macintosh
今年の4月と、すこし前のことになりますが、インターネット・アーカイブでマッキントッシュのソフトウェアが利用できるようになりました。といっても、もちろんエミュレーションの話で、しかも今回対象となるのは最初期のものです。具体的な時期としては、マッキントッシュが登場した1984年から89年までになります。
この間にマッキントッシュはその評価を大きく変えています。当初は使いやすいが実用性に欠けたマシンという印象だったのが、環境が充実するにつれてIBM-PC互換機陣営の対抗馬として大きな存在感を示すまでになりました。もっとも日本では、値段や言葉の問題もあり、その真価がいまひとつ認知されていなかったのですが。

その後、アーカイブにもいくつか大きな変更があったため、ここで改めてこの新たな動きをまとめてみたいと思います。


整理してから出す

これまでにも、インターネット・アーカイブでは数多くの機種をエミュレーションにて提供してきました。ですが、今回マッキントッシュをサポートするにあたっては、これまでとは違う方針を取っているそうです。

すでに公開されているソフトウェアのラインナップを見ると、その方針がどことなく伝わってきます。

初期のマックユーザーなら、ここにあるソフトウェア群を見て納得のいかないものを覚えたのではないでしょうか。ゲームこそそれなりに揃っているものの、それ以外はかなり物足りない印象を受けます。

そもそもゲームは、今も昔もマックがあまり得意とするジャンルではありません。それよりもグラフィックソフトやアウトラインプロセッサ、DTPなど、創作のためのツールにこそマックの強みがあったように思います。ところが、そうした面がここに並んだソフトからはいまひとつ伝わってきません。

実はこれには理由があり、アーカイブ側ではマッキントッシュのソフトに関しては一度にあるだけ出すのではなく、ある程度整理をしながら順次公開してゆくつもりなのだそうです。確かに、同じインターネット・アーカイブのコレクションでも、アップルⅡやMS-DOSといった機種では大量のソフトが雑多な形で並んでおり、それはそれでありがたいことではあるのですが、なにがどうなっているのか分かりにくいといわれればそうかもしれません。

もっとも、各種ツールがゆきとどいた形で提供されたところで、現状ではとても本格的に使いこなすことはできません。というのも、これはマックに限ったことではありませんが、インターネット・アーカイブが提供するオンラインエミュレータでは、何か作業したところでファイルの保存はおろか、作業した内容自体を外部に持ち出すこともできないためです。つまり、実物の代替物などではなく、あくまでソフトをさわってみるだけのものと割り切って使う必要があるのです。


システム込みでのエミュレーション

コレクションの中身はソフト別に陳列されていますが、実際に起動してみると、ソフトが単独で動くのではなく、OS込みで動くようになっています。そのため、エミュレータでは目的のソフトがすぐに起動するのではなく、自分でOSを操作してソフトを起動しなければなりません。

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実行してシステムの詳細を見てみたところ、機種はマッキントッシュ・プラス、OSは6.0.8、メモリは4MBと表示されました。この構成は、マックがようやく実用になったといわれた最初のものにあたります。

それまでマックといえば、つくりが洗練されているのは誰もが認めるところでしたが、一方でとても使えたものではないという不名誉な評価も受けていました。もっともこれは一理ある話で、動作がしょっちゅう固まるのはともかく(当時の競合機だったアミーガやアタリSTも不安定なことではマックと大差ありませんでした)、非力だという指摘はたしかに当たっていました。

なにしろ最初のマックはメモリ128K、512Kで動いていたのであり、ちょっとした作業ならともかく、本格的な業務に使うにはあまりにも力不足でした。それでいて拡張性をかたくなに拒む作りだったので、どうしても何とかしたければ、サードパーティの製品を利用してむりやりメモリやハードディスクを増設するしかなかったのです。

それがひとまず解消されたのがマッキントッシュ・プラスでした。メモリが4MBまで拡張可能になり、ハードディスクをSCSI経由で接続できるようになったのです。日本語への対応も、漢字talkと呼ばれた日本語要素がシステム6に組み込まれ、ようやく実用に耐えるようになりました。

インターネット・アーカイブはいわば、マッキントッシュの最初の黄金時代をネットに蘇らせたのです。


復活したハイパーカード

初期のマッキントッシュを象徴するソフトウェアといえば、何といってもハイパーカードでしょう。アップルのプログラマ、ビル・アトキンソンが1987年8月に発表したハイパーカードはカード型のオーサリングツールで、商用ソフトとして初めてハイパーテキストを実装したソフトウェアとして知られています。

簡単にいうと複数のカードを束ねてボタンで移動できるようにしたものなのですが、カードではテキストのほかサウンドやグラフィックも扱うことができ、HyperTextという簡易言語でプログラミングできるようになっていました。その使いやすさからハイパーカードはたちまち普及します。ハイパーカードで制作したファイルは「スタック」と呼ばれていましたが、このスタックがやがてパソコン通信などでやり取りされるようになりました。中には商用ソフトとして販売されたものもあり、たとえば「MYST」も元々はハイパーカードのスタックです。



(「マンホール」。MYSTの作者のデビュー作で、これもハイパーカードで制作されたアドベンチャーゲームです。他機種にも移植されていますが、オリジナル版には9インチのモノクログラフィックならではの味わいがあります)

そしてハイパーカードの登場から30年後にあたる今年8月、インターネット・アーカイブにスタック専用のスペースが開設されました。

このコレクションにはかつて作られたスタックが並べられており、その数はすでに3000点を超えます。

hypercard

スタックについてはアーカイブ側も専用のアップロードサイトを用意するほどの熱の入れようなのですが、当時のハイパーカードはそれだけ影響力のあったソフトウェアということなのでしょう。

残念ながらハイパーカードは1998年で開発が終了し、2004年には販売も打ち切られてしまいます。現在のマッキントッシュではハイパーカードは使えなくなって久しく、無数にあったスタックはいわば宙に浮いた形になっていたのですが、今回アーカイブがコレクションを新設したことで、その姿を留めるばかりか、広く共有できるようにもなりました。

ハイパーカードの特徴は、その使い心地の良さにありました。それは今の環境をはるかにしのぐとの声もあるほどです。アーカイブのサイトにもそれを示すようなユーザーからのコメントがありましたので、ここに引用したいと思います。

「すばらしい。本当に感謝している。コンピュータに触れて50年近くになる(1968年に始めた)が、これまでに見たソフトウェアの中でもハイパーカードは最上級に位置するものだ。残念ながら今では使えなくなってしまったが、出た当時も今も高く評価している」

「PowerMac G4でClassicをエミュレートすることで、今でもハイパーカードを使っている。昔つくった顧客データのスタックを今も利用しているが、あれこれ考えることなしに、必要な作業がこなせてしまう。ハイパーカードの何が優れているといって、起動したままの状態ですぐにプログラミングできる、それもたった1メガのメモリで出来てしまうことだ。アップルがハイパーカードの扱いを止めたのは本当に残念だ」

「誰もがハイパーカードを気に入っていると言う。だが現在の環境は、かつてハイパーカードが持っていた自由度にははるかに及ばない。ウェブですら、当初の構想にあったような統合的な編集機能は取り去られてしまった。今のプログラマは、かつてビル・アトキンソンがハイパーカードで実現してみせた環境を引き継ぐことすら出来ていない。新しいものを作り出すどころか、30年前のすぐれたアイデアを継承することも無理なありさまなのだ」


今後の展開

こうして実現したマッキントッシュのオンラインエミュレーションなのですが、残念ながらまだまだ不安定なところが目立つのが実情です。このあたりについては、今後の改善を待つしかありません。

当時大量に流通していたINITファイルやデスクアクセサリなどのシステム機能拡張も、今のところは対象外のようです。ファイルの提供はできてもオンラインエミュレーションとなると、こうしたユーティリティは起動前に組み込んでおく必要があったり、あるいはシステム自体を改変することになるため、現状のエミュレーション方式では困難なのですが、これも何らかの手段で実現してくれることでしょう。

またアーカイブ側では、エミュレータでの作業内容の保存や、外部への持ち出しについても、いずれは対応したいとの意向を示しています。かなり先のことになるとは思いますが、これも期待したいところです。

システム6以降のOSにしても本格的な対応は当分先になりそうです。いちおう次のシステム7も単独で提供されているのですが、基本的なアプリケーションがすでにインストールされた状態になっており、一通りの作業は出来るようになっています。もっとも基準OSがシステム6なのは、システム7になってからはまた動作が不安定になったことと、マッキントッシュ・プラスではこのOSはいささか重荷であることが関係しているように思われます。

なおアーカイブでは次のエミュレーション対象としてWindows98を予定しているそうです。Windows 3.xに続いての対応になりますが、現状ではWindows98のエミュレーションはなかなか大変なため、手軽に試用できる環境があれば大いに助かることでしょう。


要人も反応

ところで、マッキントッシュのエミュレーション開始というニュースに意外なところから反応がありました。カナダのトルドー首相がツイッターで次のように発言したのです。


今でも「ダーク・キャッスル」を覚えている人たちがいると知ってうれしい、とあります。「ダーク・キャッスル」はアクションゲームで、この手のゲームに乏しかった当時のマックではなかなかの人気作でした。


さらに、ウィザードリィは素晴らしいゲームだったとも発言しています。ウィザードリィはマッキントッシュの移植版があり、インターネット・アーカイブのコレクションにも含まれています。

この発言はちょっとした話題になり、ウィザードリィの共作者でカナダ在住だったこともあるロバート・ウッドヘッドは感謝のメッセージを投稿するほか、仏語版ウィザードリィを紹介するなどしていました。

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(仏語版ウィザードリィ) a2_4am

最近、日本の有名な政治家がゲーム用語らしき言葉を使ったと話題になっていましたが、海の向こうではすでにウィザードリィ最高と公言する政治家が国家元首になっているのです。まさに時代は変わったと思わせる出来事でした。