Windows95_Symbol

最近では昔のPCゲームがエミュレーションなどを通じて手軽に遊べるようになってきました。ただしこうした動きによって復活したゲームは過去作のごく一部でしかありません。たとえば現在エミュレータで遊べるゲームは70年代、80年代の作品が中心であり、これが90年代以降のものとなると、選択肢が極端に少なくなります。
これは主に技術的な制約があるためで、90年代の作品でもDOSベースのものならまだ可能性がありますが、Windows95、98以降のOSで動作するゲームとなると、現代のPCで動かすのは一気に難しくなってしまいます。

要するに、90年代以降のPCゲームを保存するなら、その動作に必要なハードウェアやOSもあわせて残しておくべきなのです。

また単に動かすだけでなく、たとえばオンライン配信などを通じて販売したいという場合は、さらに解決しなければならない課題を抱えることになります。

このあたりの事情をまとめたものとして、2015年にアメリカのゲームサイトに掲載された記事があります。興味深い内容のため、以下に要約してみました。

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すこし前、名作ゲームとして知られるNo One Lives Foreverのリメイクが企画されていたが没になったという話が報道された。どうも権利者が許可を出さなかったらしい。

ゲーム業界が有望な企画に常に飢えていることを考えると、この一件には驚いてしまう。しかも、リメイク版を実際に作るのは第三者であり、権利者はそのあがりの一部を何の苦労もなしにいただけるのにだ。

そもそも、その権利者はなぜ作品の権利を買い取ったのだろうか。かかったぶんは後で回収できるかもしれないが、それにしたって、せっかくの権利をしまいこんだままにしているのでは何の意味もないではないか。

だが、こういう指摘はより大きな問題のごく一部を指しているにすぎない。

要するに、ゲームとは短命なものなのだ。たとえば小説なら、書店に行けばブラッドベリの火星年代記だって、ウェルズのタイムマシンだって手に入る。どちらも大昔に出た作品なのだが。同じように大昔の映画も簡単に入手できる。だがこれがゲームとなると、わずか15年前の作品ですら難しい。

ちょっと待て、と言われるかもしれない。GOG.comがあるじゃないか。GOGは昔のゲームをみごとに蘇らせている。それにDOSboxだってあるだろう。そう思われるかもしれない。

たとえば2025年になっても、DOSBoxのようなアプリケーションを使うことで、Borderlandsがプレイできるかもしれない(WindowsXPで動くゲームだから、さしずめWindowsXP Boxか)。そうなれば素晴らしいと思う。だが個人的には、それはまずありえない話だと思うし、そもそもその可能性すらないかもしれない。ゲーム業界によほどの変化でもなければ、いま出回っているゲームの大半は10年以内に遊べなくなるだろう。その理由をこれから説明したい。


1. WindowsはDOSよりはるかに複雑になっている

DOSBoxは昔のPCの挙動をエミュレートするものだが、DOSや初期のWindowsは、今の基準からすればきわめて簡素なものでしかない。もはや状況は一変している。今のWindowsはまったくもって複雑怪奇なシロモノであり、しかも新しくなればなるほど、さらに混みいったものになっている。DOSの動作をエミュレートするのはさして複雑なことではない。一方で、何百ものDirect Xランタイムが同時に動いているさまをエミュレートしようというのは、並大抵なことではない。

D3D9用のD3DX(DirectX 3Dのヘルパーライブラリ)だけを例にとってみても、40以上のバージョンがあるのだ。D3D10、D3D11も対象にするとなると、さらに増えることになる。D3DXライブラリを使うゲームは、ライブラリの特定のバージョンにリンクされている。そのバージョンをインストールしていなければ、ゲームもまた動かないことになる。

たとえそれより新しいバージョンがインストールされていたとしても、何の保証もない。最新のバージョンをインストールしていたとしても同じで、過去すべてのバージョンをインストールしていないかぎり、動作する保証はないのだ。加えてx86とx64の違い、つまり64ビットと32ビットの違いも考慮しなければならない。

つまり、2025年に「Windows XP Box」を作ろうとするなら、こういう違いをすべてエミュレートする必要があるのだ。

Direct Xにはたくさんのバージョンがあり、そのランタイムにもたくさんのバージョンがある。対象となるゲームが32ビットで動作するのか、それとも64ビットなのかによって、必要となるビルドも異なってくる。さらにいうと、これはあくまでDirect Xを使ったゲームに限った話なのであって、たとえばOpenGLを使ったゲームもサポートするとなると、状況はより複雑なものになる。

趣味でやっている限り、限界はついてまわる。LinuxではWINEを使うことでWindowsのゲームも遊べるようになったが、それにしても動くのはごく一部の作品にとどまっている。ずいぶん前から優れた技術者がこの問題に取り組んでいるが、さしたる変化は起こっていないのが実情であり、それだけ難しいことなのだ。

問題はこれにとどまらない。さらに、グラフィックボードのドライバをエミュレートするという難題があるのだ。


2. OSに輪をかけて複雑なのがドライバ

2025年のPCでBorderlandsをプレイしたいなら、まずWindows XPが動くようにする必要がある。だがそれは、必要な作業のごく一部にすぎない。それもかなり手頃な問題といえる。本当の本題は、ドライバをどうするかということにあるのだ。

PCゲーマーであれば、ドライバのことはご存知だろう。グラフィックボードを新調した時にインストールするあれだ。そうすることで、グラフィックボードが使えるようになるのだ。

グラフィックボードの市場は大手2社が牛耳っている。NVIDIAとAMDだ。この2社はそれぞれハードもソフト(ドライバ)も独自のものを作っている。そのドライバが内部でいったいどんな悪さをしかけているか、普通はまず分からない。

それはたとえばこういうことだ。

あるソフトハウスが、根本に不具合のあるゲームを出したとしよう。そのゲームはPCで動作するのだが、グラフィックの描画部分が仕様に準拠していなかった。そのため動作が遅かったり、まともに動作しなかったり、画面表示がバグっていたりする。

そのゲームをNVDIAの技術者が見たとしよう。その技術者は開発元のソフトハウスに対して、これこれここが間違っていますよと指摘することができる。

さらには、別のやり方も考えられる。

NVIDIAのドライバの最新バージョンで、そのゲームが問題なく動作するようにしてしまうのだ。つまり、そのゲームが動作しているかどうかを検出して、実際に動いていれば、適切に動作するようドライバ側で「操作」するのである。

するとどうなるか。ネットでこんな会話が交わされるようになる。

「あのゲームはAMDのグラボだと動作がおかしいそうだけど、NVIDIAでは問題なく動いている。ちゃんとしたグラボを使わないとダメだよ」

つまり、まともに動作しないゲームが、NVIDIAのグラフィックボードの宣伝材料になってしまうのだ。それも、本当の問題をユーザーから隠すことによって。

こんなことが何年も前から続いている。まったく恐ろしいことだ。なにしろ、PCゲームの多くが、根本から壊れていて、しかもそれにみんな気付いていないのだから。

さらにいうと、これは別の、とてつもない問題を引き起こしている。

今のゲームを異なるハードウェアでエミュレートしようとしても、それを実現するとなると、とてつもない数の、表に出てきていない、資料もない、第三者が実施した改変をつきとめることが必要になるのだ。


3. 家庭用ゲーム機であってもこうした問題と無縁ではない

ここまで説明したような問題はPCに限ったことではない。というより、家庭用ゲーム機はさらに厳しい状況にある。

ソニーは下位互換性のあるゲーム機を2001年のPS2以降出していない。マイクロソフトとなると、そのような機能のあるゲーム機を出したことすらない。いずれの会社も古い機種をどんどん切り捨てているし、そうした機種で動くゲームをこれからも遊びたいのなら、その機種自体をとっておく以外に方法はない。

大ヒットした作品なら新しい機種で出し直されるかもしれない。だがそもそも、それなりの売れ行きが見込めるものでなければ、考慮されることすらないだろう。つまり、大半のゲームはいずれ世の中から消えてしまうということだ。


4. さらにDRMの問題がある

ここ10年間のゲームに広まった要素といえば、外部サイトへのログイン、SNSとの連携、そしてDRMといったところだろうか。いずれはこの全部が使い物にならなくなる。たとえ2025年のPCでなんとかして2005年のゲームを動かすことに成功したとしても、そのゲームが参照するであろうサーバーはとっくの昔にこの世から消えているのだ。

ゲームのプロテクトを外すことは可能だが、それをやるのは今では違法行為である。たとえ趣味で、個人的用途のためにやっていたとしても、違法行為とみなされることに変わりはない。

一部のゲームはGOG.comで合法に入手できるかもしれないが、それ以外の大半の作品はあやしげなファイル共有サイトに出回ることになるのがせいぜいのところだろう。


5. 許諾取得という悪夢

ゲームはどんどん複雑になっている。ということは、ゲーム業界というビジネスもまた複雑になる一方だということだ。会社の買収や合併もたえず起こっている。それによって、ゲームの権利も移っていく。たとえば、特定のゲームの権利をある会社が持っていたとしても、そのゲームに使われているグラフィックエンジンの権利は別の会社の持ち物かもしれない。音楽も別のところに権利があるかもしれない。あるいは、そのゲームの新作を作る権利はあっても、過去の旧作を扱える権利までは持っていないかもしれない。

No One Lives Foreverの件と同じで、過去作品のリメイク企画が流れてしまうのは、リメイクが可能かどうかという技術的な問題ではなく、単に作品の権利があちこちに散逸していて、とても収拾がつかないから、という場合もあるのだ。


6. 要するに、未来はろくでもないものになる

多くのゲームはただ単に消えてゆく。ゲームは新しければ新しいほど、後の時代になってから蘇らせることは困難になるだろう。そのために解決しなければならないハードルは高くなる一方なのだ。技術的にも難しくなるし、権利関係はますます複雑になる。さらには、とっくの昔に販売終了したゲームであっても、それに付けられたDRMまで終了してくれるわけでもない。ゲーム業界は、自分たちが築いた橋を、出来たはしから壊していくような真似をしているのだ。

テトリスやDOOMのような名作なら、これからも受け継がれてゆくことだろう。だがそれ以外の、無数の作品はどうなるだろうか。その中には、ごく少数ではあるが熱心なファンがついているようなものもあるのだが。

その答えは、それらが動くハードウェアが古くなってしまえば、一緒に捨てられるだろうということだ。まったく残念な話である。

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昔のPCゲームを今の環境で動かすには、主な方法として、ゲーム自体を今の環境で動くように改変するか、あるいはそのゲームが動く環境を仮想マシンで構築して動かすやり方があります。仮想マシンを使う場合は、昔のゲームをそのまま使うことができるため、最近ではこちらの方法が多くなっているようです。

ですがこの方法もけして楽ではありません。まず環境を構築するにも、それに必要なソフトウェアを揃えること自体が大変です。Windows95、98の場合、OS本体に加えて、サービスパックやアップデートファイル、DirectXランタイムなどをどうにかして入手しなければなりません。

さらに問題となるのがGPUです。今の技術であっても90年代以降のGPUを仮想マシンで再現するのはかなり荷が重いのが実情です。プロセッサの速度向上が頭打ちになっていることもあり、今後もさしたる改善は見込めそうにありません。

この記事でもっとも興味深いのは、グラフィックボードのドライバをめぐる記述でしょう。ここにある話が本当だとすれば、特定のゲームがあるとして、それを動かすのにもっとも望ましい環境が何なのか、作り手ですら把握していないことになります。さらにいうなら、そのゲームの本来の姿がいったいどういうものなのか、もはや誰にも判断できないわけで、不思議な話があるものだというほかありません。