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現在、全世界のアップルⅡユーザーの注目を一手に集める存在がいます。それが4am、午前4時と名乗るハッカーで、膨大な量におよぶアップルⅡソフトウェアのコピープロテクトを外しては共有するという試みをもう何年間も続けているのです。
その成果は現在、インターネット・アーカイブに設置された専用のスペースにて公開されています。


このコレクションには、これまで4amが独自に解析し、プロテクトを外したソフトが並べられています。その数は600点を超えます。

もっとも、単なるプロテクト外しのハッカーなら、それこそ30年前からありふれた存在でした。4amが注目されているのには、それ相応の理由があるのです。


クリーンコピー

4amのコレクションにあるソフトウェアは、すべてクリーンコピーであることがその特徴となっています。クリーンコピーとは何かというと、いっさいの夾雑物、混じりもののないコピーのことです。実際にはなかなかそうもいかないのですが、原則としては、コピープロテクトが外されている以外、オリジナルと同等のものになっています。

現在、アップルⅡのソフトウェアはインターネットで手軽に入手できます。ですが、これらの品には大きな問題があります。どれもコピープロテクトを外された違法コピーだということです(厳密には4amのコピーも違法なのですが、ここではひとまずそう区別します)。これらは70~80年代の、ソフトが発表された当時にハッカーによってプロテクトを外されたものです。それがアングラBBSなどを通じてばらまかれ、現在まで伝わっているというわけです。

ことアップルⅡのソフトウェアに関しては、(4amコレクション以外の)インターネット・アーカイブにあるものも含め、いまネットで出回っているものは、まずこうした昔の違法コピー品とみて間違いありません。

では違法コピーの何が問題なのかというと、こうした品はほとんどすべて、コピーを外したハッカーによって改変されているのです。オリジナルにない要素が追加されていたり、または外されていたり、変更されていたりするのです。これは、ソフトウェア保存の観点からすると、大きな問題です。

よくあるのが、外したハッカーが自分の名前をソフトウェアに紛れ込ませるという行為です。違法コピーのゲームソフトを起動すると、わけのわからない人名の入った、作品とはまったく関係のないグラフィック画面が表示されたりしますが、腕自慢のハッカーはそうやって自分の名前を宣伝していたのです。

実際、80年代当時は、有名なゲーム会社が新作を出すと、アメリカじゅうのハッカーがそれに飛びつき、誰よりも早くプロテクトを外そうとする競争が起こっていました。

こうしたハッカーは、プロテクトを外すことに第一の関心があり、中身のゲーム自体にはさほど興味はありません。そのため、ささいな要素とみなされた部分は落とされていたりします。たとえばロード中の画面だったり、面クリアの後で表示されるカットシーンのような、ゲーム自体に関わりのない演出がそうです。特に、その要素のためにいちいちディスクを読みに行ったりするようなものは落とされがちでした。

またハッカーによっては、クレジット以外の追加要素を入れる場合もありました。たとえば、無敵モードなどのチートを付け加える行為がそうです。

そもそも、このような違法コピー品が、オリジナルの内容をきちんととどめている保障など、どこにもないのです。ところが、現在に伝わっているのはそうしたものなわけで、ここにアップルⅡのソフトウェア保存をめぐる問題がありました。

この状況を見て、なんとかしなければと立ち上がったのが4amなのです。



(初期アドベンチャーゲームの名作、トランシルバニア。スタークラフトによって国産機に移植されたことで日本でも知名度の高い作品ですが、オリジナルのアップルⅡ版では、違法コピーとプログラムが判断した場合、マップの特定の場所が表示されなくなり、結果としてクリアできなくなるという仕掛けが施されていました)


貴重なものが先

4amのコレクションには、いわゆる有名なソフトはあまりありません。それどころか、熱心なユーザーでも見たことも聞いたこともないようなタイトルが目立ちます。日本人にとってはなおさらで、教育ソフトなどは輸入すらされなかったものがほとんどでしょう。もちろん、これにも理由があります。

要は、見過ごされていたようなものこそ、率先して保護する必要がある、ということなのです。

アップルⅡのソフトというと、多くのゲームとごく一部の実用ソフトばかり知られている印象がありますが、実際には膨大な数のビジネスソフト、教育ソフトが作られています。

たいていのゲームソフトはすでに違法コピーが出回っており、完全でないとはいえ、ひとまずの内容はそうしたものでも確認できます。ところがゲーム以外のものとなると、あまりハッカーの関心を惹かなかったこともあり、いまひとつ広まっていない傾向があります。

そうしたソフトは発売当初のディスクに入ったままで、プロテクトのためバックアップを取ることもままなりません。いわば、ディスクに封じ込まれた状態です。

そして、フロッピーディスクの寿命は30年ともいわれています。現存するディスクのうちかなりの数が、もはや使えない状態になっているのです。当然、その中身もディスクとともに朽ちてしまいます。それでも現物があればいい方で、オリジナルのディスク自体が所在不明になっているものも少なくありません。

何年間にもわたって活動を続けてきた4amの手元には、数多くのディスクが集まっています。いずれも、4amの実績を見込んで託されたものであり、そこから選んで作業しています。その中には、初めてプロテクトを外されたものも数多くあります。放っておけば失われた、貴重な文化遺産が、ぎりぎりのところで救われたのです。
 

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(4amの手元にあるフロッピーディスク。アップルⅡゲームソフトの名門、シリウスの作品群です。今となっては入手困難なものばかりです) a2_4am

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(こちらはブローダーバンドのディスク。ブローダーバンドといえば優れたゲームで有名ですが、プロテクトの固さもトップクラスでした。これはカラテカの作者、ジョーダン・メックナーから貸し出されたものとのこと) a2_4am


プロテクトを外す必要性

そもそも、なぜコピープロテクトを外さなければならないのか。プロテクトを外すだけでも大変なのに、オリジナルの内容はなるべく残すとなると、並大抵の苦労では収まらない作業になります。険しい道ですが、それでも、そうしなければならない事情があるのです。

これは、ことアップルⅡに限っていえば、ディスクドライブにその原因があります。

結論からいうと、現代の技術をもってしても、アップルⅡのディスクドライブをエミュレートすることはきわめて困難なのです。そして、今のエミュレータでは、プロテクトが掛かったままの状態だと、かなりの数のソフトが正常に動作しません。

アップルⅡのディスクドライブ、ディスクⅡは、アップル本体と同じくスティーブ・ウォズニアックが設計したものですが、アップルⅡに匹敵する傑作との評価がすでに定着しています。それは実際、ウォズニアックの考えがよく表れた製品でした。
 

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(ディスクⅡ。ヘッドやモーターの動きまでソフトウェアで制御できるという型破りなディスクドライブでした)

ものづくりにおけるウォズの哲学とは、ハードウェアはなるべくシンプルにして、ソフトウェアでできることはソフトウェアに任せる、というものでした。そしてディスクⅡは、部品数は少なく、機構はごく簡素なものとなり、結果として製造コストは抑えられ、高い信頼性と自由度を兼ね備えたものに仕上がったのです。

もっとも、この高い自由度というのが曲者で、コピープロテクトもまた自由自在となってしまいました。事実、アップルⅡのプロテクトは、8ビット機では最高峰ともいえるほどの高みに達していたのです。

アップルのコピープロテクトは創意工夫のかたまりであり、次々と革新的な手法が編み出されていきました。

ドライブのステップモーターを細かく制御することにより、通常のトラックの半分、ないし4分の1ずれた位置に書き込むテクニック(ハーフトラック、またはクオータートラックと呼ばれる)。各トラックはさらにセクタに分かれるわけですが、全部のセクタ(トラックの全周)ではなく、一部のセクタのみに書き込むテクニック(全体から見ると扇状に見えることからスパイラルと呼ばれた)。モーターの回転数を(読み取りに支障のない範囲で)変えてディスクに書き込み、通常の部分との微細な違いを検出することで違法コピーを見破るテクニック。果てはドライブのモーターノイズを利用したプロテクトなど、多種多彩な手法が花咲いたのです。(もちろん、そのすべてが破られてしまったわけですが)

現在のエミュレータがプロテクトをうまく処理できないのも無理もないことではあるのです。たとえば、いくらなんでもモーターノイズの再現まで求めるのは酷というものでしょう。

もっとも、こうした高度なプロテクトには弊害もありました。あまりにもトリッキーな手法が使われたため、ディスクの読み込み自体が難しくなってしまったのです。

当時のアップルユーザーの間では、複数のドライブを持つにしても、1台はかならず純正品にすること、というノウハウが語られていました。コンパチのドライブではブートすらままならないプロテクトが横行していたためです。その純正ドライブにしても、クリーニングが行き届いていなかったり、調整が甘かったりすると、とたんにうまくいかなくなったりしました。


(ディスクⅡのケースを外した状態でディスクをブートした動画。プロテクトのかかったディスクは通常とは異なるディスクアクセスを伴うため、シーク音やヘッドの動きを確認することも大きなヒントになる)

このように、プロテクトは正規品を購入したユーザーにとっても不便を強いるものでした。一方で、通常のフォーマットで使える状態にしておけば、使い勝手は大きく向上しました。だからこそ、当時からプロテクト外しがさかんに行われていたのです。

もっともプロテクトを外すのは大変なことでした。アップルの知識があること、アセンブリ言語が使えることは最低条件でしたが、それだけではどうにもならなかったのも事実です。アングラなルートで情報が出回ってはいたものの、具体的なノウハウについては自分でソフトを解析するしかありません。

4amもまた、そうしたところから始めていったのです。


詳細なドキュメント

4amのコレクションでは、すべてのソフトに独自のドキュメントが付属しています。

そして、このドキュメントにこそ、4amがアップルⅡユーザー、ひいてはレトロコンピュータ界において、大きな注目を集めている理由があります。

ドキュメントでは、ソフトのコピープロテクトを解析し、外すまでの過程が細かく記録されています。簡単なものも少なくありませんが、長いものは相当な分量になります。

4amはもともと、アップルⅡとアセンブリ言語は使えたものの、コピープロテクトについてはほとんど知らなかったそうです。いまどきアップルでプログラミングしている人で、プロテクトの知識ゼロというのも相当にめずらしい存在だと思いますが、とにかくそんな状態からプロテクト破りを始めたわけです。

確かに、早い時期からドキュメントを見ていくと、ソフトの解析を通じて、すこしずつ知識を身に付けているのが分かります。

これはまた、当時を知らない後追い世代にとってもありがたいことでしょう。ドキュメントを読み進めることで、コピープロテクトについての理解を、段階を踏みつつ深めていくことができるのです。

ドキュメントの具体的な構成は、ソフト自体の分類、コピーツールの試用、プロテクトの分析と解除の3つに大別されます。

まず最初に対象となるソフトの情報が書かれています。ソフトの作者、発売元、発売年といった基本的なところから、プロテクトの性質、出回っている違法コピーの種類といったことまで含まれています。

次にコピーツールの試用結果となります。アップル謹製のコピープログラムであるCOPY Aに始まり、ロックスミス、EDD、コピーⅡプラスといった、往年のコピーツールにかけてみた結果が詳細に記されます。COPY Aでコピーが取れればプロテクトがかかっていないと判断されますが、実際にはそれどころか、専門のコピーツールでもコピーできない場合がほとんどです。(ちなみに、このCOPY Aでコピーが取れる状態にまでもっていくことが、4amにとってさしあたっての目標になります)
 

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(ロックスミス。アップルⅡの代表的なコピーツールで、ビットコピーなど数々の強力な機能を備え、数万部を売ったヒット作でした)

続いて、プロテクトの分析と解除となります。いわば本題となる部分であり、いちばん読み応えのあるところです。

基本的にはブートするところからプロセスを追っていき、ひとつひとつの動きを観察するという地道な作業に終始するのですが、プロテクト外しの醍醐味がぞんぶんに表れたところでもあります。

かつては、アップルのゲーム目当てにプロテクトを外していたのが、それに熱中するあまり、ゲームで遊ぶことよりもプロテクト外しを楽しむようになった、というケースが少なくありませんでした。アップルのコピープロテクト外しには、良質のパズルにも似た面白さがあり、またそれを通じてハードやソフトの知識も深めることができるという教育的な効果もありました。

当時、ゲームソフトのプロテクト外しといえば、10代の中高生がやることでしたが、事実、それを通じて技術を身に付け、ついには本職のプログラマになったケースもめずらしくなかったといいます。

もっとも、4amの場合、それ以上のものを自らに課しています。単にプロテクトを外すだけでなく、その内容を突き止め、それを踏まえたうえで、解除しなければなりません。

たとえば、数バイト変えるだけで回避できてしまうプロテクトもあるわけですが、それを示すだけなら、昔のコピーツールのパラメータを見ればすむことです。目的はプロテクトの仕組みを突き止めることなのですから、それだけでは足りません。数学の証明問題と同じで、回答だけでなく、そこに至るまでの過程がまた重要なのです。

加えて、オリジナルのソフトにある内容はいっさい変えないとしているのですから、ハードルはさらに高くなります。

また4amは特殊なハードウェアを使用することもしていません。

かつては、アップルのプロテクト外しというと、行きつくところはハードの改造でした。本体ROMを改造品に差し替えたり、メモリの内容を転送できるコピーボードを増設したりしたものですが、4amはそのような手法は採っていません。もっとも、これも無理のないことで、なにしろ、あくまで標準的なシステム構成でなければ、周囲の参考にならないのです。

プロテクト外しに使う機材も、もちろん往年の実物です。具体的にはメモリ128KのアップルⅡeを使っているそうです。

好きこのんでやっていることとはいえ、現在の環境に慣れた身で80年代のパソコンを使うのですから、やはり快適とはいかないでしょう。

つまり、制約だらけの状況なのです。そして肝心のプロテクトの解析が、また苦労の連続でした。

意味をなさない内容に突き当たり、さんざん資料をあさった末に、正規の仕様書に載っていない裏コマンドであることを突き止めたり、同じ手法が10いくつも別々の箇所にしかけてあったりと、一筋縄でいかないことばかりなのです。

ドキュメントには、そんなプロテクト外しに苦労するようすが克明に描かれています。試行錯誤もまた重要な情報ということで、どこで詰まったのか、それをどう解決したのかまで書いてあります。

大量のアングラ文書が飛び交った、80年代アメリカのローカルBBSですら、そのようなものは存在していませんでした。しかもそれが、何百種類ものソフトに対して書かれているのです。これはまさに、前代未聞の試みといえます。

そしてそこには、単なる技術解説だけではなく、当事者としての反応、怒りや悲しみまでが率直に記されており、結果として、じつに人間味にあふれた読み物になっているのです。


喜びも苦しみも

かつて、プロテクト外しには推理小説に似た面白さがあると言われていました。丹念に手がかりを調べ、状況をつぶさに観察すれば、かならず答えにたどりつくことができる。それはコピープロテクトも同じで、どんなに不可解に思えても、現にブートできている以上、それは正しいのであり、間違えているのはこちらなのです。

プロテクト外しにおいて、数々のトラップをかいくぐり、みごと攻略できた時の喜びは何物にも代えがたいほどで、どんな面白いゲームもかすむほどだったといいます。

もっとも、パズルも推理小説も、最終的には仕掛けた側が答えを教えてくれますが、プロテクトにはこれがありません。解けなかったらそれまでで、その意味ではさらに緊張を伴います。うまく解ければいいのですが、そうならない時の苦しみ、敗北感には痛切なものがあります。

そして4amのドキュメントには、このような面も克明に記録されているのです。

どうにもならない強固なプロテクトを前に、「どうしてなんだ、どうしてなんだ」と嘆き、「これが仕事なら、とっくに辞めている」と泣きを入れ、時には煽られたりもしています。

たとえば、ディスクの中身を覗いたところ、メッセージが見つかることがあります。不埒な行為をするハッカーに宛てた、作者からの挑戦状です。

あるゲームソフトには、こんな文字列が入っていました。

「時間を無駄にしちゃいけない。正規品はお手ごろだよ」(Don't waste your time. Originals are inexpensive.)

いくら頑張ったところで、コピーなんてどうせ取れやしないのだから、ふつうにソフトを買えというわけです。

何とかしてプロテクトを外そうと、あれこれ探っているうちに、こんな言葉に出くわしたら、挫けてしまうかもしれません。まさにそれこそが、仕込んだ側の狙いなのでしょう。実際のところ、効果があったのかどうかはっきりしませんが、たびたび見かけるものではあります。

もっとも、4amの場合は違いました。ひるむどころか、こんな啖呵を切っています。

「時間を無駄にしてやろうじゃないか」(Let's waste some time!)

そして苦労の末、プロテクトを見事に外してしまいました。

4amは、勝負に勝ったのです。もっとも、切り出した方もとっくに忘れていることでしょう。なんせ30年前の話なのですから。
 

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(名プログラマ、レベッカ・ハイネマンが80年代の作品に残したメッセージ。「プルダウンメニューを実装するのは大変でした。コピーしないで」) a2_4am


プロテクト外しと並行して、4amはプロテクトの分類にも早くから取り組んできました。

その成果が、今年の夏にようやく形となって現れました。独自のプロテクト解除ツールを公表したのです。その名を「パスポート」(Passport)といいます。
 

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かつてソフトウェアは、個々のユーザーが自作するのが当たり前だった時代がありましたが、プロテクトも例外ではなく、プログラマが独自に開発し、実装していました。

ところか82年頃から、ソフト会社はプロテクトを外部から買い入れるようになります。いわば外注化ですが、これは商用ソフトウェアの梱包やディスクの複製(デュプリ)などの作業と同様で、外注できるものはしてしまうという流れの一環でもありました。またプロテクトは通常、メインのプログラムが完成した後に付け足されるものであったため、そのことも外注化につながりました。

つまり、まったく別の会社が出した異なる複数のソフトで、同じプロテクトが使われているというケースが一般的になったのです。それによって、プロテクトの分類も可能になりました。

パスポートは、ソフトのプロテクトを自動的に判別し、それに応じた解除パッチを書き込みます。また、独自フォーマットのソフトについても、アップルⅡの標準OSであるDOS 3.3形式に変換します。これにより、プロテクトのかかったソフトも通常のファイルと同様に扱えることになります。そして、この一連の作業は自動で行われるため、いったんソフトの解析を始めれば、後は終わるまで待つだけです。

従来のコピーツールは、独自のアルゴリズムによってプロテクトを外していました。もっとも、それでは高度化する一方のプロテクトに対応しきれなくなり、最終的には、個別のソフトを解析して作られたパラメータをツールに登録する方法に落ち着きました。

パスポートの特徴は、内部にプロテクトの分類データを持っていることにあります。それは4amが独自に積み重ねてきた情報であり、なにしろ実物に基づいているだけに、その信頼性には高いものがあります。

もっとも、パスポートといえど無敵ではありません。当たり前ですが、分類できているプロテクトにしか対処できないのです。

かつてコピープロテクトの最前線といえば、ブローダーバンドやシエラオンラインといった有名なソフト会社の、それもアクションゲームでした。こうした会社のゲームソフトは、それぞれ内製のプロテクトが施されているのが普通であり、外注の出来合い品とは訳が違います。

またディスクの複製(デュプリ)についても、業者が使っている汎用のデュプリ機ではなく、独自に開発した機材を用いて社内ですべて行っているケースもありました。こうなると、標準構成のハード、ソフトではなかなか対処しきれません。

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(フロッピーディスクの複製マシン。このような機械は80年代前半より広く使われるようになったが、特殊なフォーマットやプロテクトには対応できないことが多かった) VC&G

また作品によっては、プロテクトを後付けするのではなく、メインのプログラムの開発中からプロテクトのことまで考慮して、巧妙に組み込んでいたりします。こうなると、簡単に切り離すことはできません。

もっとも、だからといってパスポートの意義が薄れるわけではありません。マイナーな教育ソフト、実用ソフトはたいてい出来合いのプロテクトが使われており、そうしたものに対しては絶大な威力を発揮してくれるのです。これによりソフトウェア保存作業は大幅にスピードアップすることになりました。

事実、パスポートの登場以降、4amコレクションの点数は目に見えて伸びています。またツールを公開することで、誰でも手持ちのソフトウェアを保存できるようになりました。4amはまたしても、アップルユーザーのコミュニティに多大な貢献を果たしたのです。


すくい取れないもの

もっとも、4amの努力をもってしても、救えないものがあります。他ならぬ、プロテクト自体のことです。

実は、ここまで説明してきたやり方には根本的な欠落があります。

内容(ソフト)と器(フロッピーディスク)は保存できるとしても、入れ方(コピープロテクト)までは残らないということです。

肝心のディスクドライブが完全にエミュレートできない以上、仕方のないことなのですが、アップルのコピープロテクトを体験するには、昔の機材とフロッピーディスクを使う以外に方法がありません。そして、そうしたものも寿命が近づいていることを考えると、いずれ後に残るのはインターネットにアップロードされたソフトと、耐用年数を過ぎたハードとディスクということになります。

フロッピーディスクのイメージこそ数多くあるものの、それを解析するとなると、やはりアップルⅡの実機が必要になります。

そもそも、イメージ自体がオリジナルのディスクにある内容をきちんと記録しているかどうか、何の保障もありません。

ディスクが正常でも、ドライブがメンテナンスされていなければ、読み取りに支障が出てきます。あるいは、調整済のドライブを使っても、肝心のディスクに傷でもあれば、本来のデータが読み取れないことになります。もちろん、ディスクとドライブの両方に問題が生じているケースもあるでしょう。さらにいうと、ディスクに読み取れない箇所があったとして、それがプロテクトの一部かもしれないのです(たとえば、ディスクにわざと不良セクタを作っておくテクニックがある)。

またプロテクトには、原理が分かったとしても、実際に再現できるかどうかは分からないところがあります。

物にもよりますが、数々のプロテクトを外してきた4amにしても、それらを実際のフロッピーディスクで再現する(プロテクトを掛ける)ことは難しいのだそうです。

保存もできず、後から再現することもかなわない。それがアップルⅡのコピープロテクトをめぐる現状なのです。

80年代のコピープロテクトについては、まだまだ分かっていないことが多くあります。革新的な技術が次々と出てきたにもかかわらず、それをどこの誰が考案したのか、そういう根本的なところから不明なままなのです。運よく当事者を探り当てたとしても、なにしろ30年前のことであり、具体的な部分まではなかなか解明が進んでいません。

かつてプロテクト外しに熱中した人々にとってみれば、これはやりきれない事態でしょう。情熱をかたむけてきた対象が、いまや消えようとしているのです。

なにしろ、すでに触れたように、ソフト本体よりもプロテクトの方を重視していた人だっていたのです。そういう人たちにしてみれば、プロテクトが残らない保存など、もはや保存でも何でもないということになってしまいます。

もっとも保存作業には、あきらめるしかない要素がどうしても出てきます。アップルⅡのソフトウェアにおいては、それがコピープロテクトだったということです。

幸い、アップルⅡやディスクドライブの完動品は今も数多く残っていますが、それもいつまで保つかわかりません。そう遠くないうちに、完動品が貴重な存在になる事態も想定できます。そうなれば、なにしろ貴重な品だけに、そうそう動かすわけにもいかなくなります。そしてコピープロテクトは、失われた技術、ロストテクノロジーとして、それを実際に体験した人々の記憶にのみ残っていくことになるのでしょう。



(2016年のアップル関連イベントで行われた、パスポートに関する研究発表の映像です)