2015年は「地下鉄サリン事件」から20年経った年だった。20年という区切りに、テレビでたびたびオウム真理教や地下鉄サリン事件の検証番組が放送された。僕はいずれの番組も興味深く観ていた。

地下鉄サリン事件のとき、僕は小学校高学年だった。社会というものがほんの少しずつ分かり始めた年齢ではあったが、本当のところ何が起きているか、幼い僕にはわからなかった。そのわからなさはわからないままに、徐々に頭の奥に住み続けるもやもやに変わっていった。

頭の奥のもやもやを抱えたまま20年経った。そのもやもやを解消したいと思い、実は去年、宗教というものの存在やオウム真理教について個人的に調べた。少しだけオウム真理教に触れるような活動をした。それらの調べたことや活動について、公開の仕方をどうしようか迷っていたため、いろんなことを発信していく僕でも、リアルでもネット上でもあまり公開はしていなかった。ただ、親しい一部の人には話をしていたりはした。

調べていく中で、さまざまな本を読んだ。本当は読んだ本の感想文を書きたかったけど、知識がないうちは自信を持って言えることが少なく、題材が題材だけに慎重を期したかった。断片的な感想だけがいくつもあり、公開できなかった日々が続いたが、これから紹介する本の感想はまとめられそうと思い、以下に記します。



(※以下は敬称略で失礼します)

例えば、田原総一朗の上祐史浩対談本は田原総一朗が聞き役に徹していて、上祐史浩の話を良く引き出していて、面白かった。



地下鉄サリン事件20年 被害者の僕が話を聞きます」は上祐史浩とさかはらあつしが両方、同じぐらい話す…さかはらあつしファンの方は良いかもしれないけど、上祐史浩のことを良く知りたい人には物足りないと思う。さかはらあつしは論旨も明快で、非常に頭のいい人だと思うし、良く勉強している。各章ごとに整理された対談はわかりやすいと思う。ただ、このオウム真理教や上祐史浩に対して、テレビで見た程度の知識がない人には新事実や新解釈があって面白いと思うけど、テレビ以上にいろんな本を読んでいる人にとっては、知っている話が多くて、物足の足りなさを感じると思う。わかりやすいが、わかりやすさを越える本ではなかった。

地下鉄サリン事件20年 被害者の僕が話を聞きます」というタイトルだと、一見、被害者を代表しての話が多いと思いきやそうではなく、オウム真理教と上祐史浩に関するこれまで登場している話をまとめた総論で話が終わっている。その違和感はさかはらあつしの、P220で「僕は被害者感情がそれほどないですから」と言ってしまっているので表面化している。被害者でしか話せない深い話があったようには感じなかった。

本人は否定すると思うが、末尾で結婚を進めているあたりに浅さを感じた。あとがきではひかりの輪の解散を進めているけど、そうなってしまうとやはり被害者賠償や現アレフの脱会支援を誰がするのか、というのを示していない。あくまで、さかはらあつしの中にある「物語」の範疇を出ないと感じる。「問題提起」は行うが、いざ「問題解決」となると、「社会が行うべき」という話となり、「じゃあ、その社会って何?」という疑問に解決する話が登場しない。具体的には、補償などはひかりの輪はやるべきではなくて、社会が行うべき、と書いているが、社会ができていないからこそ、ひかりの輪が活動しているのではないだろうか。理想論だけでは終わってはいけない。

あとがきの中で「解散」こそが「オウム事件を乗り越えること」と書いているが、それは単に「忘れる」だけで、「乗り越えること」とは違うと思う。おそらくこれは上祐史浩があとがきを書ける立場にあれば書くと思うけど、「解散」としてなくなってしまっては、総括していない大日本帝国の話と一緒になってしまうと思う。

さかはらあつしは自らの思考の枠組みを抜け出すことができない人、という印象をあとがきを読んだ受けてしまった。さかはらあつしは今後、広報の荒木浩を主役にするドキュメンタリーを撮るつもりと書いているが、森達也の「A」や「A2」以降にどんなドキュメンタリーを撮るつもりか疑問が残る。荒木浩を主役にするのであれば、「A」や「A2」よりレベルの高いものではないと意味がないように感じてしまう。「A」から感じる荒木浩の虚無感以上の印象を抉り出せるんだろうか。あのずっと時を一緒にしていた森達也が撮影して、その印象の荒木浩だった。撮影される映画はロードムービーと書いているが、内容が単なる対談的なドキュメンタリーはおそらく価値が薄い。

これから撮影されるドキュメンタリー映画が「A」や「A2」よりも社会的意義があると感じられた場合、僕のさかはらあつしに対する評価が変わると思うし、変わることを期待している。


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