『あかんべえ 上・下』宮部みゆき著(新潮文庫)『天使が開けた密室』谷原秋桜子(創元推理文庫)

2007年01月07日

『狐笛のかなた』上橋菜穂子著(新潮文庫)5

狐笛のかなた

 以前、『夕刊ゲンダイ』で、子どものために、上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』を買った父親が自分の方が夢中になって、「バルサ」シリーズを揃える羽目になったという記事を読みました。そこで、ぼくも娘のために、『精霊の守り人』を買い与えたのですが、あいにく娘は、「こわい」といって、途中で読むのを止めてしまいました。

 しかし、「バルサ」シリーズの魅力は、やはり父親のぼくをとらえて放さず、『闇の守り人』、『夢の守り人』、『虚空の旅人』と読み続けました。『虚空の旅人』は「バルサ」シリーズの外伝という位置づけになるらしいのですが、思いやりのある少年に成長した皇子チャグムに、「立派になって」と頭を撫でてやりたい気がしたものです。

 さて、無国籍の「バルサ」シリーズと異なり、この『狐笛のかなた』は日本(らしき国)を舞台にしています。時代は明らかではありませんが、まあ、鎌倉時代から戦国時代の頃を想定して読めばいいと思います。

 十二歳の小夜は、幼い頃に母を亡くし、産婆をしているおばあさん・綾野に育てられた。小夜には、人の心を読む力が備わっているが、その力を隠して、綾野と二人、里の外れでひっそりと暮らしている。

 ある時、犬に追われる子狐を助けようとした小夜は、ある屋敷に住む少年・小春丸に助けられる。子狐は呪術者の使い魔・野火であった。しかし、小夜と小春丸はそんなことはつゆ知らず、弓矢で傷ついた野火の怪我を手当する。

 小春丸には何らかの事情があるらしく、屋敷に幽閉されている。小春丸は深夜にこっそり屋敷を抜け出して、小夜と逢い、心を通い合わせるようになる。しかし、二人の逢瀬は長くは続かず、小春丸が屋敷を抜け出していることが、家中の者に知れてしまい、小夜の身を案じた彼は、もう二度と逢わないと宣言する。小夜は何度か、夜に屋敷を訪ねたが、小春丸が出てくることはなかった。そして、三年の月日が流れ、小春丸とのことは淡い思い出になりつつあった。



 綾野が亡くなり、一人で生計を立てなければならなくなった小夜は、ある時、怪しげな殺気を漂わせる男に遭遇する。その男に気取られ、危うく捕まりそうになったところを、鈴という娘に助けられる。鈴と彼女の兄・大朗は、小夜の母・花乃の知り合いであり、大朗は領主の呪者を務めていた。

 後日、小夜は大朗から、母親の最期の様子や、自分の生い立ちについて聞かされる。花乃は、領地をめぐる二つの国の争いに心を痛め、幼い赤ん坊の命を守ろうとして命を落としたのであった。

 今また、二つの国の間では跡目相続をめぐり、陰謀が渦巻いていた。敵対する呪者の使い魔である野火は、心ならずも小夜の命を狙うことになる。もし、主の命に背けば、命はない。しかし、野火は小夜に対する恋慕の情を捨て去ることができない…。

 領地をめぐって、憎しみ合う殺伐とした物語でありながら、読んでいて爽やかな気分になるのは、小夜と野火というキャラクターのおかげでしょう。何ともまっすぐで、相手のためなら自らの命を投げ出すことも厭わない二人の姿は、心に沁みます。ぼくはカテゴリーを「ファンタジー/SF」に分類しましたが、「ロマンス」にしてもいいような気もします。

 この作品は「野間児童文芸賞」を受賞しています。賞うんぬんは別として、少しでも多くの中・高校生に是非とも読んでもらいたいと思います。きっと、本を読むことが好きになる、そんな作品です。(1月7日読了)



touch3442 at 23:51│Comments(6)TrackBack(1) BOOK−ファンタジー/SF | BOOK−その他の「あ」行の作家

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1. 「狐笛のかなた」上橋菜穂子  [ 日だまりで読書 ]   2008年12月24日 19:51
『闇の守り人』がドーンと来たので,小休止にシリーズ外の作品を。 ★★★☆☆ 夕暮れの枯野を火色の毛皮を光らせて駆ける子狐はふしぎな...

この記事へのコメント

1. Posted by なな   2007年01月08日 13:46
表紙がとても神秘的で美しい本ですね〜
touch3442さんやその他読書好きの方々からすれば私の読書量なんか比ではないと思いますが、そんな私でさえ、最近みんな活字を読まないのだなと思う事が多分にあります。
私はマンガが本に劣るとは思いませんし、むしろその逆である事も充分にあると思います。
でもやはり読書はマンガにはない良さもいっぱいあると思うので、本を読む事が好きになる人たちが増えるといいですよね★
2. Posted by touch3442   2007年01月08日 14:37
ぼくもマンガの良さは否定しません。
マンガならではの楽しさも理解しています。

読書の魅力は、またマンガとは別物ですね。
別に世界の名作を読めなんて堅苦しいことは言いません。自分が面白そうだと思った短い小説でもいいから、本に親しんでくれたら、その人の世界が広がるだろうなあと思うだけです。

会社の後輩が、「酒も飲まず、煙草も吸わず、ギャンブルもしなくて、女遊びもしない、何が楽しくて生きているんですか?」なんて、失礼なことをぼくに言ったことがありますが、面白い本に出会った時の喜びは、それに勝るものがあると思います。
3. Posted by ふち   2007年01月14日 13:46
はじめまして!

「精霊の守り人」はTVアニメにもなるみたいですね。
制作風景をNHKで放映予定とか。
一体どんな映像になるんでしょう。楽しみですねー。

ttp://www.nhk.or.jp/ningen/
1月19日22時 にんげんドキュメント
対話がアニメを作り出す〜監督 神山健治〜
4. Posted by touch3442   2007年01月14日 20:59
ふちさん

はじめまして。

『精霊の守り人』の情報ありがとうございます。

ドキュメンタリーをNHKが放送するということは、アニメの制作もNHKなのでしょう。
NHKのアニメは、『カードキャプターさくら』をはじめ、結構、質が高いので楽しみです。

作品自体を読んだのが、もう何年も前なので、ほとんど内容は忘れてしまっていますが、上橋さんの独特の世界にスポットライトが当てられるのは、うれしいですね。
5. Posted by そら   2008年12月24日 19:49
touch3442さん♪

>何ともまっすぐで、相手のためなら自らの命を投げ出すことも厭わない二人の姿は、心に沁みます。

本当に。
「しみじみと」という言葉のこれほど似合う作品もなかったかなぁと思います。

ところで。
お嬢さん,『精霊の守り人』ダメだったの?
うちの息子は,「表紙の絵が気に入らない」と言って,読もうとしません。『ダレンシャン』に嵌った息子にはおもしろいと思うんだけどね〜。。。
子供に本を勧めるのって,なかなか難しいわね〜。
6. Posted by touch3442   2008年12月24日 22:43
そらさん

初々しい二人が心を寄せる様子を見ていると、こちらまで心が洗われるような気がしました。
やっぱり、こういう本は、若いうちに読んで欲しいですね。

 上の娘は、『精霊の守り人』をクリアしました。
 当時は、怪物が出てくるから、怖くて嫌だと言っていたのですが、その後ちょっと大人になったのか、知らないうちに読み終えて、『闇の守り人』も読んだようです。

> うちの息子は,「表紙の絵が気に入らない」と言って,読もうとしません。

 確かに、独特の表紙ですよね。嫌がる息子さんの気持ちは分からないでもありません。でも、そらさんが「面白いよ」と繰り返し唱えていれば、いつか手に取ってくれるのではないでしょうか。

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