作・演出: 蓬莱竜太
出演: 井上芳雄、伊藤沙莉、若村麻由美、高橋努、入山法子、太田緑ロランス、石田佳央、和田琢磨、小磯聡一朗、柴田美波、林大貴、BOW、益田恭平、吉田萌美
観劇日: 2021年6月28日(月) 13:00
上演時間: 第1部(1時間15分) / 休憩(20分) / 第2部(1時間10分)
劇場: PARCO劇場
チケット代: 12,000円(F列) [パンフレット代:1,500円]
【感想】
蓬莱竜太さんの作品は大好きで、数年前からよく観ています。
私が観たものは、現代の日本を舞台にし、日常の何気ないひとコマに、ちょっとした"毒"やユーモアを混ぜ込んで、最後にはジーンときたり、ほんわかしたり、考えさせられたり……みたいな芝居が多かったんですが、今回はかなりテイストが違っていて。
第一王子・ナルが病に倒れ、政治的混乱に陥っている国・ルーブでの話。
呪われた子として生まれ、ずっと城から遠ざけられて育った第二王子・トル(井上芳雄さん)は、反乱分子を鎮圧するために城に呼び戻されます。
様々な理由をつけて、反抗する人民の首を次々に切り落としていった彼は、いつしか「首切り王子」と恐れられるようになりますが、ある日、自殺しようとしたヴィリ(伊藤沙莉さん)に会い、彼女の死を恐れない様に興味を持ち、自分の召使いとして城へ連れて帰ります。
そして、ヴィリはトルに仕えるようになりますが……。
舞台セットは、まるで稽古場のような感じ。
中央にコンパネで作られたような高さの違う台があり、シーンに合わせて、演者の手によって組み替えられます。
それを取り囲むように、演者たちの待機机が配置されていて(アクリルパーティション付き)、出番のない演者は、そこに座って休憩?してます。
物語の方は、チラシやホームページには「現代の寓話」と書かれていましたが、教訓的なメッセージより、"切ないファンタジー"色の方が濃かったかな。
生まれてからずっと、城から遠く離れた孤島?で、執事と二人きりで暮らしてきたトル(その執事にも、最後には酷いことを言われ、殺してしまいます)。
そんなトルが、母親である女王・デン(若村麻由美さん)を守ろうと(愛されようと)して、反乱分子を処刑していく。
まあ処刑される方はたまったもんじゃないけど、トルの気持ちを考えると、かなり切ないですよね。
しかも、当然、家来たちからは距離を置かれるので、周りに人がいても、孤独であることは変わりない。
そんな心情をいち早く察して、フランクに接してくれるのがヴィリ。
召使いなのに、まるで友達のようで……この二人のやり取りが、ほっこりするんだけど、同時に、それまで味わってきた寂しさが際立ってきて、やるせないんですよね。
母親の愛情が欲しい、一緒に遊ぶ友達が欲しい、そんな寂しさを抱えた子供が、そのまま大きくなった感じを井上芳雄さんが好演しています。
デンと広間で影踏みをするシーンも、たまらなかったですね。
伊藤沙莉さんは、少年のように屈託ないヴィリを、そのまんま演じていて、トルとは息もピッタリでした(カーテンコールでは、息が合ってませんでしたが(笑))。
他の登場人物も、皆、それぞれ想っている人がいて、その人に愛されたくて……でも、その願いは叶えられず。
最後、トルの魂を取って(トル)、ナルになる(ナル)という魔法のせいで、カタストロフィを迎えます。
寓話ということなので、「トル」や「ナル」以外にも隠されたメッセージがあるのかと思い、帰宅後、他の名前も調べてみましたが(ルーブは英語で潤滑油、ドイツ語でライオンとか、デンは英語で巣穴とか、ヴィリは男性の名前とか……蓬莱さんの意図と合ってるかどうかわかりませんが)、あまり深読みはせず、純粋なファンタジーとして観るほうがいいかもしれません。