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ゲームの独自改造は70年代のアーケードに始まりますが、80年代のPCゲームでも同じ動きが起こっていました。これに拍車をかけたのがコンストラクション機能の流行で、1982年に出たビル・バッジの名作、ピンボール・コンストラクション・セットに始まり、シューティングやカーレースなど様々な分野のゲーム作成ソフトが続いています。またエディット機能を備えた作品も出るようになり、ロードランナーなどではユーザーが作った独自面を交換する動きが広まったりもしていました。

この先にある動きが、ゲームの独自改造でした。ゲームソフトを解析して、内容を改変できるツールを作成するのです。今でいうMODですが、その標的にされたのがウィザードリィとウルティマでした。いずれも大変な人気作であり、しかも改造の需要もあったのです。

その理由として、いずれの作品も次第に新作発表のペースが遅れていったことがあります。ウィザードリィもウルティマも当初は毎年のように新作が出ていたのが、そろって3以降は新作がなかなか出なくなったのです。80年代半ばになるとRPGが一種の流行になったため大量の作品が出回るようになり、中にはバーズテイルやマイト&マジックのような人気作もありましたが、やはりウィザードリィとウルティマは別格の存在でした。

とはいえ、この2作の独自シナリオを作るのは相当に難しいのが現実でした。ウィザードリィもウルティマも、マップやキャラクタの改造ツールはいろいろありましたが、シナリオとなると話は別で、全体のバランスを考慮しなければならず、作業量も相当なものになります。そのこともあり、実際に作られたケースは多くはなかったと思われますが、それでもなお、この難行に取り組む人たちがいました。


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(1984年に作られたウルティマ3の改造ツール)

たとえば1984年にはバックストリート・ソフトウェアという屋号でウルティマ3の改造シナリオを売っていた人物がいます。もちろん、そんなものが一般の小売店に出回るわけがなく、雑誌広告による通販のみでした。

ウルティマ3が選ばれたのには理由があります。この作品ではマスターディスクとシナリオディスクの2面を使っているのですが、ゲームの基幹部分はマスターディスクにまとめられており、シナリオディスクはほぼマップのデータに占められていたのです。つまり、シナリオディスクのマップを独自のものに差し替えれば改造シナリオが出来上がるわけです。また作品の規模としても、3はまとまりを重視する一方で、1、2よりもマップの量は抑えられていたほどなので、比較的手ごろではあったでしょう。

バックストリート・ソフトウェア名義で出されたウルティマ3の改造シナリオは今のところ5作が確認されています。タイトルを挙げると、A World Divided、Spaceship Crash、Pirate World、Egypt、Rule of the Slave Lordsとなります。価格は1作あたり20ドルでした。

これらの作品は、存在自体が長いこと知られていないままで、ウルティマのファンサイトですら扱われていませんでした。そもそも現物がアングラルートでも出回っておらず、販売された数もそう多くないであろうことを考えると無理もないことではありました。広告のほかにも、雑誌記事で紹介されていたため実在していたことは確か(しかも評価はけして悪いものではありませんでした)なのですが、実際にプレイしたという声すら皆無だったのです。

長いことそのような状況だったのですが、それが一変したのが2014年のことでした。あるイギリス人ゲーマーが自身のブログでシリーズ第一作である「A World Divided」を取り上げ、あわせてディスクイメージを公開したのです。

そのブログによれば、シナリオの内容はウルティマ3の後日譚になっていて、エクソダスは打倒されたままですが、その悪の遺産は再生されてしまいます。またソーサリアの地からはロードブリティッシュが姿を消し、別の支配者が君臨していました。その状態からプレイヤーは冒険を再開することになります。また、この新たなソーサリアは巨大な力場によって北と南に二分されているのですが、作品のタイトル(分割された世界)もそれに由来すると思われます。


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(南北を隔てる力場。北側にある渦にうまく巻き込まれれば地下世界に移動できるのだそうです)

もっとも、そこから先が長い時間がかかりました。残りの作品がなかなか見つからず、全5作が揃ったのは2023年のことであり、内容については今なお調査中という状態です。一方でオリジナルのアップルⅡ版から、現在公式に販売されているIBM-PC版への移植も行われており、今のところ第一作の「A World Divided」が公開中で、GOGで販売中のウルティマ3があれば動作します。



さらに同じ屋号でウィザードリィ(初代)の改造シナリオも販売されており、こちらも5作あるほか、2023年になってようやく確認された点でも共通しています。ただウルティマと違って原作とのストーリー上のつながりはなく、それぞれが独立した作品になっているようです。

タイトルを挙げると、O'Connor's Mine、Nihonbashi、Catacombs of Vlad、The Emperor's Seal、Scarlet Brotherhoodとなるのですが、それぞれマップのほか、モンスターやアイテムなどが差し替えられています。

そのうち、とりわけ気になるのがNihonbashiでしょう。ウルティマの場合もそうなのですが、マニュアルなどはいっさい伝わっていないため、作品の背景などは分かっていません。ただし、少しプレイしてみた限りでは、特に日本の史実を扱ったりしているわけではなさそうです。なにせ作中で登場するのがバケモノ国(bakemono nation)やカンジ族(kanji tribe)といった具合で、あくまでガワを和風に仕立てた程度のようであり、その点では同じアップルⅡのRPGであるEAのデスロードに似ています。

高難易度に広大なマップ、奇怪な日本趣味~80年代RPGの知られざる傑作 「デスロード」(Deathlord)


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(Nihonbashiのボルタック商店。売られているアイテムもすべて和風のものに替えられています)

どうしてこのようなものをわざわざ作ったのか意図が分かりかねますが、そもそも原作のウィザードリィ自体が日本関連の要素を数多く含んでいることを考えると、同じ趣向を試してみたかったのかもしれません。そもそもウィザードリィのルーツのひとつであるTRPGでも和風シナリオは早くからいろいろありました。


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(BushidoとLand of the Rising Sun。いずれも日本の戦国時代を舞台にしたTRPGで、それぞれ1979年と1980年に発表され、高く評価された作品です)

ところで、このようなものが販売されるというのは、果たしてまかり通るのかどうか気になるところですが、さすがに当時でも珍しいケースであり、通販のみという扱いになったのも無理のないところでしょう。結果として大々的に流通するようなことにはならず、それどころか、プロテクトもかかっていないというのにアングラルートでも出回らず、長らく忘れられた存在になってしまいました。

もちろん原作の権利者もこのような商売には黙っていないはずで、たとえばウィザードリィの販売元であるサーテックは、当時いろいろあった改造ツールのたぐいには警告すると表明していました。ウルティマの作者リチャード・ギャリオットも著作権は当然のことながら重視しており、ゲームデザインの剽窃と見なした行為をめぐって仕事で関わりのあったEAともいろいろあったくらいですので、勝手改造などもとうてい許容しなかったことでしょう。

もっとも、こうした行為のすべてが問題視されたわけでもありません。たとえば初期RPGの傑作として知られる「テンプル・オブ・アプシャイ」は、後に追加シナリオをまとめた改訂版が出ていますが、その追加シナリオはもともとユーザーが独自に作ったものでした。それを開発元が認めて商品化につなげたことになります。

「アカラベス」と並ぶ、最初期のPC向けRPG~「テンプル・オブ・アプシャイ」(Temple of Apshai)


そしてリチャード・ギャリオット自身も、さすがに40年前の話ということで、今ではその姿勢も変わっているようです。


(A World Dividedが公開された時のリチャード・ギャリオットの反応。自分でもぜひ試してみたいと発言しています)

このようなウィザードリィ、ウルティマの改造シナリオにはそれぞれWizimore、Ultimoreという総称があり、ここに挙げたバックストリート・ソフトウェア作品の発掘が刺激になったのか、近年になって探索が進んでおり、いろいろな作品が出てきています。もしかすると今後も思いがけない発見があるかもしれません。



(A Divided Worldのプレイ動画です。動画の開始位置を船で力場に近づくところに設定しています)