.

(ここまでの彼の講演の流れを整理すると、

 1)エイズ対策への日本の功績と貢献を称(たた)えた。
   (来日したので、とりあえず、お世辞を言った。)

 2)予算をもらったことにより実績をあげてきたこと。
   (金をくくれば結果を出すよ、ということの証拠を見せた。)

 3)最近、予算が減っているが、まだエイズには問題が残っていること。
   (だから、これからもお金をちょうだいね、と主張。)

 で、(ここからが今日の掲載分だが、)最後に、

 4)これからの彼の「夢」を話し、
   「革新的なアイデア」、いわゆる、イノベーションを提案した。



私には夢があります。
それを実現することは、絶対に無理だ、と周りの人たちから言われます。

そのビジョン(目標)とは、
「スリー・ゼロ」(三つのゼロ)です。

1.新規感染ゼロ zero new HIV infections
2.差別ゼロ zero discrimination
3.エイズ関連死亡ゼロ zero AIDS-related deaths

というビジョンです。

ゼロという数字を達成するには、
いろいろ変えないといけないと考えます。

これから私が話すことは、
ゼロを実現するための提案です。


(スリー・ゼロ実現のための変革・その1・予防革命)

第一に、「予防革命」という言葉を紹介します。
"prevention revolution"


(1)予防革命の一つ目の柱、若者への教育

エイズ対策は、「予防、予防、予防」につきます。
まず、若者から始めるべきです。

現在、
12億の青少年が地球上で生活しています。

この人たちに対して、性教育を行うという、
倫理的責任が我々にあるのです。

性教育に対するアクセスを確保する。
性に関する教育のユニバーサル・アクセスが重要だ、
ということです。

このような性教育により、(若者たちが)
技術(テクニック)とノウハウ(知識)を持つようになる。

責任をもって、性に対する行動をおこなうことが
できるようになる。


これに関連して、
(一人の日本人の功績に関係する)
「マツウラ効果」という言葉を紹介する。

松浦さんは、
UNESCOの事務局長だった人だ。
若者に性教育を行うことを提唱し、
この分野で大きな功績をあげた。

(松浦晃一郎とは、1937年生まれ、山口県出身。
 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)第8代事務局長。
 ユネスコの組織的な腐敗(縁故人事、不透明経理)を改革し、
 あまりの腐敗ぶりに脱退していたアメリカを復帰させた。
 また、若者に対する初の
 「HIVと性教育の国際ガイドライン」作成に大きく貢献した。)


UNESCO
http://www.unesco.org/new/en/unesco/
外務省国際機関人事センター 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)
http://www.mofa-irc.go.jp/link/kikan_info/unesco.htm


この若者への性教育に対しては、
UNFPA(国連人口基金)の方も協力してくれた。
この講演会場には、UNFPAの事務次長が来ているが。
この人とも、共同してやってきた。


(国連人口基金(UNFPA)は『世界人口白書2003』の中で以下の報告。
 性教育やエイズの予防啓発をするには、
 ピア・カウンセリング(同じ年代・立場の人による相談)が重要。
 様々な年齢の若者を巻き込むプロジェクトは、より大きな成果を挙げられる。
 例えば、モザンビークの「Geracao Biz」(活発な世代)プロジェクトは、
 若者自身が企画・開発したものだったが、
 従来の10倍以上の若者が、HIVカウンセリングに参加するようになった。)


UNFPA
http://www.unfpa.org/public/
外務省国際機関人事センター  国連人口基金(UNFPA)
http://www.mofa-irc.go.jp/link/kikan_info/unfpa.htm


そして、(若者への教育を)実現してきたのだ。


こうした背景の中で、
親子関係が変わってきている。

親たちが、子どもに対して、
性教育に関する話ができるようになった。


(2)予防革命の二つ目の柱、ジェンダー問題

それからもう一つ。

男女間における不平等。
ジェンダーの不平等をどうするか?
女性の地位は?
女性に対する暴力は?
生殖に関しての問題をどう組み込むか?

さらに、
望まぬ妊娠を減らすことができるように、
その次のステップにつなげる必要がある。

さらに
安全ではない妊娠中絶を減らすための対策を。

さらに
若い女性の、若い年齢における妊娠を減らすこと。

こうした問題すべてが、
HIV罹患率の上昇につながっている。

また同時に、
(感染症の問題ではなく、母子保健の問題である)
乳児死亡率、妊産婦死亡率の上昇にもつながっている。


(3)予防革命の三つ目の柱、人権(社会的弱者)

予防革命の三つ目の柱は、人権だ。
もっとも(HIV感染の)リスクにさらされている人の
人権を守ること。

そのために、懲罰的な法規制は、排除する必要がある。

薬物使用者(IDU)について、「犯罪者」だという見方は、
やめるべきだ。
薬物(麻薬)使用者は、「患者」であって、
治療を必要としている人たちだ、とする考え方が必要。


以上、予防革命の三つの柱の話をしてきたが、
予防革命を起こそうという時は、
「いろいろなものの組み合わせ」が必要だ。

「ホット・スポット」は、もう飽和状態になっている。

(ホット・スポットの意味は、おそらく、
 売春産業に関わる人、MSM、IDUなどの
 いわゆる、HIVに感染するリスクの高い人々の
 集団のことを指しているのだと思う。)

(その前の、
 「いろいろなものの組み合わせが必要だ」の意味は、
 私にはよくわからなかった。
 おそらく、
 予防革命の三つの柱である、
 若者への教育、ジェンダー、人権(IDU,MSM)
 などの問題を組み合わせて啓発する、という意味なのか、
 または、
 (国際協力に含まれる課題を「分類」した場合、)
 エイズを「感染症」の問題の一つ、
 として論じるのではなく、
 「母子保健」とか、「ジェンダー・人権」という、
 国際協力の他分野とも連携していくべきだ、という意味なのか、
 それ以外の意味だったのか、不明。)

(ともかく、以上が、彼の言う「予防革命」、であった。)
 

・・・
・・・

(スリー・ゼロ実現のための変革・その2・治療革命)

それから、
大きな変化が起こっているのは、
予防革命にくわえて治療の変化だ。

すなわち「治療革命」である。
"treatment revolution" or "therapy revolution"

治療が、「持続可能な」ものでないといけない。

ところが、現時点で行われている治療方法は、
あまりにもお金がかかりすぎる。

(お金のかからない治療法が必要だ。)

また、現在の治療方法は、
耐性が発生しやすい。あまりにも発生しやすい。

(HIVが耐性化しない治療法が必要だ。)

しかも、現在の薬物治療のモデルでは、
先端的な医療機関が必要とされている。
その関与が必要になっている。

(最先端の医療設備が必要ない、簡便な治療法が必要だ。)


ファースト・ライン・トリートメント(第一選択薬)があり、
ついで、
セカンド・ライン(第二選択薬)、
サード・ライン(第三選択薬)がある。

(第一選択薬に対し、耐性化したHIVが現れたり、
 強い副作用を起こした場合、
 第二選択薬が使われる。
 それもダメだった場合、第三選択薬が使われる、
 というシステムで、現在、治療が行われている。)

しかし、こうした方法は、持続可能でない。

なぜなら、
治療のコスト(費用)が上がっていくからだ。


ファースト・ライン(第一選択薬)では、治療費が1年間に
約80ドル(約8千円)。(ジェネリック医薬品を使った場合)

セカンド・ライン(第二選択薬)では、治療費が1年間に
約1000ドル(約10万円)。

サード・ライン(第三選択薬)では、治療費が1年間に
約7万ドル(約700万円)。


(先進国の製薬会社たちは、
 耐性化を起こした新型のHIVに対し、
 それでもその増殖をおさえるような新薬を開発するため、
 最低でも10億円、実際は100億円以上の
 研究開発費が投入されている。
 だから、第二・第三選択薬の値段が高騰するのは、
 製薬会社側からみれば、当然なのである。)

(ちなみに、日本でHIV/エイズの治療を受けると、
 ファースト・ライン(第一選択薬)を使っても、
 治療費が1年間で、
 約200万円かかる。
 これは、日本では大手製薬会社の作ったブランド医薬品を
 使っているからである。)

(これに対して、アフリカでは、
 インドや南アフリカなどの製薬会社が作った、
 ジェネリック医薬品(後発医薬品・模造品)
 を使っているため、第一選択薬の値段は安い。)

(ただし、ジェネリック医薬品は、
 臨床治験を行っていないことが多いため、
 その薬を飲んでも実際に薬物が腸から吸収されて、
 血中濃度が上昇し、効果がでるかどうか、
 などが確認されていないことが多い。)

(日本でのエイズ治療費は200万円と高額だが、
 国民皆保健が実施されているため、
 実際の負担額はその3割前後で、
 しかも、エイズを発症した場合、
 免疫機能障害に相当し、障害者手帳をもらえるため、
 事実上、ほとんど無料に近い値段で治療を受けられる。)

(アフリカの貧しい人々は、
 1日100円未満で暮らしているため、
 年収も3万円未満ぐらいしかない。
 だから、その人たちにとって、
 (第一選択薬でさえ)年間8千円もかかる
 抗HIV薬の費用は払えないので、
 国際協力団体や慈善目的の財団などが
 その費用を全額、払ってあげているのである。
 だから、そうした
 「無料で抗HIV薬をもらえる病院」
 に行くことさえできれば、アフリカでは、
 無料でHIVの治療を受けられることになる。
 しかし、そうした病院は、田舎(僻地)にはなく、
 また、道路や交通機関もないアフリカでは、
 人々は、その病院に行くことすらできない、というのが現状。)

(ちなみに、HIVに感染している人は、現在、地球上に
 3300万人いる、と言われているが、
 その半分以上は、アフリカの、サハラ砂漠より南(サブ・サハラ)
 に集中している。)


現時点では、まだ、治療を受けている人の
96%が、ファースト・ラインを使っている。

それをセカンド・ラインやサード・ラインに動かすのは、
コスト(費用)的に無理だ。

だから、
「トリートメント2.0」"Treatment 2.0"(治療2.0)
というのを提唱したい。

2010年7月、
私は、ウィーンの「国際エイズ会議」で、これを発表した。

「トリートメント2.0」を導入すれば、
コストをぐんと減らせるはずだ。シンプルな手法で。

・・・

(講演の時間が足りなくなり、彼は、
 「トリートメント2.0」の詳細を話さなかったので、
 後日、私が調べた所、以下のような内容だった。)

The five pillars of Treatment 2.0
(「トリートメント2.0」の「5つの柱」について。)

1.Creating a better pill and diagnostics
 (より良い(より安価な)薬と診断方法を作ること)

2.Treatment as prevention
 (周りの人に感染させるのを予防するために、治療をする)

3.Stop cost being an obstacle
 (障壁となっているコスト(費用)の高騰を止める)

4.Improve uptake of HIV testing and linkage to care
 (HIV検査への理解を改善し、治療に直結させる)

5.Strengthen community mobilization
 (地域コミュニティーの形成・活性化・強化)


参考:
A radical new UNAIDS treatment strategy
http://www.plusnews.org/Report.aspx?ReportId=89861

U.N. sets out AIDS treatment plan to save 10 million
http://www.reuters.com/article/idUSTRE66C2PQ20100713

・・・


そして、薬剤の投与は、
地域のコミュニティーにおいて、
(医者や看護師ではなく、そうした資格を持たない)
保健従事者(ヘルス・ワーカー)がこれを行うこと。
それができるようにする。

(地域の保健従事者が、薬の処方をできるようにすれば、
 高額な給料を要求する、医師や看護師を雇う必要がないため、
 ケア(治療の全体)にかかる費用は安くすむ、
 という考え方である。)

(また、保健従事者が、処方できるようになれば、
 病院まで来れない、僻地(へきち)に住んでいる人々にも、
 抗HIV薬を届けることができる可能性が広がるため、
 そちらの、「アクセス」という意味でも、
 非常に有用と考えられる。)

(彼は、この
 「保健従事者が処方できるようにすること」
 を主張・強調していたが、
 これには異論(反対意見)も多い。
 要するに、医者でなくても、
 エイズの診断と、薬の処方をしてもいい、
 と言っているわけである。)

(保健従事者は、アフリカでは、
 高卒程度の学歴で、
 数週間程度、エイズの講習を受けた程度の
 医学的知識しかない人のことが多い。
 はっきり言えば、
 村の青年団が、ちょっと研修した程度、である。
 そのくらいの知識の人に、
 激烈な副作用を起こす可能性のある、
 抗HIV薬の処方をまかせる、というのは、
 かなり危険な選択肢である。「賭け」とも言える。
 だから、
 彼のこの方針に対し、
 多くの医者が「反対」の意志を表明している。)

(ちなみに、抗HIV薬の、激烈な副作用とは、
 「骨髄抑制」といって、重度の貧血などが起きる。
 普段、骨の中にある「骨髄」で、赤血球などが作らているのだが、
 もし、それが作られなくなれば
 エイズで死ななくても、貧血(酸素欠乏による脳死)で死ぬ。
 それ以外にもいろいろな副作用があり、
 医者でなければ抗HIV薬の処方は無理、とする
 意見も多い。)
 

そして
第一選択薬をもちいて、
多くの人たちに治療を継続する。
副作用もなく、健康に。

(耐性化が起こったら、第一選択薬は使えなくなる。
 だから、彼のこの理論には、疑問が残る。)

(第二選択薬を、安価な方法で製造することに
 力を入れた方が良いと、私は思うが。)

・・・

シンプル(簡単)なテクノロジー(技術)で
「トリートメント2.0」を実現できるはずだ。

オーストラリアの
バーネット・インスティテュート"Burnet Institute"
で、新しい「CD4」のテストが開発された。
安くて迅速に検査できるキットだ。


(「CD4」について、説明する。
 人間の血液の中に、白血球という細胞がいる。
 体内に侵入してきた微生物などの異物を食べる細胞だ。
 この白血球のうち、免疫を司るものをリンパ球という。
 「免疫」とは、例えば、抗体(微生物の迎撃ミサイル)を
 作る機能のことなどを言う。)

(で、CD4とは、この場合、「CD4陽性リンパ球」の略称で、
 CD4という蛋白質の「でっぱり」を
 細胞の表面に持っているリンパ球のことを言う。)
 で、この「CD4陽性リンパ球」は、
 免疫機能を発揮する上で、もっとも重要な役割を
 果たしてるのである。)

(で、HIVというウィルスは、
 この「CD4陽性リンパ球」に感染し、
 この細胞を破壊してしまうのだ。
 だから、免疫がなくなってしまい、
 その患者は、結核などの微生物の感染を次々に起こして、
 死亡してしまう。)

(つまり、HIV感染者が、
 どのくらい、HIVに侵(おか)されているか、
 を知りたい場合、
 (すなわち、どのくらいエイズの発症が近いかを知りたい場合)
 残存している「CD4陽性リンパ球」の数を数えればよい、
 ということになる。
 いっぱいあれば、まだ大丈夫だし、
 ほとんど無ければ、まずい、ということになる。
 「CD4陽性リンパ球」が、ほとんどない状態を、
 「エイズ」(後天性免疫不全症候群)と言うのである。)

(で、HIV感染者であっても、
 「CD4陽性リンパ球」の数が、まだいっぱいある場合、
 エイズではないので、抗HIV薬を投与する必要はない。
 通常、総合ビタミン剤(と抗生物質)などを飲んでいるだけである。
 これに対して、
 CD4陽性細胞が、ある程度以上、減ってしまった人は、
 エイズを発症するのが間もないので、
 抗HIV薬を複数使った治療を始める、ということになる。)

(つまり、逆に、「CD4陽性リンパ球」の数を測定できないと、
 抗HIV薬による治療を始めたらいいのか、まだ早いのかを判断できない、
 のである。
 だから、この検査方法がアフリカの田舎でも実施できる、
 しかも、安価で実施できる、ということが非常に重要なのである。)

(以前は、「CD4陽性リンパ球」の数の測定は、
 先進国の大学病院などの立派な病院でしかできなかった。
 だから、アフリカの人は、見殺しだったのである。
 そのうち、アフリカでも首都の大きな病院なら、
 CD4陽性リンパ球の数が、測定可能になった。
 しかし、それでも限られた病院でしかできず、
 かつ、コストが非常に高かった。)

(で、困っていた所に、朗報が飛び込んできたわけである。
 それが、オーストラリアのバーネット研究所で開発された、
 安価で、しかも、迅速に測定できる、
 新型の「CD4測定キット」というわけだ。)

参考:
A reliable and inexpensive easy CD4 assay
Professor Suzanne Crowe : Burnet Institute
http://www.burnet.edu.au/home/cvirology/hivpathogenesislab/crowe


現在、1千万人の人々が、
(自分の「CD4陽性細胞」の数がわからないので)
治療を開始すべきかどうかわからず困っている。

その、1千万人の人たちが
この「CD4測定キット」を手にすることができれば、
救われる。

たった「1ドル」だが、
たった「3分間」でわかるのだが、
治療を開始すべきかどうか、わかるようになる。

この検査方法は非常に簡単で、
コミュニティー・ヘルス・センター
(地域共同体の健康管理施設)で
ヘルス・ワーカー(保健従事者)が行うことができる。

ヘルス・エクステンション・センター
(田舎や僻地にある健康管理施設の出張所)
でもできる。

研究者が努力し、開発した、
新しいテクノロジー(技術)によって、
安く検査ができるようになった。

1千万人の人が、これを待っていたのだ。

現時点におけるテクノロジーでは、
「CD4陽性リンパ球」数の測定には、
7億ドルほどのお金がかかっていた。

(1ドルで、1千万人の検査ができるので、
 1千万ドルですむことになる。
 つまり、70分の1、に予算を削減できる?)

・・・

日本で言いたいことが、もう一つある。
お願いがある。

日本にある、最先端の技術を用いて、
世界全体における、
「予防の革命」と、「治療の革命」に貢献して欲しい。

最初に話した「三つのゼロ」という目標の実現において、
世界のトップをきって頂きたい。

もう一度言います。
「三つのゼロ」の目標とは、

1.新規感染ゼロ
2.差別ゼロ
3.エイズ関連死亡ゼロ

・・・

2009年の東京の新規感染者は、374名。
毎日一人、感染している。
これを、毎日ゼロ、にすればよい。
だから日本は、新規感染ゼロに近いはずだ。
2015年までに東京で達成してくれ。

また、
日本は、もともと、差別ゼロに近い。
他の国ほど、ひどくない。

エイズ関連死ゼロも、
日本の高度な医療レベルがあれば、
無理ではないと思う。

是非とも、世界にさきがけで、
東京で、日本で、達成して欲しい。

「ユニバーサル・アクセス」が実現されている、
この日本で!


・・・
・・・

質疑応答

・・・

質問その1:

エイズ予防財団の木村先生から。

日本の東京が、
「新規感染ゼロ」に一番近いと言ったが、
たしかに母子感染は、現在ほとんどゼロだ。
HAARTへのアクセスも良好だ。

(HAARTとは、
 Highly Active Anti-Retroviral Therapy
 のことで、
 抗HIV薬を複数同時に使うエイズの治療方法。
 非常に高い効果があり、これにより、
 HIV患者は死ぬことはほぼなくなった、とされる。
 エイズは「死の病(やまい)」から
 「慢性病」に変わることになった。)

しかし、統計にあるようにいまだに
新規の感染者が、日本では、毎年、
増えてきている、という現状がある。
努力しているが、おさえられない。

どういう戦略が、良いと思いますか?


回答その1:

ミシェル・シディベより。

第一に、このような公(おおやけ)の場所で、
このゼロという目標を語れること自体、嬉しい。

途上国では、毎年、HIVのために
200万人が死んでいる。

先進国は、まったく違う。
ほとんど死なない。
治療の質が違うのだ。

エイズ関連死亡ゼロ、については、
日本では、決して無理な話ではないと思う。

新規感染者ゼロ、の実現については、
母子感染による子どもの感染は、
日本では、ほぼない。

では東京で何ができるのか、ということをいうのは、
傲慢かもしれないが、
それでも言いたいことがある。

まず大切なことは、
その国における流行の状況を知ることだ。

UNAIDは、3つのことをやっている。

1.疫学調査を行い、実態を知る。

2.そして、どんな形の感染経路か把握する。

3.最新の情報の中の、『最後の100人』をみて、
  それが、どこでどう感染しているのか?

3番目のやつが重要で、
(人にせよ、物にせよ、お金にせよ、
 リソース(資源)は限られているので)
そこに、リソースを配分し、重点的な対策を打つのだ。

つまり、リソース(資源)の配分が重要だ。
効果率が10%しかない所に、
リソース(資源)を90%、投入してはいけない。

限られた資源なのだから。


・・・

質問その2:

セックス・ワーカーの人権に関わっている人より。

セックス・ワーカー(売春婦等)の問題がある。
ウィーンの国際エイズ会議で問題になったのだが、
「人身売買」に関する人は、ブラックリストに載ってしまい、
アメリカに入国できない。

(人身売買は、英語では、
 flesh trade, human trafficking など多様。)

セックス・ワーカーも、
ある意味で、人身売買の一種だと
みなされる場合があるので、やはり入国できない。

国際的な
APNSWなどの
セックスワーカーのネットワークが、
それを問題にしていた。

参考:
Asia Pacific Network of Sex Worker$ : APNSW
http://apnswdollhouse.wordpress.com/

セックスワーカーの問題にとりくむ人は、
人身売買にもとりくむため、
ブラックリストに載ってしまい、
そうした活動家の人も、(アメリカなどに)入国できなくなる。

今度、ワシントンで会議があるが、
入国できず、参加できないかもしれない。

アメリカ政府の、こういった(体質の)問題は、
いろんな国に影響をおよぼしている。
同盟国である、日本にも影響があるだろう。

あなたは、
同性愛者の非犯罪化や、移動の自由について
啓発していたが、
セックス・ワーカーについても
同様の啓発をしてほしい。


回答その2:

ミシェル・シディベより。

セックス・ワーカーの問題については
しっかり取り組もうと思っている。
様々なリスクにさらされている人、
すべてについて考えたい。

HIVは、問題を解決するための
入口にすぎないと思っている。
問題の奥にあるのが、
MSM、セックスワーカー、IDU、などの問題だ。
そこを解決したい。


(実は、この、ミシェル・シディベの回答が、
 彼の個人的な、根本的な方針、かもしれない。
 彼は、もともとエイズだけをやってきた人ではなく、
 ユニセフで働き、様々な現代世界の問題を見てきた人。
 だから、エイズだけが問題だ、などとは思っていないはずだ。
 エイズという、様々な他の社会問題に影響を受ける病気(保健課題)を
 入口(きっかけ)にして、
 実際は、人権の擁護(MSM、IDU、女性、子ども、などの擁護)
 を行いたいと思っているのではないか、と思う。
 そのために、「エイズという問題を利用している」のかもしれない。)


パプアニューギニアで、
セックスワーカーのグループと会議をもった。

セックスワーカーと人身売買を混同している人が多い。
正確な情報が必要だ。
ニューヨークで問題になった。

セックスワークと、その他の線引きができない。
その部分を明確に切り分けるのが大変だった。

まずはそこから始めたいと思う。


・・・

質問その3:

ユニセフに勤務する日本人男性からの質問。
(元ミシェル・シディベの同僚だった人。)

安い薬、安い検査薬。
その開発が重要だと言うことは、
ユニセフでも話題になった。
子どもの肺炎を治すための、抗生物質などについても。

しかし、現在、世界は経済危機にあり、予算がこない。
それが問題になっている。

さて、それはともかくとして、質問は、
「トリートメント2.0」という話について、ききたい。

まず、
安価な迅速検査ができる「CD4検査キット」が
開発された、と聞いた。
これは、「診断」に関係するものだ。

また、
「マイクロビサイド」という「膣ジェル」で、
女性がHIV感染を50%防げるようになった、
と聞いた。
これは、「予防」に関係するものだ。

では、
「治療」では、何か「新しい技術やアイデア」はあるのか?

例えば、
アフリカの保健従事者が、医者ではない人が、
薬を投与する、ということを言っていたが、

以前、ユニセフでも、
肺炎の薬を医師以外の人が処方することの是非で議論になった。

これについては、医師が強く反対した。
大きく反対された。
これについて、どう思うか?


回答・その3:

ミシェル・シディベより。

「トリートメント2.0」には、二つの大きな問題がある。

1.医療の資材や薬剤を(安く)買うことができるか。
 高すぎる。安くする必要がある。

2.現在の治療の在り方を、シンプルにしたい。
 シンプルで、効果が高いものに。
 モニター(監視)が必要で、複雑な治療が多い。
 また、それにかかる費用が高すぎる。
 
新薬ではない、ジェネリック薬を開発する場合でも、まだ高い。
まずは、第一選択薬で、
安い薬を作っていきたいと思っている。


後半の質問についてだが、
人材の問題がある。

保健医療にたずさわろうという人々は、
少なくなってきている。

多くの国で、人材の流出が起きている。
他の国へ移動してしまう。
または、その地域で従事したくない、という人が多い。

(アフリカで、医者や看護師になれるような人は、
 もともと家がお金持ちのエリートなので、
 貧乏人のアフリカの患者などを相手にせず、
 ヨーロッパなどに移動してしまうことが多い。
 つまり、医者や看護師は、アフリカに残らない、のである。)

そして、そのために
「タスク・シフティング」"task shifting "
が起こってきている。
必要となっている。

参考:
Task-shifting HIV counselling and testing services
http://www.human-resources-health.com/content/7/1/44


医師の監督のもとで
医師の仕事を他の人がやる、ということだ。

例えば、
保健従事者が、子どもの健康診断をする。
この時、携帯電話を使うのだ。

SMSという短いメールを使い、
遠隔地(首都など)にいる医師と連絡をとる。

(SMSとは、ショートメッセージサービス(Short Message Service))

首都にいる医師から、すぐに、返事がくる。
医師と連絡をしながら、
田舎にいる保健従事者が、子どもの健康診断をするのだ。

このように
モバイル・フォーン(携帯電話)は非常に有用だ。

最先端のテクノロジーを用いることも大切。
今、アフリカのほうが、北米よりも、
携帯電話の使用率が高い。

(固定電話がないからだが。)

携帯電話は、革命だった。
これで、医療に貢献できると思う。

・・・

質問その4:

治療について、ウィーンの国際エイズ会議で
議論になったことがある。

いきなり、ARTをつかっていきましょう、
ということになった。
早期に使っていこうと。

(ARTとは、antiretroviral therapy
 抗レトロウイルス薬のことで、
 HIVを含むレトロウィルス群のウィルスに有効な薬のこと、
 または、それを使った治療方法のことを言う。)

(抗HIV薬も、ARTの一つである。
 と、言うか、今回のブログでは、
 専門用語である、ARTに代えて、ここまで、
 一般の人にわかりやすいように、抗HIV薬、
 と書いてきたのだが、
 実際は、医学の世界では、
 抗HIV薬ではなく、ARTと呼ぶのが一般的。
 WHOなどの国際協力の世界でも、ARTという言葉を使っている。)


CD4のカウント(数)に関係なく、ARTを使っていく??

それに対して、UNAIDSは、
どういう立場をとるか?
賛成か、反対か?

prevention revolution(予防革命)に、
ARTは入ってくるのか?


回答その4:

ミシェル・シディベより。

つまり、治療とは、
予防の一貫の中で行われるべき、項目の一つだ、
と考えている。

1992年の段階で、
母子感染については、既にARTは、効果があった。

(妊娠中の母親に抗HIV薬を投与すれば、
 通常35%の乳児がHIVに感染してしまう所を、
 1%前後にまで下げることができる。)

現在は、まず、分析をおこないたい。
実際、何がおこっているのか。

ボツワナでは、
感染している人のほぼ100%が治療をうけている。
それなのに
なぜ、新生児に感染してしまうケースがあるのか?

感染してから、治療をするまでの間に、
ウィルスの力が強くなったようだ。

その時に、他の人に感染を起こしてしまっている
のかもしれない。

科学的な手法で、体系的なアプローチが必要だと思う。

ともかく、
affordability(値ごろ感、手軽な料金で入手できること)
accessibility(近づきやすさ、入手のしやすさ)

この二つが常に問題になる。


(この回答は、質問の回答に、さっぱりなっていない。
 自分の組織に都合の悪いことは、答えないのが、
 国連の事務局長に、就職できる「資質」なので、
 彼の立場を考えると、これで正解か。
 わけのわからないことを言って,煙(けむ)に巻く、
 という手法だ。)

(公平な解説を加えるとすると、
 UNAIDSは、まだ、
 CD4のカウント(数の測定)をせずに、
 いきなり、ART(抗HIV薬)の使用をすることに対して、
 まだ、公式見解を持っていない、ということだろう。
 このため、迂闊なことを言わないようにした、
 と推察できる。)
 

・・・

質問その5:

今年の、12月1日(世界エイズデー)の、
UNAIDSの標語は?


回答その5:

世界では、
Universal access, Human rights
(ユニバーサル・アクセスと、人権)

日本では、
続けよう
keep the promise, keep your life
(約束を守り、あなた自身の命を守り続けよう。)

・・・

最後の言葉:

ミシェル・シディベより。


1ドルで、CD4の数がわかるようになった。
これは、オーストラリアの研究の成果だ。

途上国でもできる、
安価で、簡便な方法が生み出された。

こうした研究が大切だ。
是非、日本の皆さんも、そうした方向で
活動をしていって欲しい。







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山本の補足:

ミシェル・シディベは、
HIVの新規の罹患率は下がった、ということを
ここ数年の功績として強調していたが、
実際の状況は悪化している。

理由は、
様々な予防対策により、新規の感染者数は年々減っているが、
一方で、皮肉なことに
抗HIV薬の普及により、
HIV感染者もエイズ患者も、死ななくなった。

つまり、
HIV感染者は死ななくなったので、増える一方、になってしまったのだ。

だから、
毎年の、新規感染者の数が、多少、減ったところで、
既にHIVに感染してしまっている人の数は減らないため、
世界全体として、
HIVに感染している人の数は、年々、増えているのである。

具体的には、
2001年に、2900万人だったのが、
15%増加して、
2008年には、3340万人になっている。

新規の感染者数が多少減っても、
既に感染した人が死なないので、
ちょっとでも新規の感染者がいる限り、
HIV感染者の数は、増え続ける、ということである。

このため、重大な問題が起こっている。

それは、(治療に必要な)「予算」である。

第一選択(ファースト・ライン)の、しかもジェネリック薬を使っても
一人あたり、年間8千円。

第二選択薬なら、年間10万円、
第三選択薬なら、年間700万円だ。

で、現在、500万人が治療を受けているが、
HIVの耐性化などによって、
第一ではなく、第二・第三を使うケースが増えてきている。

さらに、講演で紹介されていた
安価で迅速な「CD4検査キット」が普及した場合、
最大、1千万人ほど、治療を受ける人が増える可能性がある。
つまり、一気に3倍に増えるのだ。

このような状況で、
「持続可能な」予算の獲得をしていくことは、非常に難しかったのだが、

とどめをさしたのが、
2007年以降の世界経済不況であり、
各国からのエイズ対策への拠出金が減っている。


以上より、
ミシェル・シディベは、

1)治療より安くすむことがわかっている予防に、ともかく力を入れる、
2)安い検査方法を開発し、
3)安い薬(治療方法)を開発し、
4)安い人件費で済むように、医者でなく、村の保健従事者を使う、

などのことを
主張していたわけである。