旅ごころ・味ごころ、東京都の八丈島
(転載)97.02.08 
『太平洋にポッカリと浮かぶ八丈島。黒潮暖流の影響で年間平均気温は一八度と暖かく、島では観葉植物や切り花などの栽培が盛んだ。東京から南へ約二百九十一キロ、船で十時間、飛行機だと四十五分で島に着く。道路沿いのビロウジュのヤシ並木や赤いキダチアロエが島を訪れる観光客を迎える。キダチアロエの赤い花が咲く八丈島を訪ねた。
 “おじゃりやれ”。花と緑と温泉の島をキャッチフレーズにしている八丈町。標高八五四メートルの八丈富士と七〇〇メートルの三原山の間に人家が密集する。昔は流人の島として知られていたが、今では観光を主体にして農業、漁業が盛ん。島を訪れる観光客は年間十七万人を超える。

島内をめぐる四十三キロの道路沿いにはキダチアロエの赤い花が咲き、緑の低い樹木が生い茂る。「防風林の役目を果たしているんです」と農業委員会の川上明和主任。道路沿いからはアシタバなどが栽培される畑は見えない。
島内を走る車はゆっくりで、スピードを上げて走る車は見かけない。行き交う車は道を譲りながらあいさつを交わす。島の人情が垣間見える。
観葉植物に次いでアロエの栽培が盛んになってきた。五~六年前に外国を訪ねた奥山日出男前丈町長がアロエ栽培を見て八丈島でもできるのでは――と提案して始まった。アロエベラは食用にもなり、古くから漢方薬として民間で広く愛用されてきた。
八丈小島を望む永郷展望台に町のアロエ公園がある。三ヘクタール、約十九万五千本のキダチアロエが植えられ十二月から赤い花が咲き海の青さに映えている。
アロエはシャンプーやジュース、ホテルなどではアロエぶろとして観光客に提供している。健康ブームにのって販路拡大に期待もする。一方ではフェニックス・ロベレニーが国内出荷はもちろん、オランダに輸出されるなど観葉植物の販売も盛んだ。
「年間六千鉢輸出しています。島に地熱発電が計画されており、その余熱を使って熱帯果樹栽培などにも期待しています」と、JA八丈島の菊池勝男組合長。年間通して花が咲く八丈島。観光、農業、漁業と三者一体となって振興している島を一度は訪れてみたい。

<島ずし>
島でとれる新鮮な魚を使った料理の一つ島ずしを八丈島観光協会副会長の沖山昭雄さん(六九)に紹介してもらった。島ずしは、島の冠婚葬祭になくてはならない料理で、昔からの伝統食だ。「冷蔵庫がなかったから、一種の保存食だったようです」と沖山さん。すしの種に使う魚はマグロ、カツオ、トビウオ、メダイと何でも利用できる。切り身をしょうゆに漬け、にぎったすしご飯に洋がらしを付けて種をのせるだけだが、魚をしょうゆに漬けるのが各家庭の味だ。「二時間ぐらい漬けることもあります」という。
 しょうゆに漬けてあるため魚のくさみがなく、さっぱりとした味で魚嫌いの人でも食べられそう。ワサビを使わないで洋がらしを使うのが独特だ。「ワサビがなかったからでしょうかね」と沖山さんは頭をひねる。
 もう一つが岩のりをのせたすし。ちょうど今が旬で二月末まで海岸で採れる。海の香りがする岩のりをのせたすしをほおばると気分は最高。島ならではのぜいたくな料理だ。
 アロエの刺し身も紹介してくれた。肉厚のアロエベラの青い部分を切り取り、中身のゼラチン状のところを水でさらして食べる。アロエそのものに味はない。しょうゆや酢みそで食べる。「四日に一回食べていますが風邪一つひきません。一回に食べる量は五十グラムぐらいです」と沖山さんは体験談を話す。
「作り方(四人分)」
 (1)ニザダイを薄く切り、すし種にして、四十八枚を用意する(2)米五合(九百cc)を炊き、酢二百グラム、砂糖二百三十グラム、塩二十五グラムを混ぜ、すし飯にする(3)すし飯をにぎって、洋がらしを適当に付けて(1)をしょうゆに数分漬け込み、ざるに上げて飯にのせて出来上がり。
 魚をおろす時に、内臓を身に付けないことがポイント。

<みどころ>
八丈島は周囲約六十キロのまゆの形をした島で、富士火山帯に属する火山島。産業は観葉植物や切り花を中心とした農業と漁業、観光関連からなり伝統的工芸品で黄八丈織りがある。
島には昔、流人が一日の糧を得るために浜から担ぎ上げた玉石で築いた玉石垣が大賀郷の大里地区にある陣屋跡に残っている。この石垣は昭和五十年の台風13号が島を襲って風速計が六十八メートルで壊れた時でさえびくともしなかったという。一見の価値がある。
そのほかには町営の温泉三か所、無料の露天ぶろ「裏見ケ滝」温泉が中之郷自治会が管理運営している。ここは水着着用で入る。
島の西半分が一望できる登龍峠や美しい海岸線が展望できる名古の展望台(有料)、八丈富士の中腹にはふれあい牧場があり乳牛が年間通して放牧されている。
三月二十日から四月四日まで八丈島空港の近く八形山でフリージアまつりが開催される。会場では一人二十本までフリージアが無料で摘み取りができる。

「メモ」
八丈島へは東京・港区の竹芝桟橋から船で十時間。飛行機なら羽田空港から四十五分で行ける(一日五便運航)。島内では町営のバスが運行され、島を一周することもできる。またレンタルの自転車もあり、自分の足で島めぐりができる。釣りやスキューバ・ダイビング、八丈富士へのハイキングなど思い思いの観光ができる。年間を通して花が咲いているので南国ムードが味わえる。