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2010年10月現在、
生物多様性条約・締約国会議と、その関連会合が
日本の名古屋で行われているので、
この議題に関してつぶやいた、私のツイートを
まとめてブログにアップしておきます。

そのうち、統合した文章にもする予定ですが、
まずは、断片的な記事の状態でもアップしておきます。

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そもそも、種とは?

生物多様性を考える前に、そもそも「種」(しゅ)とは何か。歴史的には生物学者が(見た目による、主観の入った)形態に基づいて分類したもの。が、ある種の微生物ではこれを適応できない。細胞膜や核膜がなく遺伝子のみで存在するウイロイド(RNAのみ)は形態がない。つまり、種の定義は曖昧なのだ

自然界で、その種の個体数が減少したり、生息地が縮小したりすると、近親交配が起こりやすくなり、遺伝的な多様性が失われる。すると病気や環境の変化に適応しにくくなると言われている。このように、生物多様性を考える時、『種の多様性』だけでなく、一つの種の中での『遺伝的多様性』も重要である。


現在の状況

生物の絶滅速度はここ数百年で1千倍に。1日に100種以上、毎年4万種が絶滅。2年に一度、生物多様性条約・締約国会議を開催。アメリカは条約未締結でオブザーバー。2020年までに達成すべき多様性の損失を止める目標「名古屋ターゲット」や、遺伝資源利用の国際ルール「名古屋議定書」の採択を


生物多様性条約(CBD)と締約国会議(COP)

生物多様性条約3つの目的は、1)生物多様性の保全、2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用 、3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分。実際の議論は、A)生物資源を途上国から先進国に持っていき商品を作った時の利益配分、B)遺伝子操作した農作物が悪影響を起こした時の補償

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)及びカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)日本政府公式ウェブサイトの開設。外務省などが広報を開始した「COP10-COP-MOP5 生物多様性条約COP10日本公式ウェブサイト」 http://www.cop10.go.jp/

COP10のロゴマークは、(多数の動物や植物の形をした)折り紙を円形に配置。中央に人間を配することにより、人類と多様な生物との共生を表現。中央の人間の親子は豊かな生物多様性を将来に引き継ぐ意図 http://www.origamihouse.jp/works/cop10.html

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を前に、10年後の未来に向けたメッセージを添え動物や植物の折り紙を作る「おりがみプロジェクト」が進行。世界最大の自然保護団体「国際自然保護連合(IUCN)」の日本委員会が実施 http://www.cop10-origami.com/


生物多様性条約・締約国会議の、前哨戦と本会議

2010年10月に名古屋で開かれる生物多様性条約・第10回締約国会議(COP10)で合意を得るためには事前の作業部会である程度原案を決める必要があった。しかし3月のコロンビア会議は決裂。議長国である日本は、このままではまずいと判断し、六千万円を負担してモントリオール会議を臨時開催

生物多様性条約の作業部会が7月中旬モントリオールで開かれ遺伝資源の提供国に利益を公平に配分することを求める国際ルール「名古屋議定書」の原案が作成された。しかしほとんどの項目で資源国と途上国が対立し原案の中に両論が併記された。適用範囲などをめぐっての具体的な部分は何も決まらなかった

生物多様性条約(CBD)・第10回締約国会議(COP10)は、2010年10月11日から15日までの関連会合に続き18日から本会議、27日から閣僚級会合、29日に終了。遺伝資源の利益配分を巡って途上国と先進国が対立、名古屋議定書の原案作成において約400か所で意見が一致していない

COP10での採択をめぐって、日本国内でも省庁間の思惑が対立している。外務省と環境省は、名古屋議定書でなんらかの採択をすることができれば「成果」ととらえる方向。しかし、文部科学省と経産省などは、遺伝資源を利用する研究者や企業の経済活動への影響を懸念し、安易な採択に警戒を強めている


生物多様性と生態系サービスについての政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)

"IPBES"とは、「生物多様性と生態系サービスに関する科学-政策政府間プラットフォーム」(Intergovernmental Science and Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)。2010年秋発足

生物多様性版IPCCが今秋国連で発足。2001〜05年、世界中の科学者が参加した「ミレニアム生態系評価(MA)」、05〜08年、IMoSEB(生物多様性に関する科学専門家国際メカニズム)、08年より、IPBES(生物多様性と生態系サービスに関する科学-政策政府間プラットフォーム)

生物多様性の保全をテーマにした初めての国連首脳級会合が2010年9月22日に開催。冒頭で前原誠司外相が提案。1)今後10年間を生態系保全のための集中的な行動期間「国連生物多様性の10年」、2)「生物多様性と生態系サービスについての政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」設置


環境破壊と絶滅危惧種、その保護

「世界の海から魚がいなくなる」。海洋学者リチャード・エリスによれば解決策の一つは養殖だがコストのかかるビジネスで生態学的にも正常ではない。特定の場所だけで魚を飼うと糞による水質汚染で他の生物を殺す。養殖サケを1ポンド肥やすのに餌として天然魚3ポンドを消費する。より良い養殖法が必要

「サンゴ礁は生物多様性の宝庫。サンゴ礁の面積は、海全体の0.2%しかないが、海の生物の25%が生息している。そのサンゴ礁が環境汚染により「白化」"coral bleaching"を起こしている。「生命のサンゴ礁」長島敏春写真展9月20日午後4時まで。新宿ニコンサロン(エルタワー)

タラ(鱈)は、1970年以降、大西洋で急激に漁獲量が減った。400万トンあった年漁獲量は1990年には150 万トン以下に減少。1992年カナダ政府はタラを禁漁に。4万人が職を失って経済に打撃。代わりに(タラとほぼ同じ味を持つ)南極海の「メロ」を乱獲した所あっと言うまに絶命の危機

スケトウダラの漁獲量は、日本では、1972年に300万トンあったが、2005年20万トン未満に減少(15分の1以下)。世界全体でも、1986年に680万トンあったものが、2005年は280万トンに減少。スケトウダラは北太平洋で生態系の重要な構成要素。生態系の、鍵(キーストーン)種

「マグロなどの魚が年々減っています。みなさんが大きくなる頃にはマグロを食べれなくなるかもしれません。どうしたら良いと思いますか?」昨日、名古屋の生物多様性条約COP10の関連イベントで子どもに授業(?)をした。その中で上記の質問をした。子どもの回答は「妊娠してる魚をとらないこと」

国際資源管理機関「中西部太平洋マグロ類委員会」(WCPFC)国際科学委員会は、「中西部太平洋のクロマグロに関し、産卵能力のある親マグロは、90年代なかば以降、ほぼ一貫して減っている」と報告。今後、1〜4歳の若いマグロの漁獲量を減らすよう、各国に指示した。総漁獲量の7割以上が日本。

ワシントン条約は1975年に発効した「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。絶滅危惧種の保護が目的だが人間の経済活動に関係するもののみを対象とする法律。今年3月、大西洋・地中海産クロマグロの国際取引を禁止する議題でたが日本等が反対して否決。日本は資源管理の責任

日本が捕鯨を続ける理由は二つ。1)絶滅しないよう管理すれば水産資源利用してよい象徴。鯨が捕獲禁止になるとマグロ等に波及する恐れ。2)1986年米国が日本に捕鯨を止めないと米国200海里で日本漁船操業禁止を示唆。で従ったのに結局米国はそれを実施。日本は一兎を守ろうとして二兎を失った


マングローブとは、1)潮間帯(潮(しお)の満ち引きにおいて、干潮線と満潮線の間)に生育する樹木の総称。または、2)海水と淡水が入り交じる沿岸に生育する植物群の総称。大気中に根を出し、呼吸する。根の形状により、支柱根、筍根(じゅんこん)、膝根(しっこん)、板根(ばんこん)などに分類

マングローブは熱帯・亜熱帯地方の海岸線や河口域に繁茂する植物群の総称。海中に落ちたマングローブの葉や種子は底生動物(カニ・貝など)の食糧になるほか、海底に沈んで分解し微生物や藻類を発生。これが小動物の餌に。小動物を大きな魚類が喰う。さらに昆虫類・鳥類・爬虫類・哺乳類が食べ食物連鎖

TEEBの政策立案者向け提言の例。タイ南部のマングローブを切り開いて造ったエビ養殖場は、1,200ドル/ha(ヘクタール)の収益を上げる。しかしこれはマングローブ林から得られた木材の供給や漁業収益、沿岸保護の損失コスト(12,000ドル/ha)を考慮していない。つまり10倍の損失


バングラデシュには川がたくさんあり、水が豊富。だから、「水のように安い」という「言いまわし」があった。しかしそれは過去のもの。急激な工業化のため、川の水が工業用水に回される。その工場から出る「汚い排水」が川に流され、残り少ない水を汚染。人々の生活用水の減少と、川の生物多様性が崩壊

チャド湖とは、東のチャドと、西のニジェール、ナイジェリア等の間にある湖。琵琶湖の40倍の面積があったが、この40年間で面積が20分の1に減少。原因は、1)人口増加による農業開発のための灌漑、2)地球温暖化による気候変動。120種の魚たちとともに今世紀中に枯渇するのが確実とされる。

アラル海とは、北のカザフスタンと南のウズベキスタンの間にある塩水湖。1940年代ソ連の自然改造計画により、1960年代綿花畑に水を引いたため縮小。1990年頃、北の小アラルと南の大アラルに分断。コカラル堤防建設により小アラルを存続させ大アラルを見捨てる方向。20世紀最大の環境破壊

枯渇してゆき南北に分断されたアラル海のうちシルダリヤ川からの流入があり回復の可能性がある北の小アラルに対しカザフスタン政府は世界銀行から百億円の融資を受け2003年に堤防建設開始。2005年コカラル堤防(コカラルダム)完成。南の大アラルはアムダリヤ川からの流入がないため枯渇が確実

「アラル海流域の環境資源再生と生物多様性保全計画のためのシナリオ」。大規模潅漑農業がもたらした影響に関しこれまでにえられたデータをGIS(地理情報システム)にまとめ「自然立地にもとづく生物資源環境修復」「広域の水循環システムへの配慮」など再生シナリオを考案。大阪府立大学農学生命科

GISとは、地理情報システム(Geographic Information System)のこと。地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータを総合的に管理・加工し視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術。2007年、地理空間情報活用推進基本法が国会で制定


セラード(カンポ・セラード)とは、(日本の面積の5倍以上ある)ブラジルにある平原。1979年より国際協力事業団(現JICA)が大豆やコーヒー豆の農業開発。2007年頃よりアメリカのバイオエタノール需要の影響でサトウキビ栽培。16万種以上の生物多様性があったが既に57%の植生が破壊

遺伝学上人間に最も近いチンパンジーが約50年で絶滅の危機にあると全アフリカ保護施設連合(PASA)が発表。4種類に分類されるチンパンジーのうち最も厳しい状況にある「ナイジェリアチンパンジー」は8千匹しか残っておらず20年で絶滅の恐れ。原因は食肉用の狩猟や生息地の森林破壊、伝染病等


IUCNとは、国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)。1948年に設立。111の政府機関と874の非政府機関などが集合。2009年、日本にプロジェクトオフィス開設

IUCN(国際自然保護連合)の活動の一つは、レッドリスト(絶滅の恐れのある生物種のリスト)"IUCN Red List"の作成。現在約1万7千種の動植物が絶滅の危機にあると報告。 http://www.iucn.jp/protection/species/redlist.html

IUCN(国際自然保護連合)の絶滅危惧種リストで、ミナミマグロは「絶滅の恐れが極めて高い」とされている。メバチマグロも絶滅危惧種の一つ。フカヒレスープの飲みすぎか、サメの3分の1が絶滅危惧種に指定(ウバザメ、アカシュモクザメ、シロシュモクザメなど)。タラ、スケトウダラの数も激減。


クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金(CEPF)とは、生物多様性が脅かされるホットスポットを保護するための基金。世界銀行、コンサベーション・インターナショナル、地球環境ファシリティーが共同で2000年に発足。2001年にマッカーサー財団、2002年に日本政府が参加した


生物資源・遺伝資源の持続的利用、経済価値、企業の社会的責任(CSR)

生物多様性と、世界と日本のつながりの、両方を見るなら、築地市場が最適。1日に取引される海産物の種類は、480種。イカは、イエメン、オマーンから。タコはモーリシャスから。クロマグロは、マルタ、クロアチア、スペインから。エビは、インドネシア、ベトナム、アルゼンチン、アイスランドから。

生物多様性で議論される生物資源。虫歯予防に効果のあるガムに使われている、キシリトールは、元々、白樺などのカバノキ属の樹木から採取された。ダイエットに使用される低カロリー甘味料の、ステビアは、パラグアイを始めとする南米原産のキク科の多年草。1971年に大阪の企業が世界で初めて商品化

内科医が入院患者に頻繁に使用する薬の一つが、「強力ネオミノファーゲンシー」という注射薬。略して『強ミノ』という。肝障害およびアレルギー関連疾患の際に使用するので用途が広い。成分のグリチルリチンの原料が、甘草(カンゾウ)という植物。中国、旧ソ連諸国、アフガニスタンから輸入している。

2010年は、10月に生物多様性条約・締約国会議(COP10)が開催され、12月に企業の社会的責任(CSR)分野のISO 規格「ISO26000」の発行が予定されている。この流れのため、生物多様性の概念がISO26000にも入る方向だが、きつく入れるか、ゆるく入れるかでもめている

生物多様性のリスク管理に使える「生物多様性統合アセスメントツール」(IBAT)は、国連環境計画(UNEP)、バードライフ・インターナショナル、コンサベーション・インターナショナル(CI)、国際自然保護連合(IUCN)の4つの自然保護団体が共同で実施。無数にあったデータを統合した。

IBATとは、生物多様性統合アセスメントツール(Integrated Biodiversity Assessment Tool )。世界各地の情報を統合し提供。国連環境計画、国際自然保護連合(IUCN)、コンサベーション・インターナショナル、バードライフ・インターナショナルが共同

国連環境計画の世界自然保護モニタリングセンター(UNEP-WCMC)は、生物多様性情報を統合したデータベース、「生物多様性統合アセスメントツール」(IBAT)を開発。IBATは、世界各地の生物多様性や生息地に関する具体的情報を提供。企業等がプロジェクトの立案段階でリスク評価に使用


東芝は事業と生物多様性との関わりの評価を拡充。外部コンサルティング会社と連携し工場の立地と生物多様性の関連性調査を2010年度中に実施。工場排水については実際の生物を使った試験(WET)で生態系への影響を分析。生産工程全般については日本版被害算定型影響評価手法(LIME)で評価。

WETとは、排水の「生態毒性影響試験」(Whole Effluent Toxicity test)のこと。少なくとも3種類以上の生物を用いて、排水の毒性試験を行う。生態学的な位置づけを考慮し、感度、再現性、代表性から、藻類・淡水性甲殻類(ミジンコ)・海産エビ類・淡水魚類・海産魚類

LIMEとは、「日本版被害算定型影響評価手法」(Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)。製品の様々な環境影響を被害金額という形で統合し単一指標化。コンジョイント分析という経済価値分析手法を使用


富士通が、企業活動における生物多様性への影響と貢献度を定量的に評価する指標、「富士通グループ生物多様性統合指標」を作成。企業活動全体(製品・事業のライフサイクル、土地利用/貢献、社会への貢献)での影響度と貢献度について評価する目的。2012年度末までに2009年度比で3%削減する

富士通が2010年グリーン購入大賞を受賞。取引先の生物多様性保全の取り組み度を図る独自の指標(生物多様性ガイドライン)を策定することで、取引先が具体的な目標をもって活動することを奨励。この賞はグリーン購入ネットワーク主催、環境省、経済産業省、WWFジャパン、読売・毎日新聞等が後援


足立直樹。1965年生。株式会社レスポンスアビリティ代表。東京大学理学部同大学院で生態学を学び理学博士。国立環境研究所で熱帯林の研究。マレーシア森林研究所を経て独立。企業に対し「どうすれば持続可能な社会に貢献できるか」というコンサル。環境省生物多様性企業活動ガイドライン検討会委員

「メディアが生物多様性を取り上げることが多くなった。しかし経済的影響をきちんと取材していることは稀でステレオタイプ的。企業にとって生物多様性が重要なのは遺伝子資源だけでなく生物資源全般がこれからの産業を支える持続可能な資源でそれを確保し活用することこそ今後の企業の命運」 足立直樹

「アメリカなどでは、システム生態学という分野があり、生物の世界を体系的に捉え様々な法則を見つける。自然の世界はこうなってる、どういうふうに管理したらいいか、ということを自然科学的に解明していく。日本の生態学は博物学の延長。1つ1つの植物が、動物がどういう生活しているか」 足立直樹


生態系と生物多様性の経済学(TEEB)

「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB : The Economics of Ecosystems and Biodiversity study )とは、生態系の破壊や生物多様性の減少がもたらす経済学的な被害を定量的評価する枠組み http://www.teebweb.org/

「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)は、熱帯雨林の違法伐採や水質汚染など生態系の劣化が農産物の収穫量の減少、観光資源に及ぼす被害を経済的損失として過去十年間で毎年170兆円から最大380兆円。このため毎年、世界のGDPの0・1%にあたる3兆8250億円を自然保護地域の保全に

生態系の価値を経済的に評価する報告書「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)は、ドイツなどを中心に研究が進められ2008年の生物多様性条約第9回締約国会議で中間報告が出された。今年10月に名古屋市である第10回会議(COP10、通称、国連地球生きもの会議)で最終報告が公表される

生物多様性が失われることによる地球規模の経済的な損失は毎年最大で380兆円だという「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)がCOP10で発表。国連環境計画(UNEP)の下でこのリポートをまとめたパバン・スクデブは「環境と経済を統合したバランスシート(貸借対照表)をつくるべきだ」



2008年、ドイツのボンで開催された、生物多様性条約・COP9で発表されたレポートが、「生態系と生物多様性の経済学」(The economics of ecosystems & biodiversity : TEEB)の中間報告。TEEBは生物多様性版のスターンレビューと呼ばれる

スターン報告とは、2006年に世界銀行チーフエコノミストのニコラス・スターン卿が発表した地球温暖化(気候変動)に関する報告書。正式名は "The Economics of Climate Change" (気候変動の経済学)。気温が6℃上昇したら世界はGDPの20%を喪失するなど

TEEB中間報告によれば、我々が失っている生態系サービスの価値は、陸域をベースとした生態系だけを考慮しても毎年約6650億円の規模に相当。対策をとらない場合、生態系や生物多様性が損なわれることによる経済的損失の規模は、2050年までに控えめに見積もっても世界のGDPの7%に達する

TEEBは2007年の中間報告では森林のみが分析の対象となっていたが2010年のCOP10では海洋生態系やサンゴ礁などのバイオーム(生物群系)も対象に。貧困問題や国連ミレニアム開発目標(MDGs)との関連についても包括的な分析。生態系の状態を評価し経済モデルに用いる指標群の開発も


TEEB中間報告では、1)対策を取らない場合、生態系が損なわれることによる経済的損失は、2050年までに世界のGDPの7%。2)生態系サービスの最大の受益者は貧困層。3)生態系の経済評価において高い「割引率」を適用することは、自分たちの子孫世代が受ける利益を不当に低く評価する恐れ

TEEB中間報告では、「割引率」に関する問題提起。経済評価を行う際、将来の価値は一定の「割引率」で割り引いた上で現在価値に換算。例えば4%の割引率を50年間にわたって適用すると、自分たちの孫の世代が将来の生物多様性から受ける利益を現在の価値の7分の1程度にしか評価しないということ

「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)では、低所得国、貧困層ほど生態系サービスの毀損(きそん)の影響がより強く及ぶことを指摘。これが正しければ新興国・途上国の開発政策も生物多様性保全を考慮に入れる必要がある。これまでの開発政策は貧困撲滅を最終目標として対内投資誘致による工業化

TEEB中間報告によれば、生態系サービスや生物多様性と貧困問題の結びつきに関するインドでの研究結果によると、森林の生物多様性や生態系サービスの最大の受益者は貧困層であること、また生物多様性や生態系サービスが失われることによって最も大きな影響を受けるのも、貧困層の収入保障や生活福祉


「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)には、2つの目的。1)「スターンレビュー」と同様に、現状のまま特に対策をとらない場合、生物多様性が損なわれることによる経済的・社会的損失の規模を示す、2)各国の政策決定者や地方自治体、(企業の)事業者や市民に対して、具体的な対処方法を示す

TEEB最終報告は、D0:理論編)科学的・経済学的な基盤、D1:政策決定者向け)生態系への支払い制度(PES)やREDD(森林減少による排出削減)、D2:地方自治体向け)意思決定の選択肢、D3:事業者向け)リスク管理と、ビジネスチャンス、D4:一般市民向け)ウェブで消費選択の参考

TEEBの最終報告のD3が、企業を含む事業者向け。生物多様性に関するリスクをどのようにして事前に予見し、回避・低減することができるか。海外ではibat(生物多様性のための統合アセスメントツール)やBBOP(ビジネスと生物多様性オフセットプログラム)などの「リスク管理ツール」の開発

"BBOP"とは、「ビジネスと生物多様性オフセットプログラム」(The Business and Biodiversity Offsets Program)。各国の試験的オフセット事業の紹介をしオフセットの普及を目指す http://bbop.forest-trends.org/

2008年の生物多様性COP9の決議には、民間企業が取り組む最優先事項として、「BBOP(ビジネスと生物多様性オフセットプログラム)と協力して生物多様性オフセットのケーススタディーや各種ガイドライン、さらには国や地域の関連政策の枠組み作りをCOP10に向けて作成する必要性」が明記

TEEBの最終報告のD3では、生物多様性に関連した新しいビジネスチャンスも紹介。生物多様性オフセット、生物多様性バンキング、REDD(森林減少・劣化による排出削減)、といった生物多様性保全に関連するビジネスチャンスの拡大。エコツーリズムや有機農産物など急速に拡大しているマーケット

"REDD"とは、「森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減」(Reduced Emissions from Deforestation and forest Degradation)。途上国における森林の破壊や劣化を回避し、温室効果ガス(二酸化炭素)の排出を削減しようとすること

「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)によれば生態系に配慮した認証商品の普及によって2008年に5兆7千億円だった市場規模が20年には25兆円に拡大。開発による自然損失を別の場所で保護された自然の価値を買い取って埋め合わせる「生物多様性オフセット」市場は3千億円から9千億円に


TEEBは"Climate Issues Update"で生態系サービスに対する国民所得会計(National Income Accounting)の導入と、生態系インフラ(Ecological Infrastructure:自然と人工的生態系の両方を統合した概念)への投資を主張

TEEBは、1)「生態系インフラへ」について、保護地域に450億ドルを投資し年間5兆ドル規模の生態系サービスの確保、2)「サンゴ礁保護」について、海岸浸食の防止・魚類の育成等は年間1700億ドルの価値。が、世界が目標とするCO2濃度450ppmの安定化では海水酸性化等でサンゴ死滅


「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」がその報告書で生態系サービスを活用した成功事例として兵庫県豊岡市のコウノトリ復帰を紹介。餌になる生き物が生息できるよう農薬を控えた米づくりを実施。この米は通常よりも5割高い値で売れた。コウノトリの野生復帰で観光客が増え市の収入が1・4%増


生態系サービスへの支払い制度(PES)

"PES"とは、「生態系サービスへの支払い制度」(Payment for Ecosystem Services)のこと。汚れた水や空気を人間が浄化するより生態系にそのサービスを提供してもらった方が費用が安く済む。そのサービスの対価、ないしはそのサービスの維持管理コストを支払おう。

PES (生態系サービスへの支払い)を日本では飲料メーカー、ビールメーカー等が実施。アサヒビールは「アサヒの森」として水源林を社有林として保全。キリンビール、サントリー、コカ・コーラなどは、国または地方自治体が統轄する「企業の森」・「法人の森」制度に参加し、間接的に水源林を保全。

PES (生態系サービスへの支払い)を、ソニー・セミコンダクタ九州が実施。半導体製造のために大量の清浄な水が必要。熊本市は白川中流域の水田による「かん養」により地下水が豊富だったが近年は減少。このため熊本市は湛水(水張り)を奨励。湛水期間に応じて助成金を支払う。ソニーはこれに参加

PES (生態系サービスへの支払い)の例としては、フランスのミネラルウォーター会社ヴィッテル。1980年代、(ヴィッテルと関係ない地元農家の)畜産と飼料栽培が盛んになるにつれ、商品の水源が硝酸塩と農薬で汚染された。農家と交渉をし、農業慣行を変更してもらい、その費用を補填することに

PES (生態系サービスへの支払い)は、中米や東南アジアでその導入が続いている。理由は、森林管理を行うための、植林・間伐・持続可能な利用・不法利用者の取り締まりなどのために雇用が生まれ「貧困の削減」につながり一石二鳥。資金は排出権クレジットを(気候変動監査の)OCICが海外に転売

PES (生態系サービスへの支払い)の国レベルでの例は、コスタリカの森林保全。(森林はCO2を吸収するので)国民からガソリン税を徴収、また森林の吸収するCO2によって得られた排出権クレジットを「国家森林財政基金」に貯蓄。ここから土地所有者へ、森林保全を行った面積に応じ対価の支払い

PES (生態系サービスへの支払い)の応用例として、淀川流域では、1965年から大阪府、大阪市、兵庫県などによる「下流費用負担」が実施され、琵琶湖周辺で水源林が造成されている。(大都市を擁する場合が多い)下流域の自治体が、上流の水源を擁する自治体に対して、水源林の費用の一部を負担

PES (生態系サービスへの支払い)に関して、森林率が84%で全国1位の高知県は2003年度に日本で初めて森林環境税を導入。個人・法人県民税に均等割で(1人または1社当たり)年500円を上乗せし集められた年間1億7000万円を間伐等の森林環境保全に使用。この手法が全国30県に拡大


先進国と途上国の利権争い

2020年までに達成すべき、生態系保護の世界目標(名古屋ターゲット)に関して、1)先進国は自然破壊を防ぐための高い目標を掲げる。2)途上国は、自然破壊(焼畑農業、森林伐採から薪(まき)の使用・販売など)をしているため、現実的な控えめの目標にするか、または先進国から大量の資金援助を

生物多様性条約(Convention on Biological Diversity :CBD)の第10回締約国会議(COP10)で最大の議題は、「遺伝資源へのアクセスと公平な利益配分」(Access and Benefit-Sharing : ABS)。先進国と資源国の利害対立

COP10における資源国と利用国の対立のまとめ。1)名古屋議定書を適用する時期を1993年の生物多様性条約の発行年にするか大航海時代にするか、2)適用するのは遺伝資源そのもののみか派生物も含むか、3)新型インフルエンザなどの重大な感染症に関わる検体の提供は利益配分の対象外とするか

バイオパイレーツとは、先進国の企業が途上国から勝手に遺伝資源・生物資源を持ってきて商品を開発し利益をあげることを批判した言葉。生物多様性条約は1993年に発行したが94年マレーシアで行われた国際シンポジウムで途上国の生物資源から抗がん剤の開発をし自慢した欧米の研究者を途上国が非難

バイオ・パイラシー(biopiracy)とは生物的海賊行為。南アフリカのカラハリ砂漠にフーディアというサボテンがあり「やせ薬」として使える可能性。1995年、南アのCSIR社は特許取得。1997年、英国バイオ産業に譲渡。1998年ファイザーが商品開発。カラハリ砂漠住民が企業を提訴

ニチニチソウとはマダガスカル原産の熱帯植物。含まれる成分から抗癌剤を製造できるため生物多様性条約におけるABS(遺伝資源へのアクセスと公平な利益配分)に関する議論の対象となり先進国と途上国で対立。ビンブラスチン、ビンクリスチンなど、悪性リンパ腫や卵巣のう腫などに使われる薬品の原料

生物多様性条約が日本の医療に影響する理由をブログで解説した。 生物多様性条約と「遺伝資源へのアクセスと公平な利益配分」(ABS) 5246字  http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65492305.html

プラスミド上の多剤耐性遺伝子が異なる細菌間を伝搬している問題に拍車をかけるのが、新規の抗生物質が開発されないこと。理由は、1)慢性疾患に比べ処方期間が短く利益率が低い。2)耐性菌が出現するともう使用されない、3)生物多様性条約の影響で原料を途上国から入手した場合、多額の利益を分配


途上国はCOP10名古屋議定書の適用時期について生物多様性条約発効前までさかのぼるよう主張。アフリカの一部からは「大航海時代(16世紀)までさかのぼってほしい」との声も。植民地支配を受けた途上国が資源を収奪されたという思いが根強く、今も変わっていない。歴史的な背景を理解する必要も

生物多様性条約第10回締約国会議での採択を目指す名古屋議定書を議論するモントリオールの国連会合は9月21日、先進国と途上国の意見の隔たりを多く残したまま閉幕。利益配分の対象に資源だけでなく、資源を加工した製品(派生品)まで含めるよう求めてきた途上国が一時主張を取り下げたが結局決裂


ボン・ガイドラインとは、「遺伝資源へのアクセスとその利用から生じる利益配分の公正かつ衡平な配分に関するボン・ガイドライン」(Bonn Guidelines)のことで、2002年オランダ・ハーグで開催された、生物多様性条約(CBD)・第6回締約国会議(COP6)において採択された。

COP10名古屋議定書原案。遺伝資源の利用で生じた利益を提供国に公平に配分。提供国の法制度に従い事前同意を取り利用料等の契約。各国は法整備、担当窓口設置。提供国の遺伝資源の取得手続きに関する情報が共有される仕組み「クリアリングハウス」。遺伝資源の利用で生じた利益は生物多様性保全に

クリアリングハウス(Clearing house )とは、様々な(異なる)形式のデータを、おたがいのシステムで利用できるようにするために、複数の情報処理システムを中継して、利用しやすくする仕組みのことである。IT関係の用語だったが、生物多様性などに関する情報の共有にも用いられる。


遺伝子組み換え作物による被害の補償

生物多様性条約(CBD)・第10回締約国会議(COP10)は、10月18日から29日まで、名古屋で開かれる。この時、同時に、生物多様性条約に基づく「カルタヘナ議定書」・第5回締約国会議(MOP5)も開催。カルタヘナ議定書とは、遺伝子組換え生物の国境を超える移送・利用に関する規定。

生物多様性条約COP10の議題の一つ、「遺伝子組み換え作物による生態系への被害対策」がまとまり、「名古屋・クアラルンプール補足議定書」と命名される。1)被害が起きた場合、どの事業者の責任かを政府が特定。2)それが補償できない場合、政府が代行。3)財政保障や限度額は各国ごとに法整備

「遺伝子組み換え作物による生態系への被害対策を定めた国際ルール」の原案は、2010年10月11日から始まる、「生物多様性条約・第10回締約国会議(国連地球生きもの会議)の関連会合に提出され、組み換え作物の国際取引を定めた、「カルタヘナ議定書」の「補足議定書」として採択される見通し


名古屋市の市長と議会の確執

生物多様性条約・第10回締約国会議(COP10)は、「名古屋議定書」を作るのが目的。しかし、名古屋は現在、河村たかし市長と市議会が減税などをめぐって対立。9月に議会が市長の不信任決議をする可能性があり、すると翌月のCOP10の時、名古屋市長は不在かも?。名古屋議定書を作る時なのに

名古屋市の河村たかし市長は持論の減税を巡って名古屋市議会と対立。議会から不信任決議を受ける寸前だった。そうなっていたら「名古屋議定書」を作る時に「名古屋市長」が不在になっていた可能性があったのだが、議会側が自粛。しかしこの会議の開会式で彼は生物多様性と全く関係ない持論の減税を演説


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(以下、余談ですが)

世界における貧富の差

国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)によると、世界の中の最も豊かな1%の人々が世界の富(全世界の家計資産)の40%を所有。豊かな2%の人々が50%以上を所有、10%の人々が85%。一方、世界人口の半分以上を占める貧困層は、世界の富のわずか1%を保有しているにすぎない。

世界で最も豊かな10%のメンバーの中に入るためには、700万円の資産が要求され、さらに裕福な1%の富裕層に属するためには、5750万円以上が必要。国連大学世界経済開発研究所の研究の、世界のすべての国における家計資産の主要な構成要素(金融資産、負債、土地、建物など)を対象とした研究

米国勢調査局は2009年の生活困窮者が史上最悪の4360万人(人口3億1千万人の14%)にのぼったと発表。人種差があり、白人12.3%、アフリカ系25.8%、中南米系25.3%。米国の「貧困ライン」は毎年変わるが、4人家族の年間世帯収入で約187万円、1人の場合は約93万円に設定


人類の環境への負荷

WWFジャパンとGFNは共同で『エコロジカル・フットプリント・レポート日本2009』を発表。地球が持つ生産力・収容力・再生力を世界人口一人あたりで計算すると、1.8gha/人。日本人は一人当たり4.1gha/人で地球が2.3個必要。アメリカ人は9.6gha/人で地球が5.3個必要

日本人一人当たりの「エコロジカル・フットプリント」の内訳は、1)二酸化炭素吸収(カーボン・フットプリント)(2.8ha/人)、2)耕作地・牧草地(0.6)、3)森林(0.4)、4)漁場(0.3)。以上で一人当たり4.1ヘクタール。要するにカーボン・フットプリントが3分の2を占める

エコロジカル・フットプリント(ecological footprint:EF)とは、地球の環境容量の指標。人間が環境に与える負荷を、1)資源の再生産と、2)廃棄物の浄化、に必要な面積として示した数値。生活を維持するのに必要な一人当たりの陸地および水域の面積(ヘクタール/人)で表示

「世界中の人が日本人と同じ暮らしをしたら、地球が2.3個必要」。世界自然保護基金(WWF)は、日本人の生活が自然環境に与える影響を発表。「エコロジカル・フットプリント」という指数の2006年データを使って分析した。森林などが持つ生産能力と消費される化石燃料などを組みあわせて計算。


本当の国際協力

途上国の開発をすることが国際協力と考えている人が多いが、根本的な間違い。68億人がアメリカ人のような生活をした場合地球が5個必要。よって途上国を経済開発するなら、単純に考えると、世界人口を5分の1に減らす必要。すなわち残存する資源の量を考え、それで可能な範囲の人口と経済活動に規制

「国際協力ってなんですか?」「三つあります。1)途上国に行って直接的に教育や医療等をする。2)先進国側にいて計画を作り予算を獲得し各援助団体の分担を決める会議をする。3)消費者と企業が、残り少ない資源を奪い合う戦争が起きないよう、気候変動による降水量減少で飢饉がおきなう、節約する

私の主張は、1)世界の人口増加と、2)より豊かな生活を求めたがる人間の性質により、やがて地球上の資源(リソース)が足りなくなり、A)電気を生産するための石油やウラン、あるいは、B)水や食料などを巡って、やがて世界中で大きな争い(戦争・内戦等)が起きるかもしれない、という危惧である



遠くから見れば、地球は青と緑。雪を頂く山々は白く美しい。遠くから見れば、あなたは友人に見える。私達は争っているのに。遠くから見ればこんな争いが何になるか分からない。遠くから耳を傾ければ、ハーモニーが聞こえる。それは希望への望み、あらゆる人への愛。私はそれを奏でるための楽器になろう