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山本 こんにちは。
   あのー、山本と申しますが、
   鈴木龍一郎さんでいらっしゃいますか?

鈴木 はい、そうです。

山本 写真展、拝見させて頂きました。
   素晴らしいですね。

   白黒写真で、
   通常よりも「横長のフォーマット」(パノラマ写真)のため、
   昔の、古き良き映画の世界に
   誘いこまれたような感じがしました。

   構図とかも、非常に安定している感じで、
   見ていて気持ちが良かったです。

鈴木 そうですか、ありがとうございます。

山本 わたしも、ここ、銀座ニコンサロンで、
   以前(写真展を)やらせてもらったことがあります。

(注:2002年、銀座ニコンサロン、山本敏晴写真展「天寿五年の瞳」)

   あと、実は、
   今回の土門拳賞に、私も最終選考まで残っていたので、
   受賞された作品が、どんなものかと、見学に来た次第です。

鈴木 あ、そうですか!
   それはそれは・・

   ・・では、名刺の交換を・・

山本 ありがとうございます。

   ところで、
   非学で申し訳ありませんが、

   この写真展の題名の
   「リュリシーズ」の意味や、

   挨拶パネルに登場する、
   「ジェイムズ・ジョイス」という人のことを
   私はさっぱり知らないのですが・・

鈴木 「ジェイムズ・ジョイス」
   (James Joyce 1882-1941年)
   は、アイルランドの有名な作家です。

   彼のことを研究している人もたくさんおり、
   (アイルランドでは)
   聖書の次に読まれているのが彼の本だ、
   と言われています。

山本 へえー

鈴木 「ユリシーズ」(1922年)は、
   彼の書いた小説の一つで、
   世界的に有名な、彼の代表作です。

   有名な理由は、
   (アイルランドの首都である)ダブリンに起こった、
   「ある1日の出来事」(1904年6月16日)を、

   18章からなる「様々な『特殊な』文体」で表現した
   実験的な小説だったからです。

   20世紀を代表する小説、と言われています。

   ・・猥褻(わいせつ)な表現も一部あったため、
   一時、発行禁止になどなっため、
   かえって話題になりました。

山本 ほお。知りませんでした。

鈴木 で、この写真展は、
   その「ユリシーズ」が描かれた場所である
   アイルランドの首都のダブリンを
   私がうろうろ徘徊し、さまよいながら撮影した、
   スナップの写真たち、ということになります。

山本 なるほど。

鈴木 で、写真展の題名が、
   「リュリシーズ」になっているのは、

   「ユリシーズ」と、私の名前である
   「りゅういちろう」を、かけて、
   洒落(しゃれ)で、
   「リュリシーズ」にしたのです。(苦笑)

山本 なるほど。(笑)

   ところで、写真は全て白黒ですが、
   すべて、横、または縦に長いフォーマットですよね?

   これ、どんなカメラで撮影したのですか?

   (中判カメラ用の、サイズの比較的大きな)
   ブローニー(フィルム)を使って、
   それをトリミングして(パノラマ形に削って)
   横長にプリントしたのでしょうか?

鈴木 いいえ。

   普通の、35mmフィルム
   (のネガの白黒)を使っています。

山本 では、カメラは?

鈴木 ハッセルとフジが共同開発した
   「TX2」です。


Hasselblad
http://www.hasselblad.jp/

富士フイルム
http://fujifilm.jp/

FUJIFILM レンジファインダーカメラ TX-2
http://fujifilm.jp/personal/filmcamera/rangefinder/tx2/index.html


山本 ああ、なるほど!

   あの、普通のフィルムで、「パノラマ」が
   そのまま撮れるので、昔、話題になったやつですね!

鈴木 そうです。

   もう、発売中止になっていますが、
   中古カメラ屋で、すごく値が上がっているようですよ(笑)。

山本 ちなみに、白黒フィルムは、何をお使いですか。

鈴木 Tmax の 400 です。


KODAK PROFESSIONAL T-MAX 400 Film
http://www.kodak.com/global/en/professional/products/films/bw/tMax400.jhtml


山本 一般的なやつですね。
   プリントした紙は?

鈴木 イルフォードです。


ILFORD PHOTO
http://www.ilfordphoto.jp/


山本 了解です。


(注: 写真を勉強したことがない人は知らないと思うので
    解説するが、

    特に白黒写真の場合、
    撮影は3割、プリントが7割、と言われている。

    要するに、極端に言えば、
    撮影よりも、暗室で行うプリント作業(その技術)のほうが
    はるかに重要なのである。

    それほど、撮影した後、どのように紙の上に表現させるか、
    ということに、写真家は命をかけているのである。)


   ・・それはともかく、
   以前、このパノラマカメラで撮影した写真を、
   すべて縦位置で並べて、
   いわゆる日本の、「掛け軸」のように展示した写真家を
   知っていますよ。

   あれはあれで、面白かったですが。(笑)

鈴木 そうですか。(笑)

山本 ところで、このパノラマ型のカメラを使った理由は
   なんですか?

鈴木 ええと・・
   アイルランドの風景を写すには、
   普通のカメラのフォーマットでは、
   おさまりきれない・・、と思ったからです。

   もっと広い、「何か」が必要だと思ったので・・

山本 なるほど。

   「写真には、おさまりきれない何か」ですか・・

   では、それを、じっくり拝見させて頂きます。
   もう一度、写真展会場を、まわってきます!

鈴木 (笑)










・・・

写真展「リュリシーズ」の内容:

アイルランドの作家「ジェイムズ・ジョイス」の
小説「ユリシーズ」の影を追いながら、

首都ダブリンの町をさまよいつつ、
白黒のパノラマカメラで
「死と生の間(あわい)」
を記録した作品。


行き交う(ゆきかう)ダブリン市民の表情から、
壁に広がる落書き、飛ぶ鳥の影、など。

作者は、歩きまわるほどに
無限に連鎖してゆく「カオス」(混沌)の世界で
シャッターをきり、写真家してゆく。


・・・

土門拳賞、受賞理由:

ダブリンの町をさすらい、
(小説の舞台である100年前の)過去と現代、
生と死の堺を追い求めた作品。

パノラマカメラで撮影され、かつ、
非常に高い技術が用いられているが、
その技術におちいることなく、

ヨーロッパそのものを浮き上がらせた、
その精神性を高く評価する。
   


・・・

写真展の詳細:

題名: 「リュリシーズ」(RyUlysses)

作者: 鈴木龍一郎

2010年4月28日(水)から5月11日(火)まで

10時から19時まで
(最終日は16時まで)

場所: 銀座ニコンサロン(Nikon Salon)

    STRATA GINZA 1F ニコンプラザ銀座内

入場無料、一般公開

http://www.nikon-image.com/activity/salon/






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作者略歴:

鈴木龍一郎

1942年、東京生まれ。
早稲田大学を卒業後、フリーランスの写真家に。

1975年、太陽賞受賞。
2010年、土門拳賞受賞。


高校時代は、登山をしていた。
大学時代から、写真を始めた。

アジアの町にひそみ、
アイルランドの荒れ地に立ちすくみ、
シャッターを切るなかで、
深い虚無の海底にいるような気がした。

そんな時こそ、逆に
自分が生きていることを実感した、という。

写真を撮ることが、生きること。


大学生時代に、
土門拳の製作した写真集
「筑豊のこどもたち」
を読んで感動し、写真を始めた彼が、
その50年後、半世紀を超えて、
土門拳賞を受賞した。



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2010年、土門拳賞の審査員

江成常夫(写真家)
内藤正敏(写真家)
野町和嘉(写真家)
松山巌(評論家)
大川勇(毎日新聞社出版局長)