ibm5150

初代IBM-PCの復活プロジェクト、最終回です。マウス、キーボードなどの周辺機器の検証から、ゲームソフトのチェックをもって実験は終了となり、これまでの成果がまとめられています。

前回にひきつづき、記事にはIBM-PC初のグラフィックモードとしてCGAが登場しています。CGAはスペックとしては家庭用のPCにも見劣りするもので、結果としてIBM-PCの初期ゲームソフトは(少なくともグラフィック面では)あまり見るべきものがないという、残念な状況を招いてしまいました。

もっともその後、世代交代が進んで16ビット機が主流となり、IBM-PCのグラフィックモードもEGA、VGAと進化したことで、ビジネスだけでなくゲームにおいてもIBM-PCは圧倒的な立場を占めるようになったのです。

(他に普及した16ビット機としてはアミーガやアタリSTがありましたが、ゲーム以外の用途では、音楽や映像などの特殊な分野で使われたに過ぎませんでした。マッキントッシュはアーチストやデザイナーの間に広がったほか、DTPとレーザープリンタによって出版の世界でも圧倒的なシェアを握りましたが、ビジネス用途では今なおウィンドウズマシンの後塵を拝しています)

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3日目(つづき)

奇妙なキーボード

せっかくの機会なので、ここでオリジナルのIBM-PCのキーボードについて触れておきたい。

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率直にいって、なんだか妙なものに見える。少なくとも、現在の標準からすればそうだ。(現在の標準的なキーボードの元となったのは、IBMが1984年に発売した101キー拡張キーボードである)

5150のキーボードは評判が良かった。頑丈であり、キーのレイアウトも妥当で、キータッチはシャキシャキしていて小気味良い、などといわれていた。もっとも批判もあった。左側のシフトキーや、エンターキーなど、一部の重要なキーが標準的な配置になっていなかったのだ。そして何より、とりわけ使用頻度の高いキーが変わったデザインになっていたのだ(キーの表面が一部だけ盛り上がっていた)。そのおかげで、IBMはわざとミスタイプを誘おうとしてこんなことをしたのだ、などといわれる始末だった。

とはいえ、こんなキーボードでも使ううちに慣れてしまうものだ。ぼく自身、2、3日使っただけで、変わったレイアウトにも慣れていくのが分かった。もっとも、それから標準のキーボードに戻ったら、今度はそっちでミスを連発するようになったが。


4日目 マウスとメニュー

IBM-PCはゲームマシンとして設計されたものではない。あくまで真面目なビジネスのための真面目なコンピュータなのだ。そもそも、通常のPCはモノクロのグラフィック・アダプタしか付属していなかった。カラー表示が必要なら、CGAならテキストで16色、グラフィックで4色が使えた(どれもキタナい色だが)。解像度は320×200である。

音声出力については、IBMが自らのPCに付けたのは簡易な1チャンネルのスピーカーのみであった。そのビープ音は、首を絞められたミニチュアダックが立てる断末魔の叫びに似た何かだった。当然のことながら、5150にはジョイスティックやパドルなんてものは付属していない(もっともIBMはオプションでアダプタを販売しており、それを使えばジョイスティックやパドルも接続できた)。

もっとも、IBMの節度ある態度にもかかわらず、ゲーム会社はIBM-PC向けのゲームをこぞって出していた。それは止めようのないことだった。70年代末から80年代初めの頃のPCでは、ワープロでの文書作成をのぞけば、あとはゲームくらいしかまともに出来ることがなかったのだ。

IBM-PCで出来るゲームがどんなものか試すために、いくつか手持ちのソフトを実行してみた。ゲームセンターで人気だった「アルカノイド2」の移植版はCGAモードでも問題なく動作した。もっとも、たった4色ではパワーアップのアイテムが背景にまぎれてしまい判別が難しかったが。

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他にも「ジャンプマン」や「アレーキャット」、「ディガー」(Digger)とさまざまなゲームを試してみた。どれも長時間のプレイに耐える名作ぞろいだ。だがしかし、今はそんなことに時間をかけている場合ではなかった。


マウスを使う

ぼくの場合、PCの使いみちというと文章書きがほとんどだが、それ以外では画像の加工をやることが多い。今のPCだとフォトショップ風のアプリケーションを使っているが、それにもっとも近く、なおかつ5150で動作するプログラムとなると、どのようなものがあるだろうか。

コンピュータで画像加工をするとなると、まずはマウスが必要だが、これは難なく解決できた。マウスならいくつも持っている。その中からマイクロソフトの純正品を選んだ。PCのシリアルポートにつないで使うものだ。

ibm-pc3-3_mouse

マウスをシリアルポートに差込み、付属のフロッピーにあるマウスのドライバを読み込む(懐かしい"mouse.com"だ)。特に何の問題もなく、すんなり動いた。

ペイント系プログラムについては、マイクロソフトの「ペイント」プログラムの初期DOSバージョンをたまたま持っていたので試してみた。だが、残念ながらエラーが出て起動できなかった(どうもディスクの不良らしい)。別のものを探してこないといけない。そこでインターネットで昔のシェアウェアを探し、5150が現役だった頃のプログラムを見つけた。それが「FingerPaint」と「TPaint」だ。

この中では「TPaint」の方が都合が良かった。5150のCGAカードとマイクロソフトの純正マウスの両方に対応していたからだ。4色もすべて扱うことができる。なお、写真にある帆船の絵はぼくが描いたものではない。「TPaint」に付属のものである。

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とはいえ、さすがに4色しかないのでは、仕事には使えない。これに関しては現代のPCの方に分があった。


まとめ

結局、1981年製のIBM-PC 5150が仕事に使えるのかというと、その答えはイエスとなる。ただし、テキスト関連に限っての話だが。

ワープロや表計算、簡単なデータベースなら問題なく使うことができる。これは別に驚くようなことでもない。もともと、そういう作業を処理する目的で作られたマシンなのだ。ちなみにこの記事も、大半は5150で執筆した。

5150がとりわけ力不足を露呈させてしまったのが、画像の作成と編集だった。CGAはひどく非力だったが、ただマウスは容易に使うことができた。理屈からいけば、本体のCPUを元のV20に戻して、初期型のVGAカードを挿し、ハードディスクを接続して、OSをWindows 3.0にすれば、グラフィックを扱うのもいくらか楽にはなるだろう(3.0は8088で動作する最後のウインドウズだった)。それでも、4.77MHzのCPUでは、動作はかなり遅いはずだ。

2番目にうまく処理できなかったものは、ウェブの閲覧だろう。現代のウェブは、昔のマシンを念頭に入れてはいない。それでも、必要ならばネットの基本的な作業は一通りこなすことができる。これはぼくにとって安心できることではあった。

今回の実験でとりわけ印象的だったのは、5150というマシンが実に頑丈だということだった。30年前のコンピュータであっても、常に安定感をもって使うことができた。しかもキーボード、モニタ、ディスクドライブも当時のままなのだ。これはひとえに、IBMのハードウェア技術の優秀さを証明している。この時代の安価なPCには滅多にないことなのだ。

確かに、これから日々の業務に5150を使おうという気にはなれない。それでも、この重要なマシンに仕事をさせる機会を持てただけで、ぼくとしては満足だった。ぼくはコンピュータのコレクターだが、そういう人種の多くが、こんなことを考えがちだったりする。つまり、コンピュータ自身が何らかの役に立ちたいと思っているのだと。これはたとえ旧式のマシンであっても変わらない。この年代物のコンピュータに、改めて仕事をやってもらう時間を与えることができた。それはやはり、素晴らしいことだったのだ。

(おわり)

その1その2