好きなラーメン屋は中島公園駅の近くにある。「好きな」といっても、「ほどよく好き」という程度で、そのラーメン屋目当てで中島公園駅に行くことはなかった。中島公園の用事があったついでに行く。

そういう調子なので、行くのは年に数回という程度のラーメン屋だ。だから、いくたびに「潰れていないかな」とドキドキする。そして、潰れていないことに安堵する。そのラーメン屋は一度店内リニューアルをしたものの、それでも昔の雰囲気が残ったラーメン屋である。

久しぶりにそのラーメン屋に行ったのは先日、中島公園駅の近くにあるシアターZOOで演劇を見た帰りだった。

札幌では珍しく、美味しい塩ラーメンを出すお店だった。僕は味噌ラーメンが好きで、あまり塩ラーメンを食べない。だけど、そのお店であれば、塩ラーメンを食べたいと思う。もしかすると、塩ラーメン好きには有名な店かもしれない。

ちなみにこの店には塩ラーメン以外の醤油や味噌のラーメンはない。厳密には「カレーラーメン」があるようだが、「忙しいときはできません」と書いており、通常メニューの中にも入っていない。その他にはカレーライスとチャーハンぐらいのメニューしかない。おじさんは塩ラーメンを作り続けている。

「雪、入口の近くでほろってね。子供が転んじゃうから」

店に入るなり、おじさんの注意が飛ぶ。このお店にはおじさんのマイルールがある。その日はさほど雪が降っていない日だった。確かに靴には少し雪がついていたが、ほんの少しの雪。札幌に住んでいると気にならない程度の雪だ。ラーメン屋の店内は温かい。すぐ溶け、すぐ乾くであろう。だけど、僕はこの店ではゲストであった。あくまでお店のルールに従う必要がある。靴についているほんの少しの雪を丁寧にほろう。

椅子に座ると、おじさんがやってくる。再び、マイルールが宣言される。

「もう少し椅子を引いて座って」

この店は椅子の座り方にもルールがある。僕は普段、こういうルールが大嫌いな性格なのだが、こういう店だと知っていて来ているのと美味しい塩ラーメンが食べたいので、「はい」と言い、従う。そういえば、この注意は以前も受けた気がする。

この店は有名人と店主との記念写真が多く飾っている。ほとんどの記念写真は時代を感じるようにくすんでおり、遠目では誰が写っている写真かわからない。しかし、王貞治との記念写真は明確にわかる。しかも「FDH」と書いた福岡ダイエー時代の王貞治との記念写真であった。何十年と同じ写真が飾っているのだろう。

「食べログ認定レビュワー推薦のお店」のようなポスターも貼っている。2012と2013だ。その先はどうなったんだろうか。

この店ではいつもラジオがかかっている。だが、店内に流れているのはラジオの音だけではない。テレビの音も流れている。しかし、テレビはどこにも映っていない。テレビは厨房にあり、おじさん専用のテレビである。ディスプレイが客席とは逆を向いており、お客さんは見れない。あくまで客席ではラジオと、テレビの混ざった音が聴こえる。注文が入っていないときは、おじさんはかじりつくようにテレビを見ている。

しかも、いつもラジオは雑音が混ざっている。おそらくチューニングが合っていない。雑音混じりのラジオと、テレビの音声が流れる店内は「美味しい塩ラーメンだけを食べることに集中すれば良い」というおじさんからのメッセージ性を感じる。そうだ、このお店はいつもラジオが雑音混じりだ。この感覚が蘇ってくる。

この店は水がセルフサービスである。ペットボトルに水が入っており、自分で注ぐ仕組みだ。セルフサービスなのだが、オーダーを聞きにくるときにおじさんはペットボトルを指を差す。そして必ずこう言う。「水素水です」

僕は水素水を買わない。けど、水素水を飲むのは構わない。僕にとってはなんでもない水なのだが、「水素水です」とわざわざ一言告げる。おじさんにとって、このお店のアピールポイントなのだろう。

その一言で僕の記憶の扉が開いた。そうだ、このお店は随分と前から水素水を出している。世間一般で水素水が話題になる前から、「水素水」という言葉に聞き覚えがあったが、初めて聞いたのはこの店かもしれない。正確な時期は把握していないが、3年前からこの店では水素水を提供していたと思う。随分と流行を先取りしている店だと思う。

インターネットでは水素水に対してのさまざまな情報が流れている。しかし、このテレビにかじりつき、塩ラーメンを作り続けるおじさんはその情報を目にしないだろう。 この店も、塩ラーメンも、おじさんも、セリフも変わらない。おじさんはお客さんに対して、自信満々に言い続けるのだろう。「水素水です」

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