2010年07月19日

『戦友の恋』大島真寿美著(角川書店)4

 『グランド・ミステリー』を読んだあとだけに、読みやすくて、スイスイと読み終わった。

戦友の恋戦友の恋
著者:大島 真寿美
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2009-11-27
おすすめ度:4.5
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 【「友達」なんてぬるい言葉じゃ表現できない。「戦友」としか呼べない玖美子。彼女は突然の病に倒れ、帰らぬ人となった。彼女がいない世界はからっぽで、心細くて、でも、それでも生きていかなければならないのだ……】(角川書店HPの内容紹介より))



 漫画家志望の山本あかね大学を卒業したにも関わらず、19歳と年齢をごまかして、作品を投稿する。しかし、編集者である玖美子に才能がないと断言される。<こんなへったくそな絵じゃ、アシスタントとしてプロの漫画家さんに紹介することすら無理>とまでこきおろされるが、原作者としてなら見込みがあると言われる。漫画家への思い入れの深いあかねは、その話を断るが、自分の作品を酷評した玖美子がまだ新人であることを知り、猛然とくってかかり、自分が彼女と同じ年齢であることを口走ってしまう。

 縁は異なもの味なもの、それがきっかけとなって、あかねは「山本佐紀」と名前を変え、漫画の原作者としてデビューする。佐紀と玖美子は、がむしゃらに仕事をし、打ち合わせと称しては、しょっちゅう食事をしたり、飲みに行ったりした。

 こうして疾風怒濤の二十代が過ぎて行く。そんな中で、佐紀も玖美子もそれぞれに恋をした。

 二十代後半であった玖美子の恋の相手は、離婚経験のある四十代後半のテレビ番組制作会社の役員・江差。彼は、別れた妻との間にもうけた一人息子と暮らしている。自分の仕事が忙しいにも関わらず、江差の家へと通い、家事をこなし、疲れ果てた玖美子の姿にいたたまれず、佐紀は彼と別れるように忠告するが…

 最初の物語のタイトルが『戦友の恋』だったので、てっきり、佐紀と玖美子の話はこれで終わり、残りは、別の主人公たちが登場する短編集だと思っていたら、この本は連絡短編集であった。

 玖美子亡きあとの、佐紀の人生。といっても、この作品はただ喪失の哀しみを綴ったものではない。

 玖美子の後任の編集者で、何とも自信過剰な若造・君津や、佐紀たちの行きつけだったライブハウスのオーナー・律子、佐紀のかつての恋人であった太刀川、幼なじみの木山達貴。

 彼らは玖美子と違って、決して佐紀の「戦友」にはなり得ないが、彼女の人生に確かな軌跡を残していく。佐紀は大きなスランプに見舞われながらも、何とかそれを克服し、新しい一歩を踏み出す。

 大島さんの作品は、生きていくための活力を読者に与えてくれる。声高に人生の意義を説く訳ではなく、主人公と登場人物たちの交わりを通して、あるいは主人公が目にする一瞬の風景を切り取って、生きることにはそれなりの意味があり、喜びがあることを教えてくれる。そのさりげなさがいい。

 図書館でまた、本を探す楽しみが増えたね。(7月19日読了)



touch3442 at 22:10│Comments(0)TrackBack(1)BOOK−一般 | BOOK−大島真寿美

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1. 「戦友の恋」大島真寿美  [ 粋な提案 ]   2011年06月02日 01:42
佐紀もそろそろ禁煙したら、と玖美子にしては珍しい忠告をした。いつもなら、うるさいなあと思ったはずなのに、神妙に頷き、まあね、あたしもやめようかなあとは思ってんのよね、と殊勝に答えると、そうしな、...

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