〜新たながん予防法や治療法への期待〜


私たちの体の中に生まれた「がんのもと」になる異常細胞は「細胞競合」と呼ばれる細胞間の相互作用によって周りの正常細胞により除去されます。これによって、がんが未然に防がれていると考えられています。

糖尿病の患者さんや肥満の人はがんになりやすいことが知られていますが、その仕組みはよくわかっていません。これらの人の多くは、血中のインスリン量が増える「高インスリン血症」になっています。

今度、京都大学大学院生命科学研究科の井垣達吏教授、佐奈喜祐哉同博士過程学生らの研究グループは、ショウジョウバエを用いて細胞競合のメカニズムを探索する過程で、高インスリン血症のハエでは細胞競合がうまく働かず、がん化が起こることを発見しました(2020年5月11日リリース)。

具体的には、がんのもとになる異常細胞(極性が崩壊した細胞)は、通常は周りの正常細胞と比べてタンパク質合成能力が劣っており、これにより細胞競合が起こって正常細胞により除去されます。

しかし、高インスリン血症の状態では、異常細胞のタンパク質合成能力が正常細胞よりも高くなり、正常細胞によって排除されなくなって腫瘍化することがわかりました。

高インスリン血症により細胞競合が破綻したハエに糖尿病治療薬「メトホルミン」を投与すると、細胞競合が復活して異常細胞が排除されがん化が抑制されることがわかりました。

今回、見出した細胞競合の制御機構を標的とした、新たながん予防や治療法の開発が期待されます。


(参)細胞競合:生体内において適応度(生存能力や増殖能力)の異なる細胞が近接すると、適応度の高い細胞が生き残り、低い細胞が排除される現象