古くから記憶・学習の成立機構には様々な仮説が提案されてきましたが、現在のところシナプス説が最も有力です。

シナプス説とは、記憶や学習が多細胞間の相互作用によって支えられており、特に神経回路網内でのシナプス伝達効率が変化する「シナプスの可塑的変化」によって成り立つとする説です。現在まで、この説は多くの実験的、理論的な支持を得ています。

今度、名古屋大学大学院理学研究科の森郁恵教授と貝淵弘三教授らの共同研究チームは、線虫をモデル系とする大規模リン酸化プロテオミクス分析を、世界に先駆けて成功させることにより、新規の記憶メカニズムを同定することに成功しました(2015年12月25日リリース)。

今回の研究チームの解析から、神経細胞の中には、シナプス結合による他の細胞との相互作用を断絶した状態でも、単一細胞として記憶を形成できる能力を持つものが存在することが示されました。

本研究により発見された単一細胞記憶は、従来の定説とは異なる、新規の記憶メカニズムです。また、本研究で開発された実験系は、単一神経細胞記憶を解析することができる世界初の実験系です。

今後、この新技法を用いることで、未だ謎の多い記憶・学習の分子メカニズムの解明に新たな道が拓けるものと期待されます。