Nolan Bushnell Welcome to Your World

かつてアタリを創業し、現在は教育ベンチャー「ブレーンラッシュ」を率いるノーラン・ブッシュネル。その他にも講演やコンサルタント業など相変わらずの活躍ぶりで、一昨年には著書(『ぼくがジョブズに教えたこと』)も出版しています。ここではそんなブッシュネルの最近の発言を紹介します。
昨年5月にあるゲームサイト主催のイベントに登場した時のもので、スティーブジョブズとの思い出から現在執筆中という新しい本のこと、そしてもちろんゲームについてざっくばらんに語っています。

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現在はブレーンラッシュという会社を率いておられるそうですが、まずはそのことから話していただけますか。

昔からわたしは、教育とゲームとの結びつきに興味を持っていたんだ。わたしには8人の子供がいるんだけど、その子供たちがいろいろとものを覚えていく過程を見てきた。学校と、それからゲームでね。それで分かったのは、ゲームの方が優れているってことだった。

それで、その手のソフトを作って、宣伝すれば面白いことになるんじゃないかと思ったんだ。今のところはそこそこうまくいってるよ。

教育分野っていうのは、市場としては大変なんだけどね。お役所に何かを売りつけるっていうのは、まあやめておいたほうがいいってくらいで。でも面白いことにはなると思う。


あなたは、ゲームは人を賢くするとおっしゃっていましたよね。

それは間違いない。

ヒトの脳には、常に新しい要素が作られている。ただ残念なことに、世間の人間の半分はアタマが死んでいる。わたしに言わせれば、会社を成功させるコツは、アタマがきちんと動いている人間を雇うことだ。それを続けていけば、いい会社が出来上がるよ。

つまり、やる気と好奇心を持ち合わせた人々と一緒に仕事するべきだってことだ。ところが、今の教育には、そういう要素を除外してしまうところが多分にある。わざわざ熱意や創造力を萎縮させるようなことをしているんだ。

子供たちは45分もの退屈な授業に縛りつけられている。そういうことに耐えつつ、創意を発揮することもないまま、大人になるわけだ。残念なことだが、それが今の学校教育の実態だよ。


あなたが最近出版された本は、次代のスティーブ・ジョブズを見つけ出すにはどうすればよいのか、という内容でした。なんでも、アップルの株の3分の1を5万ドルで買わないかと誘われたそうですね。

その通り。買わなかったんだけど、そのことを後悔しているよ。

わたしはスティーブ・ジョブズに(有名なベンチャーキャピタリストの)ドン・バレンタインを紹介したけど、そのバレンタインがジョブズにマイク・マークラ(後にアップルの経営を引き受ける実業家)を引き合わせたんだ。

わたしに言わせれば、初期のアップルの成功に誰にも負けないほど貢献したのがマークラだ。たとえわたしが出資して、アップルの経営を引き受けたとしても、マークラほどうまくはやれなかったかもしれない。もしかすると、まったく違う結果になったかもしれないんだ。

21歳の頃のジョブズは、将来どうなるかまったく分からない存在だった。成功間違いなしという感じではなかったね。経営者の出来を判断するうえで、わたしが基準とするのはジョブズではないことは確かだ。ただジョブズはあれだけの存在になったからね。世の中わからないものだ。


それで今、また新しい本を執筆中だそうですね。

そう。『失業という神話』(The Unemployment Myth)というタイトルなんだ。

技術の進歩によって、これから20年間に、アメリカだけでも5千万もの職が消えていく。このことが大きな社会問題になるだろう。

1779年のことだ。ネッド・ラッドという腕ききの織工がいた。彼には妻と三人の子供もいた。ところが、ある日仕事場に行くと、その場でクビを言い渡された。仕事場が自動織機を導入して、そのあおりで失業したんだ。我慢ならなかった彼は、その晩、斧で織機を打ち壊した。そこから反テクノロジー主義を掲げるラッダイト運動が生まれたんだ。

たとえば、自動運転の車が何を引き起こすか考えてみるといい。大変な数の職がごっそり無くなってしまうわけだからね。おおいに揉めることだろう。

それで、次の本は、テクノロジーが生み出す新しい職や、それがもたらす生活の変化に関するものになる。前向きな内容にしたいと思っているけどね。


あなたにアイデアを持ち込んでくる人はきっとたくさんいると思いますが、それをどうやって選別されているのでしょうか。

わたしが常に求めているのは、イノベーションといっても、段階的なものではなく、破壊的なものなんだ。大半は段階的なんだけど、そういうものには興味がない。

本当の意味で革新的なものにこそ関わりたいと思う。こいつは間違いなく重要になる、そう思えるようなものだね。

ゲームはたいていのものよりも寿命が長い。たとえば、映画よりは人気が長続きする。ふつうゲームの寿命は、出来のいい作品で半年から1年ってところだ。例外もあるけどね。だから判断するうえで重要なのは、それが持続性のあるものかどうかってことになる。

わたしに言わせれば、今のモバイルゲームをめぐる状況は、とにかく騒がしいってことだ。大規模なリセットが起きるかどうかってことには常に注意している。そういうリセットが4、5年に1回くらいあるから。

次のリセットは拡張現実(AR)か仮想現実(VR)だろう。わたしもその両方に少し関わっているけど、どちらかというと、ARの方が重要かな。VRは公共の場に大きな可能性があるし、ARはゲームの世界を支配するだろう。


何が有望か判断する上で、ご家族の存在が大きいのではないですか。

さっきも言ったけど、わたしには8人の子供がいる。それぞれ自分の会社を作ったりしていて、うまくやっているようだ。まあ、子供たちはわたしのことを軽く見ているんだけどね。でも、それでいいんだ。

それで、何かわたしが思いついたことを見せると、それが有望なものだったら、もうその瞬間から、子供たちはそれが自分のアイデアだって思い込んでしまうんだよ。困ったことだ。


あなたはずいぶん多くのアイデアを抱えておられますし、たくさんの人に会っておられますね。

そうなんだ。それで思うのは、今は大卒ってことが何の目安にもならないってことだね。人を雇ううえで重要なのはやる気があるかどうかってことで、きちんとした教育を受けたかどうかは二の次なんだ。

わたしが求めているのは独学の人材だ。Unityは本当にすばらしいと思う。まったくもって優れたツールだ。今だと、日中はアルバイトをして、夜とか週末に熱心にゲーム作りに取り組んでいるような人たちの中に、本当にすぐれた人材がいたりするんだ。


今の世の中で大変なのは、世界規模で人材を探さなければならないということですよね。

たとえ世界のあちこちを移動しないといけなくても、そのこと自体には何の問題もない。つまらない夕食会なんかにつきあわされるのはごめんだけどね。


今、投資をされるとしたら、どのような分野を考えますか。モバイルゲームでしょうか。それともオンラインゲームですか。

投資するとすれば、次のプラットホームだね。今だと、CastARっていう会社があって、次の大きな動きはそこが起こすんじゃないかと思っている。(CastARは3D立体映像を使った拡張現実システム)


あと面白そうなものといえば、マイクロソフトのHoloLensもありますが。

あれはコストの問題があるからね。200ドルを切る値段にできないなら厳しいだろう。マイクロソフトにはうなるほどの資金があるわけだから、その気になれば何とかできるだろうけどね。


今の時代はまさしくゲームの黄金時代だという声がありますが、かつてアーケードゲームについても、そう言われた時代がありました。だがそれも、80年代初めのゲーム市場崩壊によって消えてしまった。今の時代が本当にそうなのか、それとも単なるでっちあげなのかはともかく、今の状況にどう対処するべきでしょうか。

わたしが好きなのはブルーオーシャンなんだ。レッドオーシャンじゃなくてね。でもって、今のモバイルゲーム市場っていうのは、まったくのレッドオーシャンなんだ。

アプリをヒットさせるのはとても難しい。いいアプリを作れたところで、そいつを効率よく、安価に宣伝するにはどうすればいいか、そういう難点がある。ゲームの作り手にしてみれば、今のモバイル市場はとても細分化しているんだ。

わたしなら別のところを見るね。たとえば、今だとエスケープルーム(リアル型脱出ゲーム)が世界的に流行している。それはビデオゲームと関連があるとはとても言えないけれど、いろんな技術を活用して作ったものではあるし、パズルとしてもよく出来ている。そういうものを人々は楽しんでいるわけだ。

わたしの息子もサンフランシスコで似たような施設を手がけている。収益化ってことじゃ難しいけれど、入場券を買って中に入れば、いろんな遊びができるってことで、かなりの人気を呼んでいる。では、ゲームの要素をとりいれた遊園地は経営的にどうなのか。そういうことを考えたりするんだ。わたしも今、小さな遊園地の設計に関わっているんだけどね。

モノから体験という動きがあるけど、この両者の間には断絶がある。たとえば、ショッピングモールの経営者と話をすると、ずいぶんと萎縮してしまっている。なんせ小売ビジネスがどんどんネットに移っているからね。その一方で、体験を商材にしたビジネスに注目が集まっているんだ。


今では、ゲームの製作に多額の予算が投じられるようになりました。そのこと自体は良いと思うんです。ところがその一方で、インディーズでのゲーム製作もかつてないほど盛況になっていますよね。

確かにそうだ。なにしろUnityみたいなツールのおかげで、アプリを作ること自体はかなり楽になった。アイデアを手軽に形にできるようになったわけだ。

さらにもうひとつある。開発にかかる予算が安くなればなるほど、新しいことがやりやすくなるんだ。

ハリウッドの映画会社がヒット作の続編ばかり作りたがるのも、一番には制作費の問題があるからでね。リスク回避の観点からそうしているわけ。映画はどんどん制作費が高騰していったけど、それによって冒険できる余地が失われた。

ゲームだって同じだよ。Call of Dutyの最新作だと、5億ドルだったかな。とてつもないカネが費やされている。

そんなわけで、今はインディーズの開発者が、ゲームの新しい動きを先導しているんだ。


最近ではどんなゲームを遊ばれているんですか。

今でもネットで囲碁をやっている。大昔のゲームだけど、とにかく面白いから。


それこそアタリを始められる前からやっておられましたよね。

そうそう。それからチェスもやっている。PortalとかMinecraftも面白いね。

わたしの場合、FPSはもう出来なくなってしまった。ヒトは1歳年をとるごとに、物事への反応速度が50ミリ秒ずつ遅くなってしまうんだ。息子たちと対戦しても、何がなんだか訳がわからないうちに負けてしまう。やるからには勝ちたいしね。

思考型のゲームなら今でもなかなか強いよ。でも反応速度を問われるようなゲームはお手上げだね。


今後のことを考えると、デジタルの世界が急速に衰退していく可能性もありますよね。デジタルゲームが飽きられてしまうかもしれないわけで。そうなると、実世界での体験型ゲームとか、拡張現実を使ったボードゲームなどに世間の関心が移ってしまうかもしれません。

1983年のアタリにはある種の混乱があった。アーケードゲームまで行き詰まってしまい、ゲーム業界全体が急激に萎んでしまったわけだけど、その原因は何なのかっていうことについて、意見が一致しなかったんだ。

わたし自身、はっきりとは分からなかった。ただ、ゲームというビジネスがまったく行き詰まったという印象はあったね。そこに入ってきたのが任天堂だったんだ。そして、いろいろと面白い変化が起こった。

わたしがアタリを辞めた頃、こんな調査があった。1週間に一度でもアーケードゲームで遊びましたかって質問で、対象の40パーセントがイエスと答えていた。それがやがて5パーセントになり、対戦格闘ゲームの流行でさらに下がってしまった。

あの手のゲームは、熱心なゲーマーにとってはすばらしいものだ。だけど、とにかく暴力的だから、まず女性が逃げていった。それに操作がとても複雑だから、一般人もよりつかない。ジャンルとしてはかなりの収益を上げていたけど、アーケード全体の市場は縮小してしまった。

モバイルやタブレットのゲームで注目すべきなのは、女性がまたゲームに戻ってきたってことなんだ。家庭用のゲーム機にしても、やっぱり男性が中心だしね。

それで、これからゲームが急にダメになるようなことがあったとしても、全体のごく一部じゃないかな。5パーセントとか、10パーセントとか、そんな程度で。それも一時的なもので、また盛り返してくるだろう。ゲームっていうものは、やっぱり癖になるからね。とても楽しいし。

わたしとしては、これからは協力要素のあるゲームが増えると思う。独りでやるようなゲームは減っていくんじゃないかな。それがわたしの賭けだね。





昨年オーストラリアの銀行のイメージ広告に出演したブッシュネル。「世界を築く人々」というテーマで選ばれた各界の著名人に並んで登場しアステロイドをプレイしています。撮影は豪ビクトリアのゲームバーで行ったとのこと。なお今年2月5日はブッシュネル73回目の誕生日でした。

Atari founder Nolan Bushnell is still gaming's showman at 72 - GamesBeat