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地震などの自然災害が起こった直後、
その被害にあった国(被災国)に行って、
人々を助けることを緊急援助という。

で、地震で崩れ落ちた建物の瓦礫(がれき)
の中から救い出した人が大怪我(おおけが)をしている場合、
緊急手術が必要な場合ある。

で、
被災地では、電気が止まっていたりして、
病院がまともに機能していないことがある。

この場合、
場合によっては、簡易テントの中で
緊急手術をやってしまうことがあるのだが、

1.(まず場所が)清潔ではないし、
2.酸素も十分にないし、
3.電気も十分にないし、
 (ジェネレーター(発電機)で作るが不安定)
4.もしもの大出血の際に必要な輸血もないし、
5.血圧が急に下がったり上がったりした時に
 必要になる緊急時の薬も、少ししかない。

と、いうわけで、
手術をする上で、まず、やることになる
麻酔の時に、

なるべく、
血圧などに影響せず(血圧を下げず)、
呼吸(自発呼吸)も(なるべく)止めず、
意識だけとる(眠らせるだけ)
ような
麻酔薬を使うのが、望ましいのである。

(普通の麻酔薬は、
 意識もとるが、
 呼吸も止めてしまうし、
 血圧も下げてしまうことが多い。)

(血圧(高い方の収縮期血圧)が、
 80以下になると、脳味噌へ十分な血が
 いかなくなるため、基本的に、
 血圧を80以上にするのが、
 手術中の麻酔と
 全身管理(血圧等のコントロール)の基本である。)

(先進国の大きな手術室の場合、
 立派な人工呼吸器があるし、
 酸素もいっぱいあるし、
 血圧が下がっても、
 血圧を上げる薬が(数も種類も)いっぱいあるし、
 また、輸血を行うことも可能。
 しかし、
 地震の被災地にいきなり行った場合、
 簡易テントには、上記の、なにもない。)

と、いうわけで、
手術の前の、麻酔をする時に、
(通常の麻酔薬とことなって、)
血圧を下げず、呼吸も止めない、
特殊な麻酔薬が必要になるのである。

この特殊な麻酔薬のことを
「ケタラール(商品名)」という。

一般名は、ケタミン(ketamine)。

意識をとるのに、
呼吸を止めず、血圧を下げない、
緊急時には重宝する薬だ。

・・・

しかし、このケタミン、副作用として、
「悪夢」を見るという。

どんな悪夢かというと、
(患者さんから聞いた話だが)

誰かから延々と追いかけられる夢だ、
とか、
強姦(レイプ)される夢だ、
とか、
ともかく、恐ろしい、いやな夢を見る、という。

しかしながら、緊急時には、人命が優先されるので、
(緊急手術のために麻酔をした時に、
 血圧が80以下に下がると脳死になる可能性があるため、)
ケタラールを使う場合が、日本などの先進国でもあるのである。

(注:血圧を下げない麻酔薬として、
 ケタラールの他にもいろいろな薬があり、
 また、バランス麻酔といって複数の薬を混ぜることもある。
 さらに、ケタラールは静脈麻酔といって、
 静脈に注射をする麻酔方法で使うものの一つだが、
 この静脈麻酔以外にも、いろいろな麻酔方法がある。
 例えば、吸入麻酔とか、硬膜外麻酔とか。
 なのだが、地震直後の途上国に、すぐもっていけて、
 現地で簡便に実施できる麻酔方法となると、限られる、
 ということである。)

・・・

ところが、この(ある意味)有用なケタミンは、
地震を受けた被災国に、
日本から持っていくことができなかった。

理由は、「麻薬に指定されているから」である。

ケタミン(Ketamine)は、
三共エール薬品から、「ケタラールR」の名で販売されている。
静注用・筋注用として提供。

日本では、厚生労働省が、2005年12月13日に、
「麻薬及び向精神薬取締法に基づく規則」により
ケタミンの「麻薬指定」を決定した。
(施行は2007年1月1日だった。)

ま、大脳の一部を活性化させ、
麻薬用の症状をかもしだすのは本当なのだが、
(国際協力をやる人は)
これには困っていた。

まさか、日本国内から「麻薬」を持ちだすわけには
いかないからだ。
空港で捕まったら、罰金ぐらいではすまない。

・・・

しかし、
国際協力団体のいくつかは、
このケタミンの有用性をとき、
政府を説得し続けた。

ちなみに、WHOも、ケタミンの使用を推奨している。

以下、引用。

Ketamine is currently on the WHO essential medicines list
and used extensively throughout the developing world.

(ケタミンは、WHOの必須医薬品に入っており、
 途上国で広く使われている。)

As well as being relatively cardiovascularly stable.

(血圧下降などの心血管系への影響が少ない。)

respiratory depression does not occur.

(呼吸抑制は起きない。)

For these reasons
ketamine is often used for anaesthesia
where the anaesthetic provider is not skilled
in endotracheal intubation
or when the surgeon is administering the anaesthetic.

このような理由のため、
ケタミンは、麻酔科医が熟練していない時や、
(人が足りなくて)外科医が自ら手術をする時などに
しばしば使われる。

Ketamine is associated with hallucinations during recovery.

ケタミンは、麻酔から醒める時に、「幻覚」を見る。
However, ketamine is an essential anaesthetic tool
in resource poor settings.

しかし、ケタミンは、
(人・物などの)リソース(資源)が不足している状況では、
最も重要な麻酔のツール(道具、薬)である。

http://www.who.int/selection_medicines/committees/expert/18/applications/anaesthetic_proposal.pdf

・・・

以上のような状況だったのだが、
昨年(2009年)、日本は政権交代が起こり、
民主党政権の岡田外務大臣が就任した。

彼は、国際協力分野に興味があるようで
ハイチの地震の時に派遣された
国際協力機構(JICA)の緊急援助隊(JDR)の人々から
直接、話を聞いた。

その中で、要望の一つとして
ケタラール(ケタミン)の国外持ち出し
及び被災国への持ちこみが出たのだが、
それに対し、
岡田外務大臣は、特例として、認める方向らしい。

が、
JICAのJDRは、
基本的に政府系の組織なので、
民間のNGO(非政府組織)が
同じようなことが「特例」としてできるかは、不明だ。

が、ともかく、
一つ、前進したかも。