4つの基本的要素

2010年12月08日

<モチベーション2.0>型の組織で、チーム編成についての完全な自律性を実現するのは難しいかも知れません。しかし、組織を超えた枠組みを作るのは、ソーシャル・ネットワークの影響力やモバイル・アプリケーションの台頭により、以前よりも技術的には容易になりました。

ウィキペディアファイアーフォックスリナックスアパッチなどを開発するために集まった、オープンソース・プロジェクトがその例です。オープンソースの例については、下記の記事も参考にして下さい。

http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65919284.html

これら、自主的に組織されたチームで働く人は、既存組織内のチームで働く人よりも満足感を抱いているという、豊富な研究結果もあるようです。また、内発的動機づけ研究の第一人者デシやその他の研究者によると、内発的動機づけが高い人は優秀な同僚として評価されているそうです。

これらの理由により、チームに関する自律性は大きく発展する可能性がある、とダニエル・ピンクは言います。それは、どうしてでしょうか?

人は誰でも認められたいという欲求を持っています。また、働きやすい環境で働きたい、一緒に働きたい人と働きたい、というのは至極当たり前の感情です。

しかし、今まではそういった職場を自力で作ることは、自分で起業でもしない限りかなり困難でした。でも、そういった働き方が出来る選択肢が増えてくると、人はより働きやすく、より働きがいのある職場環境を選ぶ可能性が高くなることは誰でも容易に想像できます。

タイプIの人とともに仕事をしたければ、自分自身がタイプIになることが一番の近道だ」

このようにピンクは書いています。自分が一緒に働きたいと思う人と一緒に働きたいならば、自分自身が一緒に働きたいと思われる人になることです。それは、自分自身の幸せな働き方を実現することにもつながるのです。

また、ピンクは次のようにも書いています。

「結局のところ、自律性は伝染するものだから」

昨今、新型ウイルスの流行が大きな問題になっています。体に害のあるウイルスへの感染は防がなければなりませんが、自律性はもっともっと流行して、感染者が増えていって欲しいと願っています。

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前回まで、自律性が重要な仕事の4つの基本的要素の、「課題」、「時間」、「方法」についてみてきました。これらは、<モチベーション2.0>型の組織でも、果敢に物事に取り組む人なら、いくらかは自由を得ることが可能かも知れません。

しかし、チームで一緒に働く人を選ぶ自由を与えられることはほとんどないと思います。でも、人間関係の問題で職場を離れる人は少なくありませんので、チーム編成に関する自律性はとても切実な問題だと思います。

ところが、少ないながらもこの自律性を実現している企業があります。自然食品スーパーで有名なアメリカのホールフーズでは、各部門の責任者が人材を採用するのではなく、各部門の従業員が採用する人を選ぶ仕組みにしています。

また、ゴアテックスで有名なW.L.ゴア・アンド・アソシエイツ社では、昇進してチームを率いたいと思う人は誰でも、自分と働きたいという仲間を集めなければならない仕組みになっています。

グーグルでは、20%ルールで新たな製品のアイデアが生まれたときには、自分たちで仲間を集めて「小グループ」を編成し取り組むことができます。この「小グループ」には予算も権限もほとんどないようですが、トップからの指示ではなく自発的に編成することができます。

これらの先進的な企業もありますが、4つの基本的要素の中で「チーム」に関する自律が一番進んでいない、とダニエル・ピンクは言います。その理由は、自由裁量の要求がその他の責務と利害が一致しないからです。

フェデックス・デーを導入しているアトラシアンでも、 20%ルールを試みた際には、社員がその20%の時間を使い切っていなかったうようです。その主な理由は、進行中の仕事から離れることで、同僚に迷惑をかけたくないと社員が感じたからだそうです。

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2010年12月07日

ザッポスの取り組みは、仕事における個人の自由をある程度復活させようとする動きの一つですが、他にも、コールセンター業界では新たな動きがあるようです。

コールセンターの経費削減手法に、オフショアリングと呼ばれる海外の低コスト供給業者への業務委託があり、多数の企業がその手法を取り入れています。しかし、そうした流れに逆行する「ホームショアリング」に着手している企業もあります。

アメリカのLCCジェットブルー航空は、そうした取り組みを最初に始めた企業の一つですが、2000年の就航以来、カスタマーサービスを在宅スタッフに一任しているそうです。

同社の生産性と仕事の満足度は、オフショアリングよりも高いそうですが、その理由は次のように言われています。

●在宅勤務の方が快適で監視されないから
●この手法が幅広い人材を引きつけるから


ホームショアで働く人は、仕事をしたいけれども通勤がままならず、自分にあった方法で仕事をしたいと望む人々です。

●子供がいる人
●学生
●定年退職者
●身体にハンディキャップのある人

ある報告書によると、カスタマーサービスを委託される在宅勤務スタッフの70〜80%が大卒者で、これは、従来のコールセンターのスタッフの2倍だそうです。

ジェットブルー航空以外でも、アルパイン・アクセス、PHHアーヴァル、ライブオプスなどのベンチャー企業が同様の方法を導入し、採用にかかるコストがほぼゼロになったそうです。希望者のほうから集まってくるからです。

このような在宅勤務のスタッフは、自分のやり方で、顧客からの問い合わせに対応しているそうです。

同じようなことは、日本でも実現可能だと思います。しかし、そのためにはスタッフに対する信頼と、スタッフがその信頼に応える必要があります。マニュアル頼みではなく、一人一人がどのようにしたら顧客満足を最大にできるのか、自分の頭で考える習慣を身につける必要があると思います。

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コールセンター業務は、かかってくる電話に対し、事例に対応したスクリプトに従って対応するという、ルーチンワークの代表のような仕事の一つです。オペレーターには自由度がほとんどなく、マネージャーが通話内容や時間を監視していることも珍しくありません。

「モチベーション3.0」には、アメリカとイギリスのコールセンター業務従事者の年間の離職率は平均35%に達し、その他の仕事と比べて2倍の離職率になっていると書かれています。

日本でもコールセンターの離職率は高いようですが、日本の場合は全従業員に占める非正規労働者の割合がかなり高いので、単純な比較はできないようです。詳しくは、下記のサイトを参照して下さい。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構コラム
「コールセンター職場が示すものとは?」


しかし、このようなコールセンター業務でも、自律性を重んじた仕事のやり方を取り入れると、他の会社とは全く違った結果が生じるようです。

靴のオンライン販売のザッポスは、社員の自律性を重んじる次のようなユニークな施策をとっているそうです。

●社内のカスタマーサービス担当者と顧客の通話をモニタリングしない
●スクリプトを使用するように要求しない
●担当者は各自のやり方で電話に応対する
●彼らの仕事は顧客の役に立つように対応することであり、その内容や手法は各担当者に任されている

その結果、ザッポスの離職率はきわめて低く、1999年の会社設立から年数が浅いにもかかわらず、顧客サービスに優れた会社だと評価され、リッツ・カールトンなどとほぼ同じに位置付けられているそうです。

ザッポスは、社員採用においてもユニークな方法をとっています。ザッポスは新規採用者に1週間の研修を受けさせ、研修終了後に同社への入社を希望しない人には、2000ドルを支払うそうです。

つまり、同社の職場に適応しない人を排除するために「交換条件つき」報酬を利用し、入社すべきでない人をフィルターにかけているのです。そして、そのまま入社する人には、しかるべき給与が支払われ、仕事のやり方について自由裁量が認められます。

ちなみに、このザッポスは2009年にアマゾン・ドット・コムによって、総額約8億5000万ドルで買収されました。そうなると、買収後もそれまでと同じような企業体質が受け継がれるのか気になるところですが、最近のインタビューに対して、CEOのトニー・シェイは次のように答えたそうです。

「ザッポスが独立した単体として、アマゾンとは異なる独立した文化を維持し、独立した経営を行う、というのが買収合意における絶対条件だったので、ザッポス社内で変化は特にない」

<モチベーション3.0>の数少ない実践企業として、いつまでも、その独自性を維持し続けて欲しいと思います。 


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2010年12月06日

時間報酬と対照的なのが、ROWE(完全結果志向の職場環境)です。ROWEについては、以前の記事も参照して下さい。

http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927635.html
http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927660.html
http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927671.html

ROWEを最初に導入した大企業はベスト・バイですが、同社はかつて、長時間の激務や上司の態度が威圧的だとして知られ、有能な人材を失っていたそうです。

現在ベスト・バイでは、ROWEの形態で働く社員の方が、通常の勤務スケジュールで働く社員より多いそうです。そして、同社は過酷な競争の中にある家電小売業界で、市場でも人材雇用の面でも他者に引けをとっていないようです。

同社のROWEについて、タマラ・アリクソンは『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に以下のような成果があったと述べています。

●以前よりも家族や友人との関係が良好になった
●会社への忠誠心が高まった
●集中力やエネルギーが増した
●生産性が35%上がった
●退職者がROWEを取り入れていないチームより3.2%低い

ROWEを利用する社員は、連邦労働法規を満たすだけは働くが、いつ働くかについては選択できます。しかし、以前よりも仕事時間が減っているかどうかは分からないそうです。なぜなら、もう仕事時間を計算していないからです。

「自分の時間の主導権を握らなければ、自律的な人生を送ることはほぼ不可能だ」とダニエル・ピンクは言います。

ROWEの開発者の一人であるカーリー・レスラーは、ピンクに次にように語ったそうです。

「これまでは、仕事は主にどれほどの時間を費やしたかによって判断され、結果を出すことは二の次でした。これを入れ替えなくてはなりません」

「どんな仕事であっても、遅刻票やタイムレコーダー、工業化社会の時代遅れの思考を、もう捨て去るべきです」

考え方や価値観を入れ替えなくてはならないのは、経営者や管理職だけでなく、働く全ての人々だと思います。 みんながこういう考え方を持って働けば、職場環境は劇的な変化を遂げるでしょう。

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2010年12月01日

ほとんどの弁護士が集団としてとらえた場合不幸に見える、タイプIの特徴を示していない、とダニエル・ピンクは言います。

タイプIについては、下記を参照して下さい。

http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927325.html
http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927416.html
http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927439.html
http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927446.html
http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927450.html
http://blog.livedoor.jp/trophy8046/archives/65927464.html

弁護士というと、社会的地位も高く、華やかな職業のようなイメージがあるので、少し意外な気がしますが、その理由をピンクは次のように述べています。

弁護士には「自由裁量度」が少ししか認められていない。この「自由裁量度」は自律性を表す別の言葉でもあるので、弁護士には自律性がほとんどないのがその理由だということです。

その理由についてピンクは、弁護士業務の中心に自律性を損なうシステムが存在しているからだと言います。それは、どのようなシステムでしょうか。

それは、「時間報酬」です。弁護士はクライアントに対して仕事時間で請求します。大手の法律事務所に属する弁護士のほぼ全員が、6分単位で時間記録をつける必要があるそうです。

当然ながら、仕事時間が長いほど、請求できる金額は増え、事務所の収入は増えます。その結果、彼らの関心は、クライアントの問題を解決するということから、出来る限り多くの時間をかけることへと変わります。

このように、高リスク高リターンで測定可能な目標は、内発的動機づけを枯渇させ、個人の主導権を奪い、倫理に反する行動をも助長しかねないと、ピンクは警鐘を鳴らしています。

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アトラシアンでは、20%ルール導入による成果実績があるので、コスト増加による反対にも自信を持って反論できるようです。エンジニア部門での離職率もかなり低く(本書によるとゼロ)、エンジニアたちは意欲高く働いているとのことです。

課題に関する自律性は、<モチベーション3.0>の仕事に対するアプローチとして重要な側面の一つである、とダニエル・ピンクは言います。そして、それはテクノロジー企業だけにとどまらないと。

ワシントンDCのジョージタウン大学病院では、看護師が自分の研究計画を自由に実施できるおかげで、病院のプログラムや方針が数多く変更されてきたそうです。

自律性を重んじる方策が重要なのは、単に働く人のモチベーションが上がり、新しい製品やサービスが生まれる可能性が高まるだけでなく、そこからイノベーションが生まれ、ときには制度改革につながる可能性がある、というところにあります。

しかし、フェデックス・デーなどの制度が、全ての職場で有効に働くわけではないようです。顧客対応や商品の発送、トラブル・シューティングなどのルーチンワークには適用しづらいことを、ピンクも認めています。

それでも、独創性や構想を練る能力が求められる分野では、こうした制度の導入はますます急を要する課題となっているようです。仕事における自律性は創造性を発揮するには欠かせない要素であり、(マネージャーとは対照的に)優れたリーダーなら、この点を骨の髄まで理解しているものだと、ピンクは言います。

この項の最後は、アメリカを代表する家具メーカーのハーマン・ミラーで、デザイン担当部門のディレクターを数十年にわたり努めた、ジョージ・ネルソンの言葉で締めくくられています。

「自分の作ろうとするものは自分が決める」

これは、かつてジョージ・ネルソンが定めた、素晴らしいデザインを生み出すために必要な五つの信条の一つだそうですが、<モチベーション3.0>のスローガンとしても使えます。 

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2010年11月30日

アトラシアンやスリーエムのような方針をとっている会社は、まだまだ世の中には少ないようです。最近こうした方針をとっている会社の中で有名なのが、グーグルです。

グーグルは1998年の創業直後から社員に対し、1週間に1日、主要業務とは異なるテーマに取り組むよう推奨してきました。ほとんどの社員はこの20%ルールを、新規開発にあてているそうです。

下記のサービスは20%ルールから生まれたものですが、この他にも、グーグルの新サービスや商品の半数以上が、この20%ルールから生まれています。

グーグル・ニュース (ニュース検索サイト)
Gメール (フリーメールサービス)
オーカット (ソーシャル・ネットワーク・サービス)
グーグル・トーク (インスタント・メッセンジャー)
グーグル・スカイ (宇宙の写真を閲覧できる)
グーグル・トランスレート (翻訳サービス)


また、グーグルのエンジニアであるアレック・プラウドフットは、この20%の時間で、ハイブリッドカーの効率を上げる研究をしているそうです。


アトラシアンでは、1年間に及ぶ20%ルールの試行期間中に、48もの新規プロジェクトに着手したそうです。そして、2009年にはこの制度を常時導入することになりました。

しかし、導入には全員が諸手を挙げて賛成したわけではなかったようです。その理由は、導入に伴うコスト増加です。試算では、70人のエンジニアが半年間にわたり20%の時間を費やすと、100万ドルの投資に相当することが分かりました。

もう一つの理由は、マネージャーが監督権を譲り渡すことへの抵抗です。従業員が20%ルールの時間帯に特権を悪用していないかどうか、監視する必要性を訴える人もいたようです。

それに対しキャノン=ブルックスは、次のように述べたと書かれています。

「それでは監視の度が過ぎます。わたしはエンジニアたちを支持し、きちんと仕事をしてくれると信用したいと思いました」

「社員は、通常業務の時間よりも、この20%の時間のほうが、はるかに効率よく仕事をします」

「『ニュースを読んだり、フェイスブックをしたりなんて、絶対しないよ』とみんな言います」

こうした、従業員に対する信頼が、20%ルールに限らず、<モチベーション3.0>全体を理解するにあたって必要な認識だと思います。

監視をしないと従業員はさぼるに違いない、生産性が落ちるに決まっている、という考えが根底にあると<モチベーション3.0>は理解できません。

また、<モチベーション3.0>を表面的にしか理解せずに、フェデックス・デーや20%ルールを単なるノウハウとして導入しても、成功することはないと思います。

また、闇雲に従業員を信頼し、それらの仕組みを導入してもうまくいかないでしょう。その会社の仕事自体がクリエイティブなものかどうか、従業員が仕事に対してどのようなモチベーションを持っているかなど、慎重に見極める必要があります。

いずれにしても、<モチベーション3.0>へのバージョンアップは、根底にある考え方をしっかり学ぶ必要があると思います。 

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2010年11月29日

フェデックス・デーが功を奏すると、今度は課題に取り組む時間が少ないことが問題として浮かび上がってきました。

そこで、アトラシアンの創業者であるキャノン=ブルックスとファーカーは、従業員の自律性を倍増させるために、勤務時間の20%を自分のやりたいプロジェクトにあてる、という実験に取り組みました。

この取り組みを始めるにあたり、キャノン=ブルックスが従業員にあてて書いたブログの中に、次のような一節があります。

「自分が一番重要だと思う仕事に、自分の思い通りの方法であてられる充実した時間を、エンジニア諸君が取り戻すことを望んでいる」

この文章から、キャノン=ブルックスの思想をうかがい知ることが出来ます。

このような取り組みはアトラシアンが初めて行ったのではなく、スリーエム社が既に行っていたようです。1930年代から1940年代にかけてスリーエム社の社長兼会長を務めた、ウィリアム・マックナイトは、

「優秀な人を雇ったら、あとは好きにさせること」

という、当時としては革命的な信条を抱いていたそうです。そして、従業員にも「実験的にいろいろとやってみるように」促していたそうです。

そして、スリーエムでは技術者に対して、自分の選んだプロジェクトに勤務時間の15%まであててもよい、という方針を打ち立てました。このプロジェクトから生まれた製品の一つが、ポスト・イットです。

科学者のアート・フライは、通常業務ではなく、15%の時間にこの製品のアイデアを思いつきました。その他にも、同社が発明した主力商品の大半は、この実験的な時間から生まれたということです。 

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