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MS-DOS時代のゲームをいま遊ぶとしたら、DOSBoxを使うのが普通でしょう。ですが、それではうまくいかない場合もあったりします。そういう時に頼りになるのがFreeDOSです。

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FreeDOSはMS-DOSのオープンソース版で、1994年に開発が始まって以来、今に至るまで広く使われており、デルやシーゲート、ASUS、ヒューレットパッカードなどの製品にも採用されています。


昨年末には、FreeDOSにとって4年ぶりのアップグレードとなるバージョン1.2が発表されました。それにあわせてFreeDOSがあちこちで取り上げられたのですが、その中心にいたのが、FreeDOSプロジェクトの創始者であるジム・ホール(Jim Hall)でした。


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(ホール氏近影。現在は政府機関に勤めておられるそうです) ars_technica

UNIXのオープンソース版を提唱し、Linuxを作り上げたのがリーナス・トーバルスなら、MS-DOSに対して同じことをやってのけたのが、このジム・ホールという人物なのです。

ここではそのホール氏の最近のインタビューをお届けしたいと思います。昨年9月にオープンソース関連のサイトに掲載されたもので、FreeDOSのほか、オープンソース運動の意義についても触れられており、興味深い内容になっています。

* * *


この2016年に、DOSを使っているのはどういう人たちなんでしょうか。

何年か前に調査して分かったことなんだけど、いまFreeDOSの主なユーザーっていうのは3種類に大別できるんだ。

まず、昔のDOSのゲームを遊んでいる人。まあDOSBoxでもゲームは遊べるし、Linuxに移植されたものだってある。DOOMとかね。だけど、DOSのシステムで遊びたいって人もけっこういたりするんだ。わたしもよく昔のゲームで遊んでいるよ。

それから、レガシーの業務アプリケーションを使っている人。数としては少ないかもしれないけど、そういう人は確かにいるんだ。

例えば、マクラーレンのF1っていうスーパーカーを整備するのに、昔のコンパックのラップトップでDOSのアプリケーションを使っている。南アフリカ共和国では、今でも政府は国民の保健情報をDOSベースのシステムで管理している。

個人的に気に入っているエピソードだと、SF作家のジョージ・R・R・マーティンだね。彼は今でもDOSのコンピュータで執筆しているんだ。昔のWordStarってワープロソフトでね。

他にも、FreeDOSを仕事で使っているって話はいろいろ伝わってくる。昔のDOSプログラムを使って、古いデータファイルのデータを取得しているとかね。

わたしは以前、大学でIT管理の仕事をしていたんだけど、そこでも同じようなことがあった。古い研究データが入ってる3.5インチのフロッピーディスクを持ち込まれて、何とかならないかって相談されたんだ。今のウィンドウズマシンだと読んでくれないってことでね。それでコンピュータにFreeDOSをインストールして、そのディスクが読み取れそうな90年代の古いシェアウェアをダウンロードして試してみたら、ぶじ読み取れて、データをテキストファイルにエクスポートできた。

それと最後に、組み込みソフトウェアを開発している人。昔は組み込みソフトを走らせてみるのには、たいていDOSが使われていた。だから、古い組み込みソフトをサポートするなら、DOSがあった方がいいし、そういう用途にはFreeDOSはぴったりなんだ。数年前に組み込みソフトを開発しているって人から連絡をもらったけど、やっぱりFreeDOSを使っているって言っていたね。これには嬉しく思ったよ。


レガシーアプリを使うためのツールは他にもありますよね。DOSBoxとか、Wineとか。ああいうものとFreeDOSの違いは何だと思いますか。

昔のゲームを遊ぶのにDOSBoxを使っている人もいる。それ自体は別にいいんだけど、ただDOSBoxっていうのは、あくまでゲームを遊ぶことを主な目的として作られている。だから、業務用のアプリケーションだとうまくいかなかったりするんだ。そういう場合にはやっぱりDOSで動いているシステムが必要になる。ただそれは実際のハードウェアである必要はなくて、DOSEmuやQEMU、VMWareみたいなバーチャルマシンでもいい。状況に応じて選べばいいと思う。

あと、DOSBoxはDOSのゲームをかなりの部分サポートできているけど、それでもまだ正常に動かないものもある。そういう場合はぜひFreeDOSを試してほしいね。

Wineはまた別の話で、Linuxマシンでウィンドウズのソフトウェアを使うためのものだからね。DOSのプログラムは対象にされていないんだ。


あなたはもう、かれこれ20年以上もFreeDOSに関わっておられますよね。燃え尽きるのを避けたり、新しい人材を引き入れたり、いろいろご苦労があるんじゃないかと思うんですが。

人からこんなことを言われたことがある。FreeDOSはもう、それこそMS-DOSよりも長く続いているんだってね。おそらくその時にはじめて、どれだけ長いことこのプロジェクトを続けているのか実感したと思う。

われわれはとにかく、プログラミングが好きなんだ。DOSの開発にしても、小さいけどすぐれたシステムだし、今でも使われているものだからやっている。

ただ個人的には、ときどきプロジェクトから離れるようにはしている。そうしないと燃え尽きてしまうかもしれないからね。まあ離れるといっても、1週間くらいメールを見ないようにするとか、そんな程度だけれども。

それから、プロジェクトでの役割にしても、変わってはきているんだ。最初はとにかくたくさんのコードを書いていた。だけど今は、プログラミングにはほとんど関わっていない。サイトの管理とメールの返事、ソーシャルメディアでの書き込みとかが主だね。いってみれば、オープンソースのプロジェクト運営に必要な作業をやっている。

だから、1番目の質問については、こういう答えになる。つまり、興味の向くままに作業を選んでいることで、燃え尽きるのを防いでいるんだ。

新しい人材を呼び込むことだと、今も昔も変わらない。わたしの場合だと、機会があればFreeDOSについて話すようにしている。プロジェクトの開発者がやっていることや、FreeDOSがどんな感じで活用されているか、いろいろ説明するわけだ。やっぱり、活気があって、関わっている人々の貢献がきちんと認められているようなプロジェクトじゃないと、なかなか興味をもってもらえないからね。それに、別にプログラマじゃなくても、FreeDOSプロジェクトに協力することはできるんだ。


今回のアップグレードでFreeDOSはバージョン1.2となるわけですが、前のバージョンとはどう違うんでしょうか。

じつは、バージョン1.1の次に関して、いろんな議論があってね。わたしは当初、次のバージョンは2.0にしようと思っていたし、2016年のDOSがどういうものであるべきなのか、その姿を示してやろうと考えていた。いってみれば、UNIXみたいな機能を備えた、現代風のDOSだね。また、そうすることで新たな人材を呼び込めるとも思っていた。

だけど、まわりに説得されて考え直したんだ。確かに、それだとやり過ぎになってしまう。FreeDOSの利点は、それがあくまでDOSだってことにある。そしてDOSとは、複雑なものであってはいけない。DOSは常に、シンプルなOSを志向しているのであって、複雑なものではない。そしてそれこそがまさに、DOSの魅力的なところなんだ。コンパクトで、分かりやすくて、すぐにセットアップできて、たちまち使える。そういうところがいいんだ。

今回のバージョンを1.2としたのは、あくまで単なるアップグレードであって、とりたてて大きな変化があるわけじゃないってことを意味している。今の環境に合わせて変えてはあるけど、基本的には前のバージョンと同じものなんだ。

新しい要素ってことだと、インストーラがある。これは個人的に、どうしても変えておきたかった。これまでのインストーラがあまりにも複雑になってしまったからね。いろいろオプションを付け足した結果そうなったんだけど、やっぱりDOSなんだから、そういうことじゃ困るんだ。

今回のインストーラは、基本的なDOSだけをインストールするのか、それともありったけの要素を詰め込んだものにするのか、その二択から選ぶようになっている。幸い、やりたいっていうプログラマがいたから作ってもらったんだけど、とてもいいものになったよ。いくつかの質問に答えるだけで、すぐにFreeDOSがインストールできる。とてもシンプルで、使いやすいんだ。


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今後のバージョンはどういうものになるんでしょうか。


次のバージョンが1.3になるのか、それとも2.0になるのか、今のところは何も決まっていない。基本的なところは同じにするなら1.3になるし、大きな変化があるなら2.0になるかもしれない。

ただやっぱり、インテルのチップで動作するものにはなるだろう。それからマルチタスクとか、32ビットをサポートしたりとか、そういう予定もない。FreeDOSはあくまでDOSであって、それはこれからも変わらない。


FreeDOSであなたの人生はどう変わりましたか。本業に加えて、これだけ長い間オープンソースのプロジェクトを運営してこられたわけですが。

オープンソースのプロジェクトに関わってずいぶんになるけど、そのことで仕事にもいろいろ変化があった。

数年前に、修士号を取ろうと思って大学院に通ったんだけど、そこでユーザビリティの測定に関する授業があった。それで、その授業の題材にオープンソースのソフトウェアを使ったんだ。FirefoxやNautilus、Geditみたいなソフトのユーザビリティを調べたわけ。それをやっているうちに面白くなって、結局は修士論文のテーマもそれにしてしまった。

すると、それがきっかけで大学で教えることになったんだ。当時は大学でIT管理の仕事をしていたんだけど、教える方もやってくれって頼まれてね。それでユーザビリティについての授業を受け持つようになった。授業で扱うのはオープンソースのソフトウェアだから、それまでやっていたプロジェクトが仕事にもなったわけだ。今は政府機関に転職したけど、授業は続けてくれって言われているから、またやろうと思っている。

今の立場はIT業務の責任者っていうものなんだけど、これまでオープンソースに関わってきた経験が役立っている。オープンソースのソフトウェアを使うことに抵抗がないからね。

これまでいろんな組織で働いてきたけど、どこでも必ずオープンソースのソフトウェアを使ってきた。たとえば、大学の学籍管理システムを、IBMのスパコンからLinuxのサーバーにマイグレーションしたことがある。6万5千人ぶんのデータを新しい環境に移行させたんだけど、おかげで安定性は向上したし、100万ドル近い額を節約できたんだ。

今のITリーダーなら、オープンソースのソフトウェアを積極的に使っていく必要がある。たとえこれまでずっとウィンドウズを使ってきて、それに慣れているからといって、オープンソースを受け入れないなんてわけにはいかない。オープンソースこそ未来なんだからね。そいつを無視するわけにはいかないんだ。

* * *

ホール氏がFreeDOSの開発を思いついたのは1994年のことでした。当時、マイクロソフトはウィンドウズ95の開発とMS-DOSの販売終了を表明していたのですが、これに対してDOSは今後も必要になると考え、独自開発を呼びかけたのです。

ホール氏は当時のことについて、とにかく不安だったから行動したと語っています。確かに、当時のウィンドウズ3.1は、とうてい褒められたものではありませんでした。マッキントッシュやアミーガ、アタリSTなどのOSと比べると、動作こそ安定していましたが、使い勝手ということでは見劣りのするものだったのです。そして次のウィンドウズではMS-DOSを内包してネイティブ化を進めるということで、MS-DOSはまさに切り捨てられようとしていました。

MS-DOSは現役でなくなり、かといって今後のウィンドウズがどうなるかは分からない。これで不安にならない方がどうかしているともいえなくもありません。

そしてFreeDOSの開発が始まったのですが、そちらにしても平坦な道のりではありませんでした。アルファ版は1994年に、ベータ版は1998年に出たものの、そこから開発は滞ったようで、最初の正式版であるバージョン1.0が出たのは2006年と、なんと開始から12年もの歳月が過ぎていました。これだけの長い間、プロジェクトを維持するのには並みならぬ苦労があったことは容易に想像できます。

もっとも、正式リリースにこぎつけた頃にはFreeDOSの評価も定着し、企業が採用するなどの動きも出てきていました。そして2012年のバージョン1.1を経て、昨年末の1.2に至ったわけです。

ホール氏はかつて、マイクロソフトの関係者からMS-DOSは死んだと言われたこともあるそうです。ところが、今でもMS-DOSは生きながらえています。それにはFreeDOSの貢献が大きいわけで、ホール氏にしてみれば痛快な話でしょう。

インタビューで気になったのが、FreeDOSの今後に関するところでした。FreeDOSはあくまで過去のMS-DOSの姿を保持すると語っているのですが、実際にはDOSの発展形を期待するユーザーも少なからず存在しているためです。

たとえばかつて、MS-DOSの機能を大幅に拡張し、マルチタスクなどの要素も実現した製品としてDR DOSがありました。残念ながら今では消えてしまいましたが、こうした方向性にも一定の支持はあったわけです。

そこで考えるのが、もしマイクロソフトがウィンドウズのネイティブ化に踏み込まず、かわりにMS-DOSを使い続けたとしたら、今のMS-DOSはどのようなものになっていたのか、ということです。そういうものに対する関心は確実にありますし、当のホール氏にしても、インタビューにある通り、つい最近まで同じことにこだわっていました。

今回のバージョンアップがあくまでマイナーなものであることを考えると、ホール氏自身、この方向性を捨て切れていないようにも思えます。

今のところ可能性としては薄そうですが、それでももしかすると、FreeDOSがバージョン2.0になる頃には、そのような、ありえたかもしれないもうひとつの世界のDOSの姿が、現実のものになるかもしれません。



(FreeDOS 1.2でさまざまなゲームを動かしている動画。インストールや設定の方法も解説されています)