.

第13節 ODAの目的、世界の潮流による変遷


さて、ここで、

日本の『ODAの目的』を、
歴史的な流れを踏まえて、説明する。

同時に、
『世界経済や、世界の援助の潮流が、ODAに与えた影響』
も解説する。


最初に断定してしまうが、

政府開発援助(ODA)とは、
(一義的には)
途上国の援助のための予算ではなく、
日本の経済発展のための、予算と考えてよい。

これは、歴史的にも、現在も、
そう、政府によって、『明言』されている。


1957年、岸首相が
「我国の経済発展と国民の繁栄を図る為のODA」
と国益重視であることを明言した。

1961年、日本政府は、
海外経済協力基金(OECF)を作り、
円借款(有償資金援助、貸付)を大規模におこないだす。

日本が途上国に貸したお金で、
途上国は日本のゼネコン(建設会社等)などを
使わねばならず、これにより、
日本企業は急速に海外に進出していった。

(前述した通り、
 このような、日本企業を使わねばならないような
 お金の出し方を、『タイド』(紐付き援助)と言う。)

この時期、1950年代の朝鮮戦争特需もあり、
(トヨタなどに大量の軍用トラックが発注され)
1960年代に、日本経済は急成長を見せた。

(なお、この頃までのODAは、途上国に、
 経済インフラ(ダムや道路など)
 を作ることに多くの予算を投入していた。)

ところが、
1970年代、諸外国(OECD諸国等)は、
「日本のODAは、日本企業の『利益誘導』にすぎない」
と批判。

このため、この時期、一時的に、援助の
『アンタイド化』が進んだ。

(日本企業の「紐付き援助」の割合を減らした。)

(有償(貸付)は、アンタイド化が進んだ。
 無償(贈与)は、いまだに(ほとんど)ずっとタイドのまま。)

一方、
1973年、米国の国際開発庁(USAID)が
「New Direction 政策」というのを発表。
「Basic Human Needs」(BHN)という概念を提唱した。
途上国の低所得層の人々にも、
「教育・医療・水の保障・命の安全などの確保が必要だ」、
という概念である。

これにより、日本のODAも、この時期から、
社会インフラなどに、予算を投入するようになる。
具体的には、
食料(農業)、安全な飲み水、教育、保健医療など、
人間としての基本的なニーズに必要なものへ、
予算を投入するようになった。

(道路とか橋などの「ハード」ばかり作っていたODAが、
 この頃から、
 教育や医療などの「ソフト」を作るようになったため、
 これを「ODAのソフト化」と言う。)

1980年代になると、「人道」に配慮するべし、
という世界の流れがあり、それを日本も吸収。

1989年、日本のODAの金額は、
アメリカを抜き世界1位になった。

1990年代になると、「環境」に配慮し、
かつ、
「途上国の自助努力」を支援し、
「オーナーシップ(ownership、自主性)」を尊重するべし、
という世界の潮流を受け、
ODAも、JICAも、上記の概念を
それなりに取り入れていく。

(ここまでは、いい流れだった。)

ところが、
1991年の「バブル崩壊」で、
日本経済が暗転し、以後は、状況が一変。
(ODAは、昔に戻ってゆく。)

1994年から、日本は、
ODAの方針として、再び国益重視を掲げた。

さらに、とどめをさしたのが、
1997年に、タイから始まった、「アジア通貨危機」。
アメリカのヘッジファンドの「空売り」による、
アジア各国の通貨下落。

これにより、日本だけでなく、世界経済が失速。
1998年から「ロシア財政危機」などを、続発した。

(ちなにに、
 日本のODAの金額は、1997年がピークで、
 1兆円を軽く超えていた。
 以後は、漸減。
 現在は、往年の半分ぐらいの、6千億円程度。)

21世紀に入ってからは、毎年のように経済不況が発生。
2007年、サブプライムローン。
2008年、リーマンショック。
2009年、ドバイショック。
2010年、ギリシャ危機。

このような状況の中、
伸び悩む日本経済の影響下で、市民(企業)の不満がつのり、
その結果、
自民党から政権を奪取できたのが民主党、
という側面もあるかもしれない。

で、
2009年、政権をとった民主党は、
(日本は少子化で、国内に需要(市場)を見込めないため)

「新成長戦略」の一つとして、
「海外のインフラ事業を官民を挙げて受注」と公言。

(インフラ産業の海外輸出を推進する、している。
 主なものは、
 1)原子力産業(発電)をインド、ベトナム等から受注。
 2)上水道・下水道などの水関連技術をアジア等から受注。
 3)高速道路・新幹線など交通機関関係。
 4)環境技術などテクノロジーの技術移転。)

途上国や新興国の巨大なインフラ事業を
「官民連携」で受注し、日本経済を活性化させると。

(なんのことをない、昔の、
 「タイド」のことを、
 「官民連携」と、綺麗に言い変えただけ、である。)

参考:
PPP(public-private partnership)
(国内または国外の)公共事業に民間企業が何らかの形で参入すること
PPI(private-public initiative、官民連携)とも言われる。

2010年、民主党政権は、
JICAを、露骨に『日本企業を支援(投融資)』できるように改変。
(昔に戻してしまった。)

この背景としては、
2001年から2010年まで、JICAによる、
日本企業への投融資は、禁止されていた。
明らかな
「国際協力に名を借りた、自国企業の利益誘導だ」
と諸外国やNGOから批判があったためだった。

しかし、
円借款を担っていた国際協力銀行や、
贈与を担当していた外務省などと、合併し、
巨大な「ニューJICA」(2008年)となった、
唯一のODA実施機関は、
日本企業の海外進出に、堂々と「投融資」できるような組織に
日本政府は戻してしまった、ということである。

(まあ、日本経済のことを考えると、
 これで良いのかもしれないが、
 「よりよい国際協力のあり方」を考えた場合、
 微妙、という感じである。) 


ちなみに、
2010年12月に、
民間企業に投融資できるようになったJICAが、
最初に行った事業は、
日本企業がベトナムで計画している、
500億円規模の水道事業である。

・・・

参考:
日本の政府開発援助(ODA)に対する、その他の批判。

日本のODAは、
金額の「量」は多かったが「質」はダメ
だったという意見も。

1)贈与比率(有償でなく無償か技術協力の割合が多いか)、
2)グラント・エレメント(返済条件を甘くしてあげているか)、
3)アンタイド比率(日本企業を使えという条件なしか) 、
4)持続的経済発展(に寄与をしているか)

上記に関係して、
(先進国から借りたお金のせいで)重債務状態となっている
後発開発途上国に対し、
ヨーロッパ諸国などが、借款(貸付)をちゃら(無し)にして、
「返さなくていいよ」という措置をとってあげた。
しかし、日本は、この世界の流れに対応せず、
借款をちゃらにしてあげていない。
この点は、各方面で、かなり批判されている。


参考;
1970年国連総会で採択された
(先進国から途上国へ拠出するべき)ODA(政府開発援助)の金額は、
対GNP比0.7%以上、というもの。

ちなみに、日本は、0.2%ぐらいで達していない。
が、各国も同様の状況。

フランス 0.4%、
英国 0.3%、
ドイツ 0.3%、
カナダ 0.3%、
イタリア 0.2%、
アメリカ 0.1%


・・・
・・・

第14節 地元NGOと、日本のNGO


さて、話を戻して、

(2002年に第一次訴訟が起こされたが)
2003年の第二次訴訟の時、

インドネシアの地元の環境系NGO「ワルヒ」は、
以下を主張した。

環境異変のため、

1.
スマトラ象・スマトラ虎・マレーバクが死滅した。

2.
マラリア患者の発生数が急増した。

同団体が言うには、
スマトラ象・スマトラ虎・マレーバクなどの
個体群を含む自然生態系自体が、原告だと。
(我々は、その代弁者だ、と。)


Wahana Lingkungan Hidup Indonesia(WALHI、ワルヒ)
http://www.walhi.or.id/

・・・

NGOと言えば、

日本にも、
コトパンジャン・ダム問題を啓発するNGOやグループが
いくつか誕生した。


1.
コトパンジャン・ダム被害者住民を支援する会。
http://www.kotopan.jp/

その主な主張は、

「私たちの税金や郵便貯金などから拠出された
 ODA(政府開発援助)が、
 インドネシアの住民のためになるどころか、
 逆に住民たちを苦しめているのです。
 日本企業の利権でダムが作られ、
 2万3千人の住民が水もない土地に強制移住され、
 動物たちも死滅」


2.
コトパン・サポーターズ京都
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ka1484zu/trial/trial_index.html

その主な主張は、

「1)コトパンジャンダムはODAで日本企業が建設。
 5000世帯、23000人の家が奪われ、
 強制移住先は水も手に入らない不毛な土地。

 2)完成後の発電量は計画の15%。
 利権のため日本企業が多めの電力需要見込み。

 3)環境異変でスマトラ象・虎・バクが死滅。」


・・・
・・・

第15節 国際協力における、環境問題への配慮の潮流


興味深いのは、
インドネシアと日本が、円借款の契約の
「交換公文」と「借款協定」をした時に、

(上述の)3条件+『履行確保特約』
という環境や社会性に関する配慮の記載が、
「既に一応あった」こと。

理由は、この頃、
ODAによる環境への悪影響が、既に
問題視されるようになっていたため。

一番、有名なのが、
インドの『ナルマダ・ダム問題』。

これの『失敗』が、議論されていたため。


補足:
インドのナルマダ・ダム計画は、
1984年に、インド政府による認可をうけ、
一度(日本政府と世界銀行からの)融資が決まった
ODAの案件でありながら、
環境への悪影響、
住民やNGO団体による反対によって中断されたもの。
灌漑・飲料水の確保、洪水防止などの目的があったが、
20万人の住民移転、野生動物死滅、
マラリア発生増加、ダムの耐震性などが
問題となり、中止に。
1993年に世界銀行が融資を打ち切り、
これに続いて日本も融資を凍結した。


補足:
「インドネシアのコトパンジャン・ダム訴訟に対し、
 日本の外務省は公電で、
 『コトパンジャン・ダム建設を中止をすれば、
  インドのナルマダ・ダムの二の舞であり、
  NGOは何でも出来ると思いこむ』
 といった旨を述べて、建設を強行した。」
河村健夫、東京弁護士会


ともかく、この1990年の段階で、
ODA実施の前に、
一応、環境配慮をしよう、という
趨勢(すうせい)になっていたのは、良いことだった。

(でも、それでも問題は起きてしまった。
 なにがいけなかったのか?
 なにが、十分ではなかったのか?)

・・・

さて、
途上国政府とJICAなどのODA実施機関との間の
融資契約(L/A)の内容を、
私たち一般の日本国民は
通常、知ることができないのに、
コトパンジャンダムの一件は、裁判となったため、
これを知ることができた珍しいケースだ。


補足:
交換公文(E/N)は、
exchanged archive


補足:
政府開発援助(ODA)の最大の問題点は
透明性がないこと。
例えば、日本と途上国との間に交わされる、
無償援助の交換公文(E/N)、
有償援助の借款契約(L/A)、
技術協力の討議議事録(R/D)などが
一般国民に公開されない。
事後評価もJICAなどが組織内で行っており
第三者による監査がない


補足:
第三者による監査は、
一応、あることはあるのだが、
JICA側が指定した、
もともとJICAと仲の良い人や組織に頼んでいるため、
あまり、本質的な批判にならない。
いわゆる、形式的にある、という程度。


補足:
ODAとJICAの「透明性」の改善については、
2010年6月に
「ODAのあり方に関する検討最終とりまとめ」
が行われ、そのフォローアップ策として、

2011年1月に、ウェブサイト、
「ODA見える化サイト(暫定版)」
の立ち上げが、外務省とJICAの共同で行われた。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/22/10/1006_05.html

しかし、こうした、現在公開されている情報は、
外務省側が、
「これは国民に見せても大丈夫」
と選別し、フィルターをかけ、
綺麗事だけを選んで、掲載されている情報。

これでは、意味がない。

全てを見せて頂き、
(外務省やJICAが選んだのではない)
NGO,大学教授、などの有識者らが
10人ぐらいで委員会を作り、
「ここは、評価できる」
「ここは、ダメ」
「ここは、国民に公開すべき」
などと、討論する場所が必要だ、
という風に、私は思っている、ということである。


・・・
・・・

第16節 裁判における、住民の要求


以上、ここまでは、
『ダムの建設から、訴訟を起こした所まで』
のこと。

ここからは、
コトパンジャン・ダム訴訟の、東京地裁における、
『裁判での詳細』である。

(2009年9月10日の判決文から引用する。)


原告は、
影響を受けた住民(約)8400人、
と自国(インドネシア側)のNGO。

被告は、(組織再編がなされたため)
国、現JICA、東電設計。

原告の主張は、まず、お金である。
『一人、500万円ずつくれ』。

500万円 x 8400人 = 419億円。


しかし、裁判を起こすには、
訴訟費用がかかる。

500万円の訴訟を起こすには、
『印紙』は、3万円のを買う必要がある。

だれが、払うのか?

(インドネシア住民は貧しくて、その支払いは無理。)

ところが、
『訴訟窮状』と言う制度がある。
支払いを後回しにできる制度。

負けたら、あとで払う。

しかし、もしも敗訴した場合、
(3万円x8千人=2億4千万円)

2億4千万円を、だれが払うのか?

(この件は、うやむやになっているらしい。
 というか、負けた時に、それから考えるのか?)

・・・

さらに
インドネシア住民原告は、
次のようなことも要求している。

「日本政府は、
 インドネシア政府に対し、
 次の三つの勧告をせよ!」

1.
コトパンジャンダムを作ったせいで、
住民の生活破壊や環境破壊が生じている。

2.
直ちに、
コトパンジャンダムの水門を開け、
さらに
従来の自然環境を復元できるような工事をせよ。

3.
以上の費用に対し、日本政府が協力するので
インドネシア政府が実施せよ。

・・・

また、さらに、
インドネシア住民原告らは、
東電設計に対しても、
次のことを言えと要求。

「東電設計は、
 インドネシア政府に
 次の三つのことを伝えよ!」

(最初の二つの内容は、日本政府の場合と同じ。
 3番目だけ、違う。
 金を出せ、じゃなくて、『計画設計』をしろ!。」

3.
以上の措置をするため、
(東電設計は)
『計画設計』と『工事の管理』をする
約束をします。


と、いうのが、原告の要求だった、
ということ。


・・・
・・・

第17節 裁判の判決、外交


で、裁判は、
(2009年9月の判決で)
結局、どうなったかというと、

まず、
外交上のもの
(日本国がインドネシア政府に対して
 上記の三つを言え、という原告の要求)
は、
『高度に政治的な判断を要する』
ので、
『司法権を越える』とされ、却下された。


・・・
・・・

第18節 裁判の判決、損害賠償

で、
その他の要求(お金など)に対する判決の内容だが、

まず、
JICAへの請求は、
不法行為に基づく、「損害賠償請求」だった。

これを行う場合、
次のことを原告は証明する必要があった。

被告に「過失」があったこと。

・・・

損賠賠償請求を行う場合、
以下の全ての「事実」と「関係」を
証明する必要がある。

1.過失
2.権利侵害
3.損害
4.因果関係(過失と損害の間の因果関係)

以上の中で、
今回問題になったのは、
「過失があったかどうか」、が問題。

今回の場合、
「過失」に含まれる行為となりうるのは、
「注意義務違反」である。

日本政府や、JICAに、
「注意義務違反があるか?」
が、問われている。

そもそも、
国(日本政府)とか、JICAは、
外国の住民に「注意義務」を負っているか?

結論としては、
(2009年9月の東京地裁は)
裁判所は、負っていない、と判断した。


・・・
・・・

第19節 注意義務があるか?


注意義務の『発生原因』だが、
判決によれば、

当時OECF、現JICAは
住民移転は、
インドネシア政府がやるべきこと。

OECFやJICAではない、と。

これに対して、住民たちは、
以下の様々な根拠を引用し、
「注意義務違反があったこと」
を主張する。

・・・

A.
社会権規約11条の、『居住権』を引用。
これにもとづいて、注意義務違反だ、と。
しかし、却下された。

・・・

B.
世界銀行の、『先住民族の居住権』を引用。
しかし、却下。

・・・

C.
プロジェクトにおけるOECFの役割において、
日本政府がお金を出している。

だから、その実施・運営・管理に配慮するべきだ、と。
しかし、これも、却下された。


相手国(インドネシア)政府から、
(援助を)やってくれと言われたから、
実現可能性調査を、やってあげたんだ。
そこまでやる必要はない。

計画を作ったのは、むこう(途上国)からの要請。
お金を貸したのも、むこう(途上国)からの要請。

日本政府は、むしろ、
(実施状況の)報告を受ける立場であり、
責任はない。

(これに対して、原告は)
1989年に
OECFガイドラン
(環境社会配慮のためのOECFガイドライン)
が、発行されており、

「それに、こう書いてあるじゃないか!」
と主張した。


参考:
海外経済協力基金(OECF)が担当した円借款について
1989年に初めて、
「円借款業務における環境ガイドライン」が策定された。
その第二版は、
「環境社会配慮のためのOECFガイドライン」
として、1995年8月に発行された。
この中に、
環境などに配慮してプロジェクトを実施すべし、
という主旨のことが書いてある。


だが、東京地裁は、

「いや、これは『指針』にすぎない。
 ガイドラインには、法的な強制力はない。」と。

また、その(ガイドラインの)内容についても、

「『相手国政府がおこなうべき、環境に関する諸事項』。
 と書いてある。
 日本政府側は、それを『確認するだけ』である」と。

ともかく、
(お金を払っている方の)
JICAの立場としては、
相手国のやってることを、チェックするだけだ。

なのに、なんで責任が発生するのか?、と。


(しかし、私の意見では、
 相手国政府が、『環境に関する諸事項』に配慮したかを、
 『確認する責任』が、OECF(現JICA)には、
 あった、とも言える。
 また、
 この種のガイドラインは、法的強制力を持つ可能性がある。
 その理由については、最後の方に詳述する。
 簡単に言えば、法的根拠は、ちゃんとある。)

・・・

(話を戻して、原告の主張の続き、である。)
(日本政府とJICAに『注意義務違反』があったかどうか。)

D.
(前述の)
(政府同士の、討議記録(R/D)の)
3条件

(インドネシア政府とOECFの融資契約(L/A)の)
履行確保特約。

原告は、
「これらに(環境や社会に配慮しろと)書いてあるじゃないか!
 それを守ってないじゃないか!」
と主張。

しかし、
これも、インドネシア政府がやるべきこと。
だから、これも、却下された。

・・・

E.
こうした問題が起こったため、
2002年に、
環境社会配慮のための
『国際協力銀行(JBIC)ガイドラン』
が、作り直された。


参考:
JBIC 国際協力銀行
環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン
http://www.jbic.go.jp/ja/about/environment/guideline/confirm/


これ(作り直したこと)についても、原告は触れた。

が、
裁判所は、これについても、
関係ない、と却下。

・・・
・・・

第20節 注意義務違反があるか?


さて、
注意義務の違反は、あるのかないのか?

注意義務がなければ、その違反もない。

ここまでは、裁判所は、
『注意義務はない』、と断じている。

だから、(本当は)
『注意義務の違反を、論じる必要すらない』。

しかし、
裁判所は、なぜか、
この(注意義務の違反の)部分についても、
けっこうなページ数をさいて、説明している。

・・・

注意義務の違反について。

OECFとの関係で
注意義務違反があった(可能性がある)のは、
全部で5個。


1.一回目の交換公文と、
 借款契約(融資契約と同じ)。

(原告は)
実現可能性調査も
環境アセスメントも、おかしかったのではないか?

(裁判所は)
いや、問題ない(と判断。)


(私の意見では、
 東電設計が、リアウ大学に頼んで、
 アングラス大学が作った環境評価報告書(EIA)を
 改竄(かいざん)した可能性は、あると思う。
 が、その証拠がなければ、どうしようもないか?) 


(裁判所によれば)
例えば、
国(日本政府)もOECFも、調査団を
実際に現地に派遣している。

移転先の候補地を訪れている。
村長の話もきいてる。
住民移転が遅れていることに対し、
(日本側は、インドネシアの)
国家開発企画庁に申し入れをしている。

だから、問題ない、
だから、注意義務違反は、ない、と。


2.二回目の融資契約時

これも、調査団を派遣し、現地を視察。
政府は、村民等にインタビューして
「組織的な反対運動」は確認されなかった、
としている。

(組織化されていない、散発的な反対運動はあったのか??)


3.コンサルタント契約締結の同意

この段階までに、
「住民と移転についての合意」が必要。

(原告は)
これを確認したのか?
(と主張。)

ここは、国(日本政府)とOECFが、
きちんと調査をした形跡がない。

(攻められると、一番、弱い所。)

移転が遅れているのだが、
ちゃんとやってね、と
インドネシア政府に申し入れはしていた。

東京地裁は、これで、
「必要十分な手続き」をしていた、
との判決が下された。??

(つまり、今後、上告され、
 高裁等で審理される時に、
 この部分が問題になる可能性は、ある。)


4.建設工事

(原告は)
履行確保特約で、移転問題が解決してなければ、
「同意しては、いけないはずじゃん!」
と主張。

移転の開始の時、
補償費の支払いが、
『開始』されていることは、OECFは確認していた。

しかし、補償費の支払いが、
『完了』したことは、確認していなかった。)

(この部分も、問題になる可能性がある。)


5.水を貯めることに対することの承認

水を貯めるときの同意(が必要と)は、
融資契約上は、書かれていない。

(しかし、原告は)
そもそも『生活水準の向上』を目指したのに
そうなってないじゃん!
と主張。

(また、水没しないはずの地域も水没したし。)


実は、
インドネシア政府は、
日本とOECFの同意をえずに、
水を貯め始めた。

これが、(裁判で)
事実として認定された。

(だから、日本政府やJICAに責任はない。)

しかも事前に
(日本国とOECFが)
水を貯める前に
事前にいろいろ確認してくれよ、
と言っていた事実がある。

水門をあけて
60m貯めて、
ついで、80m貯める、
などの流れがあった。

インドネシア国有電力公社(PLN)が、
東電設計に銘じて、水を貯め始めた。

日本政府とOECFは、
相手国政府に、強い遺憾の意を表明した。

インドネシアの国家開発企画庁の副長官と会談をして、
「この先、水位を上げるな」、と要請した。

「住民の補償を報告してくれよ」、と
現地に行って、
水の貯めている状況を確認した上で、
そう言っている。

しかし
インドネシア政府は、ここまで言ったのに、
(一度は、水を貯めるのを止めたが)
1997年5月のはじめに、また始めちゃう。

これを
OECFが知って、
また、相手国に苦情を言ったが、
インドネシア国有電力公社(PLN)は、
無視して、結局、ダムは完成。


つまり、
日本政府とOECFは、
ダムに水を貯めるのを、止めさせようと、
がんばったけど、ダメだった。

がんばったのに、ダメだったから、
水を貯める部分においては、責任はない。

インドネシア政府が強硬してしまえば
日本政府は、どうしようもない、
というのは、事実。


・・・
・・・

第21節 疑問その1.現地調査を本当にしたか?


裁判所は、
日本政府が、何回も現地で調査をしたから
OKだ、とした。

しかし、その調査の中身が、ちょっと怪しい。
村長と、伝統的代表者にあった、としている。

しかし本当に、
現地の人々(一般の村人)に会ったのか?

住民に会っていたなら、
(軍による脅しでのサインや、強制移住などについて)
苦情を言っていたはずだ。

8000人以上が、被害になっているのだから。

では、
どうやって調査するのが適切だったのか?

(そこに、『注意義務違反』はなかったのか?)

ODAの実施機関であるJICAが、
現地で、どのように調査するのが適切なのかを
NGOや大学教授などの有識者たちが、
政策提言をしていかないといけない。

だから、『情報の共有』が必要。

ところが、外務省もJICAも、
『両国の外交上の秘密』ということで、
詳細を、明らかにしてくれない。

今回は、裁判になったから、
めずらしく公開されただけ。

・・・

第22節 疑問その2.環境ガイドラインの法的根拠


OECFやJICAが作った
『環境に関するガイドライン』は、
ただの「指針」で、
それを守らなくても法的責任はない、
として、却下された事項があった。

しかし、
JICA等が作成する、
『環境に関するガイドライン』には、
法的根拠がある可能性があることを、以下に示す。

(法律の原文、そのままの引用(抜粋)なので、
 長くなるが、全部読めが、
 法的根拠のあることが、わかる。)


『独立行政法人通則法28条』

(業務方法書)

第28条 独立行政法人は、業務開始の際、
 業務方法書を作成し、主務大臣の認可を受けなければならない。
 これを変更しようとするときも、同様とする。
二 前項の業務方法書に記載すべき事項は、
 主務省令(中略)で定める。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO103.html


これに関係して、

『独立行政法人・国際協力機構の業務運営並びに
 財務及び会計に関する省令1条14号』

(業務方法書に記載すべき事項)

第1条 独立行政法人国際協力機構に係る
 独立行政法人通則法・第28条第2項の主務省令で定める
 業務方法書に記載すべき事項は、次のとおりとする。

 十四 環境配慮その他業務の執行に関して必要な事項

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15F13001000022.html


以上から、JICAが
「環境配慮に関する業務方法書」
を作らねばならないことが、
法律で定められていることがわかる。

さらには、

『独立行政法人・国際協力機構・業務方法書32条』

(環境社会配慮)

第32条 機構は、別に定める環境社会配慮のためのガイドラン
 を指針とし、業務運営を行うものとする。

http://www.jica.go.jp/about/jica/gyoho/pdf/gyoho.pdf


以上より、「法律により」環境ガイドラインに沿って、
業務を行うことが、明記されていることがわかる。

よって、
ガイドラインだから、ただの指針であり、
法的根拠はなく、守らなくてもいい、
ということには、ならない。

(とすれば、上告すれば、勝訴のチャンスは、あるか?)


しかし、基本的に、この環境ガイドラインは、
大前提として、
「相手国の政府がやるべきこと」。

だから、責任はそちら。
その指針にすぎない。

JICAは、それがその通り実施されたかを
「確認」するだけ。

この場合、後日、事件がおこった際に、
賠償責任があるか?

「ODA審査官」は、なんと言っているのか?

・・・

ちなみに、
環境ガイドランは、何度も改訂をされてきた。


新JICAの環境社会配慮ガイドライン
http://www.jica.go.jp/environment/guideline/

国際協力機構(JICA)環境社会配慮ガイドライン
2010年4月
http://www.jica.go.jp/environment/guideline/pdf/guideline01.pdf

環境社会配慮確認のための国際協力銀行(JBIC)ガイドライン
2009年7月
http://www.jbic.go.jp/ja/about/environment/guideline/business/pdf/pdf_01.pdf

環境社会配慮確認のための国際協力銀行(JBIC)ガイドライン
2002年4月
http://www.jbic.go.jp/ja/about/environment/guideline/confirm/pdf/A04-02-01-01_a.pdf


当時のOECFガイドライン(第二版)と
現在のJICAのガイドラインの違いは、
適切な環境配慮がされなければ、
「お金を出しませんよ」、
と、はっきり書いてあるようになった。

昔は、『審査の指針』ぐらいだった。

今は、より強い表現が使われており、
(途上国政府は)
『これに従って、行うべし』、
そうでないと、
『お金は貸さないぞ』、と書いてある。

(実施しない、と明記してある。)

また、
(本質的な問題として)
ガイドラインが誰のためのものか、というと。
ステークホルダー(利害共有者)のため。

つまりは、現地で関係する人々。

現在は、
(現地の住民が)
「異議申し立て」をする制度が
ガイドラインに組み込まれた。

(ステークホルダーとの意見を意思決定に十分反映する、
 との記載がある。)

JICAのガイドラインにも、JBICのそれにもある。

(要するに、コトパンジャン・ダム訴訟のお陰で、
 環境ガイドラインが、以前より、
 少しは良くなったかも。)


・・・
・・・

第23節 疑問その3.日本企業が案件発掘した事実


建前は、
インドネシア政府が、日本政府やJICAに依頼した案件だが、
実際は、日本企業の東電設計が「しこんだ」話だった。

(公式文書は、どうあれ)
現実は、そうだった、
ということを証明する方法があれば、
裁判が、くつがえる可能性はあるか?

(当時の)Eメール、文書、証言などの
いずれかの方法で、
(国と国との)公式文書は、建前であり、
実際は、日本の企業が「しこんだ」ものだということを
(誰も否定できないほど明快に)証明することができた場合、
判決はくつがえる可能性はあるのか?


・・・
・・・

第24節 最後に


話は、以上である。

繰り返しが多く、冗長だったと思うが、
ODAの背景をも知ってもらうためには、
やむをえなかった。

論点は、最初の最初に、
8点、としてまとめてある。

別に、ODAやJICAを、
一方的に非難する気はないし、

また、
日本経済(日本企業の海外進出)が大事だ、
ということも、わかっている。

そうした、様々な側面を考慮し、
みんなで相談して、よりよい道を探るために、
外務省とJICAは、
「情報を公開して頂きたい」、と、
願うだけである。




・・・
・・・
・・・


参考文献:

住民泣かせの『援助』―コトパンジャン・ダムによる人権侵害と環境破壊
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4896341384

徹底検証ニッポンのODA―半世紀のODAを「普通の人びと」の視点から振り返る
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4861870208

被害住民が問う開発援助の責任―インスペクションと異義申し立て
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/480671268X


参考:
シリーズ 市民が見直す政府開発援助(ODA)
第1回 コトパンジャンダム訴訟
2010年7月14日
主催:メコン・ウォッチ
http://mekongwatch.org/


参考ウェブサイト;

コトパンジャン・ダム被害者住民を支援する会
http://www2.ttcn.ne.jp/~kotopanjang/



参考: 
ODAの歴史と、担当組織の変遷


OOFの輸出金融:1959年から輸銀、1999年からJBIC 2008年から新JBIC

ODAの円借款:1961年からOECF、1999年からJBIC 2008年から新JICA  

ODAの技術協力:1955年開始、1974年から旧JICA、2003年から独法JICA

ODAの無償資金:1954年から外務省、2008年から新JICA


OOF(other official flows、その他政府資金)

ODA(Official Development Assistance、政府開発援助)