SNSを見ていると、「保有物件15棟、年間家賃収入1億円です!」といった華々しい実績を目にすることがあります。

高級腕時計、高級車、豪華なホテル。そんな投稿を見て「不動産投資ってすごい」「自分もこうなりたい」と憧れた経験がある方も多いのではないでしょうか。

しかし、その大家さんは本当に儲かっているのでしょうか。今回は「家賃収入」という数字の裏側と、規模よりも先に確認すべき指標について整理します。

「家賃収入1億円」を試算してみると

一般的に「良い物件」とされる条件で試算してみましょう。

条件内容
物件規模1棟1億円・表面利回り7%の都心RC物件を15棟
総投資額15億円
融資条件金利1.5%・期間30年のフルローン
年間家賃収入1億円

この条件で収益シミュレーターを使って試算すると、税引前CFは年間約1,243万円という結果になります。「15棟・総投資額15億円」という規模の割には、意外と少ないと感じる方もいるかもしれません。

さらに注意したいのは、この試算はあくまで金利1.5%時点のものだという点です。金利が2.5%程度まで上昇した場合、家賃収入が変わらなくても年間CFは約350万円まで減少する計算になります。

金利1.5%時の年間CF 約1,243万円

金利2.5%上昇時の年間CF 約350万円

※金利上昇分のみを反映した試算。家賃収入・空室率が一定の場合

この状態のDSCR(借入金に対する返済余裕率)は、わずか1倍程度。金利がさらに数%上昇すれば、赤字に転落する可能性すらある水準です。15億円の借入とこのリスクを比べたとき、割に合うかどうかは慎重に考える必要があります。

規模を追った先に何が起きたか

不動産投資の世界には、かつて約5,000戸を所有し、年間家賃収入43億円と紹介されていた著名な大家がいました。

公表されていた数字を整理すると、次のようになります。

月間家賃収入約3.6億円
月間銀行返済約2.3億円(返済比率 約63.9%)
表面利回り約9.7%
平均借入金利・期間約3.2%・約20.9年

家賃収入から返済を引いた手残りは月約1.3億円。ここまでなら十分に儲かっているように見えます。

しかし、ここから管理費・固定資産税・保険料・原状回復費・空室損などの運営経費を差し引く必要があります。仮に運営経費が家賃収入の35%だとすると、税引前CFは月約400万円。5,000戸で割ると、1戸あたり月800円程度しか残らない計算です(公開資料に基づく試算)。

実際、この大家が率いる法人は、ある期に約13.7億円の収入を計上しながら約5.9億円の純損失を出し、最終的に関連する3法人が合計約246.5億円の負債を抱えて破産手続きに入ったと報じられています。

何本もの高級時計、何台もの高級車。外から見える華やかさと、内情の台所事情は、必ずしも一致しないということです。

「規模」より先に確認したい3つの指標

このケースから学べるのは、規模拡大そのものを否定することではありません。大切なのは、規模を追う前に、次の3つを確認する習慣です。

  1. DSCR(返済余裕率)を計算しているか
    年間家賃収入÷年間返済額で計算できます。1.0倍に近いほど、金利上昇や空室に対する余力がありません。目安として1.3倍以上を確保したいところです。
  2. 金利が今より1〜2%上昇した場合のCFをシミュレーションしているか
    2026年は金利上昇局面が続いています。「今の金利」だけでなく「上昇後の金利」でも成立するかを必ず確認しましょう。
  3. 「家賃収入」ではなく「手残りCF」で目標を立てているか
    家賃収入1億円という数字は分かりやすい反面、実態を隠してしまいます。自分が本当に必要な手残り額から逆算する視点を持ちましょう。

規模を拡大すれば悠々自適になれるとは限りません。所有物件が増えれば、空室・滞納・修繕・入居者トラブルへの対応も比例して増えていきます。

よくある質問

Q. DSCRはどこで確認できますか?
A. 金融機関から提示される返済予定表と、レントロール(家賃明細)があれば自分で計算できます。年間家賃収入(満室想定ではなく現況)を年間元利返済額で割って算出します。

Q. 金利上昇局面で今からできることは?
A. 保有物件のDSCRを一度棚卸しし、金利+1〜2%のストレステストを行うことです。余力が小さい物件は、繰上返済や借り換え、場合によっては売却も選択肢に入れて検討しましょう。

まとめ

「家賃収入1億円」という数字は、確かにインパクトがあります。しかし、その裏側にある返済条件・運営経費・金利感応度まで見なければ、本当の意味での成功かどうかは判断できません。

規模を追うこと自体は悪いことではありません。ただ、規模の先にある目的が何なのかを、常に自分自身に問い直す姿勢が大切です。

金利上昇局面での資金繰りについては、以前の「否決メモ」の記事もあわせて参考にしてみてください。融資の出し手である銀行の視点を知ることは、自分の物件のリスクを客観視する助けになります。

一緒に、着実な資産形成を目指していきましょう。

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