『世田谷一家殺人事件−侵入者たちの告白』齊藤寅著(草思社)『ハードボイルド・エッグ』荻原浩著(双葉文庫)

2006年07月17日

『桜宵』北森鴻著(講談社文庫)4

桜宵

 父の日に珍しく娘たちが「お父さんの欲しいものを買ってあげる」と言ってくれました。もっとも、娘たちには、お小遣いをあげていないので、あまり負担にならないものを選ばなければいけません。ということで、ちょうど、買おうと思っていた『桜宵』を買ってもらいました。その後、次から次へと自分で他の本を買ってしまい、やっと今日、読み終えました。

 本書は『花の下にて春死なん』に続く、ビアバー<香菜里屋>のマスター・工藤を主人公にした連作短編集で、5編が収録されています。

 表題作の『桜宵』は、亡くなった妻が残した手紙がきっかけで、香菜里屋を訪れた男性の物語です。妻は、香菜里屋について、「おいしいビールと料理が楽しめる素敵なお店です。一度訪ねてみてください。私があなたに送る最後のプレゼントを用意しておきました」と書き残していた。



 遠くから訪ねてきたという男=神崎に、工藤は「もしかしたら神崎守衛様ではありませんか」と尋ねるが、彼はある事情から、それを否定する。

 そのあと、工藤は店の客に、紅色に染まった飯を供した。神崎はそれと同じ味の炊き込みご飯を何度か妻がつくっていたことを思い出し、これが「最後のプレゼント」の意味であると理解した。しかし、常連客が、「やはりこの季節は桜飯に限る」と言ったことから、別の思いにとらわれる。

 妻の作った炊き込みご飯は薄緑色で、妻はそれを「茶飯」だと言っていた。だが、あれが実は「桜飯」であったとすれば、薄緑色は、珍しい薄緑色の桜「御衣黄」(ぎょいこう)を暗示するものだったのではないか。神崎には妻には知られていないはずの、御衣黄にまつわる秘密があった…。

 『桜宵』の中で語られる、御衣黄に関わる物語は、切ないものです。そして、工藤に『桜飯』を託した、神崎の妻の心情にも、切なさを感じます。

 他の作品、特に『約束』という最後の作品には、相当に後味の悪い思いをしましたが、『桜宵』一編を読むだけでも、この本を手にする価値があります。

 それにしても、相変わらず工藤の作る料理はおいしそうです。アルコールに弱いぼくでも、4種類あるビールのうち、一番度数の弱いビールなら、グラスに一杯くらいはいけるかもしれませんので、是非、ビールと料理を味わってみたいと思うほどです。シリーズ3作目の『蛍坂』も読むのが楽しみです。(7月17日読了)



touch3442 at 13:50│Comments(6)TrackBack(2) BOOK−ミステリー | BOOK−北森鴻

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1. 『桜宵』北森鴻  [ ひなたでゆるり ]   2006年07月17日 17:16
桜宵北森 鴻講談社2003-04by G-Tools バー「香菜里屋」に集う人々をめぐる事件。東京・三軒茶屋の路地裏にひっそりと佇むバー「香菜里屋」のマスターが探偵役のシリーズ第2弾。日本推理作家協会賞受賞の「花の下にて春死なむ」に続く連作集。 「十五周年」「桜宵」「犬の...
2. 「桜宵」北森鴻  [ 日だまりで読書 ]   2007年05月20日 21:55
ビア・バーって、こんなところなんだ。 居酒屋さんかチェーン店のビア・レストランしか行ったことのない私は、その贅沢な空間にびっくり。 ★★★☆☆ 度数の違う4種類のビールを置く店、「香菜里屋」。 そこには??ouy

この記事へのコメント

1. Posted by やぎっちょ   2006年07月17日 16:20
こんにちは。
本のブログ「"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!」管理人ののやぎっちょと申します。
今回ブログにてリンクを紹介文つきで新しく作りましたので、ご確認いただけないかと思いコメントしました。
こちら↓
http://blog.livedoor.jp/bestbooks/archives/50517687.html

もし、不都合、紹介文の変更希望などございましたらご一報いただけると幸いです。
リンクを貼らせていただいた皆様に、この同じ文を送らせていただいています。ぎこちないところはどうぞご容赦ください。
2. Posted by リサ   2006年07月17日 17:23
touch3442さん、こんにちは!
この本、娘さんからのプレゼントだったのですね〜。
なんて素敵なんでしょう♪
余計思い出に残る作品になりますね。

「桜宵」はとても切ない話しで大好きです。
収録されている短編、全てが良いというわけでなく
時に受け入れられないものもありますが、本当に「桜宵」だけでも
この1冊を受け入れることが出来ます。
「香菜里屋」、いつも行ってみたい〜と思いながら読んでいます。
きっと通いつめちゃいます(笑)
TBさせていただきました。
3. Posted by touch3442   2006年07月17日 20:25
やぎっちょさん、こんばんは。
このブログをリンクで紹介して下さって、ありがとうございます。
質量共にぼくとは比較にならないような、他の方の立派なブログと肩を並べるのは、ちょっぴり恥ずかしい気がしますが、とりあえず自分の書きたいことを時間の許す範囲で書き続けていきたいと思っています。
4. Posted by touch3442   2006年07月17日 20:33
リサさん、こんばんは。
TBとコメントありがとうございます。
『桜宵』は最高に素敵な作品だと思います。
それから、香月という新しいキャラクターも興味深いですね。
「香菜里屋」と「バー香月」と、こんな洒落たバーを2軒も知っていたら、お酒とおいしいものの好きな人は、通い詰めて、お小遣いがいくらあっても足りないでしょうね。飲めないぼくも、一軒くらいはこんな隠れ家を見つけておきたい気がします。
5. Posted by そら   2007年05月20日 22:07
touch3442さん、こんばんはっ♪
あら、touch3442さんも読んでいらしたのね…ということで、TBさせていただきました。
去年の父の日のプレゼントだったのね。
そんな記事をたまたま見つけ出したことに、
ちょっとしみじみしたのでした。
6. Posted by touch3442   2007年05月20日 23:35
そらさん、こんばんは。

さて、今年の父の日のプレゼントは何かな?
上下二冊のハードカバーをリクエストしたら、娘たちが泣くかな?

『香菜里屋』シリーズの第三弾も、早く文庫化して欲しいですね。

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