糖鎖ブログ

先端メタボロミクスで高齢者のフレイル(虚弱)マーカーを発見

〜フレイルの病態理解に貢献〜


高齢者患者増加の社会背景とともに「寝たきり予備群」と呼ばれる「フレイル(虚弱)」も増加傾向にあります。世界的に、65歳以上高齢者の17%、85歳以上では30〜40%が、フレイルと言われています。

フレイルの要因は筋肉低下(サルコペニア)、認知症、心理的・社会的理由など複雑です。また、フレイルはヒトの老化の複雑・多様性をも反映するため、多面的側面を含む複合的疾患であり、その病態の代謝基盤の多くは謎のままでした。

今度、京都大学大学院医学研究科・医学部附属病院の近藤鳥紛擬、亀田雅博同医員、沖縄科学技術大学院大学の柳田充弘教授、照屋貴之同博士らの共同研究グループは、メタボロミクスによる網羅的ヒト血液代謝物解析により、フレイルマーカー(診断や評価時に有効な目印)を同定しました(2020年4月13日リリース)。

本研究では、131個のメタボライトの中で、高齢者(平均84歳)のフレイル・非フレイル群を網羅的に比較検討しました。従来とは異なり、認知機能検査を含むフレイル評価により、フレイルのサルコペニア以外の側面にも注目しました。

その結果、変化が観察された15個のメタボライトは、抗酸化物質や一部アミノ酸の減少などを含んでいることが分かりました。さらに、認知機能や運動能を指標にした解析でも、一部重複あるいは独自マーカーが見出されました。

これらの中には、同グループが既に報告した老化で減少するもの(老化マーカー,2016年)や、飢餓マーカー(2019年)も含まれていました。

以上の結果は、今まで知られていなかった、認知機能低下を含むフレイルでの抗酸化物質や老化メタボライトの減少の重要性を示し、今後の臨床応用の可能性を示唆するものです。


(参)メタボロミクス:生きている細胞が合成・代謝するメタボライト(低分子代謝物)を、質量分析器等により網羅的に計測する最先端技術



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涙に含まれるオメガ水酸化脂質がドライアイを防ぐ

〜ドライアイの新たな治療薬の開発に期待〜


涙液は外界と接する外側の油層と内側の液層から構成され、外側の薄い油の層が内側の水分の蒸発を防いでいます。

しかし、“油と水”という交わるはずのない両者がどのように交わって安定な涙液を形成しているかは大きな謎でした。

今度、北海道大学大学院薬学研究院の木原章雄教授らの研究グループは、涙液中に存在するオメガ水酸化脂質がドライアイを防止していることを明らかにしました(2020年4月8日リリース)。

同研究グループは、オメガ水酸化脂質の一つであるOAHFAという油と水の両方に混ざり合う性質を持つ脂質と、その代謝物が安定な涙液の形成に重要であることを見出しました。

また、これらのオメガ水酸化脂質を作り出す酵素を同定し、この脂質を作ることができないマウスがドライアイを示すこと、涙液中には多様なオメガ水酸化脂質群が存在することなどを明らかにしました。

ヒトのドライアイの重要な原因は油層の異常ですが、これまで油層をターゲットにした薬は存在しません。本研究成果は、ドライアイの新たな治療薬の開発につながると期待されます。



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新たな骨粗鬆症治療薬開発への期待

〜NIK阻害剤が骨粗鬆症モデルマウスの骨量減少を抑制〜


骨粗鬆症は、骨の強度が低下し、骨折リスクが高くなる疾患で、日本では男性300万人女性980万人と圧倒的に女性の割合が多く、50歳以上の女性の3人に1人が骨粗鬆症になると言われています。

現在、骨粗鬆症治療薬として、様々な薬が用いられていますが、投薬治療が継続できないことや、有害事象として顎の骨が腐る(顎骨壊死)ことが指摘されており、新たな骨粗鬆症治療薬の開発が望まれています。

今度、九州大学歯学研究院の自見英治郎教授らのグループは、九州歯科大学の北村知昭教授、東京医科歯科大学の青木和広教授、福岡歯科大学の平田雅人客員教授、オリエンタル酵母工業(株)長浜生物科学研究所の保田尚孝所長らと共同で、新たな骨粗鬆症治療の分子標的として、NIKと呼ばれる分子に着目しました(2020年3月30日リリース)。

Genentech社が開発したNIKを阻害する化合物を骨粗鬆症モデルマウスに投与したところ、骨を吸収する破骨細胞と呼ばれる細胞による過剰な骨吸収が抑制され、骨量の減少を防ぐことができました。

また、投与期間に胸腺や脾臓などの免疫系組織、肝臓や腎臓など主要臓器の障害も見られず、NIK阻害剤が骨粗鬆症だけでなく、同じく骨吸収が亢進する歯周病や関節リウマチの治療薬にもなる可能性が期待されます。



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疾患の要因となる“糖鎖”を認識する抗体を作るための化合物を開発

糖鎖は疾患のマーカーとして有用であり、糖鎖を認識する抗体を自在に開発できれば、新しい診断マーカーやワクチンを開発できるようになります。

しかし、動物では糖鎖を認識する免疫システムがあまり発達していないことから、糖鎖では強い免疫応答を起こさせないため、タンパク質抗原に対する抗体の産生に最適化された従来技術では実用的な抗体の作製は困難でした。

今度、産業技術総合研究所バイオデザイン研究グループの奥田徹哉主任研究員は、生体分子の一つである糖鎖を認識する抗体の作製を容易にする化合物(人工糖脂質)を開発しました。

また、富士フィルム和光純薬(株)と共同で、今回開発した人工糖脂質によって肝細胞がんの診断に利用できる抗体を産生できることを示しました(2020年3月30日リリース)。

セラミドアナログと化学結合させた人工糖脂質を作り動物に投与すると、糖鎖を認識する抗体の産生を促進できることを発見しました。

この方法を応用することで、がんなどの診断薬や感染症に対するワクチンなどの開発への貢献が期待されます。



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記憶の存続時間をがん遺伝子が調節する

記憶の存続は、数秒で忘れてしまうものから数十年にわたって憶えているものまで、非常に大きなばらつきがあります。記憶が定着するためには、記憶の長期化というプロセスが重要です。

アルツハイマー型認知症などの記憶障害は、記憶の長期化にまず問題が生じることが多く、この仕組みを理解することは喫緊の課題です。

ショウジョウバエはたった1分間の学習で餌の匂いを数日間にわたって記憶することが知られており、記憶の長期化の仕組みを研究する上で良いモデルです。

今度、東北大学生命科学研究科の市之瀬敏晴助教、谷本拓教授らの研究グループは、MAPKというがん遺伝子の働きが、記憶の長期化されるときに促進されることを発見しました(2020年3月18日リリース)。

さらに、ドーパミンという脳内分泌物質が、そのスイッチを入れる役割を果たしていることを突き止めました。

MAPKや、ドーパミンを受け取る遺伝子が抑制されたハエは、記憶を長期化することができませんでした。

今回の発見は、神経細胞でのMAPKの働きと、その制御機構を明らかにしたといえます。


(参)MAPK(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)は細胞増殖など様々な細胞機能を調節し、がん遺伝子としても知られています。



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腸内細菌叢が糖尿病の発症に与える影響を解明

〜腸内細菌代謝物に着目した新たな治療法の展望〜


日本では、1千万人以上が糖尿病を患っており、有病率は今も上昇し続けています。糖尿病は心臓血管病の発症リスクの増加とも関連しており、大きな社会問題となっています。

糖尿病関連遺伝子が持つ変異や環境の影響と腸内細菌叢の組織の違いが発症に影響を与えることが最近の研究で示されており、新たな予防・治療法の開発を通した発症予防や患者さんの病態の改善は喫緊の課題です。

今度、京都大学医学研究科の松田文彦教授、ドミニク・ゴギエ客員教授、マーク・ラスロップ特別招聘教授、佐藤孝明島津製作所ライフサイエンス研究所長、園村和弘同研究員らの研究グループは、腸内細菌が生成した代謝物の4-クレゾールが膵臓のインスリン産生ベータ細胞の増殖と機能の刺激を誘導し、儀燭よび況薪尿病に対する抑止効果を発揮することを発見しました(2020年3月6日リリース)。

本研究成果は、腸内細菌叢を適切にコントロールすることで糖尿病の新たな予防や治療の道を開き、膨大な数の患者さんの状況を改善できる可能性を示す画期的な研究成果です。




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心と体をつなぐ心身相関の仕組みを解明

〜ストレス関連疾患の新たな治療戦略へ〜


心理ストレスや情動が体の調節に影響を与え、様々な身体反応が生じる「心身相関」は広く知られています。しかし、脳の中でストレスや情動といった「心」の信号がどのようにして「体」を調節する仕組みに作用するのかは大きな謎でした。

今度、名古屋大学大学院医学研究科の片岡直也特任助教と中村和弘教授の研究グループは、脳の中で心理や情動を処理する「心」の領域と「体」を調節する領域とをつなぐ「心身相関」の神経伝達路を発見しました。

同研究グループは、ラットを使った実験によって、心理ストレスや情動を処理する大脳皮質の中のDP/DTT(背側脚皮質/背側蓋紐)と呼ばれる領域から、生体調節に重要な交感神経系を制御する視床下部へストレス信号を伝達する神経路を発見しました(2020年3月6日リリース)。

遺伝子技術を使って、この神経路を破壊あるいは光で抑制すると通常は社会心理ストレスによって生じる体温、脈拍、血圧の上昇が起こらなくなりました。さらに、ストレス源(ストレッサー)から逃避する行動も消失しました。

こううした実験結果から、この神経路は大脳皮質の心理ストレスの信号を視床下部へ伝えることにより多様なストレス反応を駆動する、心身相関の重要な神経伝達路であることが明らかになりました。

本研究成果は、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、心因性発熱などのストレス関連疾患の画期的治療法の開発に有用であると考えられます。




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動脈硬化における炎症の新しいメカニズムを解明

これまで心血管疾患(心疾患と脳血管疾患)の治療は、降圧剤や脂質異常症治療薬による血圧および脂質値低下に焦点を当てて行なわれてきました。

特に脳血管疾患においては、降圧剤による血圧管理の徹底によって顕著な死亡率の低下が認められてきましたが、一方で、近年は高血圧の治療率の向上にもかかわらず、一貫して心疾患による死亡率が増加しています。

最近の大規模臨床研究において、血管炎症の抑制が血圧および高脂血症の改善とは独立したメカニズムで心血管疾患を抑制することが報告され、血管炎症をターゲットとした新しい予防および治療法の確立が期待されています。

今度、東京医科歯科大学難治疾患研究所の東島佳毅研究員、東京大学アイソトープ総合センターの神吉康晴助教らは東京大学医学部附属病院、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームらと共同で、動脈硬化におけるエピジェネティックな転写抑制機構の破綻とそれに引き続く炎症性遺伝子活性化のメカニズムを明らかにしました(2020年3月4日リリース)。

血管炎症は心血管疾患だけでなく、がんやアルツハイマー病など様々な生活習慣病の発症進展に関与していることから、同研究グループは今回の成果を基盤として、今後は血管内皮細胞におけるエピジェネティックな制御機構の破綻の他の病態モデルにおける関与を探索すること、そして、この経路をターゲットとした治療法の開発に取り組んで行く予定です。


(参)エピジェネティック:DNAメチル化、ヒストン修飾、非翻訳RNAなど、DNA塩基配列の変化を伴わずに遺伝子の機能および発現を調整する機構



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