2015年06月29日

サンキュータツオ『ヘンな論文』(角川学芸出版)が面白かったよ。

ヘンな論文
サンキュータツオ
KADOKAWA/角川学芸出版
2015-03-26


遅ればせながら、サンキュータツオさんの『ヘンな論文』(角川学芸出版)を読みました。

タツオさんの珍論文紹介は、もちろん『荒川強啓 デイキャッチ!』(TBSラジオ)でもおなじみだし、僕自身は、光文社メルマガでの連載も毎回プリントアウトして読んでいたくらいです。そういう立場からすると、今回紹介されている論文の数々は、そのなかでもクラシックとなっている論文たちであり、その中身のおかしさについては間違いないのだ。

いま「おかしさ」という言葉を使ったが、これは、タツオさんの師である中村明先生の「おかしみ」概念(『笑いのセンス』)を意識しています。「怪しさ」と「面白さ」の両方のニュアンスを併せもつ、両義的な「おかしさ(おかしみ)」。研究に没頭した学者たちは、しばしば浮世離れした「怪しさ」を見せるが、これを「面白さ」としてプレゼンするのが、学者芸人であるタツオさんということになるでしょう。と言うと、珍論文をまるで見世物のように嘲笑するような印象を持たれてしまうかもしれないけど、もちろんそんなこともありません。論文を愛情たっぷりにユーモラスに紹介し、現時点では気づきにくい研究の意義までをも示し、しかも、論文の手続きまで教授してくれます。ガチな学者だからこその細やかなこだわりがかなり伝わってきます。

読みどころはたくさんありますが、ハイライトはやはり、湯たんぽ研究の伊藤先生でしょう。日常に潜む些細な謎、「知れば知るほどわからなくなる」という研究の魅惑的なパラドクス、そしてそれが解明されていくことのカタルシス――伊藤さんの湯たんぽドキュメントは、研究という営みの魅力が詰まっているようです。そして、それに続く「あとがき」。コピペ問題という今日的な問題まで含んだ「あとがき」は、必読です。

タツオさんの態度が画期的なのは(そして、共感するのは)、学者の浮世離れ感は、突き詰めると反転して、エンタメになるのだ、ということを示している点にあると思います。これは、「ソクラテスの熱弁」に通じることです。ダイオウイカ的というか。最近では、しばしば、専門家の世間ズレが問題視される。裁判員制度や橋下的なポピュリズム、あるいは話題の大学改革まで貫く問題だと思います。そのときに、難しいことをわかりやすく教える態度が要求される。池上彰的な。池上さんは好きですが、これがうっかりすると、読者をナメた態度や物事の単純化につながる。そうではなくて、複雑で純度の濃いものでもあっても、プレゼンの仕方によって、そのままエンタメになるのだ(池上はむしろこっちを含んでいると思う)。宇多丸さんが佐々木中さんに言ったように、「ハードコアなまま間口を広げることは可能」なのだ。いや、ハードコアであることこそがエンタメである、という地点があると思うのだ。内容を薄めずに、いかに間口を広げるか。タツオさんの試みは、そういうものとして見えます。そして、そのことにたいへん共感するのです。

toshihirock_n_roll at 19:00│TrackBack(0)ブック | 雑感

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