歯が痛い・・・
だが歯医者さんは嫌いである。
いや、歯医者さんが嫌いなのではなく、歯の治療が嫌いなのである。
ということで、誰もが先延ばしする歯の治療であるが、いつかは限界が来る。
どうやら私にも来たようである。
なにゆえ歯は、放っておいたら自然に良くなっていた、ということがないのだろう。
人間には自然治癒力というものがあるはずだ。
少々の病気ならいつの間にか治ってしまうではないか。
少々の病気だけではないぞ。
不治の病と言われていたものも、奇跡的に回復することだってあるじゃないの。
ところが、虫歯が勝手に治るという話は聞いたことがない。
骨折だって上手に保存しておけばキレイにくっつくぞ。
それどころか、怪我前よりかえって強くなるというではないか。
歯もそうなれば良いのに。
サメはいいなぁ。
後から後から生えてくるらしい。
歯も爪みたいなシステムにならないかなぁ。
どんどん新陳代謝してイキのいい歯が生えてくるというのも悪くない。
そんなことをつらつら考えていても、歯はいっこうに良くならないのだ。
そんなわけで、歯医者さんに行ってきた。
名前を呼ばれて治療用の椅子に座った。
余談だが、あの治療用の椅子って「ユニット」というそうだ。
で、ユニット上でドキドキしていたら、隣のユニットに小さな女の子がやってきた。
保育園児くらいだろうか。
なんとなく女の子と衛生士さんとのやりとりを聞いていたら、どうやらグラグラになっている乳歯を抜いてもらいに来たようだ。
ああ、かわいそうに。
きっと怯えているに違いない。
そう思ったが、怯えているのはむしろ私の方である。
もう立派な大人だから泣けないが、心の中は涙目である。
人の心配している場合ではないのだ。
そうこうしているうちに、私の治療が始まった。
ビビるあまり、体に力が入る。
「大丈夫ですよ〜」と先生に優しく声をかけられ、己の小心を見透かされたようで恥ずかしいのだ。
すでに他人を気遣っている余裕などなかったのだが、隣のユニットの先生の「え〜?」という声で女の子の存在を思い出した。
「え、なんで?」と、先生が女の子に問いかけている。
どうやら、こういうことらしい。
これから抜歯するグラグラの歯の他に、もう一本揺れ始めた歯があるようなのだ。
だが、それはまだ抜歯する必要のない段階のようなのだ。
もし抜くなら麻酔をかけて抜くような状態らしい。
先生は「また抜けそうになったら抜こ〜ね〜」と言っているわけだ。
当然であろう。
自然に抜けやすくなっていくのだから、今無理に痛い思いをする必要など、どこにもないのだ。
ところが、その女の子はそれに異議を唱えているのだ。
今日それも「抜く」と言っているようなのだ。
先生も当然「え〜なんで?」となるわけだ。
とうとう待合室からお母さんが呼ばれた。
お母さんが説得し始めた。
「そっちも抜くと、チクンってするんだよ、痛いのよ!」
それでも女の子は怯まない。
「抜く!」
隣に座っているのは、歯医者さんに怯える少女ではない。
数多の修羅場をくぐり抜けてきた、アニキである。
「どうせいつか抜くんだろ、めんどくせぇーから一気にやっちまってくれぃ!」
アニキはそう仰ってるのである。
「ママだって忙しいじゃねぇか、今日やっちまおうぜぇ」
アニキは器の大きなお人である。
アニキの隣のユニットには、歯医者さんに行くのをしぶったあげく、この後に及んでも身を固くしている50代(男)がいる。
何とも情けないのである。
背中にたっぷり汗をかいて治療を終えた私は、待合室で会計を待っていた。
しばらくして、アニキが診察室から出てきた。
出てくるなり、止血のために咥えていた脱脂綿をつまみ出した。
そしてお母さんを見つけて笑った。
「大袈裟なんだよな、歯抜いたぐれぇ〜でよぉ」
アニキはそう言って笑った・・・ように見えた
だが歯医者さんは嫌いである。
いや、歯医者さんが嫌いなのではなく、歯の治療が嫌いなのである。
ということで、誰もが先延ばしする歯の治療であるが、いつかは限界が来る。
どうやら私にも来たようである。
なにゆえ歯は、放っておいたら自然に良くなっていた、ということがないのだろう。
人間には自然治癒力というものがあるはずだ。
少々の病気ならいつの間にか治ってしまうではないか。
少々の病気だけではないぞ。
不治の病と言われていたものも、奇跡的に回復することだってあるじゃないの。
ところが、虫歯が勝手に治るという話は聞いたことがない。
骨折だって上手に保存しておけばキレイにくっつくぞ。
それどころか、怪我前よりかえって強くなるというではないか。
歯もそうなれば良いのに。
サメはいいなぁ。
後から後から生えてくるらしい。
歯も爪みたいなシステムにならないかなぁ。
どんどん新陳代謝してイキのいい歯が生えてくるというのも悪くない。
そんなことをつらつら考えていても、歯はいっこうに良くならないのだ。
そんなわけで、歯医者さんに行ってきた。
名前を呼ばれて治療用の椅子に座った。
余談だが、あの治療用の椅子って「ユニット」というそうだ。
で、ユニット上でドキドキしていたら、隣のユニットに小さな女の子がやってきた。
保育園児くらいだろうか。
なんとなく女の子と衛生士さんとのやりとりを聞いていたら、どうやらグラグラになっている乳歯を抜いてもらいに来たようだ。
ああ、かわいそうに。
きっと怯えているに違いない。
そう思ったが、怯えているのはむしろ私の方である。
もう立派な大人だから泣けないが、心の中は涙目である。
人の心配している場合ではないのだ。
そうこうしているうちに、私の治療が始まった。
ビビるあまり、体に力が入る。
「大丈夫ですよ〜」と先生に優しく声をかけられ、己の小心を見透かされたようで恥ずかしいのだ。
すでに他人を気遣っている余裕などなかったのだが、隣のユニットの先生の「え〜?」という声で女の子の存在を思い出した。
「え、なんで?」と、先生が女の子に問いかけている。
どうやら、こういうことらしい。
これから抜歯するグラグラの歯の他に、もう一本揺れ始めた歯があるようなのだ。
だが、それはまだ抜歯する必要のない段階のようなのだ。
もし抜くなら麻酔をかけて抜くような状態らしい。
先生は「また抜けそうになったら抜こ〜ね〜」と言っているわけだ。
当然であろう。
自然に抜けやすくなっていくのだから、今無理に痛い思いをする必要など、どこにもないのだ。
ところが、その女の子はそれに異議を唱えているのだ。
今日それも「抜く」と言っているようなのだ。
先生も当然「え〜なんで?」となるわけだ。
とうとう待合室からお母さんが呼ばれた。
お母さんが説得し始めた。
「そっちも抜くと、チクンってするんだよ、痛いのよ!」
それでも女の子は怯まない。
「抜く!」
隣に座っているのは、歯医者さんに怯える少女ではない。
数多の修羅場をくぐり抜けてきた、アニキである。
「どうせいつか抜くんだろ、めんどくせぇーから一気にやっちまってくれぃ!」
アニキはそう仰ってるのである。
「ママだって忙しいじゃねぇか、今日やっちまおうぜぇ」
アニキは器の大きなお人である。
アニキの隣のユニットには、歯医者さんに行くのをしぶったあげく、この後に及んでも身を固くしている50代(男)がいる。
何とも情けないのである。
背中にたっぷり汗をかいて治療を終えた私は、待合室で会計を待っていた。
しばらくして、アニキが診察室から出てきた。
出てくるなり、止血のために咥えていた脱脂綿をつまみ出した。
そしてお母さんを見つけて笑った。
「大袈裟なんだよな、歯抜いたぐれぇ〜でよぉ」
アニキはそう言って笑った・・・ように見えた