作: ウィリアム・ギブソン
翻訳: 常田景子
演出: 森新太郎
出演: 高畑充希、平祐奈、村川絵梨、池田成志、井上祐貴、山野海、森山大輔、佐藤誓、増子倭文江、倉澤雅美、中野歩、秋山みり、古賀ありさ、荒井天吾、石塚月雪
観劇日: 2022年5月22日(日) 12:30
上演時間: 第1部(55分) / 休憩(10分) / 第2部(70分) / 休憩(10分) / 第3部(55分)
劇場: 東京芸術劇場 プレイハウス
チケット代: S席 9,800円(J列) [パンフレット代:1,800円]
【感想】
誰もが知っているサリヴァン先生とヘレン・ケラーの物語。もうあらすじは省略します。
今回もまたまた泣かされました。
高畑充希さんによるサリヴァン先生は、前回(2019年)に引き続き2回目。
いやあ、やっぱ高畑さんのサリヴァン先生はいいですねぇ。
私には『ガラスの仮面』の印象が強く残っていて、だから、どうしてもヘレンにフィーチャーしがちだったんですが、前回の高畑さんのサリヴァン先生を観てから、そもそも「奇跡の人」ってサリヴァン先生のことなんだよなと改めて気付かされた次第です。
何度も観て、筋も結末もわかっているのに、何でこんなに感動するんだろう?
それは、この舞台が、単にハンディキャップを克服した"感動モノ"だけでは終わらない描き方をしているからでしょうね。
もちろん先生と生徒の"心の交流"(最後は分かり合えるみたいな)が主軸になりますが、サリヴァン先生による「プロジェクトX」とか「プロフェッショナル」のような見方もできます。
ケラー家の主人・アーサー(池田成志さん)という反対勢力にも屈せず、母親・ケイト(村川絵梨さん)を味方につけたりしながら、ヘレンに言葉を教えるというプロジェクトをやり抜くみたいな。
他にも、ジェイムズの自立を含むケラー家の物語としても観られます。
皆それぞれが、ヘレンのことを想っていますが、その対応の違いによって衝突し、そこにドラマが生まれる訳ですね。
よく親や先生が「子供の可能性を信じる」なんてことを言ったりしますが、でも本当に信じきってる人ってどれくらいいるんでしょうか。
サリヴァン先生だけは、ヘレンの可能性を心底信じきっていたんでしょうね。
だからこそ、なかなか分かってくれないヘレンに"もどかしさ"を覚えるんでしょうね。
そして、その"信じ切る"という強さが、奇跡を起こすんでしょうね。
高畑充希さんのサリヴァン先生は、そういうのがとてもよく伝わってきて、なんか序盤のセリフから、もう心に突き刺さって、早くも泣きそうになってしまいました。
ヘレン役の平祐奈さんも良かったですねぇ。
平祐奈さんの演技は、テレビや映画でも拝見したことがなかったんですが、まさに"体当たり"で、生命力溢れるヘレンを体現してらっしゃいました。
おそらく視点が定まらないように見せるためなんでしょうが、ずっと寄り目がちにしていて……あれ、結構しんどいんじゃないかなぁ。
時折、オペラグラスを使って観劇してたんですが、あるシーンで平さんの袖がまくれた時、アザができているのを見つけてしまいました。
高畑さんもそうだと思いますが、きっと全身にアザ作ってるんでしょうね。
舞台は、ヘレンが井戸の水を触って、モノには名前があることを理解するという有名なシーンで終わります。
でも、その後のことを思うと、やっぱりヘレンも「奇跡の人」ですよね。
我々は、目に映るモノや聞こえる音から「あれは何?」と興味を持ったり、自然と覚えたりすることができるわけで、つまり、ある程度ボーッとしてても、そういった情報を受動的に入手できます。
ところが、ヘレンは能動的に情報を探しにいかなければ、それがあることすらわかりません。
それが如何に大変なことか……私には想像することもできません。
ましてや、"物体"だけじゃなくて、気持ちや概念のような抽象的なモノ・コトを理解していくなんて。
そんなことを考えたら、つくづく凄い人だなと。
コロナ禍の今、勇気と元気がもらえる舞台でした。
※ この日は高畑さんと平さんによるアフタートークショーもありました(司会はパンフレットの編集もされた金田明子さん)。
舞台を終えての感想は、高畑さんは「疲労困憊」、平さんは「爽快」とのこと。
毎回、「なんで分かってくれないの」ともどかしい思いをするサリヴァン先生は疲れ果て、舞台を暴れ回るヘレンはスカッとするそうで。
高畑さんもヘレン役の時は、爽快だったらしいです。
高畑さんは、ヘレン役を2回、サリヴァン先生役が今回で2回目ということで、来月6月11日の公演で通算100回目の『奇跡の人』になるとか(ご本人も知らなかったみたいです)。
高畑さん曰く「これだけ起きてれば奇跡じゃないですね」。