2009年09月23日

物部氏と東国、鳥見神社の謎に迫ろうとしましたが・・・

 このエントリーは久しぶりの歴史オタク話です。今回は「物部氏と東国」に関することです。長文で、かつ東葛地域だけに限定できる話でもありませんので、これまでのように「よし、オタ話に付き合ってやらぁ」という方だけ読んでください。

DSC00844 手賀沼の南、旧・沼南町から印旛沼にかけて鳥見(とりみ or とみ)神社が約20社も分布しており、そこを訪ねた話は何度か書きました。で、この神社の祀神がニギハヤヒです。

 この神様、神話&歴史好きにはたまらない存在。東征してきたカムヤマトイワレヒコ(=神武天皇)にあっさり国を譲るばかりか、決死の覚悟で神武と戦う忠臣ナガスネヒコを誅殺する、とぼけたオッサンなのです。さらにニギハヤヒは、蘇我氏に滅ぼされた古代の大族、物部氏が祖神として祀っていました。

DSC00844 そのニギハヤヒを祀る神社が手賀沼から印旛沼にかけてだけに多数存在するのは大きな謎です。しかも、旧・沼南町の布施にある香取鳥見神社の碑には、「手賀とは蝦夷語で鷲の意味」と書かれているので、妄想をかき立てられます(笑)。物部氏と蝦夷のつながりに関して、東日本を中心にいろんな伝説があるからです。

 ただ、物部氏を語るのは難しいです。古代日本、まだ倭と言われた頃の有力豪族の中でも茫洋としてつかみどころない一族だからです。それでも、古代日本の王家の可能性があり、古代の最大の敵役、蘇我馬子に滅ぼされるという悲劇性から、歴史オタクにとっては極めて気になる存在なのです。

 さて、なぜ東葛地域から印旛地域にかけて物部氏の祖神を祀る神社が多数存在するのかですが、これは物部氏を語る以上に難しい話です。「どうしてだろう」と考えあぐねていたら、最近、大きなヒントになる二つの文献を知りました。

 一つは「続日本後紀(しょくにほんこうき)」。平安時代前期の歴史書で、私は直接原典を読んだわけではありませんが、面白い記事が載せられているそうです。なんでも、物部小事(オゴト)という人物が関東地方を征した武勲により、下総国の匝瑳郡を与えられ、物部匝瑳氏などの祖となった、というものです。

 このオゴトさんの活躍の時期は諸説ありますが、私は5世紀後半だと思います。その頃ですと、関東地方を単に征しただけでは、古代日本の中央の連中にとって大した話ではありません。当時は租税制度がなかったため、金山でも見つからなければ領土拡大の意味はほとんどなかったからです。

 にもかかわらず、関東制圧を高く評価されたのだとしたら、それはオゴトが現地の人々を従え、兵として送り出せるようにしたからでしょう。まあ妄想レベルの話ですが、後の世に関東の人々が防人として徴発されたことを思い起こせば、有り得ることだと思います。その中に、蝦夷の人々もいたのかもしれません。

 もう一つの文献は「物部氏の伝承」(畑井弘著、講談社学術文庫)です。これは少々難解な本でしたが、メチャクチャ面白かった。この本の趣旨は、物部というのは“一族”のことではなく、日本中の多種多様な部族の総称だというもの。そして、物部の中でも有力な一族が他の物部を束ねており、時代の変遷と共に覇権がいくつも物部の一族の間を移動したと主張しています。

 しかも、物部氏の最大の英雄、物部麁鹿火(アラカイ)は東国の人の可能性があるとしています。このアラカイという人は、古代日本の覇権を賭けた、大王ヲホド(=継体天皇)と九州の覇者である筑紫君磐井(イワイ)と決戦で、ヲホド大王に全権を任され大勝利を納めたオッサンです。

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 さて、そのアラカイの母親ですが、伝承では信濃国の諏訪氏の出との伝承があります。諏訪氏と東葛地域のつながりについては、「おすわさま」の話として「西より来たりし人々」で書きました。しかもアラカイの祖父の弟が、あのオゴトです。ですから、アラカイが坂東(関東)人である可能性も、妄想レベルですが有り得ますね。

 そもそもアラカイと、蘇我氏に滅ぼされた物部守屋(モリヤ)との血のつながりは伝承レベルでも極めて薄いのです。むしろ、「物部氏の伝承」の通りだとすると、全くの赤の他人の可能性もあります。

 まあ、アラカイを坂東人、あるいは東日本の人と断定するのは無理があるとしても、アラカイが配下の坂東の兵を率いて九州に攻め入ったと想定することはできると思います。そして、難敵イワイを粉砕した坂東兵の圧倒的な強さの記憶から、後の世に防人の制度ができた、なんて仮説も成り立つかもしれませんね。

 そんなわけで、手賀沼から印旛沼にかけて点在する鳥見神社の謎には迫りきれてはいませんが、関東と物部氏の関係はかなり濃密なのは確かです。まだまだ鳥見神社を研究する価値はありそうです。

toukatsujin at 22:58│Comments(8)TrackBack(0) 東葛地域ネタ | 自転車とちゃいます

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この記事へのコメント

1. Posted by サスケハナ   2009年09月24日 12:27
東葛人さん、こんにちは。
東葛人ワールドがますます楽しくなってきました!
1.物部小事(オゴト)という人物が関東地方を征した武勲により、下総国の匝瑳郡を与えられ、物部匝瑳氏などの祖となった
2.物部というのは“一族”のことではなく、日本中の多種多様な部族の総称だ
3.物部氏の最大の英雄、物部麁鹿火(アラカイ)は東国の人の可能性がある。アラカイが配下の坂東の兵を率いて九州に攻め入ったと想定
などなど、文献引用としても、それをこのようなワールドに構成する凄さ! 面白くて興味津々です。

「モノノベ」について(1)からの連想で一言。古来「モノ」とは「化け物」「鬼」を(正史側から)意味していたようで、物部とは正史側から見た「モノの部」、つまり「化け物、得体のしれない、部族」の謂いかもしれないと思いだしましたが、いかがでしょうか。
2. Posted by メタ男   2009年09月24日 17:35
東葛人さん、今晩は。
ワールド、面白くて引き込まれます。難解な本の要約が本当に助かります。
ところで、千葉県県教委のHPに文化財ナビがあります。所在地に「作」と入れて検索すると、小金牧や佐倉牧の周辺地点がどっと出てきます。ただ、動きが遅く、怪しいサイトのように脱出困難です。
あと、くぬぎ山駅北の土手は「かけら」ですから、それだけ見に行くとがっかりします(しました)。
3. Posted by 東葛人   2009年09月26日 11:00
サスケハナさん、恐縮です
ほとんど妄想レベルですが、楽しんでいただけてよかったです。
ご指摘の点は、物部氏の人々がいつから「モノノベ」と自称するようになったのかがポイントだと思います。
少なくとも、5世紀には「モノノベ」と自称していなかったようですので、大伴氏あたりから「化け物、得体のしれない、部族」と見なされていた可能性は大いにあると思います。
ところで、こんな話をすると本当に楽しいですね。
ぜひまたワイワイやりましょう!
4. Posted by 東葛人   2009年09月26日 11:17
メタ男さん、おはようございます
あの本は難解なだけでなく、あやしい記述も散見されますが、着想が示唆に富んでおり、楽しむことができました。
メタ男さんにも楽しんでいただき、よかったです。
またまた面白いツールをご紹介いただき、ありがとうございます。
しばし文化財ナビで遊んで、野馬土手の位置も確認してみます。
ところで土手の「かけら」については、駅の南の土手と併せて見に行くつもりですので、ノープロブレムです(笑)
5. Posted by spirit   2009年09月26日 21:06
東葛人さんこんばんは。
いつも東葛人さんの歴史話は面白いですねぇ。
出版しちゃったらどうでしょう?

当時の関東地方は、中央から見たら何日もかかる辺境だと思うのですが、物部の息がかかっているところが凄いと思いました。
ちなみに私は、お諏訪様で長女のお宮参りをしました。
6. Posted by 東葛人   2009年09月27日 00:03
spiritさん、こんばんわ
面白がっていただき、ありがとうございます。
皆さんにそう言っていただけるなら、調子に乗ってどんどん書きます(笑)
ただ、出版は難しいでしょう(爆)
ところで、古代人の距離や時間の感覚って、どんなもんなんでしょう。
数十日で行けるなら、結構近いのかもしれませんよ。
今で言うと、ちょっと遠出ぐらいの感覚なのかも、です。
おすわさまは雰囲気があるので、お宮参りには最高ですね。
7. Posted by メタ男   2009年10月01日 17:35
東葛人さん、今晩は。度々失礼します。
「今川焼あり」「食うべし」で、検索すると面白い資料が得られます。(ご親友の方向きでしょうか? 買おうかと思ってた本なんですが、だまされたと思って一度。)
国会図書館デジタルライブラリーの「嘉陵紀行」と合わせてご覧下さい。
8. Posted by 東葛人   2009年10月03日 14:15
メタ男さん、こんにちわ
いつも貴重な情報ありがとうございます。
感謝、感謝です。
「今川焼あり。食うべし」、今でも宣伝コピーに使えそうです(笑)
それにしても、国会図書館デジタルライブラリーは良いですね。
サクサク動けば最高なんですが、贅沢は言えませんね。
嘉陵紀行の道も辿ると面白そうです。
ところで、野馬土手のかけらを見てきました。
メタ男さんのおっしゃるかけらは、これでしょうか。
次の記事で書きましたので、ご確認いただけると幸いです。

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