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2010年9月2日に、
東京大学医科学研究所において、
「UNAIDS(国連合同エイズ計画)の新事務局長の講演」
の前に、
「NPO法人ぷれいす東京の、生島嗣(いくしまゆずる)さん」が
日本におけるHIV/エイズの現状と対策について短い講演をした。

その生島さんの話をまとめておく。

(山本による注釈は、全て(括弧内)に書くことで、区別した。)

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最初に、
厚生労働省・健康局疾病対策課の人の挨拶(前置き)。


我が国の動向だが、昨年(2009年)1年間で、
1021件のHIV(新規)感染者が報告され、
431件のエイズ患者の発症が確認された。

(日本では、2007年以降、
 毎年1000人を超える数の人が新規感染しており、
 増え続けている。)

我が国における累計では、ついに、1万5千件を突破した。

世界では、
世界のすべての地域でHIV感染者は増え続けている。
特に東アジアでひどい。
2010年に、中国は、
HIV感染者が1千万人を超える見込み。

(中国から日本への来訪者は多いので
 その影響が日本にあるかもしれない。)


参考:
厚生労働省:健康
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/index.html

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生島 嗣(いくしま ゆずる)の講演
(NPO法人・ぷれいす東京)

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「HIVを持っている人も、
 そうじゃない人も、
 ぼくらはもう、この街でいっしょに生きている」

「REAL, living together」
(現実に、私たちは、もう既に、いっしょに生きているのです。)


HIVマップ
http://www.hiv-map.net/

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HIV感染者(エイズを未発症の人)の、
新規感染の報告の数(罹患数)は、
日本では年々増え続けている。

(世界全体では罹患数は減っているのに、
 日本は増え続けている。)

新規HIV感染者の内訳は、
30歳代、20歳代、40歳代の順に多く、
30歳代と20歳代で、7割を占める。

エイズ患者(エイズを発症した人)の、
新規発症の報告の数は、
日本では、ほぼ年々増え続けている。
(ただし、昨年(2009年)は微減した?)
30歳代と40歳代で、6割を占める。

(ちなみに、HIVに感染しただけではエイズとは言わない。
 HIVがリンパ球をどんどん壊していき、
 『CD4陽性リンパ球』と呼ばれる細胞が
 ある一定数以下になると、免疫力がなくなり、
 結核やある種の癌、肺炎やヘルペスなどを次々に発症するようになる。
 ここまで病状が進行した場合を、エイズと言う。)

エイズによる死亡例は、
1990年代前半まで増加していたが、
1996年にHAART(ハート治療法)
(Highly Active Anti-Retroviral Therapy)
が導入されてから激減した。

日本で、年間100例ぐらいあった死亡が、
2008年には18例程度に減少。

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「どこで、HIV感染に気付くのか?」

厚生労働省の研究グループ、今井光信の調査によると、
58.5%が、一般医療機関
33.9%が、保健所・検査所


エイズ患者・HIV感染者が増え続けている 今井光信
http://health.goo.ne.jp/column/healthy/h003/0089.html

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「ぷれいす東京」とは、

1993年に、
代表の池上千寿子が、
横浜国際エイズ会議に参加した時に誕生。

HIVとともに生きる人たちが、
生活しやすい地域社会づくりを目指して活動している。

参考:
NPO法人・ぷれいす東京
http://www.ptokyo.com/

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「HIV感染を知った当日の、本人の語り」
(様々な人の、とまどい)


まさか陽性とは思っていなかったので混乱している。

インターネットでHIV検査キットを買って検査したら、
薄く(陽性の場所に)ライン(線)が出た。
どうしたらいいのか?

医療費が(いくらになるか)不安だ。

近くに(エイズ専門の)拠点病院がないが、大丈夫か?
(どこの病院に行ってもいいものなのか?)

医者から(性交の)パートナーも検査を受けるよう言われた。
(言わないといけないのだろうか?)

親に伝えた方がいいのか? 会社には?

スクリーニング(ふるいわけ)検査で陽性だった。
確認検査をするように言われたが、怖くて行っていない。

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厚生労働省エイズ対策研究事業
「地域におけるHIV陽性者等支援のための研究」
による
「HIV陽性者の社会生活に関する全国実態調査」
によると、

男性が(HIV感染者の)94%。
60歳未満が9割以上。

男性の感染経路は、
75%が、同性間の性的接触。

女性の感染経路は、
76%が、異性間の性的接触。

それら以外の感染経路は、
血液凝固因子製剤(血友病等の治療)、
輸血、
(麻薬等使用者の)注射器回し打ち、など。


(以上を見ればわかるが、
 日本におけるHIVの新規感染は、
 94%以上が、男性の同性愛者による性的接触、
 ということになる。
 よって日本で、予防措置を効率的にとりたい場合、
 こうした行為を行う人々に集中的に
 HIVの危険性とその予防方法に関する情報を
 与えるが良い、といことになる。)


参考:
HIV検査・相談マップ
HIV・エイズ(AIDS)・性感染症の検査・相談窓口情報サイト
厚生労働省・科学研究費・エイズ対策研究事業
「HIV検査相談体制の充実と活用に関する研究」(研究代表者:加藤真吾)
http://www.hivkensa.com/

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首都圏エイズ予防のための戦略研究体制
によると、
やはり、ゲイやMSMに予防啓発を呼び掛ける方針。

MSMとは、
Men who have Sex with Men(男性と性交する男性)
のこと。

(ゲイ向けの)商業施設での広報を重視。
ゲイバー、クラブ、発展場(ハッテン場)など。

(発展場(ハッテン場)とは、
 男性同性愛者が、性行為の相手を求めて集まり、
 性行為を行う場所。
 英語では、Gay cruising spot。
 有料の店舗などの場合と、
 無料の公園などの場合がある。)


それらの場所で、HIV検査を受けることを勧める
キャンペーンを行う。

なお、
自分がHIVに感染しているとわかっているMSMは、
約4000人(東京)。

一方、
自分がHIVに感染していると気付いていないMSMは、
未知数。

(いったい、どのくらいいるのか、検討もつかない。)

(日本のHIV感染者およびエイズ患者の累計は、
 2009年末で、1万6千人ぐらいだが、これは、報告のあった数。
 実際に、社会でどのくらいの人が感染しているかは、
 全くわからない。
 国民全員に強制的にHIV検査を受けさせない限り、
 わかりようがない。
 おそらく、報告された数の10倍ぐらい、と言われている。)

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「感染しているなら早く知ってほしい。
 そう思う、たくさんの理由があります。」


参考:
HIVマップ すぐに役立つHIV(エイズ)の情報サイト
「エイズ予防のための戦略研究 MSM首都圏グループ」
http://www.hiv-map.net/

この「HIVマップ」というサイトを作ったら、
1日あたり、800件前後のアクセスがあった。

(1日あたり、500〜1200件の間のアクセス。)

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HIV/エイズ動向委員会の累計報告(2007年末)
によると、

全国では、
HIV感染者は、9392人、
エイズ患者は、4450人。

この二つを加算した合計は、13,842人。

このうち、MSMは、5724人。
MSMの割合を算出すると、41.3%。

このMSMの割合は、
東京では56%、千葉では17%と、
地域によって、大きなバラツキがある。

これは、
実態がそうなっているわけではなく、
MSMの人が、検査を受けやすい状況に
なっているかどうか、によって、
統計結果が大きく変わっている可能性がある。

わかりやすく言えば、千葉では
MSMの人がHIV検査を受けられる所がないか、
あっても、それを知る方法がない、ということ。
または、
そうした情報を与えるための啓発活動が、
十分ではない、ということになる。

また、これに関連して、以下の「声」もある。
それは、「地元では行けない」ということ。

つまり、千葉に住んでいても、
地元で行くのは恥ずかしいので、
遠く離れた東京の病院で検査を受ける。

(また、東京にはエイズ専門の病院として
 有名な病院が多い。)

その結果、東京で、
「MSMであるHIV陽性者の報告例」が増える、
という現象が起こる。

(ちなみに、
 HIV/AIDS の専門医がいる病院を
 エイズ診療拠点病院またはエイズ診療連携病院という。
 この二つを合わせて、
 「エイズ診療協力病院」といい、
 以下にリストがある。)


エイズ拠点病院情報API-Net エイズ予防情報ネット
http://api-net.jfap.or.jp/inspection/bases.html

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年代ごとのHIV検査の受験率で問題になっているのが、
50歳代以降。

この世代は、インターネットから情報を得ないので、
HIV検査に関する情報を得る機会が少ない。

また、
「HIVに感染している可能性がないから」
と言って、リアリティー(現実)から逃げている。

一方、
若い人が、HIV検査を受けない理由としては、

「検査を受けるのに、
 ゲイ・バイセクシュアルであると説明するのが面倒だから」

「検査の結果を知るのが怖いから」
など。

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クロス・メディア・プロモーション
という方法で、啓発している。

1.メディア(NHK、FM東京、ゲイ雑誌3誌)
2.バーチャル(HIVマップなどのホームページ)
3.リアル(ゲイバー500軒、発展場70軒など)

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ゲイとMSMの人口を推計する調査が行われた。

2008年3月31日時点の「住民基本台帳」をベースに、
「層化2段無作為抽出法」によりサンプルマスターを作成。
20〜50歳の男性人口から、3700の標本(サンプル)を得た。

そして、回収率は45%で、1659人から回答を得た。

その結果、
(1)同性に魅力を感じる男性は、3.7%
(2)同性との性行為経験がある男性は、2.0%
だった。

そこで、母集団に戻って考えると、

20〜59歳の全国男性人口は、
2005年の国勢調査によると、
34,140、037人。

上記の調査より、MSMの割合は2.0%だったので、
推定MSM人口は全国で、682,801人。

(要するに、日本に、MSMは、約70万人。
 ゲイは、約130万人。)


さて次に、
これまで厚生労働省に報告されているHIV陽性者の数は、
(2008年エイズ発生動向年報によると)

MSMの場合、
HIV感染者は、4731人
エイズ発症者は、1290人、
合計、6021人

MSMでない男性の場合、
HIV感染者は、2416人
エイズ発症者は、1930人、
合計、4346人

以上から、有病率(10万人あたり)を計算すると、

MSMの場合、
HIV感染者の有病率は、692.9(10万人あたり)
エイズ発症者の有病率は、188.9(10万人あたり)

MSMでない男性の場合、
HIV感染者の有病率は、  7.2(10万人あたり)
エイズ発症者の有病率は、  5.8(10万人あたり)


つまり、
HIV感染者の有病率を見た場合、
MSMの男性は、そうでない男性の、
『100倍、有病率が高い』

以上より、
積極的なMSMへのHIV感染対策が必要!


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ピア・サポートも、行われている。

(ピア・サポート"peer support"とは、
 HIV陽性者などの同じ立場の人同士が、
 情報交換や交流ができるミーティング(会合)。
 ピアとは、同じ立場の人、という意味。
 つまり、まず一人の、
 ゲイやMSMの人に、賛同してもらい、
 その人から、他のゲイやMSMの人に、
 予防啓発を行ってもらったり、
 HIV検査を受けることを勧めてもらったりすること。)

(ちなみに、このピア・エデュケーションは、
 HIVの世界に限らず、
 国際協力の世界全体で使われている。
 また、
 通常の初頭教育・高等教育の分野でも
 最近、使われるようになった。)


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このピア・サポートにあたるのが
「ゲイ・NGO」の存在。

ゲイの人々自身が作ったNGOで、
その啓発活動により、
「検査行動」にも「予防行動」にも
変化がみられている。

具体的には、
クラブにおいて、
HIV関連のイベントを東京で行ったところ、
HIV検査の受検者の割合が、
2001年には、25%だったが、
2009年には、47%まで上昇した。

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今後の課題としては、
MSMに対する啓発活動をするための
活動量(人力、資材量、予算)が、
すでに飽和に達しており、足りない。

今後、活動を維持・活性化するための
施策を、政府は施行するべきだと思う。



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質疑応答。

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質問:

日本の場合、MSMへの啓発が大事なんだろうか?


回答:

MSMへの戦略は大切だ。
ただ、難しいのは、
すべての「男性と性交をする男性」(MSM)が、
自分の、そうした傾向を受け入れているわけではない。
人権への配慮が必要だ。
様々な人の多様性を受け入れる土台を、まず社会に作ることが先。
エイズの予防啓発だけでなく、その組み合わせが必要。
ゲイバーをたずねていくと、
「私たちには、関係ないから」
という門前払いをされることが多かった。
まだまだ難しい状況にある。
ただ単に「HIV検査をすすめる」だけでは難しい。
複合的ないろんなキャンペーンを同時におこなうことが大切だ。