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第十節: 予防の2、防御 Protection


これには、物理的防御・準備と、
日頃からのスタッフの研修・訓練がある。

基本的に、紛争地帯などの危険な状態での
対策について、述べる。


1)派遣前に日本人スタッフに対して研修

まず、そもそも
紛争地帯などの緊急段階・復興段階の地域には、
そこでの活動をやったことがある
経験者しか派遣しない、ことが、
団体としては妥当である。

また、それらの経験者も、
自分の独りよがりの経験で判断しないように、
世界的に知られている安全管理基準を
日本にいる間に、事前に勉強してもらうことが、
必要である。

それらは、

eセンター(UNHCR(国連難民高等弁務官)が主催) 
http://www.unhcr.or.jp/protect/e_center 

Red.R(北米のNGOが主催) 
http://www.redr.org


参考:
「eセンター」とは、
「国際人道援助緊急事態対応訓練地域センター」のこと。
2000年、日本政府による「人間の安全保障基金」によって、
国際連合難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所内に設立。
緊急援助を行う団体スタッフに対し、
年間10回300人以上、
緊急時の対応に関する研修・訓練を実施。


eセンターは、
遠隔地にいても、
インターネットを通した
eラーニングを提供している。

他の方法としては、
日本のNGOの総元締めともいわれる
JANIC(国際協力NGOセンター)が、
安全管理・危険回避に関する講習などを時々行っている。

http://www.janic.org/

また、
外務省とNPO法人・HANDSが共同で、
NGOスタッフのための
安全管理などに関するガイドブックを制作した。
外務省のホームページから(PDFファイルとして)
無料でダウンロード可能となっている。

「健康で安全に活動するために 
 NGOフィールドスタッフのための 健康・安全対策ハンドブック」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/pdfs/anzen_hb.pdf

最低でも、これに目を通しておいた方が良い。

なお、
他にも多数の安全管理ガイドラインが、
大型の援助団体から出されているが、(多すぎるので)
それらは一括して、最終節の文末に掲載する。


2)保険への加入

次に、
保険に入っておくことも重要である。
団体で入ってくれる場合と、
自分で入らねばならない場合がある。
まずは、
「海外旅行保険」で「戦争特約」が有るもの。
次に
「労災保険」は海外赴任者もカバーされる
「労災特別加入」に。

また、
組織としては、本人の意思の確認を
はっきりさせておくことも重要だ。
現地の状況とプロジェクト内容を説明し、
書面で、「承諾書」をもらっておくこと。

さらに、
本人だけでなく、
本人が家族の了承もとっているかどうかを
確認した方がよい。

これは、「有事」の際に問題となる。
当然ながら、なにかあった時に連絡する、
日本側にいる家族の連絡先等も確認する。

なお、
上記の保険にも関係するが、
派遣前に、ひととおりの健康診断を
病院の医師にしてもらうよう、
本人に通達することも必要。

大きな病気があるのか、ないのか、
書類として確認しておくことも必要。
(大きな病気があれば、通常、派遣は中止。)
小さい病気がある場合は、
その担当医の判断をあおぎ、
プロジェクトへの参加が可能かどうかを
医師の「診断書」という形で
もらっておくことが必要。
これがないと、
後述する「有事」の際に問題になる。


3)毎週の会合(セキュリティー・ミーティング)に参加

紛争地帯では、通常、
UNHCRなどの国連機関か、
国際NGO大手のICRC(赤十字国際委員会)か、
あるいは、アメリカ軍などの軍隊が主催となり、
毎週一回程度、セキュリティー・ミーティングが開催される
ことが多い。

ここで、ほとんどの基本的な情報を
入手することができる。
他団体も集まるため、団体間のネットワークを形成でき、
情報の交換・情報の共有ができる。

よって、団体としては、
この会合に出席することが、まず基本である。

この会合で、
特に危険な地域などについて軍関係者から説明があり、
基本的に、
「そこには行ってはいけない」
「そこでプロジェクトをやってはいけない」
ということになる。

また、
緊急事態が起こった場合(戦闘が波及してきた際)
脱出路として(事前に)想定していた、
「幹線道路がある地域」の治安が悪化した、
などということも、よく起こるため、
そうした場合、脱出経路を見なおさねばならなくなる。


4)他団体との情報の共有

日本のNGO同士など、
言葉が通じ安く、
立場や利害が一致しやすい団体同士では、
頻繁に情報を交換するのが妥当。

自分が知らなかった重大な情報を、
先方が持っていることなど、よくある。

最低でもEメール・アドレスや電話番号を
交換しておくことが必要。

できれば、
複数の団体でメーリングリストなどを組み、
安全関係の情報(紛争・治安などの情報)は、
細かいことでも毎日、お互いにそこに流す、
という体制を作ったほうが無難。


5)事務所の物理的防御

紛争地帯で活動する場合は、
基本的に、事務所の建物に、
以下のような配慮をする。

数メートルの高い塀で周りを囲む。
塀の上には、鉄条網などを張る。
窓には鉄格子をはめる。
夜は照明をつけ続ける。
24時間の門番(交代制。場合により武装)。


6)立てこもり

急に、内戦が事務所付近に及んだ場合、
脱出することができない場合がある。
このため、
事務所の建物の中に、
外から入れないように鍵をかけられる、
立てこもりようの部屋を作っておく必要がある。

ここには、最低でも1〜2週間分の
水と食料を置いておく。
当然、人数分。
人数分というのは、
外国人(日本人など)スタッフの人数分。


7)緊急避難

周囲の軍事的な状況(治安)が悪くなりそうな場合、
通常は、決定的に悪くなる前に、脱出する。

(この判断は、その団体の安全管理担当者が行う。)

この脱出のため、
普段から、安全な脱出路と脱出先を
確保しておくことが必要。

例えば、
活動地域の町から、
隣国の町までの逃走経路を確認しておき、
道路の安全性だけでなく、
検問所、国境などの通過の仕方を、
事前から確認しておく。

また、脱出先の隣国に
いつでもスタッフが避難できるような
アパートのような宿泊施設を
確保しておくことも必要である。

(お金がないNGOの場合、
 友好関係を築いた、
 他のNGOに、その提供を
 お願いすることも多い。)

上記は、陸路で脱出する場合の話で、
空路などを使う場合、
事務所から飛行場へのルートが
最大の問題となる。

(ここが封鎖されたら、終わりだからだ。)

また、本当の緊急状態の場合、
国連に頼んで、ヘリを飛ばしてもらい、
小学校の運動場などを利用して、
臨時ヘリポートとし、
そこから脱出することもある。

いずれの方法も、
事前に、関係する全ての組織の担当者と
話をつけておく必要があり、
また、約束金としてお金が必要な場合もある。

補足:
上記に関連するので、ここで書いてしまうが、
日本人スタッフが、
現地で重病になった場合、
通常、隣国の、比較的ましな病院に運んで
治療をしてもらうことになる。
このための、輸送ルートと、
受け入れてもらう病院も、
事前に約束をとりつけておく必要がある。


8)通信

通信機器は、命綱である。
これがなくなったら、
ほとんど死んだと同じ状態になる。

このため、複数の通信手段を
多数持っていくのが普通だ。

まず、インターネットにつなぎ、
Eメールなどの業務を行うために、
衛星携帯電話と、
それをパソコンに接続するシステムが
必要になる。


参考: 衛星携帯電話とパソコン接続関係

BGAN
http://www.jdc.ne.jp/bgan.html

インマルサット
http://www.kddi.com/business/inmarsat/index.html

スラヤ
http://www.horizon-mobile.co.jp/default.asp?id=303

イリジウム
http://www.jdc.ne.jp/iridium.html

テクノスリー
http://www.tec3.co.jp/


次に必要になるのが、
外国人(日本人など)スタッフ同士の連絡のための機材。

車に設置するHFラジオと、
一人一人の外国人スタッフが持つVHFラジオがある。

HFラジオは、
high frequency radio の略で、
車に設置すれば、
数十kmぐらい電波が飛ぶ、
と言われている。

VHFラジオは、
very high frequency radio の略で、
個人が持ち、
数km程度の近隣の地域で、
人間同士が連絡をすることに用いられる。

よって、
HFラジオは、車の台数分必要で、
VHFラジオは、最低でも
外国人スタッフの人数分必要だ、
ということになる。

以上の他に、
実は、途上国の方が、
(固定電話がないため)
携帯電話システムが普及している場合があるので、
そうしたケースでは、
GSM携帯電話を(そのSIMカードを)
購入する場合もある。

GSMとは、
Global System for Mobile Communications
の略称で、
SIMカードを、その国の現地で購入すれば、
すぐに使えるようになる制度である。

日本は、携帯電話に関しては、隔絶された
「ガラパゴス状態」のため、
GSMは普及していないが、
海外では、GSMの方が一般的である。
なお、
日本の携帯電話は、その本体の方に、
「SIMロック」がかかっており、
購入した時に付属している特定のSIMカードしか
使えないため、
海外でSIMカードだけを購入しても
(日本から持ってきた携帯電話本体は)
現地では使えないことが多い。

しかし、日本でも、一部、
ノキア社や、エリクソン社などの
SIMロックのかかっていない携帯電話を販売しており、
それらを途上国に持っていけば、
現地でSIMカードを買うだけで、
すぐに電話をすることが可能となる場合がある。
また、その携帯電話をノートパソコンなどにつなげば、
すぐにEメール等も可能になる可能性がある。

(注:通話とデータ通信では、システムが違うため、
 上記の方法でも、Eメールができないこともある。)

なお、最後になったが、
現地に固定電話があれば、一応、加入して取得しておく。
が、あまり使えないこともある。


9)車両や人間の、移動時の規定

基本的に、人や車が移動する場合、
事務所にいる通信担当者に、
どこからどこに行くか、
ということを、逐一報告するが基本である。

また、同時に、
通信担当者は、それを、
机の上に用意された、大学ノート等に、
所定の形式でメモし、
誰が、何時に、どこからどこへ向かっているか、
などについて、詳細に記入する。

これにより事務所は、
スタッフ全員が、今どこにいるかを
常に把握することができる。

これは、戦闘が、
その地域に急に波及してきた場合、
すぐにそこにいるスタッフたちに
脱出するよう指示を出すためである。

(また、それ以前の問題として、
 暗くなったら、人も車も、
 外出禁止である。
 通常、午前6時頃から午後6時頃まで活動し、
 それ以後は、事務所や宿舎にいるのが原則。
 また、これを守らないようなスタッフは、
 組織の規律を守らず、
 組織のスタッフ全体を危険にさらした、として、
 即刻、首(解雇)にする団体もある。
 紛争地帯で活動する場合は、
 そのくらい、徹底した方がよい。)

自分が今いる場所と、
これからどこに移動するかについては、
通常、上記した通信機器で連絡しあうのだが、
紛争地帯では、国連などが使用している
「暗号」を使うのが一般的である。

(ただ、国連の暗号表は、世界共通であり、
 あまりにも『知られすぎている』ため、
 反乱軍やテロ組織の側も、
 みんなそれを知っているため、
 通常、それを改編したものを使う。
 要するに、テロ組織などが、
 我々の通信を盗聴しても、
 所在などが、ばれないようにし、
 その結果、襲撃されないようにする、
 のである。)

例えば、アフガニスタンで、

山本と佐藤が、

「カブールからマザリシャリフに、
 トヨタのランドクルーザーで移動する途中、
 無事、バーミヤンを通過した」、

という情報を
カブールにある事務所に報告したい場合、
(例えば)暗号では、以下のようになる。

「ヤマメとサンマが、
 カナダからマダガスカルに移動する途中、
 無事、バンコクを通過した」。

などというわけだ。

基本的に、地名も人名も、
他の何かで置き換えることが必要。

(もちろん、事前に全スタッフが、
 その暗号表を渡されており、
 使い方の研修を受けていることが
 前提となる。)

また、通信機器上での会話は、
常に、反乱軍(やテロ組織)から盗聴されていると
考えた方がよい。

このため、
お金の話、貴重品の話は、
通信機器上では、
基本的に、してはならない。

医薬品や食糧などの金目の物を大量に運ぶ場合も、
その積み荷について、一切しゃべってはならない。
狙われやすくなるからだ。


あとは、
紛争地帯などの
かなり危険度が高い地域に行く場合、
(車両に余裕があれば)
「コンボイ」を組んだ方がよい。
コンボイとは、二台以上の車両が
いっしょに行動することである。

理由は、
まず、2台以上のほうが、
強盗から襲撃される確立が飛躍的に低くなる。
また、どちらかがパンクなどの故障をしても、
もう1台に乗り移ればよく、
無事、移動を果たせる可能性が高くなる。


ついでに書くと、
各車両には、
外国人スタッフなどが急病に陥った時のために、
救急箱などを積んでおくことも推奨される。

細かいことでは、
毎日決まった時間に、決まった場所に通勤すると、
テロ組織から狙われやすくなるので、
規則正しい通勤は、しない方がいい、
と言っている人もいる。
「待ち伏せ」に遭いやすいためだ。
また、通勤のルートも、
時々変更した方が良い、ともされる。


10)地域内の危険度を示す地図の作成

通常、事務所の一角には、
その地域の地図を張ることが多い。

車で移動する範囲の広域地図と、
人が歩いて移動する範囲の最寄りの地図。

そして、
それぞれの地図において、
現在、紛争が起こっている地域など
危険な地域を、レベル分けして、色づけする。

このレベル分けのために、
前述のセキュリティー・ミーティングや、
現地の有力者から得た情報、
雇用した現地スタッフの意見などが、
必要となる。

が、
それ以前の問題として、
まずは、日本にいる間から得られる、
以下の二つの情報が基本である。

1.外務省、海外安全ホームページ
http://www.pubanzen.mofa.go.jp/

2.国際連合、UN security phase
http://www.who.int/hac/techguidance/tools/manuals/who_field_handbook/h2.pdf

基本は、前者の外務省のページであり、
以下のように、海外の地域は、
色によって、分類されている。


参考:
外務省の「色」による海外の地域の安全レベル分類。
以下の4段階。
赤:『退避を勧告』します。渡航は延期してください。
橙:『渡航の延期』をお勧めします。
黄:『渡航の是非』を検討してください。
肌:『十分注意』してください。


で、どこまでの地域で
NGOが活動してよいのかに関してだが、
これは、団体の方針によって大きく分かれる。

また、上記の外務省の分類は、
あくまで指針(参考)であって、
(法的な強制力のある)法律ではないので、
個人の移動を制限はできない。

が、一般には、以下のように判断されると思う。

「渡航の是非」を検討するとされる地域までは
一応、NGOは活動可能であり、
なぜなら、緊急状態・復興状態の、
ほとんど全ての地域が、
ここ以上の危険レベルに分類されてしまうからである。
つまりここが、比較的安全な地域。

「渡航の延期」を勧告するとされる地域へは、
あなた自身と、あなたの所属する組織に、
十分な経験と能力がある場合、
活動することが可能だ。
しかし、それがないならば、
決して行ってはいけない。
そこで死んだ場合、
「自己責任」として非難されるだけではなく、
最初に書いた「7つの迷惑」を
世界中の人々にかけることになる。

「退避を勧告」されている地域には、
基本的に行っては行けない。
あらゆる活動をしてはいけない。
ここで活動している人や団体は、
本当に命懸けの活動をしており、
(経験・知識などを膨大に持つ)本物のプロの方々であるはずだ。
私のこの文章を読んでいるような
(おそらく、国際協力の初心者のような)人には、
到底、勧められない。

なお、ここで注意を要するのは、
上記の「危険度」は、
国によって、決まっているわけではない。

例えば、アフリカの、エチオピアでは、
同じ国の中でも、地域によって危険度は異なり、
赤:『退避を勧告』ティグライ州最北部など
橙:『渡航の延期』ガンベラ州全域など
黄:『渡航の是非』ティグライ州西部など
肌:『十分注意』その他の地域
という風になっている。
(2011年3月現在。)

つまり、(国の中の、細かい)「地域」によって
危険度が設定されている。

よって、既に記載したように、
外国人(日本人)スタッフは、
比較的安全な首都などの大都市にいて、
少し危険な地域には、
現地人を雇って、そこに行ってもらい、活動をさせ、
ものすごく危険な地域では、
流石に(誰もいかせられないので)活動しない、
というような、
安全管理地域の「危険度による分類」をすることが
非常に重要になるのである。

(はっきり言えば、外務省の色による分類を、
 そのまま、あなたの団体で使うのであれば、
 肌色と黄色の地域までは、日本人スタッフは行ってもよいが、
 橙色の地域には、外国人スタッフを雇って活動を行い、
 赤色の地域には、絶対に誰もいかない、
 などとする方法も、一つの方法としては考えられる。
 この方法を、一段階、どちらかに、ずらす、ことも、
 あなたの団体の方針や、プロジェクトの内容によっては、
 検討される、ということ。)

(さらに、外務省の分類は、
 基本的に、その国の中の、州単位で分類されているので、
 それを参考にしながらも、
 それとは別に、その州の中での、
 特に危険な地域を、現地有力者の話などを聞きながら、
 さらに細かい『危険区画を示すマップ』を、
 独自に作成していくことが必要となる。)

さて、
日本の外務省が、
これ(安全レベル)をどうやって決めているかというと、
その最大の参考(根拠)となっているのが、
国連の、『UN security phase』である。
これは、一般の人には公開されていないため、
政府系の担当官か、国際公務員か、
それらにコネのある人や組織でないと、
その情報を入手できない。
(インターネット上にも、原則として、公開されていない。)

よって、そこからの情報が二次的に反映される、
外務省の上記ホームページを見るしかないのが、
現状である。


参考:
上記紹介した、
UN security phaseのURLに記載されている
安全レベルの5段階の表は、
やや古いものであり、
現在は、6段階に分類されている。
ちなみに、
かつての、UNの5段階とは、
Evacuation(全てのスタッフが国外脱出・撤退命令)
Emergency programmes only(緊急プログラムのみ可)
Relocation(なるべく国外への移動を推奨)
Restricted movement(移動の制限)
Precautionary(予防のための警戒)
で、現在の6段階は、
黒:6: Extreme
赤:5: High
橙:4: Substantial
黄:3: Moderate
緑:2: Low
白:1: Minimal
と、わかりやすくなった。


11) 24時間、365日

基本的に、国際協力は、
日本などの先進国側に、本部があり、
途上国の首都などに、事務所があり、
そこから、途上国の田舎でプロジェクトを行う、
という体制で行う。

よって、最終的な意思決定権を持つのは、
日本などの本部にいる、団体の理事長である。

しかし、理事長が24時間、365日、
事務所にいるわけではないので、
基本的に、
紛争地帯でプロジェクトを行う場合、
24時間、365日、
常に、現場からの連絡を受けることを担当する
人(または、交代制のグループ)を
作る必要がある。

この人がいないと、
現地で大事件が起こり、
「撤退するかどうか」を始めとする、
重大な決定に対処できないからだ。

ともかく、現場で何か問題が起こったら、
安全管理に関しては、
本部の安全管理担当者が、
最終決定権を持つ、
という体制を作ること。

こうした本部と現場との
「絶対的な信頼関係」を普段から構築することも
一つ、必要なこと。


参考:
海外に派遣されたスタッフには、
家族がいる。
現地の状況が悪くなった時、
家族は当然、心配する。
この、家族らへの説明も、
当然、この安全管理担当者が、
一括しておこなう。
複数の人間が、現地のことに関して
違うことが言うと、家族は不安に思うため。


12) 現地のシニア・スタッフの研修

以上、書いたことに対し、
途上国で雇用したスタッフにも、
研修を行う。
特に、危険度が極めて高い地域には、
外国人スタッフは行かず、
現地スタッフたちだけで行ってもらうことになるため、
団体の安全管理の方針について、
普段から、熟知していてもらうことが必要だ。

具体的には、
車両が移動する時の、通信の仕方、
その暗号での会話の仕方、なども
できるようにしておくことが
非常に重要になる。


13)女性の強姦(レイプ)について

上記のケースでわかるように、
事務所をある程度、武装した所で、
それより強い武力を持つ強盗がやってくれば、
警備を突破されてしまう。

その場合、
相手が武装している場合は、
抵抗をせず、
お金と、金目の物を、全部渡すことになっている。

で、ここまではいい。
問題は、ここからである。

外国人の女性を、強姦したいと思う強盗もいる。

日本人の女性スタッフに対し、

「ぬげ、やらせろ」

と、拳銃をつきつけながら、
言う可能性もある。

この場合、どうしたらいいか?

(以下、内容の性質上、
 あえて、ドライに書くが、)

結論から言うと、
相手が拳銃などを持っていて、
その女性自身に命の危険がある場合、
黙って言うことを聞き、
おとなしく強姦されるしかない。

さからって殺されるよりは、
ましだ、という判断である。


補足:
ただし、
上記は、強盗が武装しており、
女性自身に明らかに命の危険がある場合、である。
一方で、
あなたをレイプしようとする男性が、
武装していない場合は、
激しく抵抗した方がよい。
理由は、
抵抗しないと、強姦ではなく、
(結果的に)和姦になるからである。
後日、裁判になった時も、
抵抗していなければ、訴訟で勝つことは不可能。
具体的な抵抗手段としては、
「大声で叫ぶ」
「走って逃げる」
「反撃する(相手の急所を蹴る)」
など。


参考1:
上記の判断に関しては、
日本政府の外務省及びJICAも、
民間のNGOらの判断も、
大筋で同じのようだ。
この根拠としては、既に紹介した、
以下の本の67、68ページに
上記の内容が明記してある。
「健康で安全に活動するために 
 NGOフィールドスタッフのための 健康・安全対策ハンドブック」
(制作:外務省、NPO法人HANDS)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/pdfs/anzen_hb.pdf

参考2:
政府系のJICAの事業の一つである、
青年海外協力隊が、途上国に派遣される場合も、
(事前に福島か長野で二か月間の合宿研修が行われるが)
元警視庁勤務の女性の方が、
女性隊員だけを集めて講習を行い、
上記と、ほぼ同じ主旨のことを発言している。

参考3:
私が昔所属していた、
世界最大級の欧米の大型医療系NGOも、
文書では書かれていなかったが、
女性スタッフ間では、
ほぼ上記と同じように、理解されていた。


で、途上国で活動するNGOは数多いが、
女性スタッフが自分の団体に入る時や、
危険な地域に派遣される時に、
女性スタッフに、
こうしたことを、上記のように、
はっきり言う団体は、少ない。

明確に言えば、(乱暴な言い方になるが)

「あなたは、途上国に行った時、
 強姦される可能性があります。
 運が悪いと、その時に、妊娠したり、
 エイズやB型肝炎などの、
 一生治らないかもしれない重大な感染症を、
 うつされるかもしれません。
 それでも、あなたは、
 途上国に派遣されることに、
 OKしますか?」

ということを、
はっきり本人にきいている援助団体は、
ほとんどない、ということである。

(こんなこと言ったら、
 ほとんどの女性が、
 その組織に入ろうとするのを、
 止めるだろう、と考えるからだと思うが。)

また、強姦が終わった後の「処置」も
団体によって、大きな差がある。

基本的に政府系の団体の場合、
一応、きちんとした『マニュアル』が用意されている。

例えば、
JICA関係のプロジェクトに参加した場合、
1)妊娠と中絶に関する産婦人科医への受信、
2)エイズ・B型肝炎などの感染症に対する予防薬等の投与、
3)精神的なトラウマに対するカウンセリング、
など、
一応、それなりの対策が事前に用意されている。

(ただし、こうした『マニュアル』は、一応あることはあるが、
 実際は建前だけで、機能していない、と、
 以前JICAで働いてた複数の女性が発言している。)


そして、
NGOの場合は、さらに状況が悪い。

団体によっては、
そもそも、上記のように
女性のレイプの可能性について、
派遣の前に、
はっきり本人に言わないケースも多く、
また、
仮に言っていたとしても、
JICAのような、
上記の様々な事後の処置などが、
用意されていない団体が多い。

要するに、完全に、
「自己責任」ということになり、
また、事後の処置も、
自分の責任で、
病院などに行って
医師と個別に相談する、
(あるいは、それもしない)
ということになる。

(普通、途上国で強姦された女性は、
 精神的に大きなダメージを受けるため、
 家などに閉じこもってしまい、
 ほぼ誰にも話さず、
 訴訟も起こさず、
 病院にも行かない、という人も多い。)


ちなみに、
妊娠と性感染症の予防について、
若干説明しておく。

まず妊娠だが、
レイプされた後、
(産婦人科医が指定する)
女性ホルモン系の薬を飲めば、
妊娠を回避することができる。

基本的に、
女性ホルモンのうちのひとつの、
黄体ホルモンなどを一定量飲めば、
妊娠を防ぐことができる。

より具体的には、(現段階で可能な方法は)
まず、日本にいるうちから、産婦人科医を受信し、
「生理痛がひどく、途上国に長期間いくから」
などと言って、
通常の経口避妊薬を処方しておいてもらう。
できれば、以下の薬のいずれかがよい。
アンジュ21、トライディオール21、トリキュラー21。
(いずれも商品名。)
これらの薬は、飲み始めてからの時期によって、
薬に入っている成分(合成黄体ホルモン等)の量が異なっている。
12日目から21日目に飲むことになっている分の薬が、
もっとも濃度が高い。
これを、強姦された後、
72時間以内に、4錠飲み、
その12時間後に4錠内服すれば、
84%の確立で、妊娠を防ぐことができる。


数日後に、生理(月経)が起きれば、避妊は成功したと考えてよい。
念のため、強姦の2週間後以降に、尿で妊娠検査もするように。
なお、仮に、妊娠が防げた場合でも、
性病(性行為感染症)にかかっていないかどうかを調べるため、
いずれしても、後日、産婦人科の受診は、必須である。

(なお、2011年5月から、
 株式会社そーせいが、
 緊急避妊剤「ノルレボ錠0・75mg」
 (一般名:レボノルゲストレル、levonorgestrel)
 を発売する。
 性交から72時間以内に2錠を服用すると避妊効果。
 国内第III相試験では63例中62例で避妊を確認。
 日本にいる間に、この薬を、産婦人科医に処方しておいてもらうのが、
 一番よい。
 紛争地帯に国際協力にいく、という事情を説明すれば、
 処方してくれる産婦人科医は、いるかもしれない。
 これに関しては、医者の裁量(判断)によるので、
 直接会って、説明・説得するしかない。)

(要するに、女性ホルモン(合成黄体ホルモン)の
 レボノルゲストレル(levonorgestrel)を
 1.5mg、性交後72時間以内に服用すればよい、
 ということになるので、
 既に途上国側に来てしまっている女性の場合、
 現地の薬局で、上記の成分を含む薬を購入し、
 非常時にそなえておく、ということも考えられる。
 ただし、
 1.5mgという量は、
 日頃から、毎日飲み続けて避妊する場合の
 (低用量ピルの)レボノルゲストレルの服用量の、
 10倍以上に相当する量なので、
 嘔吐などの副作用が出る可能性もあり、
 やはり、産婦人科医と相談してから
 処方してもらうことを勧める。)


次に、
エイズの予防については、
レイプされた後、数時間以内に(なるべく早く)、
抗HIV薬を一定量飲めば、
その感染を防ぐことが高確率でできる。

ところが、問題は、(途上国の、ど田舎で)
レイプされた後の数時間以内に、
抗HIV薬を飲むためには、
普段から、常に持ち歩いていないと
いけないのである。

なぜなら、あなたが、
開発途上国の田舎に派遣されている場合、
(抗HIV薬が置いてある病院のある)
首都などの大きな町にいくまでに
数時間以上かかってしまった場合、
そのままHIV/エイズに感染してしまう
からである。

よって、
もしも将来、あなたの所属する組織が、
手厚い「事後の処置」の制度を、持っていなかった場合、
少なくとも、HIV/エイズに関しては、
その感染を防ぐための薬を、自分で持っていた方がよい。

ちなみに、途上国の薬局や病院は、
日本と違って(医師が書いた)処方箋がなくても、
上記の抗HIV薬の合剤を、
金させ出せば、あっさり売ってくれることが多い。
だから、現地に言ったら、まず首都の薬局等で、
これを買っておくことを、一応、お勧めしておく。

(もちろん、その国でのHIV/エイズのリスクの高さにもよるが。
 というが、あなたがどれだけそれを心配するかによるが。)

なお、私の友人で、
長期間、国際協力の世界にいる、
『つわもの』の女性の看護師は
次のように言っている。

「夜、強盗が押し入ってきて、銃をつきつけられて、
 レイプされそうになったら、こう言うのよ。
 『私を強姦してもいいけど、
  お願いだからコンドームをつけてね』
 ってね。
 もちろん、コンドームを渡しながらよ。
 知り合いから聞いたんだけど、
 言うこと聞いてくれることも、
 けっこう、あるみたいよ。」

と、いうわけで、
真偽のほどはともかく、
普段から、コンドームも
持ち歩いていた方がよい。

途上国に行く時に女性は、
必ずこちらも携帯しておくように。
(冗談ではない。)


HIV感染者に、あなたが強姦された場合の対処だが、
基本的に以下の方法で、HIVの感染を防げる。

1)可能な限り速く(数時間以内に)以下を初回内服
AZTを200mg
3TCを150mg
NFVを1250mg
(AZT(商品名レトロビル)だけでも可。)

2)以後、28日間、以下を飲み続ける。
AZTを、朝と夕、300mgずつ飲む。
3TCを、朝と夕、150mgずつ飲む。

日本でこれらの薬を、入手してこなかった
(既に途上国に来ている)女性のために、
途上国側でも首都などで買えるように、
以下、英語名で、以上の薬品の名前を記載しておく。

抗HIV薬(ART,ARVとも言う)の種類と名前
1.AZT(azidothymidine または zidovudine)
   商品名は、レトロビル(Retrovir)
2.3TC(lamivudine)
   商品名は、エピビル(Epivir)
3.NFV(nelfinavir mesilate)
   商品名は、ビラセプト(Viracept)

女性が、危険度の高い途上国に行った場合は、
少なくともAZTは持っていた方が良いかも。

参考:
途上国の『成人HIV感染率』の高い国は、以下である。
これらの国に行く人は、上記の準備は、必須かも。
スワジランド26.1%、
ボツワナ23.9%、
レソト23.2%、
南アフリカ18.1%、
ナミビア15.3%、
ジンバブエ15.3%、
ザンビア15.2%、
モザンビーク12.5%、
マラウイ11.9%、
中央アフリカ6.3%、
タンザニア6.2%、
ガボン5.9%
(2007年)
ちなみに、スワジランドは、妊娠している女性(妊婦)の
HIV感染率は、なんと、42%、である。


14) 一人当たりのお金の用意

まず、緊急脱出に必要な、
ある程度のお金を用意しておく必要がある。

陸路の場合は、
車とガソリンさえあれば
あまりお金は関係ないが、
空路の場合は、
それなりのお金(飛行機代など)が必要になる。

このため、
外国人スタッフ一人あたり、
空路での国外脱出用に、最低いくら、
という金額を、事前に決めておき、
事務所側が用意しておく必要がある。

基本的にそのお金は、
途上国側の事務所の金庫に入れておく。


また、これ以外に、変な話だが
「強盗に渡すためのお金」も必要になる。
理由は、以下である。

基本的に、紛争地帯では、
リスクをゼロにすることはできない。

どんなに事前の対策をとっていても、
事件は、起きる時には、起きる。

例えば、夜、
ものすごい強力な武装をしたスタッフが、
ガードの警備を突破して、
事務所に押し入ってしまったとする。

こうした時、
強盗たちが拳銃などで武装している場合は、
こちらに命の危険があるので、
抵抗を一切せず、
お金も、パソコンや通信機器などの金目のものも
すべてを渡して、
スタッフたちの生命の安全を優先するのが、普通である。

で、問題は、
なんらかの理由で、
事務所に置いてあるお金が、
少なすぎると、まずい場合がある。

要するに、
金持ちで有名な日本人の事務所に
せっかく押し入ったのに、
数千円しかもらえないのでは、
強盗は怒ってしまい、
頭にきて、スタッフ全員を殺す可能性がある。

(過去に実際、そういう事例があった。)

このため、
外国人スタッフ一人あたり、
最低でも「??万円」を
金庫に入れておいた方が良い、という考え方がある。

いずれにしても、
事務所の金庫に、ある程度のお金は、
必要なのである。


また、これと関連して、
日中、外国人スタッフが道を歩いている時に、
強盗に遭う可能性もある。

この場合も、持っているお金が少なすぎると、
「これ以上ない」
と言っても、
「ウソをつけ、もっとあるはずだ」
と言って、殴ったり、蹴ったりされることがある。
よって、
道を歩いている時も、
「?万円」程度の、ある程度のお金を、
外国人スタッフは持っていた方が良い、
と考えられている。

これらの金額が、いくらぐらいが妥当か、
ということについては、
その地域の物価と団体の方針などによるので、
なんともいえない。

他団体がどうしているかなどを聞いた上で、
重々、事前に相談しておくように。


15) 隣国のVISAの取得

自分が派遣される国のVISAを取るのは、当たり前だが、
それ以外に、
急に紛争が波及してきた場合に、
(陸路または空路で)脱出する際の、
避難先の国のVISAも(事前に)取得しておく必要がある。
(そうでないと、急には入れないことがある。)

例えば、アフガニスタンで活動する場合、
隣国の、パキスタンやウズベキスタン等のVISAも
取得する、ということ。

また、紛争時の脱出先だけでなく、
外国人(日本人)スタッフが、急病になった時に、
隣国にある、より設備の良い病院に送る必要がある。
このため、
医療上の緊急事態がおこった場合に、
搬送する予定の国のVISAも
とっておいた方がよい。

さらに言えば、
物資の調達を、隣国から行う場合、
何度もその国に出入りするため、
一回だけ入る、シングル・エントリーのVISAではなく、
何回も出入りできる、マルチプル・エントリーのVISAを
取得した方がよい。

途上国の役所は、仕事が遅いので、
これらを取得するために、非常に時間がかかることも多い。
(ビザの取得だけに、1週間以上かかることもある。)


16) 安全管理マニュアルの作成

ここに書いてあることの、全てを記載した
安全管理マニュアルを、
普段から作っておくことが重要。

各国ごとに危険度や状況が違うので、
各活動地域ごとに、
そこに特化した内容で作ることが必要。

なお、ここに書いておくが、
途上国で外国人(日本人など)が
死亡する最大の原因の一つが、
交通事故である。
紛争に巻き込まれることではない。
このため、
まずはなによりも、
交通事故に気をつけることが
重要である。

次いで、地震などの自然災害にまきこまれ、
(途上国の、ぼろい)建物が倒壊して
死亡するケースもある。

三番目が病気による死亡である。
アフリカなどに蔓延している
熱帯熱マラリアに罹患した場合、
死亡する場合がある。

マラリアにはワクチンはないので、
代わりに予防薬をずっと飲むことを
勧める。
1週間ごとに内服するメフロキン、
という薬か、
毎日飲むドキシサイクリンを飲むか、
の、いずれかを勧める。
前者は、週に1回でよいが、
副作用として3人に一人の人が、
悪夢を見るなどの精神的な副作用が起きる。
後者は、副作用はほとんどないが、
毎日のまなければならない。
どちらにするかは、あなた次第。

なお、
「俺はアフリカに行ったけれど、
 予防薬なんて飲まなかったけれど、
 全然平気だったぜ」
などということを言う人がいるが、
それは単に、『確率の問題』である。

予防薬を飲まなくても、
大丈夫だった人もいるが、
一方で、死んだ人もいる、ということ。

で、「死んだ人の方は、しゃべれない」
ということである。

死んだ人は、

「私はマラリアの予防薬を飲まなかったので
 死にました。
 みなさん、私のようにならないように、
 予防薬をきちんと飲みましょうね。」

とは、言うことができないし、
ブログに書くこともできない、ということである。

私は、私のまわりだけで、
熱帯熱マラリアで死んだ人を、
多数知っている。

というわけで、
マラリアの予防薬は、必ず飲みましょう。


その他、
派遣される先の途上国で
どんな病気が蔓延しているか、
かつ、それをワクチンで予防できるか、
かつ、その接種方法など
を知りたい場合、以下へ。


参考:
厚生労働省検疫所
海外で健康にお過ごしいただくための情報サイト
FORTH For Traveler's Health
http://www.forth.go.jp/


・・・

続く
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65607102.html