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「ある日、あなたは、
 丘の上に、『旗(はた)』を立てる権利を得た、
 とします。

 どんな旗を立てますか?

 どんな形にしますか?
 どんな色にしますか?
 どんな模様にしますか?」


・・・

現在、東京、恵比寿にある
恵比寿ガーデンプレイスの一角、
「東京都写真美術館」において、
次の企画展が開催されている。


題名 「なにものかへのレクイエム」

作者 森村 泰昌(もりむら やすまさ)


写真美術館でやっているイベントだから、
写真展なんだろうと思っていたのだが、
行ってみたら違った。

写真と映像、そして、強烈なメッセージがいりまじった
複合的な「芸術展」だった。


が、ともかく
(私的には)素晴らしいと思ったので、紹介する。


・・・

作者の森村さんは、58歳の男性。

写真家ではなく、
芸術家でもなく、

「美術家」である、らしい。

ただし、
「写真を使って芸術活動を行う人」
として以前から知られていた。


1980年代から一貫して、
過去の有名な俳優・女優や、
歴史上の重要人物に(自ら)扮し、
それを撮影する、という
いわゆる「セルフ・ポートレイト」写真を
撮影してきた。

今回の作品も、基本的にその作品群の一部
であるが、
写真だけでなく、「映像作品」も多数あった。

つまり、
(静止画像の)写真と、
(動画の)映像作品が、
混在して構成されているのである。

(だから、見ていて、飽きない。)


で、映像作品のほうには、
彼自身による音声も収録されており、
このため、会場のあちこちから、
奇声のような声や音が聞こえたり、
延々とした演説も聞こえる。


・・・

この複合展は、4つの部門に分かれていた。


第一章.日本の近代史の重要人物

   三島由紀夫、など

第二章.世界の近代史の重要人物

   ヒットラー、など

第三章.世界の芸術家

   ピカソ、など

第四章.1945年の重要人物

   昭和天皇、など


上記の人物たちを始め、
登場する数十人の人物に、
森村さん自身が扮装し、
それを、自分で(自分を)撮影しているのである。

(基本的に、本人そっくりに、化けている。)


内容は、以下であった。


・・・

第一章.日本の近代史の重要人物


三島由紀夫(1925-1970年)は、
1970年11月25日に
自衛隊の市ヶ谷駐屯地に乱入し、
演説をぶちかました後、切腹自殺をした作家である。

当時、知的な若者は、左翼的な思想を持つのが
普通であった時代に、
強烈な右翼思想をもち、
上記の演説をぶちかましたことで、社会に衝撃を与えた。


森村さんは彼に扮し、
映像作品の中で、次のように訴えている。


「日本の政治は、汚職がはびこり、すべてが腐っている!

 日本の美術は、マスコミに踊らされ、
 一時しのぎの流行を追うようになってしまった!

 欧米の文化を、日本はマネしているだけになっている。

 諸君は「表現者」(ひょうげんしゃ)だろう?

 どうして欧米に憧れる必要がある。
 どうして、ペコペコする必要がある。


 すべてが間違っている。
 すべてが腐っている。

 私とともに、決起し、
 世の中を作りなおそうというものはいないか!」




・・・

第二章.世界の近代史の重要人物


アドルフ・ヒトラー(1889-1945年)は
1933年ごろからドイツの最高権力者(独裁者)となった人物。
ナチス・ドイツをひきい、ユダヤ人の虐殺を行った人
として知られる。

チャーリー・チャップリン(1889-1977年)は
1940年に製作された映画「独裁者」の中で
ヒトラーを演じ、彼のやり方を風刺した。


森村さんは、このチャップリンの演じたほうの
「ヒトラー」に扮した。

そして彼は、映像の中で演説をする。


「私は、独裁者になど、なりたくなかった。
 これからも、なりたくない。

 しかし・・

 しかし、
 21世紀の独裁者は、
 もしかすると、人ではないのかもしれない。


 それは、

 なんらかの、国かもしれない。
 なんらかの、会社かもしれない。

 なんらかの、宗教かもしれない。
 なんらかの、思想かもしれない。

 あるいは
 なんらかの、科学技術かもしれない。


 あなたは、
 あなたの家族や恋人や、友人に対して、
 独裁者ではないか?


 自分の生活のために、
 誰かを犠牲にしていないか?

 自分の生活をすることで
 誰かが犠牲になっていないか?


 道ばたにある、
 花や、木や、石ころに対して、
 あなたは傲慢になっていないか?



 ・・私は、独裁者だ。


 21世紀の独裁者は、
 悪人の顔を、していない。

 だから、
 私も、あなたも、独裁者たりうるのだ。」



・・・

第三章.世界の芸術家


パブロ・ピカソ(1881-1973年)は、
スペイン生まれの芸術家。
キュービズムの創始者として知られる。


森村さんは、ピカソそっくりに化け、
名画「ゲルニカ」をかたわらに
20世紀の美術世界に思いをめぐらせる。


もちろん、ピカソだけではない。


天才を自称し、数々の奇行で知られた
サルバドール・ダリ(1904-1989年)

大量生産できる芸術、ポップアートを生み出した
アンディ・ウォーホール(1928-1987年)

漫画という新しい表現世界を切り開いた
手塚治虫(1928-1989年)

芸術そのものを根本から否定した鬼才
マルセル・デュシャン(1887-1968年)


あらゆる思想が、
森村さんの頭の中で、錯綜する。


・・・


第四章.1945年の重要人物


そして、
一人の美術家の感性と想像力が、
「戦いの時代」の頂点へと向かう。


この年、有名な写真が撮られた。

ダグラス・マッカーサー(1880-1964年)と、
昭和天皇(1901-1989年)が、
並んでいる写真だ。

マッカーサーの身長は高く、
昭和天皇は彼の肩の高さほどもない。

この写真は、
日本が以後、アメリカから支配を受けることの
象徴となった。


森村さんは、この二人にも扮した。

そしてさらに、彼は、

「硫黄島(いおうじま)の戦い」
(1945年2月19日-1945年3月26日)

映像で再現する。

これは、太平洋戦争の末期、
日本が敗色濃厚となる中で、
行われた戦争。

2万人以上の日本軍兵士が戦死。

そして日本は敗北し、

硫黄島に、アメリカの国旗、すなわち
「星条旗」が立てられた。





「宇宙から、地球を見たとしよう。

 人類の歴史が始まって以来、
 戦争がなかった年(とし)は、1年としてなかった。


 つまり、人類は戦争が好きであり、

 つまり、「地球は戦場」である。


 この戦場である地球の、一つの丘の上に、

 1本の『旗(はた)』を立てる権利を
 あなたが得たとしよう。


 あなたは、どんな旗を立てるだろうか?

 その色は?

 その形は?

 その模様は?」






あなたは、自分の人生、と言う名の
「一つの丘」の上に、どんな色の旗を立てるのだろうか?



・・・

この映像作品「硫黄島」の中で、
森村さん扮する名もなき兵士は、

(アメリカの星条旗に変えて)
一本の白い旗を立てる。


白い旗の意味は
降伏や敗北ではなく、

「まっ白いキャンバス」だ。

つまり、
白い旗は、創造の原点、という意味であり、
破壊と再生が繰り返される、人類の歴史の中で、
自分が一人の、「美術家たらん」とする
彼の、哲学がうかがえる。



・・・

森村さんのいう
「レクイエム」(鎮魂)とは、

過ぎ去った人々と、その時代、その思想への
敬意を表し、

それを記憶に残し、

現代に、そして未来に受けつごうという姿勢
のことをいうのだと思う。


これが彼の作品
「なにものかへのレクイエム」
というものの、テーマではないか、と思った。












・・・

森村 泰昌(もりむら やすまさ)

1951年6月11日、大阪生まれ。

1968年、高校時代、
三島由紀夫の「金閣寺」を読み感動する。

1971年、一浪後、
京都市立美術大学・美術学部工芸家デザインコースへ
入学。

1975年、電機メーカーに就職するも
三日で退職。

1976年以後、高校や短大の講師をしていた。

1983年、初めての個展を開催。

日本では、彼の芸術は全く評価されず、
ヨーロッパで評価された。

比較的最近になり、日本に逆輸入され、
彼は日本でも知られるようになった。

2006年、父親の死を契機に、
「レクイエム・シリーズ」を発表。





・・・

今回の作品を、彼自身は、
次のように解説している。


「日本の伝統芸術である『能』(のう)に、
 『夢幻能』(むげんのう)というものがある。

 あの世から、この世へ、
 この世ならざるものが蘇(よみがえ)り、
 恨みつらみを話してゆく、という筋書きだ。

 主人公(シテ)は、その亡霊である。

 で、今回の作品は、
 私が歴史上の人物に扮し、その亡霊となり、
 恨みつらみ・・・かどうかはともかく、
 なんらかのメッセージを観客に発する、
 という形になっている。

 それを見て、聞いて、観客が何を感じるか。」



・・・

この作品、「芸術とは何か?」を
知りたい人は、見たほうがいいと思う。

(よくいわれる「言い方」に、
 自分をさらけだすのが芸術だ、
 というのがあるが、
 これはまさに、森村さんの生きざまが
 かいまみられる。)


ただし、一見、難解な作品で、
私が上記のように理解するまで
3時間ぐらいかかった。

このブログをプリントアウトして持っていくか、
あるいは、
同、写真美術館の4階の「図書館」に
彼の作品の解説本が、多数あるので、
それを読んでから会場をまわると
ようやく理解できる。


で、
一度入場券を買えば
その半券をもっている限り、
会場から出たり入ったり自由なので
4階の図書館と往復できる。

会場は、2階と3階にある
広大なスペース。


以上。













・・・


東京都写真美術館
http://www.syabi.com/

「なにものかへのレクイエム」
http://syabi.com/contents/exhibition/index-4.html


2010・05・09まで