神経細胞は軸索という長い突起を介して電気信号を伝達しており、外傷などで軸索が切断されると神経として機能できなくなります。神経は軸索が切断されてもそれを再生する能力を持っていますが、その再生の有無と程度はまちまちであり、損傷の程度や部位によっては再生しない場合も多くあることが知られています。

そのため、神経軸索再生がどのように誘導されるか、その分子メカニズムを知ることは学術だけでなく医学的にも重要と考えられています。しかし、その制御機構については不明な部分が多く残っています。

今度、名古屋大学大学院理学研究科の久本直毅准教授、松本邦弘教授らの研究グループは、線虫をモデルとした研究により、神経伝達物質・ホルモンの一種であるセロトニンが切断された神経軸索の再生を促進する役割を持つことを発見し、その下流で働く因子群を同定しました。

さらに、切断された神経自身が、その本来の性質と関係なく一時的にセロトニンを産生する神経に変化することで、セロトニンが供給されることを発見しました(2016年1月22日リリース)。

今回の成果は、本来セロトニンを作らないはずの神経が、損傷によりセロトニンを作る細胞へとその性質を容易に変換することを示すものであり、教科書的な常識から逸脱した新たな発見です。

また、セロトニンが神経軸索再生において重要な役割を果たすことを分子生物学的に明らかにしたことから、神経再生医療における新たな治療技術の開発につながることが期待されます。