核爆発によって生じた高熱により、
上昇気流が起こり、
それが、大地の粉塵(ふんじん)を巻き上げた。

上空で冷やされた熱気は、今度は雲になり、
放射能を含んでいる雨を降らせた。

この雨を浴びた人や、
この雨で汚染された川の水を読んだ人が、
二次的に被爆した。


・・・

14万人。

14万人の人が、この一発の爆弾で、死亡した。














・・・
・・・

「はだしのゲン」は、
中沢啓治による漫画。
1973年から1985年まで、描かれた。

今回、私が見たのは、
アニメ映画版。

1983年の「1」と、
1986年の「2」である。


原爆投下そのものよりも、
日本の戦争末期、
敗戦が濃厚になっていく中で、
それでも、がんばって日々を生きていく、
主人公の「ゲン」の一家の家族愛が、
せつせつと描かれており、胸に響く。

そうした、
ささやかな幸せをが、一瞬にして、
「暗い地獄」の中に、突き落とされる。


・・その後の話は、もはや書くに堪えない。