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1989年のアメリカにおいて、ゲームの世界を支配していたのは任天堂でした。NESは一種の社会現象になるほどの成功を収め、全米の子供たちはマリオやゼルダに夢中になっていました。

任天堂がアメリカで成功した要因はいくつかありますが、そのひとつがイメージ戦略でした。とりわけ重要なのが雑誌のニンテンドウパワーで、それはまったくもって任天堂のプロパガンダでしたが、攻略法と新作紹介を組み合わせた実用的な内容が大きな人気を呼んでいました。また日本風のマンガが使われていたのもアメリカの子供たちにとっては新鮮に映ったようです。

アメリカで一時代を築いたゲーム雑誌「ニンテンドウ・パワー」、その全盛期を体験した、かつての愛読者による回想

一方、大きく追い詰められていたのが、かつての覇者アタリでした。

当時のアタリも7800などの家庭用ゲーム機を出してはいたものの、NESなどの競合機には大きな差を開けられていました。そこで任天堂の戦略を参考にしたのかどうかは不明ですが、アタリ自ら協力する形でゲーム雑誌が創刊されています。

アタリアンと名付けられたそれは1989年に第一号が刊行されました。そこではニンテンドウパワー同様にゲームの攻略法が大きく扱われていたのですが、マンガも載っていました。もっとも日本風のそれではなく、ヒーローが活躍する昔ながらのアメコミです。

そこではアタリが正義のスーパーヒーローとなり、ゲームの世界を支配しようとする悪の勢力を打倒するさまが描かれていました。もちろん敵は、ずるがしこい策略をつぎつぎと繰り出してくる狡猾な東洋人であり、しかもなんだかどこかで聞いたことのあるような名前だったりするのです。以下にその内容を紹介してみたいと思います。

* * *

第1話

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世界最高のゲーム会社アタリには最新鋭の生産設備があり、良質のゲームを安価に提供できる環境が整えられていた。作られたゲームは店で販売され、皆はそれで楽しんだ。こうして、ゲームを作る側と遊ぶ側の誰もが幸せに暮らしていたのである。

ところが、ある新作が生産ラインに投入されると、どうしたことか製造のスピードがどんどん落ちていった。

現場に急行したアタリの技術者、マイロ・メンダーが見たのは、異常動作を起こしている工場のコンピュータだった。電源を落とそうとしたところ、コンピュータの画面にはあざけるような文章が現れ、つづいて謎めいた文字が表示された。それは日本語のように見えた。

動かなくなったコンピュータをマイロが調べようとする頃、工場の上空では正体不明の宇宙船がホバリングし、工場に怪しい光線を浴びせていた。その光線によってコンピュータが異常を起こしていたのである。

いまや工場の設備は宇宙船の意のままにあった。その中では謎の東洋人が不敵な笑みを浮かべ、策略を練っていた。たとえばアタリの代わりに、別メーカーのゲームを生産することだってできるのだ。


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マイロの助けによって、現場の作業員はコンピュータを正常に戻す手がかりをつかんだ。だが彼は、原因は外部にあると考え、さらなる調査の必要を感じていた。そこで近くの電話ボックスに駆け込むと、スーパーヒーローに変身した。彼の正体は、アタリを守る正義の戦士、アタリアンだったのである。

読みは当たった。外に出たアタリアンが見たのは、工場に向けられた謎の光線だった。その元をたどろうとするアタリアン。だが接近を察知した宇宙船によって攻撃されてしまう。

危機に陥ったアタリアンだったが、機転を利かせて敵の攻撃を跳ね返し、それによって撃退に成功する。宇宙船は破壊され、乗員は非常用のカプセルで脱出する。そこに乗っていたのは、アタリアンの宿敵であるニンジャ=エンドウ(Ninja-Endo)だった。

かくして悪は打倒された。だが、アタリを倒すことなど決して出来はしないと宣言するアタリアンに対し、ニンジャ=エンドウは復讐を誓う。


第2話

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ニンジャ=エンドウを撃退し、恋人ベスの待つ自宅に戻るマイロ。ところがいるはずのベスが消えており、なぜか家の中には地下へとつづく通路が作られていた。通路に入り、その途中でなぜか置かれていた便利な道具を手にとりつつ進んでいたところ、助けてというベスの声が聞こえてきた。

周囲の壁がいつの間にか氷になっていたため、鏡で光を反射させ、それによって氷を溶かしたところ、抜け穴が現れた。そこをロープを使って降りようとするマイロだったが、その様子を隠しカメラで監視していたのがニンジャ=エンドウだった。そのそばにはベスが縛られた状態で拘束されていた。


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やがて現れたグレムリンの群れに襲われるマイロ。当初こそ苦戦するものの、アタリアンに変身するやいなや、必殺技ドミノパンチで敵をみごと打ち倒す。

続いて敵のアジトに突入し、ベスを救い出すアタリアン。だがまたしても、狡猾なニンジャ=エンドウを取り逃がしてしまう。


第3話

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恋人ベスを救出し、宿敵ニンジャ=エンドウを探し回るアタリアン。だが進むうちに周囲は水浸しになり、しかもその水位は徐々に上がっていた。そこでアタリアンは小型潜水艇を呼び出す。

さっそく現れた潜水艇に乗り込み、水中を進んでいく。窓から見えるのは、奇怪な姿に変形した魚だった。

やがて潜水艇のソナーで、ニンジャ=エンドウの居場所が判明する。一方でエンドウは、魚たちを潜水艇にさしむけていた。実は変形した魚たちはエンドウによって改造され、手下にされていたのだった。


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アタリアンが潜望鏡を覗いていると、エンドウの手下である魚の群れが向かってくるのに気づいた。だがベスを残していくわけにもいかず逡巡していたところ、ベスがあることに気付く。窓の外でこちらを気にかけている様子のイルカがいたのだ。

幸いにも潜水艇にはメガSTという機材が備わっていた。それがあれば、イルカの声が人間の言葉に変換できるのだ。

イルカの言葉を解読したアタリアンは、近くに大戦中に沈没した米海軍の潜水艦トライトンがあることを知らされる。トライトンには爆薬が積まれており、それを攻撃すれば誘爆により周囲一帯に大きな衝撃を与えることができるのだ。

トライトン (タンバー級潜水艦) - ウィキペディア

手下の魚たちが上を通過するタイミングで潜水艦を攻撃するアタリアン。狙いはみごと成功し、爆発の衝撃で魚たちは吹き飛ばされてしまう。

思いがけず空から降ってきた魚の群れに大いに喜ぶ南洋の人々。そしてアタリアンは、またしてもニンジャ=エンドウの策略を防いでみせたのだった。

* * *

以下次回、となっているのですが、残念ながらこの続きはありません。雑誌が3号で終わってしまったからです。

本作の原作者デイビット・オールはアタリアン誌の創刊編集長でもありました。そもそもオール氏はコンピュータ出版の草分けとして知られる編集者で、1974年に史上初となるコンピュータ雑誌、クリエイティブ・コンピューティングを創刊したほか、邦訳もされた名著「BASIC Computer Games」の作者でもあります。もっとも氏はこのアタリアン誌をもってコンピュータ出版から手を引き、それ以降は主に軍事雑誌を手がけられています。コミックでもなぜか唐突に軍事の話が出てきましたが、以前からそういう分野に興味があったのでしょう。

またアタリを題材にしたコミックは以前にもあり、アタリ・フォースという作品が1982年から1986年にかけてDCとのタイアップで刊行されていました。これはアタリ2600のゲームを宣伝するためのもので、ゲームソフトとの抱き合わせで販売されていたようです。この作品では21世紀の未来社会を舞台に、一大調査機関となったアタリに所属するヒーローたちの正義の戦いが描かれていました。


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(アタリ・フォースの広告。バックに描かれたアタリ本部ビルの造形が秀逸です)

それにしてもこの作品、ずいぶんと直接的に描いたものだと思ってしまいます。アメコミの世界では悪の東洋人というのはそれこそ戦前からあるおなじみの存在ではありますが、この作品の場合、モデルのことを考えると、もし続いていれば、ニンジャ=エンドウはきっと絶対的な悪玉になったことでしょう。

また内容だけでなく、絵柄もまた実に大らかというか、民族の類型的な描写を思い切り前面に出しており、腰ミノ姿の南洋の人々など、文脈しだいではありますが、一般的にいえばもはや現代では久しく見られなくなったスタイルです。

雑誌が3号で終わったことからも分かるように、こうした努力にもかかわらず残念ながらアタリをめぐる情勢は変わらず、それどころかますます沈んでいくのですが、当時の世相を伝える手がかりとしてはこのアタリアンという作品はなかなか興味深く、貴重な存在といえるでしょう。



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(第2号。1989年のゲーム雑誌の表紙にジャングルハントを持ってくる感覚には驚きます)

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