チョウセンアサガオ中毒について
(1999年11月1日 熊本日日新聞社の記事から転載)
(1999年11月1日 熊本日日新聞社の記事から転載)
『身近な花の毒ご用心 繁殖力強く一部では野生化 チョウセンアサガオ…食べると危険 見て楽しむだけにきれいな花にはトゲがある―といわれるが、毒があるものも少なくない。チョウセンアサガオのほか、殺人事件疑惑で有名になったトリカブト、キョウチクトウ、スズラン、アセビ、福寿草、ジギタリス、ベラドンナなどがある。 スズランの成分が強心薬に使われるなど、ほとんどは薬として活用されている。まさに毒にも薬にもなる植物だ。
これらの花をさした花びんの水を子供が誤って飲んだり、花を触った手で目をこすったりすることも危険。フランスでは、キョウチクトウの枝をバーベキューの串(くし)代わりに使って、七人が死亡するという惨事もあった。花は食用として特殊な栽培をされていない限り、見て楽しむだけにとどめよう。
県南の七十代の男性が十月中旬、毒性のあるチョウセンアサガオを食べて中毒を起こした。一命は取り留めたが、一時はこん睡状態が続き、危険な状態だった。日本中毒情報センター(茨城県つくば市)の中毒一一〇番には昨年、チョウセンアサガオについての医療機関からの問い合わせが四件寄せられた。園芸ブームの中、チョウセンアサガオの一種「エンゼルトランペット」やスズランなど身近な花には毒性のあるものも多く、専門家は注意を呼び掛けている。
▼食用花と勘違い
この男性(79)は食べられる花の特集をしていたテレビ番組を見て、紹介されたケナフと庭に咲いていたチョウセンアサガオを勘違いし、花三個をいためて食べた、という。長女(51)は「最後のひとつまみを食べようとしたところで意識をなくした」と話す。
男性が運び込まれた西村内科脳神経外科病院=熊本市=の吉本幸生医師は「最初はくも膜下出血か脳出血だと思った」。しかし、CTでは異常はなかった。
次に中毒を疑った。「有機リン系の中毒なら瞳孔(どうこう)は縮小するが、逆に今まで経験したことがないほど散大していた」。長女が「これを食べて倒れた」と花を持ってきたため、この花による中毒と判断。胃洗浄などの処置をした。
チョウセンアサガオは学名ダツラ。多くの種類があり、キダチチョウセンアサガオは英名「エンゼルトランペット」だ。卵形の葉が軟らかく、トランペットに似た花が春から秋にかけて咲く。花びらの先がとがり、色は白、ピンク、黄色、紫などがある。
▼鎮痛薬にも利用
「多くは一年草だが、種が散ったり根が生きていたりして、毎年咲くことが多い。繁殖力が強く一部で野生化しており、四メートル以上に成長する種類もある」と、熊本市動植物園・緑の相談所。
花や種、葉、根にアトロピン、スコポラミンなどのアルカロイドを含む。熊本大薬学部の野原稔弘教授(生薬・天然薬学)によると、「アルカロイドは副交感神経の遮断作用があり、鎮痛剤に用いられている」。江戸時代の医師、華岡青洲が乳がん手術に麻酔剤として使ったことで知られ、日本麻酔学会は花を学会のマークにしている。
▼5年間で事故29人
茨城県立医療大の内藤裕史教授の調査によると、平成四年から同八年で二十九人がチョウセンアサガオが原因で中毒を起こしている。昨年五月には、横浜市の園芸店がハーブと間違って販売。食べた夫婦が中毒を起こす事故もあった。日本中毒情報センターには昨年、医療機関から四件の問い合わせがあったという。
薬効があるアルカロイドも多量に摂取すると毒になり、おう吐、口の渇き、高熱、顔の紅潮などの症状が現れ、死に至ることもある。しかし、「毒性があるとは知らなかった。客にも説明していない。二年ほど前から人気が出ており、今年は特によく売れた」と熊本市内の園芸店。野原教授は「身近にある中で、ジギタリスなどと並んで危険だと思う植物の一つ。危険な植物があることをもっと知ってほしい」と呼び掛ける。
済生会熊本病院救急センターの前原潤一医師は「万一誤って食べてしまったらまず吐かせること。ただ、意識が低下している場合は気道をふさいだり、吐いた物を飲み込んだりする危険があるので、すぐに救急病院に運ぶことが必要。病院へは植物を食べて具合が悪くなったことを必ず伝えてほしい」と話している。
1999年11月1日 熊本日日新聞社』