2年ほど前、プライベートでご子息とボール遊びしている三浦知良選手を見かけたことがある。中学時代からの焦がれの存在に出会えたことで非常に興奮したが、それ以上にその研ぎすまされた肉体に驚嘆したのを覚えている。とても40代半ばに差し掛かろうとしている人間のそれとは思えない凄みがあり、その背中はスターであり続ける理由を物語っていた。 “キング・カズ”こと三浦知良選手。ワールドカップには未出場だが、その実績、プロ意識の高さ、カリスマ性を疑う者はいないだろう。45歳になった今も現役でありながら、いかにカズがすごい選手だったかと熱く語られる存在。まさに生ける伝説である。そんなカズが、またひとつ伝説をつくろうとしている。サッカーではなく、フットサルの日本代表としてワールドカップに出場するというのだ。 代表選出後の初戦、国際親善試合のブラジル戦でデビューし、三日後のウクライナ戦では初ゴールと、サポートメンバーとしてではなくフィールドプレイヤーとして結果を出した。当然ながら、メディアはこぞってその活躍や発言を取り上げ、カズへの期待は日に日に高まっている。 ただ、一方で今回の代表選出を疑問視する声も少なくない。たとえば、サッカー解説者のセルジオ越後氏は、カズが代表候補に選出された際次のように苦言を呈している。 

(中略)今回のような安直なやり方には賛成できない。確かに、世間の注目を集め、W杯は盛り上がるだろうけど、それはあくまでカズ人気によるもので一過性にすぎない。その後のビジョンがなければ、フットサルの普及・強化という本来の目的にはつながらないよ。

引用元:週プレNEWS セルジオ越後の一蹴両断! 第278回「カズのフットサル代表選出には大きな疑問が残る」 しごくまっとうな意見であり、確かにW杯という舞台において安易に“客寄せパンダ”を用いるべきではない。リーグ戦で重要な局面を迎えている現役のサッカー選手をフットサルの代表に選出する、このこと自体がそもそもナンセンスという見方もある。また、そのようにしてカズが選出されたことでチャンスを奪われる選手がいるという事実も軽視できないだろう。少なくとも、カズが活躍しさえすればすべてが丸く収まるという話ではない。 セルジオ越後氏の問題提起は、これがカズでなかったとしたら100%正しいと思う。ただ、これはカズだから起きている事態なのであり、カズだからこそ、その“過ち”が現実のものになるのだ。常識では量れない価値を持ち、理想と現実の境目を曖昧にさせるのがカズであり、キングと呼ばれる所以なのである。 これだけで終わってしまったら、ただのカズファンの戯れ言になってしまうので、しっかりと要素を分解したいと思う。本稿のタイトルは、「“キング・カズ”はフットサル日本代表に必要なのか」であるが、実のところこの命題の是非にはあまり意味がない。必要であるか否かは、経済効果が期待できるエンターテイナーとしての「キング・カズ」ではなく、プロフェッショナルの鑑である「三浦知良」のパフォーマンスにのみ依存するからだ。 カズ自身が言うように、フットサル選手としては新人であり、選ばれた中では経験もスキルも一番下だが、だからといって彼がオマケで選出されたことにはならない。総合的に見て大きなプラスとなり、その存在によってチームがまとまり、結果として良い成績を収めることができるという仮説は信頼に足るし、その部分に期待しているのであれば、本戦で出場機会に恵まれなかったとしても、必要がないということにはならない。 カズは日本代表としての誇りを胸に自らをモチベートしながら出番を待ち、ピッチに出ればただひたすらベストを尽くそうとするだろうし、彼のプレーが通用するのかと疑問視するのであれば、それは他の選手も同じと言いたい。これまで日本は3度出場しているが、いずれも予選で敗退している。代表チームとしても、選手としても実績があるとは言えない。カズの起用法についてのみ言及するのは、そもそも筋違いなのである。 また、エースの木暮賢一郎選手は小学校時代の同級生なのだが、彼のように長い間フットサル日本代表を牽引してきたベテランであっても、この世代にとってのカズは憧れの選手であり、今も尚お手本にすべきプロフェッショナルと捉えているはずだ。おそらく他の選手も大差ないだろうし、少なくとも現場ではカズはただの客寄せパンダではなく、心強いチームメイトとして機能しているだろう。 いずれにせよ、日本代表は今日W杯初戦を迎え、世界王者ブラジルに挑む。試合が始まれば、あとは見守るしかない。先日の親善試合のようにはいかないだろうし、カズに活躍の場は与えられないかもしれない。ただ、彼はプロだ。そのときにできることをする。私は日本代表を応援するし、そこにカズがいることにひとかけらも違和感を覚えないだろう。少しでも長く、カズのプレーを見たいと思ってしまうだろう。 もう一度言うが、それがカズであり、キングと呼ばれる所以なのである。 ※言論プラットフォーム「アゴラ」に掲載された記事を転載しています